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平素は斜め読みしておわるのが恒例の月刊文藝春秋なのですが、今月号には眼が釘付けになりました。開いた特集を読み始めてやまらず、とうとう長い特集記事をすべて読んでしまいました。戦後史学習の15年ほどの嗅覚からこの事件は見えていなかったジグソーパズルのピースがようやく見つかった気がする思いです。Zoom学習会で接している50代、60代の大手企業勤務の現役や退職者の方々と何度も意見交換してきた経験から戦後世代に体験共有が凄まじく断絶しているのは私も気づいております。それは仕方がありません。たとえば私が義務教育教科書で初めて知った226事件の本当の意味やその影響の深さに気づいたのは50年以上も経過してようやく70歳を過ぎてからです。226事件の真相は国政担当の当事者らによって徹底して国民の眼から隠し続けられてきました。踊りだした最新の一次資料開示に接して私はようやくアジア太平洋戦争がなぜ起こったのか、についてのイメージが肌に粟立つほどリアルにイメージができるようになりました。定年退職後に始めた現代史学習の累積と照らし合わせれば、日本がこれだけ不思議な奇形性を与えられたその全容が読み解けた気がしたところです。今月号の文藝春秋で特集記事になっている赤報隊事件というのは1987年という古い事件です。新聞や報道は相当繰り返し流れてはきましたが、私は35歳で当時あまりこの事件の深刻さが理解できるような状況ではありませんでした。襲撃された記者の奥さんの肉声などが綴られた紙面をその後も続報で読んでおりました。理不尽な惨劇がご家族には並大抵ではない混乱と激しい衝撃をもたらしたのだという事を理解を致しましたが、なぜ地方支局の記者が民族派運動団体の凶行で襲撃を受けなければならなかったのか、この事件の奇異さについてはまったく闇の中での出来事に気配をさぐるよりも難しい気がしました。無関心なかたたちと私のあいだには、絶対的な真相の途絶の前ではほとど群盲象を撫ぜるのひそみ同様にこのような事件に対して何も言えないという点ではさほど大差ないという状況がその後も40年近く続いたわけなのです。この迷宮いりした死傷者も生じた事件に、あの野村秋介が関与しているという文藝春秋の30年近い追跡取材とあたらしい事実の開示にようやく多くのジグソーパズルのピースが繋がった気がします。私はこの野村秋介という人物が、80年代にそれほど社会的に影響力の大きな存在であったのか(偉大な存在だったなどとはまったく思っていません)についてまったく理解をしておりませんでした。時折、テレビ番組に登場する野村の言動はややもすると右翼壮士としても軽々しく到底論客などと言われても閉口するような稚拙な視野と過度に思い入れの強い政治的急進性を前面に押し出した発言に強い警戒心がありました。残念ながら俗人の我々の思考は、ここから始まるしか無いのかなという空亡の35年を前にして錯綜した思いが生じます。同世代の知人の訃報がつぎつぎと届くこの時節にこの文藝春秋のスクープはそれぞれが生きている時代の交差しがたい機微を生きている私がただ一人茫然と眺めている、そんな感覚があります。
2023年05月23日
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2023年05月18日
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2023年05月17日
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2023年05月16日
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