The Life Style in The New Millennium

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Master21

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2003.12.06
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「また玉子むいてるよ」
「もっと、きれいにむけよ。きったねえなあ」
「手先が不器用なんだよ」
「もうすぐクビなんだから、もう少しやせたらいいんだけどな」
そんな周囲の囁きが聞こえたのか大川竜一は
のどに玉子を詰まらせてゴボゴボとセキ込んでいる。
何と言われようと、竜一の好物はゆで玉子である。

竜一は、もうすぐ58歳になる。この商事会社に入社して
35年になる。ベテラン中のベテランであるが、真面目すぎるのと
要領が悪いのとで上司の受けが悪く、未だに無役である。
会社の寿命は30年と言われる通り、あと2年で創業40年を
迎える会社は、青色吐息の状況でボーナスも出なかった。
竜一のような年だけは取っているが、役にはたたない社員は
案の定、今月末で退職になってしまった。

会社では昼行灯(ひるあんどん)を絵に描いたように
大人しかった竜一は家では関白様である。
たとえば、妻に
「おとうさん、電車の運転手やってりゃ
今頃、どこかの駅の駅長さんなのに」
家に帰って妻の美弥子にぼやかれと
「うるさい。それを言うな」
と大声で怒鳴る竜一は、家では縦のモノを横にもしない男だ。
そんな竜一は35年前、国鉄の運転手だった。
東海道線の大垣から西明石まで、快速電車を走らせていた。
「俺は、今でも電車の運転やらせたら、まだまだ若い者には負けないぞ」
その証拠は、嫁いだ一人娘ひかりの産んだ孫の前で明かされる。
この最近、ブームになっているパソコンを使った電車ゲームは
竜一の得意種目である。孫たちは
「おじいちゃん、すごい。ピタッと駅に止めるんだ」
とビックリする。

「あんなことさえなければ・・・」
美弥子はひかりが子供の頃から口癖のように言っていた。
35年前、竜一が一日の業務を終え回送となった電車を
車庫入れしようと徐行運転していた時である。
線路の横に人影が見えた。
その人影は線路に倒れるようにうつ伏せた。
竜一は急ブレーキをかけた。
キーキー・・・ガタン・・・
竜一は今でもキーキーというブレーキ音を夢見るという。
判断が早かったのか幸い自殺は未遂に終わったが、
その日から竜一は電車の運転ができなくなった・・・

とうとう退職の日も迫った蒸し暑い日、竜一の元に一枚の封筒が届いた。
「なんで、今頃、俺なんかに」
封筒の中身は初代新幹線0系の引退セレモニー特別列車の指定席券だった。
差出人は娘のひかりだった。
竜一はひかりを呼びつけた
「バカやろう。何のまねだ。こんなもの・・・」
「何言ってるの。ずっと電車の運転手に未練たっぷりだったくせに」
「うるさい」
「私の名前だって・・・何よ、”ひかり”って、モロ新幹線じゃないの
私を育てるために慣れない営業の仕事やって・・・
つらかったくせに35年間も一生懸命頑張って・・・
あげくの果てにリストラでクビ?・・・
お父さんが運転手辞めた35年前に走り始めた
新幹線0系も同じように思えたのよ」
「バカ・・たかが快速の運転手だった男が
セレモニーなんて晴れがましい所へ行けるか・・・」
と精一杯強がってはいるが竜一は涙声になっている。
ひかりは、どうしても竜一を連れて行くつもりだ
「お母さんも私も着いて行ってあげるから」
「バカやろう。一人で行けるわい」
もう涙まみれで何を言ってるか分からない竜一だった。






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Last updated  2015.08.29 10:59:26
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