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ポーランド系ノルウェー人マチェイ・オバラ(1981)が昨年ECMからリリースした「Frozen Silence」を聴く。ポーランド・ノルウェー・カルテットによるアルバムで、ECMでは3枚目になるという。リズム・セクションは彼と10年以上共に演奏活動をしてきた仲間で、マチェイ・オバラとドミニク・ワニアがポーランド人、オーレ・モルテン・ヴォーガンとガール・ニルセンがノルウェー人とのこと。全く知らない方だったし、購入後しばらく放置していてまともに聴いていなかった。ブログに書くネタがなく、聴きながらブログを書いている。最近こういうスタイルが普通で、じっくりと聞いてから考えをまとめるということが少なくなった。気に入った音源を購入しても、時間がなく、しばらく放置することが多くなったことも原因だ。曲はパンデミックでポーランドのジャズ・シーンに門戸が閉ざされ、海外ツアーができなくなったときに、ワルシャワを離れ、丘や森に向かいこれらを作曲したという。自然、特に彼の家族のルーツであるポーランド南西部のカルコノシェ地方の荒涼とした劇的なクな風景への直接的な答えだという。カルコノシェ国立公園ミュージシャンではパンデミックで自己を見つめなおし、優れた結果を出す例が多い。パンデミックの怪我の功名というべきだろうか。サウンドはECM特有の静けさと、湖の湖面を覗き込んだ時のような情景を浮かべる抒情的なものだ。その抒情は美しいものの、暗い影を落としており、楽しさにはつながらない。深い闇を感じさせる「Black Cauldron」がその代表的な例だ。オバラのサックスが退廃的と言ったら言い過ぎかもしれないが、その音に少し病的なものを感じるのも確か。全曲リリカルではあるが同じような調子で、あまり楽しくない。タイトルチューンの「Frozen Silence」はリズミックな曲だが、暗いままで、決して晴れることがない。「Waves of Glyma」はイントロこそ他の曲と同じ調子で始まるが、徐々に熱を帯びてバンドが一体となった音楽を展開するスリリングな演奏で聴き手の心を熱くさせる音楽だ。サイドメンではやはりピアノのドミニク・ワニアのリリカルではあるが積極的にサックスをプッシュするプレイが光る。ただ、ワニアの唸り声は控えめだが、気になりだすと具合が悪い。他のノルウェー人たちも、高度なプレイを示していて、オバラの音楽へ深みを与えている。特にドラムスの鮮烈なサウンドがいい。ベースは控えめだがオバラの音楽としては、このバランスがいい。ECMらしい透明で深いサウンドが大いに寄与していることは確かで、これが残響の少ない平面的なサウンドになったら全く別な音楽になってしまっただろう。ということで、悪くはないが、それほどでも、というのが現在の筆者の心境だ。理解度が深まるまで、もう少し我慢して聴き続ける必要があるかもしれない。Marciej Obara:Frozen Silence(ECM 2778)24bit 96kHz Flac1.Dry Mountain2.Black Cauldron3.Frozen Silence4.High Stone5.Rainbow Leaves6.Twilight7.Waves of Glyma8.Flying PixiesAll compositions by Maciej Obara"Rainbow Leaves" composed by Maciej Obara and Nikola KołodziejczykMaciej Obara(as)Dominik Wania(p)Ole Morten Vågan(b)Gard Nilssen(ds)Recorded June 2022、Rinbow Studio,Oslo
2024年07月30日
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2023年に出たサティとケージをドッキングした「Letter(s) to Erik Satie」というアルバムに続くケージ作品の続編。今回は1938年から1945年までの作品で「20のダンスにインスパイアされた曲」を集めたとのこと。「Letter(s) to Erik Satie」はケージが中盤20世紀にサティの作品を支持し、復活させたことを踏まえた構成だそうだ。なるほど、「Letter(s) to Erik Satie」でサティとケージが共存していたのはそういう理由だったとは知らなかった。後で考えたら彼らは環境音楽という共通項があることを思い出した。「Letter(s) to Erik Satie」はサティとケージが違和感なく共存していたことに驚いたものだ。今回はケージ単独で、すべてプリペアド・ピアノのための作品。ピアノというより自分の周りにいろいろな打楽器を並べて、それらを鳴らしているような光景が思い浮かぶような面白さがある。例によってガムランのようなサウンドが出てくるのも同じだ。この前言及したシェーンベルクの伝記本の中にケージががシェーンベルクの弟子、しかも出来の良くないで弟子だったことが書かれていたことを思い出した。ケージは12音技法を学びたかったのだが、伝統的な書法に劣るため、まるであいてされなかったようだ。ケージの回想では、「極めて独裁的で、嫌味なヤツ」だったそうだ。間話休題最近ケージを少しかじり始めたが、今回のアルバムの曲はすべて初お目見え。筆者にとってケージの音楽はユーモラスな曲がとっつき易い。ガムラン音楽のような曲はあまり聞きたくないというのが現在の心境だ。この稿を書くために少しプリペアド・ピアノについて調べてみた。wikiによると、プリペアド・ピアノはケージが『舞踊家 Syvilla Fort (1917-1975) にダンスの付随音楽を委嘱されたケージは初め打楽器アンサンブルの使用を考えたが、公演場所のスペース上の制約から打楽器を大量に使用することができなかったためピアノで代替せざるを得ず、その作曲を進める中でこの楽器を考案するに至った。』とのこと。筆者の興味は音楽そのものではなく、そこから発生するサウンドにある。このアルバムで興味をそそる音はいくつかある。「The Unavailable Memory of」のシンバルのようなシャーンとなる音はその一例。「ジョン・ケージ : ホロコーストの名の下に」はアウシュビッツの虐殺がテーマ。東洋的な静けさを感じさせる一方で、陰鬱な響きがあり、独特の癖がある。それが逆に不気味さを際立たせているように思える。パート2の後半の和音の強打が、痛切な痛みを感じさせる。「Our Spring Will Come」はユーモラスな曲想にノイズの伴ったサウンドが印象的だ。このノイズはどうやって作っているのかとても興味がある。時々普通のピアノの音が聞こえてプリパレーションされた音が何とも奇怪なことを印象づける。最後の「かくて大地は再び実を結ばん」はそれほど音が加工されていないが、メロディックでなかなかユーモラスな曲だ。因みにケージの作品でもっともプリパレーションの多いのは「ソナタとインターリュード」で45の音符にプリパレーションが施されているという。(ChatGPTによる)「Premitive」は、その名の通り原始的な雰囲気のする曲で、春の祭典の「春の兆し」を彷彿とさせる場面もある。「Bacchanale」はケージが初めてプリペアド・ピアノを使った作品。「ダンスの伴奏」を依頼されたが、スペースの関係で打楽器が使えなかったため、ピアノに細工をしたというエピソードがある。ミニマル臭さ全開で、休止後のエキゾチックな民謡風な旋律とのコントラストが面白い。最後の「かくて大地は再び実を結ばん」は野蛮な曲で、ピアノが暴れまくる。シャマユがピアノに細工するためのボルトをつまんでいるジャケ写真がなかなか秀逸だ。なお、CDにはブックレットが付いているらしいが、ダウンロード音源には付いてない。あまり知られていない現代音楽だからこそ、ブックレットをつけてほしかった。なお、この稿を書くにあたってジョン・ケージ・トラストという機関のデータベースを参考にした。大変詳しいことが書かれてあり、とても有益なサイトだ。参考:ジョンケージは何を表現しようとしたか(堀内宏公)Bertrand Chamayou:Cage² (Erato 2173227516)24bit 96kHz FlacJohn Cage: 1.Mysterious Adventure(1945) 得体の知れない冒険 【27】2.The Unavailable Memory of(1944) アンアヴェイラブル・メモリー・オブ 【27】3.Primitive(1942)4.In the Name of the Holocaust(1942) ホロコーストの名の下に Pt. 1 Pt. 26.The Perilous Night(1944) 危険な夜 I. II. III. IV. V. VI.12.Root of an Unfocus(1944) ピンボケの源13.Daughters of the Lonesome Isle(1945) 孤島の娘たち 【39】14.A Valentine Out of Season(1944)季節はずれのヴァレンタイン 【プリパレーション少々】 Movement I Movement II Movement III17.Tossed as it is Untroubled(1943) トスト・アズ・イト・イズ・アントラブルド18.Bacchanale(1940)19.Our Spring Will Come(1943)20.And the Earth Shall Bear Again(1942) かくて大地は再び実を結ばん 【18】Bertrand Chamayou註)【】の中の数字はプリパレーションされた音符の数を表す。
2024年07月28日
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以前から気になっていたピアニストのアラン・パスカがポストカードに残したアルバム2枚をBandcampから購入。アルカディア・レコードから2022年にリリースされたもので、今年も新しいアルバムがリリースされたがそちらは未購入。今回はそのうちの「Milagro」を取り上げたい。CD自体は1993年にポストカードからリリースされていて、彼の初リーダーアルバムだった。wikiによるとジャズというよりはロック畑での活躍が目立つ。今回のアルバムはボブ・ディランやサンタナとの共演を経て後の録音だが、それらの経験の影響は全く感じられない。41歳という遅い年齢でのデビュー・アルバムだからこそ、満を持して自分のやりたいことをやったという印象を受ける。ビル・エヴァンスやハービーハンコックの影響を受けているそうだ。録音は1993年とほゞ30年前だが、古臭さは皆無。全体に柔らかいムードが漂い、気分がいいアルバムだ。例によってロス・レスなので、192kHzにアップコンバートして試聴。コール・ポーターの「I Love You」と最後のトーマス・ウェステンドルフの「I’ll Take You Home Again, Kathleen}以外はパスカのオリジナルで、佳曲揃いだ。基本ピアノトリオで、ベースのデイブ・ホランドとドラムスのジャック・デジョネットという重量級のメンバーが参加している。4曲でマイケル・ブレッカーのテナーがフィーチャーされていて、その中の2曲はホーンが補強されている。ピアノ・トリオは隙のない演奏をみせる。パスカもデビュー作とは思えない落ち着いたプレイ。サウンドのエッジが立っていないため、特にゆったりとした曲で聞ける、しっとりとしたテイストがいい。速いテンポで驀進する「The Law of Diminishing Returns」は推進力があり、ハンコックの演奏を思い出させる。ブレッカーは円熟期直前で、曲にもよるが耽美的なプレイが目立つ。ホーンを補強した2曲での中ではロジャー・ローゼンバーグのアルト・フルートの起用がはまっている。「Twilight」はホーンのハーモニーに乘って流れるピアノが幻想的な雰囲気を醸し出し、実に心地よい。「Heartland」はラテン的だが落ち着いた演奏で、アルト・フルートの速いパッセージがいいスパイスになっている。スタンダードでは疾走する「I Love You」のキース・ジャレット張りのスタイリッシュな解釈がとても新鮮に感じられた。ベースとドラムスの喰いつきもいい。録音は広がりこそあまりないが、ノイズのないサウンドで古さを感じさせない。ということで、心温まる演奏の好アルバムだった。パスカはリーダー・アルバムが十数枚あるので、折を見てチェックしたい。Alan Pasqua:Milagro(Arkadia Records 7710022)16bit 44.1kHz Flac1.Alan Pasqua:Acoma2.Alan Pasqua:Rio Grande3.Alan Pasqua:A Sleeping Child4.Alan Pasqua:The Law of Diminishing Returns5.Alan Pasqua:Twilight6.Cole Porter:All of You7.Alan Pasqua:Milagro8.Alan Pasqua:L’Inverno9.Alan Pasqua:Heartland10.Thomas Westendorf:I’ll Take You Home Again, Kathleen (for my Kathleen)Alan Pasqua(p)Dave Holland(b)Paul Motian(ds)Michael Brecker(ts track 2,4,5,8)Roger Rosenberg(as tack2,a-fl track5,9)Jack Schatz(tb,b-tb track 2,9)Willie Olenick(tp,flh track 5,9)Roger Rosenberg(as,fl track5,9)Jack Schatz(tb,b-tb track 5,9)John Clark(Hr track 7)Dave Tofani(bcl track 7)Recorded on October 10 and 11, 1993 at Sound Sound, New York City参考
2024年07月26日
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エリック・ル・サージュが近代の知られざる作品を26曲弾いたアルバム。おととし発売された音源で、筆者が知ったのはだいぶ後になってからだ。タイトルの「Jardins suspendus」はフランス語で「空中庭園」を意味する様だ。1860~1946年のフランス作曲家によるピアノ小品集だそうだ。選曲、演奏とも実に素晴らしい。知られざると書いてしまったが、有名なサティーのグノシェンヌも演奏されている。聞いたことのない曲が殆どだが、どれもが粒よりで、はっとするほど美しい曲もある。ジェルメーヌ・タイユフェール(1892 - 1983)の1台のピアノのために編曲された「2台のピアノのための二つのワルツ」からの第1曲やシャミナードの「6つの無言歌 Op.76」の第1曲など、ふるい付きたいほど美しい。オネゲルの「ショパンの思い出」も悲しみを帯びた旋律が、心に響く。フランクの若き日の傑作「前奏曲、フーガと変奏曲」作品18の「前奏曲」も、しみじみとした味わいで悪くない。書いていてもキリがないのでこの辺にしておくが、たくさんの味わい深い曲が並んでいて」、ちょっとした宝探しの気分も味わえる。ルサージュは「『空中庭園』は、ラヴェル、ドビュッシー、フォーレはここには含まれておらず、その傍らで花を咲かせたフランス音楽の清華を選び抜きました。このアルバムを聴いていただいて、これらの小品が属している曲集を聴いてみたい、作況化のことをもっと知ってみたいと思っていただけると、ピアニスト冥利に尽きるというものです。」と語っている。筆者も同じ気持ちで、他の曲も聴いてみたいと思う。彼の狙いは、少なくとも筆者には響いたということだろう。「知られざる・・・」という企画はよくあるものだが、知られていないのは曲がよくないことが大半だ。このアルバムは、その少ない例外の一つだろう。ポピュラー名曲に飽き足りない聴き手にとっては、またとない贈り物となるだろう。きっと、お気に入りの一曲が見つかるに違いない。Eric Le Sage:Jardins suspendus(SONY)24bit96kHz FlacEric Le Sage:Jardins suspendus(SONY1.Gabriel Dupont:Les Heures dolentes: V. Après-midi de dimanche2.Jean Cras:Paysages: I. Maritime3.Lili Boulanger:Trois morceaux pour piano : I. D'un vieux jardin4.Reynaldo Hahn:Le rossignol éperdu: No. 52, Hivernale5.Erik Satie:Gnossienne No. 26.Jacques Ibert:Matin sur l'eau7.Camille Saint-Saëns:Valse nonchalante in D-Flat Major, Op. 1108.Vincent d'Indy:Tableaux de voyage, Op. 33: IV. Lac vert9.Louis Vierne:Deux pièces pour piano, Op. 7: II. Impression d'Automne10.Gabriel Pierné:15 Pièces, Op. 3: VI. Prélude11.Louis Aubert:3 Esquisses, Op.7: II. Nocturne12.Gabriel Dupont:La maison dans les dunes: IX. Clair d'étoiles13.Reynaldo Hahn:Premières valses: V. À l'ombre rêveuse de Chopin14.Erik Satie:Gnossienne No. 115.Germaine Tailleferre:Deux valses pour deux pianos: I. Valse lente16.Gustave Samazeuilh:Le chant de la mer: I. Prélude17.Florent Schmitt:Musiques intimes, Book 1, Op. 16: I. Doux et calme18.Cécile Chaminade:6 Romances sans paroles, Op. 76: I. Souvenance19.Arthur Honegger:Souvenir de Chopin20.Ernest Chausson:Paysage, Op.3821.Francis Poulenc:Valse des musiques de soie22.Jehan Alain:Suite facile: II. Comme une barcarolle23.Déodat De Séverac:En vacances, Book 1, No. 7: Valse Romantique24.Erik Satie:Gnossienne No. 325.Nadia Boulanger:Vers la vie nouvelle26.César Franck:Prélude, fugue et variation, Op. 18: I. PréludeEric Le Sage(p)Recorded at Pianos Chris Maine, Belgium, March 19 & 20, 2022
2024年07月24日
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今日は暑くてブログを書く気にならないので、ストックしてある未完成の稿(4月作成)を手直しして、お届けしたい。SFjazzコレクティブが昨年で20周年になったことを記念してアルバムが出た。全部で3枚のアルバムがあり、最初の2枚は過去の録音からのセレクションで、3枚目のみ新録音だ。筆者は殆ど所有しているので、新録音のvol.3のみ入手。3月にリリースされたが、今月になってもハイレゾは出てこない。ロスレスも入手先が限られていて、bandcampからも出ないので、qobuzからロスレスを入手。例によって192kHzにアップコンバートしての試聴。プログラムはメンバー各人のオリジナル1曲ずつで構成されている。このグループはテクニシャン揃いで難しい曲を良く取り上げるが、それが聴き手を満足させるかは別問題。今回も全面的に賛同できる出来とはいえなかった。全曲切れ目なしに続く。演奏の水準は高いのだが、記念の年のリリースにしては暗く、ちっともお祝いの気分が出ないのは何としたことか。マット・ブリューワーの「Ritual(儀式)」はその名の通り宗教的な気分、それも暗めな気分が感じられる曲。「One For Chick」はチック・コリアに捧げられた曲だろうか。ピアノ・ソロから始まり、ピアノとヴァイブのユニゾン、そしてホーンが加わる。チックのプレイを思い起こさせるような曲だ。トランペット、テナー、ヴァイブ、ベース、ドラムスと順に繰り広げられるのソロも短いながらも、よくまとまっている。ミディアム・テンポのケンドリク・スコットの「Witness But Not Measured」が西海岸の風を思い出させるような快適な気分を味合わせてくれる。途中のソプラノサックス・ソロも力のこもったもの。Warren Wolfの「October In San Francisco」とポッターの「Holiday In San Francisco」は偶然か示し合わせたのか分からないがどちらもサンフランシスコという地名が入っている。10月はインディアンサマーと言われる暑い日が続く季節なのに、そういう気分にならない。最後の「Holiday In San Francisco」はハンド・クラップで始まるラテン系のリズミックな曲だが、陰気であまり開放的な気分になれない。マイク・ロドリゲスのトランペットが、この陰気な気分を打ち破るような熱の入ったソロを聴かせる。テナーはポッターだろうか。新録音はCD一枚分なので、例年の半分の分量だ。全体に音楽自体の完成度が高いのだが、熱量があまり感じられないのが惜しい。録音は平板で、音が前に出てこないのがもどかしい。アップコンバートしているためか、音は分厚いが、少しうるさい。ブックレットが付いていないので、曲の情報は全くないのも残念なところだ。SFjazz Collective:Twenty Year Retrospective(SFJAZZ Records)16bit 44.1kHz Flac1.Edward Simon:Opening2.David Sanchez:The Golden, The Beauty, and Down the Hill the Sorrow3.Matt Brewer:Ritual4.Mike Rodriguez:One For Chick5.Warren Wolf:October In San Francisco6.Kendrick Scott:Witness But Not Measured7.Chris Potter:Holiday In San FranciscoChris Potter(ts)David Sánchez(ts)Mike Rodriguez(tp)Warren Wolf(vib)Edward Simon(p)Matt Brewer(b)Kendrick Scott(ds)
2024年07月22日
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何かの情報で『音楽本大賞2024」の個人賞を受賞した浅井佑太著シェーンベルクを読む。この音楽本大賞は昨年度から始まったようで、その名の通り音楽に関する本を対象として優れた本を顕彰する制度らしい。本屋大賞(2004年〜)に代表される出版社や業界団体が主導する既存の賞とは性格を異にするいくつかの賞に刺激されて新たに立ち上げられた音楽本を対象とした賞だそうだ。因みに同種の賞はサッカー本大賞(2014年〜)、日本翻訳大賞(2015年〜)、音楽CDを対象とするアップル・ヴィネガー・アワード(2018年〜)などがあるようだ。まあ、このような賞は内容が重複しない限り多いほうがいいが、質も重要だ。ユーザーとしては、良質な情報が多いと、選択肢が広がるのでメリットはある。今回の著者はお茶の水女子大の助教だそうだ。西洋音楽史を研究していて、とりわけ二十世紀以降の作曲家の創作プロセスの研究を行っているとのこと。作曲家の伝記本といえば、生涯と作品の解説と相場が決まっている。この本も構成は同じだが、浅井佑太氏の場合は研究分野が示すように、シェーンベルクの創作のプロセスが具体的に示されていて、通常の伝記本とは一味も二味も異なるものだ。勿論シェーンベルクの生涯についても詳しく書かれていて、マーラーの庇護や、後年、疎遠になったとはいえリヒャルト・シュトラウスからも何かと便宜を図ってもらっていたというエピソードは初めて知った。因みに交響詩「ペレアスとメリザンド」はリヒャルト・シュトラウスの勧めによるものだそうだ。「グレの歌」にしても手掛けられたのは初期の頃ということも知らなかった。筆者は、その当時の時代背景や人物描写が巧みで、シェーンベルクが大変な生涯を送ったことがよく分かる本だった。貴重な写真も多い。シェーンベルクが人並み以上に弾きこなせた楽器はチェロだけで、シュランメル五重奏団なるアンサンブルに参加していた時の写真(そこに何と名ヴァイオリニストのフリッツ・クライスラーが写っている)や、馬車仕立てのマーラーの葬儀の写真なども見ることが出来て大変有益だった。驚いたのは彼は正式な音楽教育を受けたことがなく、ピアノも弾けなかったことだ。とにかくよく勉強していて、最後は音楽大学の教授にまでなっている。また、リヒャルト・ゲストルという画家の影響で絵画を手がけ、個展まで開いている。ゲストルが描いたシェーンベルクの肖像は有名なのでクラシック・ファンは見たことがあるかたが多いと思う。因みにゲストルとシェーンベルクの最初の妻マティルデ(ツェムリンスキーの妹)は恋仲となり駆け落ち(のちに戻る)する。作品についてもかなり詳しい解説がされていて、あまり関心のなかった晩年の作品である『ナポレオンへの頌歌』や『ワルシャワの生き残り』を手持ちのCDで聞き返して、認識を深めている。強制収容所のホロコーストを描いた『ワルシャワの生き残り』の身を切るような鮮烈な音楽、『ナポレオンへの頌歌』のヒットラーを皮肉っている諧謔的な面白さなど、背景を知ると新たな発見がある。『ワルシャワの生き残り』では弱視が進みすぎて、線間が通常の3倍ほどの特注の五線紙を使わねばならなかったという、晩年のシェーンベルクの必死で作業する姿も描写されている。亡くなる数ヶ月前からは慢性的な呼吸困難によりベッドで眠ることが出来ず、椅子に座って寝ていたという描写も痛ましい。ワルシャワの生き残りナポレオンへのオードなお今年の選考結果はこちらにアップされている。どれも興味をそそるような本揃いだ。賞金が最高でも10万円なのはこのプロジェクトがクラウド・ファンディングで運営されているからだ。因みに昨年と今年に集まった金額は70万円に満たないものだ。まあ、受賞した出版社はPRするだろうから、それだけでも効果はあるし、売り上げアップにもつながるだろう。ということで、大変興味深い本で、「作曲家◎人と作品シリーズ」の他の本も読みたくなってしまった。浅井佑太著シェーンベルク 音楽之友社 2023年5月10日 第一刷発行
2024年07月20日
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ユリ・ケインの音源をチェックしていて見つけたアルバム。昨年のリリース。winter winterはなかなか安くならないレーベルなので、一番安いHighreAudioから入手。それでも\2000程だ。この作品はブリュッセル・ジャズ・フェスティバルの1968年以降の50年を祝うために依頼されたオーケストラと4人の即興演奏者のための作品とのこと。表題のagent orangeとはベトナム戦争(1955-1975)で使用された枯葉剤の一種で、容器の色がオレンジだったことからそう呼ばれていたようだ。presto musicではジャズに分類されていたが、個人的にはクラシックの現代音楽のカテゴリーの音楽のように聞こえる。難解さはあまり感じられないが、雑多な音楽がつぎはぎだらけで提示され、ユーモアとグロテスクな部分もあり、それらがごった煮のようになっている。政治的主張が生のまま出て来て、音楽としては消化しきれていない感じだ。なので、聴き手は終始落ち着かないことになる。ピアノ協奏曲みたいなところもある。DJオリーブのエレクトロニクスが加わることで物語の不気味さと醜悪さを強く感じさせる。作曲者によると、『作品の様々な章は、その時代のアメリカで起きた悲劇的で笑いありげな出来事や、それに対する激しい反対を浮き彫りにしている』とのこと。各楽章は続けて演奏される。8曲目の市民戦争のフーガではアイブズばりにアメリカの国家やフォークソングがコラージュのように次々と出てきて楽しい。枯葉剤による後遺症の凄惨を極める描写がズキッと体に刺さるような痛みを感じる。ただ、一方的に凄惨な描写が続くのではなく、かなりどぎついユーモアもあり、ユリ・ケインの真骨頂だろう。メシアンやクセナキスを思わせるサウンドが随所に聞かれ、DJ Oliveのエレクトロニクスもオンドマルトノを思わせる場面がある。ソプラノ・サックスでデイブ・リーブマンがクレジットされているが、ソロをとる場面もあるが、あくまでもオーケストラの一員のような扱いで、それほど目立っていない。ジョン・エイバート というジャズ・ベーシストもクレジットされている。リズムを刻んでいるのは分かるが、特に目立ったところはなかった。第9曲ではベトナム語?による女性の語りが入っているがブックレットに載っていないので内容は不明。終曲はカオスの後の平穏な気分が感じられるが後味は苦く、最後に赤ん坊の泣き声が聞こえる。オーケストラはサウンドが薄く、物足りない。ということで、一般のジャズ・ファンよりは現代音楽ファンに興味を持たれるアルバムだろう。録音は会場ノイズは感じられないが、響きがあまり豊かではなく、平面的な音場なのが惜しい。Uri Caine:Agent Orange(Winter & Winter 9102862)24bit 96kHz FlacUri Cain:1.予兆2.エージェント・オレンジ3.子供たちの分離4.両方にとっての優れた人々5.逆さまの聖書6.漂白ブルース7.敗北の嘘8.南北戦争フーガ9.行進中10.不確実な運命ブリュッセル・フィルハーモニーアレクサンドル・ハンソン(cond)ユリ・ケイン(p)Dave Lieveman(ss)ジョン・エイバート(b)DJ Olive(v)Recorded live at Brussels Jazz Festival at Flagey,Studio 4, Brussels, Belgium, Jan. 18th, 2018
2024年07月18日
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ジャマイカにルーツを持つイギリスの女性ジャズ・ヴォーカリストであるザラ・マクファーレン(1983-)の新作を聴く。1ポンド200円以上なので、bandcampでも10ポンドと、かなり高いが、チャージが少し残っていたのでそれに足して購入した。彼女のことは情報だけは知っていたが、まじめに聴いたのは今回が初めて。アルバムはサラ・ボーンへのトリビュート・アルバムで、彼女の愛唱歌を取り上げている。蛇足だが「ザラ」と「サラ」と名前も似ている。ザラのヴォーカルは少しハスキーでありながら、子供っぽさも感じさせる声だ。わざと子供っぽく歌っているふしもある。ところどころでフレージングにサラとビリー・ホリデーの影響が感じられるのが微笑ましい。ダメロンの「If You Could See Me Now」は、独特の味付けで、なかなか良かった。ガレスピーの「Interlude」は「チュニジアの夜」のことだったが、なぜ別なタイトルになっている。wikiによると、レイモンド・リヴィーンがチュニジアとは全く無関係の歌詞をつけて、「インタールード」というタイトルでサラ・ヴォーンが歌ったとのこと。現在はジョン・ヘンドリックスの歌詞が主流で、タイトルも「チュニジアの夜」になっている。この記述から行くと、ザラがサラを相当研究しているに違いない。通り一遍のサラのフリークではないことがわかる何故この曲を取り上げたのか分かるような気がする。8曲目の「Obsession」ではスティール・パン・ドラムが加わってトロピカルムードのナンバーだが、アルバムの中では異色で、個人的には違和感がある。この曲はサラ・ヴォーンが「Brazilian Romance」というブラジル特集のアルバムで歌っていた曲。サラのアルバムでは、スティール・パン・ドラムは使われておらず、この起用はミスマッチのような気がする。この曲でのザラの歌唱は悪くはないが、サラのスタイリッシュな歌唱とは大違いだ。「The Mystery of Man」ではバス・クラリネットが加わっていて、なかなか面白いサウンドになっている。ミステリーを連想する冷たいタッチではなく、少しコミカルなサウンドだ。男性の声が裏で聞こえるが、クレジットはない。「スターダスト」はミディアム・テンポの軽いタッチで、ねっとりとした歌唱とのギャップが異色。タイトルチューンの「Sweet Whispers」は賛美歌を思わせる曲。チェロのアルペジオのピチカートが忙しなく動き回り、気になる。このチェロはミス・マッチではないだろうか。サイドではホーンのジャコモ・スミスが活きのいいプレイを聴かせる。ジョー・ウェブのピアノはまあまあ。録音がもう少し良ければ、だいぶ聞きごたえがあったと思う。ということで、初ザラ・マクファーレンだったが、ある程度の水準にはあると思うが、個人的にはそれほど優れた演奏ではないと思った。どうやら過去のアルバムをチェックする必要がありそうだ。Zara McFarlane:Sweet Whispers(Eternal Source Of Light ESOL4CD)24bit44.1kHz Flac1.Walter Gross;Jack Lawrence:Tenderly2.Fred E. Ahlert;Roy Turk:Mean To Me3.Marvin Gaye;James Nyx Jr:Inner City Blues4.Kurt Weill;Maxwell Anderson:September Song5.Vincent Youmans;Billy Rose;Edward Eliscu:Great Day6.Tadd Dameron:If You Could See Me Now7.Dizzy Gillespie:Interlude8.Dori Caymmi, Tracy Mann, Gilson Peranzzetta:Obsession9.Michael Carr:The Mystery of Man10.Hoagy Carmichael;Mitchell Parish:Stardust11.Giacomo Smith:Sweet WhispersZara McFarlane(vo)Giacomo Smith(ss,as,b-cl)Joe Webb(p)Ferg Ireland(b)Jas Kayser(ds)Gabriella Swallow(vc track 4,11)Marlon Hibbert(steel pan track 8)
2024年07月16日
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最近、クラシク界で人気絶頂のフランソワ=グザヴィエ・ロト(1971-)のセクハラ問題で、ロトが謝罪し、指揮活動を停止したという報道がなされている。具体的には、『レ・シエクルの女性メンバーにメールが送りつけられ、のみならず陰部の写真が送られてくることもあった。レ・シエクルに参加する若い音楽家たちは、ロトからメールが来ても返信しないこと、というルールを教わっていたようだ。』とのこと。優れたミュージシャンは一般の常識人と感性が異なり、中には奇矯な性格の持ち主も多い。バーンスタインがゲイだったことは有名で、セクハラでも先ごろ亡くなった指揮者のジェームズ・レバインやダニエレ・ガッティの例を引くまでもなく、この業界にはそういう人種が多いと思われる。まあ、普通の人とは感性が違うわけで、だからこそ聴衆を感動させる力があるというのが筆者の認識。おそらく昔からそういうことは普通にあったのだが、現在のようにすぐあからさまになるということがなかった時代で、彼らにとっては居心地の良い時代だったのだろう。個人的には、そういうことを含め彼らの芸術を認めているというスタンスなので、スキャンダルのために、あたら優れた才能が埋もれてしまうというのも残念な気がする。これも全てはポリティカル・コレクトネス優先の世界になってしまったからだろう。ロトの行為は責められるべきものではあるが、社会の状況を把握していなくて、行為そのものが稚拙で、世間の常識を持ち合わせていなかったようだ。ロトはケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団およびケルン歌劇場との契約を予定よりも1年早く終了することになってしまったようだし、レ・シエクルも当分別の指揮者が振るそうだ。個人的にはブルックナーの交響曲の録音が中断してしまうことが大変残念だ。しばらく時間がかかるだろうが、ほとぼりが冷めたら、また活躍してほしいものだ、というのがファンの偽らざる思いだろう。
2024年07月14日
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スウェーデンのピアニストであるラーシュ・ヤンソン(1951-)の録音を探していて、見つけた一枚。一応最新録音のようだ。今回はデンマークのサックス奏者トーマス・アゲルガード(1962-)とのデュオアルバム。1990年代半ばにカーステン・ダールの後任としてヤンソンがアゲルガードのバンドに加わったのが始まりだそうだ。当時の録音は「Green Cities」と題して2021年に配信でリリースされている。アゲルガードのサックスは今のような息漏れのない、メタリックで艶のあるサウンドで、豪快に吹いている。ちょっとしか聞いていないが、この前までお蔵入りしていた演奏とは思えないポストモダンの洗練された音楽だ。閑話休題ガーシュインの「I Loves You Porgy」以外は彼らのオリジナル。「I Loves You Porgy」は、しみじみとした味わいのある演奏。アルバムには「Birds Flying Suite」という組曲が二つ含まれている。無調の冷たい肌触りの、現代音楽的なアプローチだが、表現の幅が広く結構楽しめる。彼らは現代音楽のジョン・ケージに影響を受けているらしい。説得力が半端ないのは、押し出しの強いジャズ・ミュージシャンが演奏しているからかもしれない。どちらの組曲もアルト・フルートでの演奏がはまっている。サックスだと、こうはいかないだろう。第2組曲ではアルト・フルートの尺八のようなサウンドが興味深い。また、弦をはじくシーンも耳にすることが出来る。その他の音楽は、全体にリリカルな音楽で、北欧のムードが漂っている。中には「Memories Of Summer」のようにリズミカルなナンバーも含まれている。この曲は、コルトレーンの「ナイーマ」を思い出させるような雰囲気がある。アゲルガードのサックスは息漏れを伴う荒っぽいサウンドで、ちょっと癖がある。なので透明感が感じられない、あまり北欧のサックスらしくないように感じる。音だけだとジョー・ロバーノのサックスのイメージだ。それに対してソプラノサックスは息漏れがなく、「Kids Playing」に聞かれるような、なまめかしいサウンドだ。フルートの抵抗感は少ない。「Receiving」はアルト・フルートでの演奏だが、ゴスペル風で敬虔な祈りを思わせる音楽。エリントンの「Black,Brown & Beige」のナンバー「Come Sunday」を思わせるフレーズが聞かれ、なかなか感動的だ。「Clear Seeing」はヤンソンのオリジナルだが彼にしては珍しい、アーシーなテイストの感じられる曲だ。「A Rare Italian Bird」はチック・コリアの曲と言ってもおかしくない、リリカルでメロディックな曲。メロディーのユニゾンはまさしくチックの世界を思い起こさせる。ヤンソンは相変わらず透明でリリカルなピアノが健在。「Guided From Within」ではハモンド・オルガン?も弾いている。最近リーダー・アルバムが出ていないので、もう少し活発な録音活動を期待したいところだ。録音はノイズ感がなく潤いのある、低音が充実していて、デュオの演奏とは思えない、豊かなサウンドが満喫できる。Lars Jansson & Thomas Agergaard: Garden of Sounds (Arts Music artscd003)16bit44.1kHz Flac1.Lars Jansson:Garden Of Sounds2.Thomas Agergaard:Everyday3.Lars Jansson:Kids Playing4.Lars Jansson:Guided From Within5.George Gershwin:I Loves You Porgy6.Lars Jansson,Thomas Agergaard:Birds Flying Suite I: Part 1 Part 2 Part 39.Thomas Agergaard:Memories Of Summer10.Thomas Agergaard:Quiet View11.Lars Jansson:Receiving12.Lars Jansson:Clear Seeing13.Lars Jansson:A Rare Italian Bird14.Thomas Agergaard:Moving Memories15.Lars Jansson,Thomas Agergaard:Birds Flying Suite II: Part 1 Part 2 Part 3 Part 4Thomas Agergaard(ts,as,a-fl)Lars Jansson(p,org)Recorded March/April 2022
2024年07月12日
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フランク・ウェルザーメスト指揮クリーヴランド管弦楽団の自主レーベルでのリリースもコンスタントに出ている。直近のバルトークとベートーヴェンは見送ったが、今回はウェルザーメスト得意の?プロコフィエフということで、eclassicalからダウンロードした。本来11.3$なのだがpentatoneのディスカウントコードが利用できたので、半額で購入した。このコンビでのプロコフィエフはクリーブランドレーベルでの初回リリースでの交響曲第2番以来と思ったら、昨年第5番もリリースされていた。第6番はメロディーの断片は聞き覚えがあるのだが、全曲をまともに聴いた記憶は全くない。CDも持っていなかった。重苦しい曲かと思ったが、クリーブランド管の透明で雑味のないさっぱりとしたサウンドのおかげか、グロテスクな側面が薄れ、すっきりとしていて、随分と洗練された音楽になっている。第1楽章は重苦しい雰囲気だが、時折軽妙なフレーズが出て来て、重苦しさが軽減されている。第2楽章はプロコフィエフらしい少しグロテスクだが、軽妙なテイストを持つ。後半のハープを支えとした部分もおとぎ話チックで悪くない。第3楽章も暗めだが華やいだ気分も感じられ、第5番のフィナーレとの親和性も感じられ親しみやすい。エンディングの暴力的な部分も、過度に乱暴にならない。クリーブランド管は決してフォームの崩れない、安定した技巧と明晰な表現で曲の持つポテンシャルを最大限に出している。決してがなり立てないサウンド、特にロー・ブラスに顕著に聴かれる柔らかいサウンドも、大変魅力的で、心静かに鑑賞できるのがいい。個人的には、もう少しメリハリがあってもいいような気がするが、彼らの芸風ではないだろう。録音もバランスが良く、ホールノイズの聞こえない、ライブ録音らしからぬ潤いが感じられる優れたものだ。因みにウェルザーメストは2027/2028シーズンをもって音楽監督のポストを退任するそうだ。このコンビは好きだったので退任は残念だが、退任前に優れたレコーディングを出来るだけ多く出してほしいものだ。Franz Welser-Möst Prokofiev: Symphony No. 6(The Cleveland Orchestra TCO0010D)24bit96kHz Flac1.Symphony No. 6 in E-Flat Minor, Op. 111: I. Allegro moderato2.Symphony No. 6 in E-Flat Minor, Op. 111: II. Largo3.Symphony No. 6 in E-Flat Minor, Op. 111: III. VivaceCleveland OrchestraFranz Welser-MöstRecorded live in Mandel Concert Hall at Severance Music Center in Cleveland, Ohio,on September 28 and October 1, 2023
2024年07月10日
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「One For All」というバンドの最新作を聴く。JAZZTIMESによって「ニューヨークのハードバップ最高のスーパーグループ」と称された「One For All」の「The Third Decade」(2016)以来8年ぶりの新作。(1997)年の「Too Soon to Tell」以来17作目となる。典型的なハードバップ・セッションだが、メンバーの水準が高く、洗練された安定したプレイが楽しめる。3管編成のハーモニーが心地よい。今回は、「Big George」という愛称のジョージ・コールマン(1935-)をゲストに迎えたアルバム。コールマンは3曲に参加している。コーマンは録音当時87歳で、サウンドは些か雑味が多く、くたびれているのは年相応なのでしょうがない。周りが凄すぎたので些か気の毒だったが、高齢ながら良くコントロールされたプレイだったと思う。3曲の中ではバラードの「My Foolish Heart」がなかなか味わい深いプレイだった。またアップテンポの「This I Dig of You 」のコールマンのアドリブ・ソロは精彩があり、ホーンのハーモニーや華やいだ雰囲気もなかなかよかった。「One For All」のサウンドは、安定感が半端なく、とにかく立派。アンサンブルは引き締まっていて、適度な緊張感もありリーダー?のアレキサンダーの統率力が光っていた。コールマンが入ったことにより、このグループのセッションでは珍しく、その場でヘッドアレンジを練ったという。グループの中ではトロンボーンのスティーブ・デイヴィスの暖かいサウンドが良かった。トロンボーンをフィーチャーした「The Nearness of You」も素晴らしかった。アレキサンダーのテナーはソリッドでメタリックなサウンドだ。アルト・サックスのように聞こえる場面もあった。リズム・セクションのバランスも申し分ないが、個人的にはデヴィッド・ヘイゼルタイン(1958-)のピアノがもう少し出ても良かった気がする。いつもながら、このレーベルの録音は申し分なく、素晴らしいジャズサウンドが堪能できる。One For All:Big George(Smoke Sessions SSR2401)24bit 96kHz Flac1.Eric Alexander:Chainsaw2. David Hazeltine:In the Lead3. Steve Davis:Edgerly4.Jim Rotondi:Oscar Winner (feat. George Coleman)5. Victor Young, Ned Washington:My Foolish Heart (feat. George Coleman)6. Hank Mobley:This I Dig of You (feat. George Coleman)7. Steve Davis:Cove Island Breeze (bonus track)8. Hoagy Carmichael, Ned Washington:The Nearness of You (bonus track)9. Jim Rotondi:Leemo (bonus track)Eric Alexander(ts)Jim Rotondi(tp)Steve Davis(tb)David Hazeltine(p)John Webber(b)Joe Farnsworth(ds)Recorded September 27, 2022 at Sear Sound Studio C, New York City
2024年07月08日
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イギリスの若きチェリストであるラウラ・ファン・デル・ハイデン (1997-)のシャンドス第2弾を聴く。ディストリビューターによると、『19世紀後半から20世紀にかけて活動したベルギーのイラストレーター、ウィリアム・トーマス・ホートン (1864-1919)の幻想的なイラスト「月の小径」にインスピレーションを受け、制作されました。月や夜を題材にした作品や、人類の月への探求心を呼び起こす作品など、さまざまなアイデアをもとに19世紀~20世紀の多彩なレパートリーが収録されてる』とのこと。彼の作品を見ると、一度見たら忘れられない個性が感じられるプログラムは多岐にわたり、近代から現代のありきたりではない作品が並んでいる。今話題の?ジョージ・ウォーカーやフローレンス・プライスの作品も含まれているのも目を惹く。録音当時26歳という年齢だが、いい意味で若さを感じさせない、成熟した音楽を聞かせてくれる。艶のある豊かなサウンドで、自由自在のダイナミックな、そうは言っても節度の守られた表現立派。もよく練られていてダイナミックで堂々としたものだ。昔だったら女性のチェリストは男性に比べひ弱なところを感じさせたものだが、この方は性別を意識することがない。高音域も音程がよく、音がやせないのがいい。ピアノのコールマンはチェロとの相性が抜群で、ダイナミックでスケールの大きい演奏で、チェロをプッシュしている。ヴァラエティに富んだ選曲で楽しませてくれるが、不思議と小粒な感じはしない。そのなかでもやはりブリテンのソナタが聴きごたえ十分。コルンゴルトの喜歌劇「沈黙のセレナード」から「最高に美しい夜」はウイーンの薫り高い演奏。起伏が大きく恰幅のいい表現だ。ウォーカーのチェロ・ソナタは初めて聞いたが、なかなかいい曲だ。プログラムは前半は固い作品が多いが、後半は一転して柔らかな作品が続き心が和らぐ。さすがにフランス物の威力だろうか。ドビュッシーの後は小品が3曲。武満の合唱曲からの編曲「明日ハ晴レカナ曇リカナ」も無邪気さと素朴さが感じられる心温まる演奏だ。ジャズ歌手ニーナ・シモンの「Everyone's Gone To The Moon」も意表を突いた選曲。聞いたことのない歌だが、短いながらも心に響く演奏だった。最後はドビュッシーの「月の光」で静かにアルバムを閉じる。録音はSNが恐ろしく良く、無音の中からいきなり音が聞こえる。細々とした曲が多いように見えるが、短い曲でも存在感があり、アルバムの印象は悪くなかった。最終的にはほっこりとしたアルバムになっていた。ということで、大変完成度の高いアルバムで、前作の「おとぎ話」というアルバムもチェックする必要がありそうだ。Laura Van Der Heijden:Path To The Moon(CHANDOS CHAN20274)24bit 96kHz Flac1.コルンゴルト:喜歌劇「沈黙のセレナード」より《最高に美しい夜》 Op.36-25(チェロとピアノ編)2.ジョージ・ウォーカー(1922-2018):チェロ・ソナタ イ短調5.リリ・ブーランジェ(1893-1918):反映(チェロとピアノ編)6.フローレンス・プライス(1887-1953):夜(トム・ポスターによるチェロとピアノ編)7.ブリテン:「ミケランジェロの7つのソネット」より第3番《Sonetto XXX》、チェロ・ソナタ ハ長調 Op.6513.ドビュッシー:美しき夕暮れ L6(アレクサンドル・グレチャニノフによるチェロとピアノ編)14.フォーレ:「2つの歌」より《月の光》 Op.46-2(チェロとピアノ編)15.ドビュッシー:チェロ・ソナタ ニ短調 L13518.武満徹:明日ハ晴レカナ、曇リカナ(ヘニング・ブラウエルによるチェロとピアノ編)19.ニーナ・シモン(1933-2003):みんな月へ行ってしまった(ジェームズ・コールマンによるチェロとピアノ編)20.ドビュッシー:「ベルガマスク組曲」より《月の光》 L75-3(フェルディナンド・ロンチーニとアレクサンドル・ローレンスによるチェロとピアノ編)ラウラ・ファン・デル・ハイデン(チェロ)ジェームズ・コールマン(ピアノ)録音 2023年3月27日-29日、ポットン・ホール(サフォーク、イギリス)
2024年07月06日
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以前出ていたブラッド・メルドーの「After Bach」(2018)の続編を聴く。バッハは平均律やパルティータからピックアップした5曲、それ以外はバッハにインスパイヤされたメルドーのオリジナルという構成。その中にはバッハのゴルトベルク変奏曲に似た?「アリア」と称する曲と、6つの即興が含まれる。この即興はジャズ的なアドリブは「Jazz」というタイトルの第5変奏と続く「Finale 」のみで、他はクラシックの意匠を纏った即興だ。不協和音が混じったシニカルなテイストを感じさせる即興は、メルドーの才気のほとばしりを感じさせる。オリジナルでは「After Bach: Toccata」が14分余りの力作。この曲は「Three Pieces After Bach」という組曲の終曲だ。激しい部分とゆったりした部分が交錯する曲で全体に暗いムードが漂う。ミニマル風に同じリズムが執拗に繰り返される部分もあり、ここいらへんはメルドーの真骨頂だろうか。「After Bach: Cavatina」は宗教的な気分の感じられるバッハ風の曲だが、途中から不協和音が入り、変容していくところがメルドーらしい一筋縄ではいかないところで、思わずにやっとさせられる。バッハはクラシックのピアニストに劣らない出来。アゴーギクはごくわずか。概ね速めのテンポだが、軽やかで、のんびりとした気分が横溢しているところは、クラシックのピアニストには出せない表現だろう。アルバムの最後はオリジナルの「後奏曲」で、穏やかに終わる。録音は太い音でダークで低域に重心が置かれている。高域の透明な線の細い録音だと、大分印象が変わってくる気がする。ところでBarbara Rennerという方がクレジットされているが、ピアノの調律担当のようだ。普段は調律師の名前がクレジットされることは殆どないと思われる。敢えてクレジットされているということは、彼女の仕事の重要性の表れかもしれない。今回の録音場所であるマサチューセッツ州ウースターのatMechanics Hall所属の調律師のようだ。ピアニストが専属の調律師を雇っていることは結構あることだが、ホール専属の調律師がいるとは知らなかった。Brad Mehldau:After Bach Ⅱ(Nonsuch 7559790077)24bit96kHz Flac1.Brad Mehldau:Prelude to PreludeJohann Sebastian Bach:2.Prelude No. 9 in E Major from the Well-Tempered Clavier, Book I, BWV 8543.Prelude No. 6 in D Minor from the Well-Tempered Clavier Book I, BWV 8514.Brad Mehldau:After Bach: Toccata5.Johann Sebastian Bach:Partita for Keyboard No. 4 in D Major, BWV 828: II. Allemande6.Brad Mehldau:After Bach: Cavatina7.Johann Sebastian Bach:Prelude No. 20 in A Minor from the Well-Tempered Clavier Book , 8.Brad Mehldau:Between Bach9.Johann Sebastian Bach:Fugue No. 20 in A Minor from the Well-Tempered Clavier Book I, BWV 865Brad Mehldau:10.Intermezzo11.Variations on Bach’s Goldberg Theme: Aria-like12.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation I, Minor 5/8 a13.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation II, Minor 5/8 b14.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation III, Major 7/415.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation IV, Breakbeat16.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation V, Jazz17.Variations on Bach’s Goldberg Theme - Variation VI, Finale18.Johann Sebastian Bach:Prelude No. 7 in E-Flat Major from The Well-Tempered Clavier Book I, BWV 85219.Brad Mehldau:PostludeBrad Mehldau(p)Barbara Renner (instrument technician)Recorded April 18-20,2017 and June 21,2023 atMechanics Hall,Worcester,MA
2024年07月04日
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ロシア生まれのパヴェル・ゴムツィアコフというチェリストのリサイタルを聴く。 知らないチェリストだが、マリア・ジョアン・ピリスに見いだされ、デュオを組んで世界中を楽旅したということを知ったのがコンサートを聴きに行った切っ掛け。せいぜい中ホールでの公演と思っていたのだが、何と大ホールでの公演。しかも半分以上の席が埋まっていた。動員でもかけられたのだろうか。ピリスのショパン・アルバム(2009)でチェロ・ソナタを弾いているようだ。チェロというと豊かなサウンドで朗々と鳴る音楽というのが筆者のイメージだが、この方のチェロはそういう常識とはだいぶかけ離れている。繊細だが線が細く、音量もあまり大きくない。表現でいえば、アゴーギクも殆どつけず、大袈裟な身振りも全くない。なのでスケールも大きくないし、しいて言うならば弱音にこだわりを持っているのかもしれない。その弱音も、通常の演奏の音量が小さいため、コントラストが不足していて印象が薄い。さすがにピリスが気に入ったチェリストだなと変に納得してしまった。プログラムは大曲が並ぶが、聴き手を唸らせるような身振りは一切ない。技術はそれなりだろうが、あまり音が飛んでこない。2列目の席なので音がビンビン飛んできてもいいところなのだが、それもない。シューベルトの「アルペジョーネ・ソナタ」はよく知られるようになったのはロストロポーヴィッチの録音(Dacca)が出てからだろうか。個人的には生で聴くのは初めて。プログラムによると6絃のアルペジョーネ用の曲なので、4弦のチェロでは難易度が格段に上がるそう。ゴムツィアコフの演奏はそういう難しさは感じさせないが、そうかといってシューベルトの歌謡性が前面に出ているわけでもなく、細かいところでも、口ごもっているようなはっきりしない音楽であまり楽しくない。次のイザイの無伴奏チェロソナタは4楽章からなるが、続けて演奏される約12分ほどの曲だ。あまり演奏されない曲で、CDも殆どないはず。出だしの「Grave」こそ、バッハ風の厳しい楽想から始まり、おっと思ったが、その後尻すぼみ気味。何やらもごもご言っているようで、あまり楽しめなかった。後で他のチェリストのチェリストの演奏を聴いてみたが、厳しさが不足しているように感じられた。バッハは原曲が「無伴奏フルートのためのパルティータ」イ短調で、筆者も昔はよく聴いていたものだ。チェロで聴くのは初めてだったが、フルートの軽やかさや音楽の深淵さがあまり感じられなかった。シューマンの「幻想小曲集」は特に強い印象はなかった。あとはアンコール的な小品が並んだ構成で、それなりの演奏。中ではトロイメライが随分と遅いテンポで、チェロも時折目をつぶって瞑想しているかのような演奏ぶりが印象的だった。残念なのは「白鳥」の後半で一か所だけ指を間違えていてびっくり。すぐ訂正したとはいえ、平易な曲で間違うのは珍しい出来事だろう。これだから生は怖い。北上在住の那須川明子のピアノは特に目立ったミスこそないものの、もう少しチェロをプッシュする場面があっても良かった。アンコールでは、チャイコフスキーの「感傷的なワルツ」が良かった。チャイコフスキーの数々の有名な曲に埋もれているが、チャイコフスキーのメロディー・メーカーとしての才能を再認識させられた。パヴェル・ゴムツィアコフ チェロ・リサイタル1.シューベルト:「アルペジョーネ・ソナタ」イ短調D.8212.イザイ:「無伴奏チェロソナタ」ハ短調 Op.283.J.S.バッハ:「無伴奏チェロのためのパルティータ」ニ短調休憩4.シューマン:「幻想小曲集」Op.735.フォーレ:「夢のあとに」6.シューマン:「トロイメライ」7.チャイkフスキー:「ノクターン」Op.19-48.サン=サーンス:「白鳥」アンコール1.チャイコフスキー:感傷的なワルツ2.シューベルト:アヴェ・マリアパヴェル・ゴムツィアコフ(vc)那須川明子(p)2024年6月30日さくらホール 大ホールにて鑑賞
2024年07月02日
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