2007.06.22
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カテゴリ: ウォール街から
第196回 「ババ抜き」で勝つために (2007年5月28日)  で解説させていただいた問題が、アメリカの一部のファンドで顕在化しました。証券会社ベアスターン傘下の2つのファンドがCDO (Collateralized Debt Obligation)市場で巨額の損失を出し、親会社であるベアスターンズが32億ドルに上る救済に乗り出すというニュースが伝えられました。1998 年に市場を大騒ぎさせたロングタームキャピタル(LTCM)の救済額が35億ドルでしたが、それ以来の規模となります。

 ここ1ヵ月ほど長期金利が急上昇する中、住宅市場は引き続き不振で、住宅ローンの債務不履行率は上昇する一方という状況で、サブプライム市場にとっては厳しい状況が続いています。ただ繰り返し申し上げますが、今回のサブプライム問題で打撃を受けるのはサブプライム住宅ローン専門会社と投資家であり、米国経済全体に悪影響が及ぶ可能性は低いというのが私の考え方です。住宅ローン専門会社と投資家のうち、サブプライム住宅ローン専門会社については既に30社以上が破綻・廃業に追いやられました。一方、今後さらに問題が表面化してくると思われるのは投資家サイドです。

 もっとも、第196回のコラムで指摘させていただいたのはベアスターンズでも、今回巨額の損失を出したファンドでもありません。今回巨額の損失を出したファンドは”High-Grade Structured Credit Strategies Enhanced Leverage Fund” という名称です。日本語に訳すと「高格付け仕組信用戦略レバレッジ増強ファンド」です。名前だけ見ても、とても一般の投資家や、リスクを把握していない投資家が投資していたファンドとは思えません。予めリスクを十分理解していたセミプロや金融機関の投資が、単に失敗に終わったというだけで、あまり問題ではありません。問題が大きくなると思われるのは、リスクを予期していない投資家や金融機関に損失が及んだ場合です。

 サブプライムローンは多くの場合、ABS(資産担保証券:Asset Backed Securities)の形に証券化されています。ABS自体は多くの場合、投資適格ぎりぎりのトリプルBで、このままだと投資できる投資家は限られています。そこでCDO(Collateralized Debt Obligation)という手法を使い、支払い優先順位によって、又は保証を付ける事によってトリプルAから「格付けなし(投機的)」の部分にまで区分けされます。最高格付けのトリプルAに投資できる投資家は沢山います。又、ここ数年「格付けなし(投機的)」部分はリターンが良かったので、そのような投資家に買ってもらう事ができます。このように、CDOを使う事によってトリプルBのままよりも多くの投資家にABSを買ってもらう事ができるのです。ここ数年のサブプライム・ブームを支えてきたのは、実はCDOであったと言っても過言ではありません。

 今回のサブプライム問題で、「格付けなし(投機的)」部分の価値は既に相当毀損しているか、紙屑同然になっていると考えられます。しかし前述の通り、これはもともと投機的部分を好んで投資していた投資家なので問題ではありません。問題は高格付け部分を保有している金融機関にあると考えています。

 格付けを付与しているのは格付け会社ですが、もしもの時に格付け会社が支払いを保証してくれる訳ではありません。CDOで保証に入っている業者も、サブプライム問題がこれ以上広がって一気に支払い義務が生じるような事になれば、すぐに資本が底を付いてしまうでしょう。負のスパイラルが始まれば高格付け部分を保有している金融機関はかなりの打撃を受ける事になると考えられます。

 上記、今回巨額の損失を出したファンドもその名の通り、”High-Grade”(高格付け)債券に投資していました。名称の通り、”Enhanced Leverage”(高レバレッジ)を使っていたので問題が早く表面化しただけです。高格付け債券が、実はそれに見合う質がなかったと一般に認識されるようになった時、この問題はピークをむかえる事になるのではないかと考えています。





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最終更新日  2007.06.25 18:55:11


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