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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」の二次創作小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。その日は、雲一つない快晴の日だった。「見て、綺麗な空!今が戦争中だなんて思えないや!」腰下までの長さがある金髪を揺らしながら、一人の歌姫はそう叫んで青空を見つめた。「火月様、こちらにいらっしゃったのですね。さぁ、そろそろお時間ですよ。」「わかった。」歌姫―エーリシア連合国軍所属の高原火月は、音楽祭に出演する為、基地に来ていた。戦場で戦っている兵士達を慰める為、火月は音楽祭に出演している他の歌姫達と音楽祭を盛り上げた。音楽祭の盛り上がりが最高潮に達した時、“それ”は起きた。「何あれ?」「サプライズ?」観客達が口々にそう言いながら上空を見上げると、そこにはカラフルな落下傘が次々と地上に降りて来た。「え、あれ・・」観客達が地上に降りて来た者達が、敵国軍の兵士達だと気づいたのは、彼らのシンボルカラーである真紅の軍服が落下傘の陰から見えた時だった。「逃げろ、敵だ!」それまで歓声に包まれていた会場は、悲鳴と銃声、怒号に包まれた。「火月様、こちらです!」「一体何が起きているの!?」「それは、わかりません。それよりも早く・・うっ!」火月は、目の前で人が撃ち殺されるのを初めて見た。「嫌、しっかりして!」無駄だと知りながらも、火月は倒れた男の身体を揺さ振った。その時、無機質かつ冷たい靴音が火月の方へと近づいて来た。(敵の残党か・・)紅蓮の炎と漆黒の煙に包まれ、ラグナス皇国大佐・土御門有匡は、弾切れになった拳銃を床に投げ捨てると、携帯していたダガーナイフを取り出し、敵の残党へと迫っていった。その時、一陣の風が吹き、太陽の光が“敵”の姿を照らした。白磁のような肌、眩い光を放つ美しい金髪、そして上質な紅玉を思わせるかのような真紅の瞳。“せんせい、ぼくがおとなになったら、けっこんしてくれる?”幼い頃、大切な“誰か”と交わした約束。“あぁ、約束だ。”「火月、火月なのか・・?」「先‥生・・?」火月は、自分の前に立っている敵兵が、初恋の人である事に気づき、驚愕の表情を浮かべた。“大きくなったら、結婚しよう。”そう言って自分に優しく微笑んでくれた大切な人は、自分に向かってナイフの刃先を向けていた。どうして、彼が敵軍に居るのか。何故、彼が“ここ”に・・「大佐、ご無事ですか!?」二人が互いに見つめ合っていると、そこへ一人の兵士が現れた。「あぁ。」「この女は、殺しますか?」「いや、この女は人質として価値がある。彼女はわたしに任せて、お前は先に行け。」「はっ!」有匡の部下が二人の前から去ると、有匡は冷たい目で火月を見た。「わたしと、共に来て貰おうか?」「嫌だと言ったら?」「力ずくで、連れて行くまでだ。」有匡はそう言うと、火月の鳩尾を殴って気絶させた。「済まない、火月。わたしを許されないでくれ。」有匡は火月を横抱きにすると、惨劇の舞台から去って行った。“こんな所に居た。どうして、泣いているの?”“僕の目が、気持ち悪いって。”“どうして、こんなに綺麗なのに。”そう言って自分に優しく微笑んでくれた、有匡。彼と共に過ごした時間は、何よりも楽しかった。だが、別れの時は突然訪れた。“戦争になったら、会えなくなるの?”“大丈夫、また会えるよ。”別れの時、火月は有匡とあの約束を交わした。それなのに―(どうして、こんな形で再会ってしまったんだ。わたしは、お前の事だけを想っていたんだ。どうか、お前のあの笑顔が、曇らぬように、わたしは・・)有匡は、自分の膝上で眠っている火月の美しい金髪を優しく梳いた。(わたしは、この先どんな事があっても、お前を守る。だから、今は幼子のように眠れ、火月。)「ん、先生・・」火月が寝返りを打った時、彼女が耳につけていた紅玉の耳飾りが美しく光った。「ゆっくり眠れ。」にほんブログ村
2024年02月14日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。前半性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。“彼女”―三条高子は、そう言うとカウンター越しに有匡を睨みつけた。 彼女とは前世からの深い因縁で繋がっていた。「この前、貴方様のインタビュー記事を雑誌で拝読しましたわ。」 高子はそう言うと、有匡の手を見つめ、次の言葉を継いだ。「血に塗れた手でも、美しい物を作れるんですのね、あなたは。」「先生、冷凍庫のチョコ、在庫がなくなりそうです。」 火月がそう言って厨房から店内へと向かった時、有匡と謎の少女が対峙している事に気づいた。「あなたが・・あの・・」 少女はそう言うと、店から出て行った。「先生、どうしたんですか?」「すまない、考え事をしていた。どうかしたのか、火月?」「チョコレートの在庫が切れそうなんですが、発注お願いできますか?」「あぁ。」「さっきの子・・先生のお知り合いなんですか?」「それをお前が知ってどうする?」「え・・」「女房気取りはよせ。」 有匡はそう言って火月を冷たく突き放した後、自室に引き籠もってしまった。「アリマサがひきこもりぃ!?何で急にそんな事になってんの!?」「僕もわからないよ。昨日、店に先生の知り合いが来たんだ。」「そいつ、男?女?」「女の子だよ、名門お嬢様学校の制服を着ていたなぁ。その子が来てから、先生の様子が少しおかしくなっちゃって・・」「もしかして、有匡の愛人じゃねぇの?」 琥龍の言葉を聞いた禍蛇は、すかさず彼の顔面に拳を叩き込んだ。「お前は黙ってろ!」「先生、あの子と会った時、何処か辛そうな顔をしていた。まるで、自分を責めているような・・」「もしかして、前世絡みだったりする?だとしたら、アリマサの方から火月に話してくれるまで、そっとしておいた方がいいんじゃない?」「そうかもね・・」 そう禍蛇に話した火月だったが、有匡とあの少女の事が気になって仕方が無かった。 だから、彼女に会いに行った。(ここ、か・・) カトリック系のお嬢様学校、S高の正門前で、火月は只管あの少女が出て来るのを待った。 だが、幾ら待っても少女は出て来なかった。(無謀だったかな・・) 火月がそう思いながらS高を後にしようとした時、一人の少女が彼女に近づいて来た。「初めまして。あなたが、有匡様の北の方様ね?わたくしは、三条高子、あなたの背の君様に家族を殺された女よ。」 そう言った少女―高子は、火月を睨んだ。「どうして、先生があなたのご家族を・・」「殺したかですって?ここは人目があるから、何処か静かな所でお話ししましょう。」 高子に火月が連れられたのは、こぢんまりとした雰囲気のカフェだった。「コーヒーをふたつ、お願い。」「かしこまりました。」 高子は、店員に飲み物を注文した後、火月の方に向き直った。「それで?あなたは何故、わたくしの家族が有匡様に殺されたのかを知りたいのでしょう?」「は、はい・・」「これをご覧なさい。」 高子がそう言って火月に見せたのは、血に汚れた勾玉だった。「これは・・」「有匡様は、呪詛をかけられたわたくしを救って下さったの。でも・・あの方は、わたくしの家族を殺したのよ・・まるで虫けらのようにね!」(先生が、そんな事をする訳がない。先生が・・)「火月・・火月!」「え、あ、すいませんっ!考え事をしていて・・」「お前なぁ、そういった仕返しは止せ。」 その日の夜、有匡と火月は厨房でテンパリングをしていた。 温度調節が命のテンパリング作業中に火月は気が散ってしまい、失敗してしまった。「すいません・・」「さてと、わたしの分は出来たから、お前の分をどうするかだな。」「え、捨てるんじゃないんですか?」「浴室で待ってろ。」「は、はい・・」(先生、何をするつもりなんだろう?) 浴室で裸になった火月がそんな事を思いながら有匡を待っていると、彼はチョコレートが入ったボウルとヘラを持って浴室に入って来た。「あの、先生、それは?」「あぁ。これは、こうするのさ。」 有匡はそう言うと、チョコレートを火月の肌に塗り始めた。「あ・・」「どうした、感じたのか?」「先生が、こんなプレイをするなんて・・」「意外か?」 有匡はいたずらっぽく笑うと、火月の肌に塗ったチョコレートを舌で舐め取った。「駄目、おかしくなっちゃうっ!」「お前の、そんな顔を見たかった。」 有匡は火月の胸から下腹にかけて塗ったチョコレートを、天鵞絨のような舌で時間を掛けてゆっくりと舐め取った。「あっ、あっ!」 執拗に有匡に舌で愛撫され、甘い嬌声を上げている火月を満足気に見ながら、有匡は残り少ないチョコレートを、火月の陰部に塗りたくり、長い指で彼女の膣と陰核を愛撫した。「お前の躰は、何処もかしこも甘いな。」「やぁぁっ、先生・・」「二人きりで居る時は、名前で呼べ。」「あ、有匡様・・」「辛いなら、やめようか?」「やめないで・・」「良い子だ。」 有匡は火月を四つん這いにさせ、避妊具を己のものに装着すると、うつ伏せのまま彼女を奥まで貫いた。「あぁ~!」「火月、愛している・・」 有匡は火月の最奥で爆ぜると、意識を手放した。―やめて、来ないで! 舞い散る雪の中で、赤く染まった血だけが鮮やかに有匡の目に映った。 逃げ惑う者達を、彼は太刀で容赦なく斬り伏せていった。―いやぁ~! 少女が最期に見たものは、禍々しくも美しい、有匡の紅い髪だった。「先生?」「う・・」有匡が低く呻いて目を開けると、そこが見慣れた自分の部屋だという事に気づいて安堵の溜息を吐いた。「酷く、うなされていましたよ。手も、冷たいですし・・」「昔の―前世の夢を見ていた。」「前世の?」「いつまでも隠しておく訳にはいくまい。お前には、あの娘との関係を話してやろう。」 有匡はそう言うと、火月に自分と高子の因縁について話し始めた。 有匡と三条高子は、三条家で行われた管弦の宴で出会った。 土御門家の養父の顔を立てるだけの、“形だけ”のものだったが、高子は次第に有匡に惹かれていった。 しかし、有匡には既に火月が居た。 火月への嫉妬に駆られた高子は、彼女を亡き者にするよう有匡の義兄達をけしかけた。 その結果、火月を手にかけて“力”が暴走してしまった有匡によって、高子は家族諸共殺された。「それは、彼女の逆恨みじゃ・・」「あぁ。だが彼女は、自分の所為で彼女が死んでしまったという現実から目を背け、わたしに対する恨みだけを抱えて再会した。」「何とか、ならないんですか?」「無理だな。こちらが彼女との接触をせぬ限り、彼女は何もして来ないだろうよ。」 有匡はそう言うと、溜息を吐いた。 翌朝、店のドアを激しく叩く音で、有匡と火月は目覚めた。「おい有匡、これ見ろよ!」 琥龍がそう言って有匡にタブレットを見せた。 そこには、有匡が過去に殺人罪で服役していたという、事実無根の誹謗中傷記事が表示されていた。「何これ・・」「もしかして、あの子が・・」 火月がそう言った時、店の窓ガラスが何者かに投げた石によって粉々に砕け散った。「火月、怪我は無いか?」「はい・・」 有匡が店内に転がった石に包まれた紙を見ると、そこには“人殺し”と書かれていた。「暫く、店は休む。こんな記事が出た後では、仕事にならんからな。」「先生、あの・・」「火月、お前は何の心配もせずに学校へ行け。」「は、はい・・」(先生、大丈夫かな?あの人、昔から動揺している時ほど人に悟られないようにするから・・) 昼休み、火月がそんな事を思いながら教室で弁当を広げていると、そこへ一人の男が入って来た。「おや、こんな所で会うとは・・わたしの事を憶えていますか?文観という名を。」 そう言って笑った男の額には、痣があった。(あれは、先生が・・)「どうやら、思い出してくれたようですね。」「どうして、あなたがここへ?」「この学校では講師を務めているのですよ。有匡殿は・・義兄上は、お元気でいらっしゃいますか?」男―有匡の因縁の相手・殊音文観は、そう言うと笑った。「もしかして、あんたがあの記事を・・」「わたしはあのような卑怯な真似はしませんよ。義兄上にお伝え下さい、今晩八時にこの場所でお待ちしていますと。」 文観はそう言って火月に一枚のカードを手渡すと、教室から去っていった。「暫く店を閉めんの?閉めて何処行くの?」「パリだ。初心に戻って一から修業し直す。」「カゲツは?あいつも一緒に連れて行くんでしょ?」「火月は置いていく。あいつは、やはりわたしの元へ来るべきではなかった。だから・・」 有匡が神官とそんな話をしていると、店のドアベルと共に火月が店の中に入って来た。「嫌です、僕も一緒にパリへ行きます!だから・・」「わたしと居ると、お前は幸せになれない。」「離れる位なら、死んだ方がいい!」 涙を流しながら火月は有匡に強引にキスをした後、店から出て行った。(先生はいつもそうだ、一人で考えこんで・・) 火月がそんな事を思いながら公園でブランコを漕いでいると、そこへ数人の男達がやって来た。「漸く会えたな、化猫。」「嫌だ、離してっ!」(先生、助けて・・)にほんブログ村
2024年02月14日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。仁が両性具有です。苦手な方はご注意ください。男性妊娠要素あり、苦手な方はご注意ください。性描写が一部含まれます、苦手な方はご注意ください。「お前、本当に大丈夫なのか?」「ただの風邪だから、大丈夫だよ。」「そうか。」初夏が過ぎ、夏が訪れた。連日の茹だるような暑さに、仁は体調を崩していた。「お父様、大丈夫?」「うん、大丈夫だよ。」そういった物の、仁は酷い貧血に襲われ、その日は仕事を休んだ。「おはよう、優。」「おはよう、碧。」碧は、登校してきた優の顔にアザが出来ている事に気づいた。「それ、どうしたの?」「ちょっと転んじゃって・・」「そう。明日の花火大会、楽しみだね!」「うん!」仁が自室で寝ていると、玄関のチャイムが鳴った。「はい、どちら様ですか?」『俺。』インターフォンの画面に映っていたのは、俊匡だった。「どうしたの?」「ちょっと、トラブっちゃってさ。」俊匡はそう言うと、土御門邸の中に入った。「え、見合いから逃げて来た!?」「いやぁ、親父から食事に誘われて行ったけど、見合いを勝手にセッティングされたから、バックレて来た。」仁が淹れてくれた麦茶を飲みながら、俊匡はそう言った後、溜息を吐いた。「俺は、もう結婚する気は無いんだよ。」「何で?俊匡だったら、きっといい人が見つかると思うよ。」「鈍いな、お前。俺はお前以外の奴とは結婚したくないって言ってんの。」「え・・」仁が戸惑った表情を浮かべていると、俊匡は彼を抱き締め、次の言葉を継いだ。「従兄弟同士とか、男同士とか、そんなの関係ねぇし。俺は、仁以外の奴とは結婚したくねぇし、仁とは別れたくない。」「僕は・・」「二人共、そこで何をしている?」背後から突然氷のような冷たい声がして二人が振り返ると、そこには怒りに滾った目で自分達を睨む有匡の姿があった。「今後一切、仁と会わないつもりだったんじゃないのか?」「そのつもりでした。でも、俺は・・」「仁との結婚は許さん。」「先生、二人の話を聞いてあげても・・」「火月、口を挟むな!」「はい・・」有匡と対峙した俊匡は、自分の想いを彼に伝えた。「俺は、仁以外の人とは結婚したくありません。」「同性婚が合法化されているとはいえ、現実は甘くない。碧はどうなる?あの子が、お前達の子だと知ったら、どうなるか・・」「それは、僕達の方から説明して・・」「二人共、冷静になれ。」仁は、俊匡を玄関先まで見送った。「明日の花火大会、行くよな?」「うん・・」「いつもの所で、待ってる。」「わかった。」火月は、玄関先で抱き合う仁と俊匡の姿を、静かに見ていた。「先生、二人の結婚を許してあげてもいいんじゃ・・」「駄目だ。二人には、わたし達と同じ苦労をさせたくない。周囲から反対されて、どんな目に遭ったか、お前も知らない筈がないだろう?」「それは、そうですけど・・」その日の夜、夫婦の寝室で有匡と火月は自分達が結ばれるまでの経緯を思い出していた。互いに運命に引き寄せられるかのように、二人は恋に落ち、周囲の反対を押し切って結婚したが、それまでが辛く困難なものとなった。「父上が居てくれたから、わたし達はこうして幸せになったが、仁と俊匡は・・」「先生、“運命には何人たりとも逆らえない”って、言うでしょう?僕達と同じように、あの二人は出逢ってしまったら、互いの存在が必要不可欠だって事。」「一目惚れはこの家の血筋、か・・今回はわたし達の方が折れるしかないな。」有匡はそう言うと、溜息を吐いた。「え、じゃぁ・・」「問題は色々と山積みだが、ひとつずつ解決していくしかないだろう―わたし達がかつて、そうしたように。」花火大会当日の夜、土御門邸に久しぶりに殊音家と土御門家の者達が集まった。「うわぁ~、お父様、似合ってる!」「そ、そうかな?」仁の浴衣姿を見た俊匡は、股間が熱くなるのを感じた。「父さん、どうしたの?」「い、いや、何でもない・・」一家総出で花火大会の会場へと向かった仁達は、それぞれ屋台の食べ物や遊びを楽しんだ。仁は父達と別れ、俊匡との待ち合わせ場所に向かうと、彼は荒い息を吐きながら仁を待っていた。「もう、こんなに濡れて・・」仁が下着の上から俊匡の昂ったものに触れると、そこは熱く脈打っていた。「お前だって、濡れてる・・」「もうすぐ、花火始まるね。」「あぁ・・」仁は、太い木の幹に掴まると、俊匡のものを奥まで受け入れた。「う、もう・・」「出して・・」俊匡は、仁の中へ欲望を迸らせた。「花火、綺麗だね。」「あぁ。来年も、また来ような。」「うん。」それは、二人にとって生涯忘れる事が出来ない、夏の日の思い出だった。「あれ、二人共何処に行ってたの?」「うん、ちょっとね・・」碧は、父の首に虫刺されのような痕がある事に気づいた。花火大会から数ヶ月後、仁と俊匡、そして文観と有匡は、聖アンジェロ学院の慈善バザーに参加していた。「カレー出来たから、味見してくれる?」「うん。」俊匡がカレーの鍋の蓋を開けた途端、仁は激しい吐き気に襲われ、その場に蹲った。「おい、大丈夫か?」「うん、大丈夫・・」その後も吐き気が治まらず、仁は俊匡達と共に病院へと向かった。「おめでとうございます、妊娠三ヶ月目に入っていますね。」「え・・」産婦人科の診察室で医師から妊娠を告げられた仁は、驚愕の表情を浮かべた。エコー写真には、二つの黒点が写っていた。「双子・・」「順番が逆になってしまいましたが、いいでしょう。よろしいですね、義兄上?」「あぁ・・」都内のカトリック教会で、家族と友人達に祝福されながら、仁と俊匡は結婚式を挙げた。「おめでとう、二人共幸せにね。」「ありがとう、お母さん。」「先生なら、碧と話しているよ。」「そう・・」教会の中庭で、有匡は碧に、仁と俊匡の事を話した。「じゃぁ、僕には二人の父親が居るって事?」「そうだ。」「僕ね、俊匡さんと初めて会った時、“この人が僕のもう一人のお父さんだ”ってわかったんだ。」「そうか。碧、お前はこれからどうしたい?」「僕、もうすぐお兄ちゃんになるんだよね、楽しみだなぁ。」仁と俊匡が結婚式を挙げてから数ヶ月後、二人が自宅でベビー用品を選んでいると、玄関のチャイムがけたたましく鳴った。「俺が出るよ。」「うん・・」俊匡がインターフォンの画面を見ると、そこには雛の姿があった。「姉さん、どうしたの急に!?」「あんた、色々と不安だと思ってさぁ、“先輩”のあたしが教えてあげようと思って、来ちゃった。」「ありがとう。ごめんね、引っ越したばかりで部屋が散らかってて・・」「碧は?」「スケート教室。僕と違って、あの子には才能があるみたい。」「そう。仁、つわりはもう治まったの?」「うん。」「じゃ、これ食べよっか!」雛がそう言って仁達に見せたのは、大手ファストフード店の紙袋だった。「うわ~、今一番僕が食べたい奴だ、ありがとう姉さん!」「あ~、あんた泣いてんの?」「うるさいなぁ~、もう!」そんな和気藹々とした様子の三人の元に届いたのは、有仁が危篤だという有匡からの連絡だった。にほんブログ村
2024年02月13日
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母が近所のスーパーで買ってきてくれました。まろやかなバターの風味とバニラとの相性が抜群でした。
2024年02月12日
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読み応えがありました。晴明と博雅の関係が好きです。
2024年02月12日
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高校生の頃に一度読んだことがありましたが、それ以来読んでいなかったので再読してみました。晴明と博雅のコンビがいいですね。
2024年02月12日
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表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 篝火が爆ぜる音と、琵琶の音と共に、一人の女が静かに舞い始めた。 紅い月に照らされ、女の射干玉の如き艶やかな黒髪が揺れ、碧みがかった切れ長の黒い瞳は、酒宴の主である正田秀時を見つめていた。 秀時は、女の妖艶な舞を惚けたように見つめていた。「あの者を、寝所へ。」 秀時の女好きを知っていた家臣は、渋面を浮かべながらも、彼の命に従った。「見事な舞であった。褒美を取らす故、寝所へ参れ。」「有難き幸せにございます。」 秀時の寝所へ向かった女は、背後から秀時に抱き着いた。「そう急くな、優しく抱いてやる。」 そう言って秀時は女に向かって笑ったが、全身が動かない事に気づいた。「薬が効いてくれて、助かった。」「なっ・・そなた・・」「そなたが無類の女好きで良かった。こうも簡単に騙されるとはな。」 そう言った女の、切れ長の瞳が月光を受けて妖しく煌めいた。「殿、如何されたのです?」 家臣が秀時の様子を見に彼の寝所へ向かうと、そこには口から血を流して息絶えている秀時の姿があった。「誰ぞ薬師を呼べ!」 紅い月が、街道を歩く一人の女を照らしていた。 壺装束姿の女がある所へとさしかかろうとしていた時、近くの叢の中から、数人の男達が出て来た。 全身から異臭を放ち、垢面蓬髪の身なりをした彼らは、女を慰み者にしようと、一斉に彼女を取り囲んだ。 だが、女は天高く跳び上がると、冷たく男達を見下ろした。「なっ・・」「髪が、紅く・・」「運が悪かったな。」 男達は、炎に焼かれ、骨すら残せなかった。「若様、お帰りなさいませ。」「お帰りなさいませ。」 壺装束姿の女―もとい、土御門家嫡男・有匡は、家人達に出迎えられた後、自室で変装を解いた。「若様、湯の用意が出来ました。」「そうか。」 湯殿に有匡が入ると、そこには見慣れぬ顔の侍女が居た。「そなた、名は?」「朔、と申します。」「後で寝所へ来い。」 湯浴みを終え、有匡が寝所に入ると、件の侍女が隠れていた几帳の陰から飛び出し、棒手裏剣を彼に向かって投げつけて来た。「お覚悟!」「下忍如きがわたしを倒そうなど、笑止!」 有匡がそう言って侍女を睨むと、持っていた太刀で彼女の胸を貫いた。「若様、ご無事でございますか!?」「あぁ、大事ない。ただのネズミ退治だ。それの後始末をしておけ。」「はっ・・」 家人達が侍女の遺体を運び出した後、寝所で有匡は泥のように眠った。 翌朝、有匡は朝日を浴びながら馬を走らせていた。 いつもは家人達すら近寄らせず、城の中に籠りがちなのだが、偶には外の空気を吸いたくて、有匡は子供の頃から気に入っている湖へと向かった。 そこは、美しく澄んだ鏡のような湖面故に、“瑠璃湖”と呼ばれていた。 掌で湖の水を掬い、その温度を確めると、有匡は徐に服を脱いで裸となり、湖の中へと入っていった。「おやまぁ、先客が居るなんて。」「しかも、良い男。」 バシャバシャと音を立てながら湖に入って来たのは、町の遊び女達だった。「ねぇ、安くしとくわよぉ。」「極楽浄土へ連れて行ってあげるわ。」 そう言いながら自分にしなだれかかる女達を湖から追い出した後、有匡は湖で髪や肌についた汚れを取った。 そろそろ湖から上がろうと有匡が思った時、馬の嘶きが聞こえて来た。「火月、そんなに遠く行っちゃ駄目だって!」「大丈夫だって!」 黒髪と金髪の少女が、そんな事を話しながら湖の中へと入って来るのを有匡は見た。 有匡は暫く二人の少女達が湖で遊んでいるのを眺めていたが、金髪の少女の様子がおかしい事に気づいた。「火月、しっかりして~!」 どうやら、金髪の少女は藻に足を取られて溺れてしまったようだった。 有匡は居てもたってもいられず、金髪の少女を助けに行った。「いやぁ、触らないで!」「バカ、暴れるな、人が助けてやっているのに!」 有匡は何とか金髪の少女と共に湖から上がった。「火月、大丈夫?」「禍蛇・・」「この人が助けてくれたんだよ!」「ありがとう・・ございます・・助けて下さって・・」 金髪の少女―火月は、そう言って美しい真紅の瞳で有匡を見つめた。「ひとつ、いいか?」「は、はい・・」「服を着ろ。」 有匡の言葉を聞いた火月は、顔を赤くした後慌てて服を着た。「火月様~、どこにいらっしゃいますか~?」「火月様~」 遠くから、火月達を捜している乳母と侍女達の声が風に乗って聞こえて来た。「火月、ヤバいよ、もうお城に戻らないと・・」「あ、あの、お名前は?」「名乗る程の者ではない。」有匡はそう言うと、湖から大慌てで去る火月達を見送った。(騒がしい娘達だったな。) そう思いながら有匡が服を着ていると、湖岸に何か光る物が見えた。 拾い上げてみると、それは涙型の美しい紅玉の耳飾りだった。 それに触れた瞬間、有匡の脳裏に、ある光景が浮かんで来た。―先生、愛しています。 そう言って火月に似た女は、この世に産み出した双つの命を腕に抱いている自分に微笑んでいた。(何だ、あれは?)「火月様、またあの湖に行ったのですね!?」「だって・・」「あの湖には、魔物が棲んでいるのですよ!もう二度と行ってはなりませんよ、良いですね!?」「うん、わかったよ・・」「姫様、お館様がお呼びですよ。」「は、はい・・」 火月が父・直高の元へと向かうと、彼は渋面を浮かべながらある文を読んでいた。「父上、それは・・」「岩田め、其方を嫁がせねば戦をすると、ふざけた事を言って来た。」「父上、僕は誰の元にも嫁ぎたくありません!」「わかっておる。だが火月、そなたには、心に決めた相手でも居るのか?」「そ、それは・・」 火月の脳裏に、何故か湖で助けてくれた男の顔が浮かんだ。にほんブログ村
2024年02月12日
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何だかよく分からない作品でしたが、空知が生きていたことには驚きましたね。
2024年02月11日
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母が近所のスーパーで買って来てくれました。甘さ控えめだけど、しっとりとした味わいで美味しかったです。
2024年02月11日
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ブックオフオンラインで取り寄せた火宵の月ドラマCDの続編が数日前に届きました。CDのケースのイラストが麗しいです。幼少期有匡様×火月ちゃんも可愛いです。CDの下には唐土バージョンの美麗イラストが!買って良かったです。
2024年02月11日
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表紙素材は、このはな様からお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。少女は膝を抱えながら蔵の中で泣いていた。(かあさま、会いたいよぉ・・)少女―火月は、亡くなった母と共に、鎌倉で暮らしていた。決して豊かではなかったものの、母との暮らしは幸せそのものだった。しかし、母が肺結核で亡くなり、火月は父親の元へと引き取られた。そこには父の本妻と、自分の異母妹である雪が居た。“気味が悪い子ね。”継母・佐知子は、そう言うと火月を冷たい目で睨んだ。金髪紅眼の火月は、その人とは違う容姿故に周囲から虐められ、孤独な日々を送っていた。そんな中、火月は運命の出逢いをした。それは、朝から大雪に見舞われた冬の日の事だった。「何しているのよ、愚図!」「すいません・・」「今日は雪お嬢様の大切なお客様がお見えになるんだからね、少しでも粗相をしたら、この家から追い出してやるからね!」「はい・・」火月はそう言って俯くと、割れた食器を片づけ始めた。「そこはいいから、外で雪かきをしておいで!」「はい・・」「まったく、辛気臭い子ね。」女中頭・トキは、そう言って火月を睨んだ。寒さで悴んだ手を擦りながら火月が雪かきをしていると、一台の車が彼女の前で停まり、中から一人の男が出て来た。長身を軍服に包み、射干玉の如き美しく艶やかな黒髪をなびかせた彼は、切れ長の碧みがかった黒い瞳で火月を見つめた後、徐に己が嵌めていた牛革の手袋を外し、それを火月に手渡した。「これを。」「そのような高価な物、頂けません。」「いいから、取っておけ。」男はそう言って半ば強引に火月に手袋を手渡すと、高原邸の中へと入っていった。「あら、ようこそいらっしゃいました、土御門有匡様。」「高原殿、お久し振りです。本日はお招き頂きありがとうございます。」「いえいえ、有匡様にいらして下さり、光栄ですわ。」「ええ、本当に。」高原家の三人から歓待を受けた男―土御門有匡は、“ある事”に気づいた。「失礼ですが、こちらにもう一人、娘さんがおられると聞きましたが・・」「えっ・・」有匡が三人に玄関先で会った娘の事を話すと、彼らは一斉に気まずそうに俯いた。「どうさました?」「あ、有匡様、お姉様は・・」「火月でしたら、自分の部屋で休んでおりますわ。あの子は恥ずかしがり屋で・・」「そうですか。」邸の中で父達がそんな話をしている事など知らず、火月は寒さに震えながら雪かきをしていたが、雪掻きをしたところからまた雪が積もってゆくので、中々終わらなかった。邸の中からは時折、楽しそうな父達の笑い声が聞こえて来て、何故だが火月は泣きそうになった。(さっきの人と、何処かであったような気がするな。)時折夢に現れる、自分に優しく微笑んでくれる、“誰か”の姿。あぁ、“彼”と出逢ったのは、こんな冬の日だったっけ。(僕、一体何を・・)―僕、あなたの子供を産みたいんです。闇の中から聞こえる、“誰か”の声。「今日は、本当においでいただきありがとうございました。」「有匡様、またいらしてくださいね。」高原邸から出た有匡は、雪の中で何かが光っている事に気づいた。(何だ?)紅い月が、雪の中に倒れている少女―火月を優しく照らした。―僕、あなたの子供を産みたいんです。火月の耳に光る紅玉の耳飾りを見た有匡の脳裏に、一気に“前世”の記憶が流れ込んで来た。「やっと会えたな、火月。」「まぁ有匡様、その子の事は放っておいて下さいな。」「彼女を、わたしの妻として貰い受けます。」有匡は冷え切った火月の躰を外套で優しく包むと、車に乗り込んだ。にほんブログ村
2024年02月10日
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この前、ブックオフオンラインで「火宵の月」文庫全巻を購入しました。昔単行本全巻を断捨離と称して手放してしまい、その後悔を約10年も引きずっていました。ですが昨年末に出版社の公式漫画アプリで再読し、文庫全巻を購入して最終巻まで読みふけり、今でも大好きな作品だと改めて思いました。これも、ブックオフオンラインで全巻購入した、「天上の愛地上の恋」です。これも手放してしまって後悔した漫画です。この本は絶版してしまっているので新刊で購入できませんでしたが、ブックオフオンラインで購入出来てよかったです。この二つの漫画と、「ゴールデンカムイ」全巻は絶対に何があっても売りません。今は電子書籍が主流となっていますが、紙の本派のわたしは、何度も読み返したい本は手元に置いておかないと済まない性格なのです(笑)
2024年02月08日
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華の出生の秘密が明らかに。血の繋がりが全てではありませんね。
2024年02月08日
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和歌山が舞台なので、読みごたえがありました。ドラマの方は何度かTBS版のやつを観ましたが、活字で読むのは初めてでしたが、面白かったです。
2024年02月08日
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素材は、湯弐様からお借りしました。「火宵の月」「ツイステッドワンダーランド」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。有匡様が闇堕ちする描写が含まれます、また一部暴力・残酷描写有りですので苦手な方はご注意ください。(火月、そこに居るのか?)有匡が目を凝らして水槽の中を見ようとした時、高らかな靴音がラウンジ内に響いた。「哀れなイソギンチャクの皆さん、オクタヴィネル寮へようこそ。僕は、オクタヴィネル寮長の、アズール=アーシェングロットと申します。さて、契約違反をした皆さんには、このモストロ=ラウンジで僕の手足となって働いて貰います。」そう言った銀髪の少年は、碧い瞳で冷たく頭にイソギンチャクを生やした生徒達を見下ろした。「僕は色々と忙しいので、君達の教育係を務めるのは、ジェイドとフロイドです。」彼の紹介で有匡達の前に出て来たのは、同じ顔をした長身の二人の少年だった。(さっきのは、一体何だったんだ?確かに、火月の“気”を感じた・・)「おやおや、あなたは入学式で騒動を起こした方ですね。」銀髪の少年―アズールは、そう言って有匡を見た。「あ~、綺麗な髪~、赤くて海老みたいじゃん・・」シャツをはだけさせた双子の片割れ―フロイドがそう言って有匡にあだ名をつけようとしたが、有匡に睨まれたのでやめた。「わたしに何か用か?」「僕ではなく、“彼”があなたに用があるそうですよ。」「“彼”?」「おや、奇遇ですね。このような所でお会いできるなんて、嬉しいです、有匡殿―いや、義兄上とお呼びすべきでしょうか?」そう言ってオクタヴィネルの寮服に身を包んだ殊音文観が有匡の前に現れた。「文観、何故ここに居る?」「色々とありましてね。それよりも、義姉上達はお元気ですか?」「・・貴様には関係のない事だろう。」「おや、そうでしょうか?」文観はそう言って笑うと、祭文を唱えた。すると、水槽の中に火月と子供達の姿が映った。「火月、雛、仁!」有匡は必死に彼らに呼び掛けたが、彼らの姿はすぐに消えてしまった。「文観、あの方達は?」「有匡殿の妻子ですよ。彼らは今、S.T.Y.X(ステゥークス)に囚われてしまっているようです。」「何だ、そこは!?」「さぁ、わたしにもわかりません。それよりも、その髪はどうなさったのです?髪の様子から見て、染めてはいないようですが・・」「知らん、今朝起きたらこうなっただけだ。」有匡はそう言って自分の髪を触ろうとする文観の手を軽く払った。「文観さん、こちらの方とはお知り合いなのですか?」「知り合いも何も、有匡殿の妹君はわたしの妻なんですよ。まぁ、有匡殿とは“色々”とありましたけど。さてと、今有匡殿は悩みを抱えているご様子。」文観は、そう言うとアズールに目配せした。「お前達の茶番に付き合ってられるか。」有匡がそう言ってソファから立ち上がろうとした時、アズールの傍に立っていた筈の双子が、彼の前に立ち塞がった。「俺達はぁ、親切であんたの話を聞いてあげようとしているのねぇ、ジェイド?」「ええ、フロイド。悩みは、溜め込まずに打ち明けた方が楽ですよ。」そう言ってジェイドは、有匡を見た。「さぁ、怖がらないで、僕だけを見て・・」(何だ、意識が・・)ジェイドのユニーク魔法にかかった有匡は、今の心情をアズール達に吐露してしまった。「どんな手を使っても、火月達を・・妻と子供達を救いたい。」「そうですか。少々こみいった事情がおありのようなので、VIPルームへどうぞ。」アズール達と共にモストロ=ラウンジのVIPルームに入った有匡は、脳裏にある映像が浮かんで来た事に気づいた。―・・被験体は、すみやかに・・―まだ、処分は・・あの時、邸を襲った男達と同じ服装をした数人の男女が鏡のようなもので火月と双子の様子を見ていた。―先生、助けて・・「どうかなさいましたか、アリマサさん少し顔色が悪いですよ?」「何でもない。」「では早速、取引しましょうか。今から三日後の日没までに、珊瑚の海にあるアトランティカ記念博物館からリエーレ王子の写真を僕に渡して下さい。無事写真を手に入れられたら、あなたをご家族に会わせて差し上げましょう。ですが、出来なければ・・おわかりですね?」「わかった。」「そうだ、対価を頂くのを忘れていました。そうですね・・その炎のように美しい髪はどうです?」―先生・・「いいだろう。」「では、こちらの契約書にサインを。」「わかった。」有匡はアズールから受け取った骨の形をしたペンで、黄金色の契約書に己の名を記した。すると、腰下まであった髪の重さが急に軽くなった。「フナッ、お前ぇその髪、どうしちまったんだゾ!?」「もしかして、アズールと契約したのか?」「あぁ。アトランティカ記念博物館から一枚の写真を三日後の日没までにアズールの元へと持って行くだけだ。」「え、じゃぁ・・」「お前達は付き合わなくていい。これは、わたしだけの問題だ。」にほんブログ村
2024年02月08日
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炎をテーマにした、超能力者モノ(パラノーマル・ロマンス)でしたが、ロマンスよりもサスペンス面が多かったですね。火事や火傷の描写が凄くて、ちょっと読むのが怖かったのですが、アイリス・ジョハンセンらしい面白さがある作品でした。
2024年02月07日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。一部性描写が含まれます、苦手な方はご注意ください。「なぁ、なんか変な音がしないか?」「え?」 ある蒸し暑い夏の日、10歳の中山明は、友人達と4人で近所の神社へ蝉取りに来ていた。「何処?」「ほら、向こうから・・」 そう言って明の親友・浩介が指したのは、美しい朱塗りの社だった。「なぁ、もしかして・・」「ユーレイ、って事!?」「行ってみようぜ!」 好奇心を剥き出しにした少年達は、“変な音”がする社の奥へと向かった。「あっ、やんっ」「袴の上から触っただけなのに、こんなに濡れて・・」 衣擦れの音を立てながら、社の奥で一組の男女が激しく睦み合っていた。 女は腰下までの長さがある金髪を振り乱しながら、甘い嬌声を上げていた。 それに対し、女に悦びを与えている男の方は、息ひとつ乱さず女の胸と蜜壺を弄っていた。「そろそろ頃合いだな。」 男は女の緋袴の紐を解くと、己の袴の前を寛がせた。(うわ、デカッ!)(僕のパパのよりもデカい!)(あれ、入るの?) 明達は、女が男のものを喉奥まで咥え込むのを見た。「上手だ。そう、もっと吸い上げて・・」 端整で雪のように白く肌理細かい男の肌が、徐々に赤くなり、息が荒くなっていく事に明達は気づいた。「自分から動いてみせろ。」 女はゆっくりと男の上に跨り、腰を揺らし始めた。「だめ、もうっ・・」 女が涙目で男を見ると、彼は女を四つん這いにさせ奥まで貫いた後、女の両腕を摑んで腰を激しく上下に揺らした。「あ~、奥が、あぁ~!」「くっ・・」 明達は、暫くその場で棒立ちになったまま動けなかった。 気絶した女の髪を男が優しく梳いた時、明達は彼と目が合った。 切れ長の、碧みがかった黒いその瞳に睨まれ、まるで金縛りが解けたかのように、明達は脱兎の如くその場から逃げ出した。「先生・・?」「何でもない、まだ寝ていろ。」「はい・・」 昼間はあんなに晴れていたのに、夕方になると空を黒雲が覆い、雷鳴と共に雨が降り始めた。「うわぁ~、こりゃ酷いや。」 雨はやがて川を濁流へと変えさせ、それは町を襲った。「先生、どうかしましたか?」「また、“あいつ”の仕業か。」 男―この社の主である土御門有匡は、そう呟くとじわじわと迫りくる“彼”の気配を感じていた。―狐の子だ!―怪しげな力を持つ化物め!―山へ帰れ!―死んじゃえよ。―お前なんて生まれて来なきゃ良かったんだ。 ひたひたと、迫りくる闇。「先生?」「う・・」「大丈夫ですか?酷くうなされていたみたいでしたけど・・」「少し、昔の事を思い出していた。」「昔の事、ですか?」「あぁ。」 有匡は自分の手を握っている妻・火月を見た。今から700年前、半人半狐の陰陽師だった有匡は、唐の野猫族・紅牙族である火月と出逢い、紆余曲折の末に結ばれ、この社を守る事になった。「先生、最近変ですよ?」「何処がだ?」「何だか、苛立っているような気がして・・」「“あいつ”の気配を感じる。」「“あいつ”?」「随分な言い方だな、有匡よ。」 何処か神経を逆撫でするかのような声が聞こえたかと思うと、白銀の髪を靡かせた一人の青年が有匡と火月の前に現れた。 彼の名は、狼英。 鬼神の息子であり、昔有匡に調伏された彼は、それ以来有匡に懸想し、しつこく求婚を迫って来る。「有匡よ、今宵こそ色好い返事を・・」「くどい。わたしは貴様と番うつもりはない。」「其方の子なら、いくらでも我が産んでやろうぞ。」 狼英は女性へと姿を変えると有匡にしなだれかかったが、火月によって阻まれた。「狼英、去ね。」「嫌じゃ。其方が我の子を産んでくれるまで、帰らぬぞ。」「先生に近づくな、この変態!」 夫にまとわりつく狼英に苛立った火月は、彼の顔に爪を立てた。「おのれ・・化猫風情がっ!」「若様、こちらにいらっしゃったのですか!早う帰りますぞ!」 雷鳴と共に現れたのは、雷神の息子であり狼英の幼馴染でもある光信だった。「嫌じゃ~!」「全く、あいつは騒がしくてかなわん。」「先生、どうして700年もあいつにつきまとわれているんですか?」「話せば長くなるが、まぁいい。あいつとは、わたしが昔宮中に居た頃に知り合った。」にほんブログ村
2024年02月07日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。“僕、あなたの子供を産みたいんです。”鎌倉で戦が始まり、瀕死の重傷を負った有匡は、火月の中に眠る邪気を制し、別次元へ―自分達が再会した瞬間へと戻った。雌となり、火月は望み通り有匡との間に男女の双子を産み、有匡は家族に囲まれた幸せな生活を送った。しかし、時を歪ませてしまった代償は、余りにも大きかった。幸せな時は、長く続かなかった。有匡が出張から帰って来ると、邸には土御門家の者達に殺された双子達の遺体が血の海の中に転がっていた。『火月、どこだ!?』有匡が火月の姿を捜すと、彼女は義兄達に捕らえられていた。『お前の所為で、土御門家は没落した!これ以上、お前達を生かしてはおけぬ!』『先生、逃げて・・』有匡が義兄と斬り合っていると、美しい金色の波が有匡の視界を覆った。彼女の手には、母の懐剣が握られていた。白い雪が、火月の血で赤く染まった。『しっかりしろ、火月!』『先生、泣かないで・・』火月は、血に塗れた手でそっと有匡の頬を撫でると、眠るように息絶えた。有匡は、火月と双子の遺体と共に枕を並べた後、邸に火を放ち、自害した。自害した者の魂は、輪廻の輪から外れるのだが、地獄で彼を待っていた獄卒は、こう言った。「あなたには、一度だけチャンスをあげましょう。輪廻転生し、再び愛を見つけなさい。」こうして有匡は転生を果たしたが、火月を捜そうとしなかった。自分の手は、血で汚れている。この世で―いいや、前世で愛した者の命をこの手で奪った罪は消えない。だから、決めたのだ。火月を愛さないと。そう決めた後、有匡が学校から自宅へと戻ろうとした時、公演のブランコで遊んでいる金髪の少女の姿を見つけた。(まさか、な・・)早足でその場から離れようとした時、少女は泣き出しそうな顔をしながら、自分に向かって叫んだ。『先生!』(火月、済まない。)有匡は唇を噛み、火月を睨みつけた後、こう言った。「お前、誰?僕は、お前なんて知らない。」これでいい。これで、もう二度と火月を傷つけずに済む。そう思い、安心していた有匡だったが、火月は再び自分の前に現れた。まるで、誰かが自分達を操っているかのように。有匡は、朝の仕込みを終えた後、ベッドに入って泥のように眠った。『うわぁ、綺麗!』『紅い月、母様の瞳みたい!』双子がはしゃぎながら、空に浮かぶ紅い月と母の真紅の瞳を見比べていた。『父様と母様はね、紅い月の晩に再会ったのよ。紅い月には魔力があってね、願い事を何でも叶えてくれるんだって。』『本当~!?』『本当だよ。ねぇ、先生?』(何故、わたしにこんな夢を見せる?)朝起きた時、有匡は頬を伝う涙を乱暴に手の甲で拭うと、寝室から出て厨房へと向かった。「うわ~、美味しそう!」「ここの店のガトーショコラ、絶品なんだって~!」「しかも、オーナーのパティシエが超イケメンなんだって!」そう言いながら女子高生達が店の前を通りかかった後、一人の少女がその店の前に立った。「へぇ~、ここがアリマサの店かぁ。」少女が店の中に入ると、丁度有匡が商品をショーケースに並べている所だった。「いらっしゃいませ。」「ふ~ん、今は占い師じゃなくてパティシエやってるのかぁ。ま、アリマサは手先が器用だから何でも出来るよね。」「何しに来た、神官?」「あはっ、憶えていてくれたんだ、神官の事。ま、その様子だとカゲツの事を憶えているみたいだね。」有匡は、神官の言葉を聞いて渋面を浮かべた。「昨日、火月がここに来た。」「ふ~ん、それで?」「冷たく彼女を突き放して、店から追い出した。」「はぁ、何で!?アリマサにとってカゲツは大切な存在だったんじゃ・・」「だからこそ、だ。わたしと居ると、火月は不幸になる。わたしは、彼女を愛してはいけない。」「まだ、そんな事を言ってんの?」神官はそう言うと、有匡を睨んだ。「アリマサ、昔はカッコよかったのに。」「用が無いなら帰れ。」「言われなくても帰るよ。」神官が店から出て行った後、有匡は「準備中」の札を「開店」の札へと変えた。すると、店内はたちまち女性客で混雑した。地獄のような忙しさがなくなったのは、昼の二時過ぎだった。(このままだと、わたしの体力がもたないな・・)そう思いながら有匡が店の裏口で煙草を吸っていると、そこへ一人の少年が通りかかった。「お久し振りですね、土御門有匡さん。」「あなたは・・」少年は、あの時の獄卒だった。「そのご様子だと、“彼女”とは会えたようですね。」「ええ。ですが、わたしは・・」「あなたは、未だ前世の罪に囚われているのですね。」「わたしは、この手で妻を殺してしまった。」有匡の脳裏に、“あの日”の光景が浮かんで来た。「わたしは・・」「いいですか、有匡さん。あなたの奥さんは、あなたの事を恨んでいませんでしたよ。」少年は、そう言って有匡に、火月が地獄に来た時の事を話した。「本当に、先生ともう一度会えるんですか?」火月は転生して有匡と再会える事を知り、涙を流して喜んだ。「実は、先生に一番伝えたい事があるんです。僕は、生まれ変わったら、先生に沢山大好きだと言いたいんです。」「そんな事を、彼女が?」「ええ。これからどうするのかは、あなたが決めて下さい。」少年は、有匡に微笑んだ後、雑踏の中へと消えていった。(わたしは、今まで・・)火月を、妻をこの手で殺してしまった事による己の罪故に、有匡は彼女を遠ざけた。もう二度と、彼女を傷つけないように。だが、それは自分の独りよがりな考えに過ぎなかったのだ。(火月・・)今まで会おうとしなかった火月に、有匡は無性に会いたくなった。(あれ程冷たく彼女を拒絶したのだから、もう火月は来ぬだろう。)そんな事を想いながら有匡が裏口から店の中へと戻ると、そこには火月の姿があった。「すいません、昨日はご迷惑をおかけしてしまいました。それを謝りたくて・・」「謝るのは、わたしの方だ。」「え?」「腹が減っているだろう。サンドイッチでも作ってやるから、そこへ座れ。」「は、はい・・」昨日の態度と一変して、自分に対して優しい態度を取って来た有匡に火月は戸惑いながらも、彼が淹れてくれたぬるめのコーヒーを飲んだ。「先生、あの・・」「火月、ひとつだけ聞きたい事がある。お前は、わたしを恨んでいたのか?“あの時”、わたしはこの手でお前を・・」「僕は、先生を恨んでいません。」火月はそう言って椅子から立ち上がると、有匡を抱き締めた。「“あの時”、僕は先生を守りたかった。それだけだったのに、先生を苦しめてしまった。」「火月、わたしは・・」「もう自分を責めないで下さい、先生。」―あなたには、一度だけチャンスをあげましょう。「大好きです、先生。今も、昔も。」―輪廻転生し、再び愛を見つけなさい。「わたしもだ、火月。」嗚呼、そうだ。もう、過去を振り返るのはやめよう。これからは、未来へ向かって歩いていくのだ―火月と一緒に。「火月、今お前は何処に住んでいる?」「会社の独身寮です。家賃が安いので、助かっていますけど。」「そうか。」「本当は専門学校に行きたかったんですけれど、事情があって行けなくて・・今勤めている会社で事務員をしながら、何とか生活しています。」「今からでも、専門学校へ行ったらどうだ?学費はわたしが援助するし、お前さえ良ければ、ここに住んでもいい。」「でも、それじゃ先生にご迷惑が・・」「何を今更。」有匡はそう言うと、火月の唇を塞いだ。「こうして再会えたんだ。世話くらい焼かせてくれ。」「先生・・」有匡と会った後、火月が会社の独身寮に戻ると、彼女の部屋の前には以前火月にしつこく言い寄って来た同僚が立っていた。「あ、火月ちゃんお帰りぃ。余りにも帰りが遅いから、心配したよぉ~」「どうして、ここに居るんですか?帰ってください!」「冷たい事言わないでさ~、俺今日カミさんから家を追い出されちゃって、行く所がないんだよ~」そう言って馴れ馴れしく火月の胸を揉んで来た同僚の手を、火月は邪険に振り払った。「嫌、僕に触らないで!」「うるせぇ、俺の気持ちを弄んだ癖に!」火月が慌てて部屋の中に入ろうとした時、同僚は彼女を玄関先で押し倒し、彼女が着ていたブラウスを容赦なく引き裂いた。「嫌ぁ~!」「うるさい、黙れ!」(先生、助けて・・)「その汚い手で、わたしの妻に触れるな。」頭上で氷のような冷たい声が聞こえ、火月は同僚の肩越しに、彼に向けて刃を突きつけている有匡の姿を見て、安堵の涙を流した。「ひぃっ!」「火月、大丈夫か?」「はい・・」有匡は泣きじゃくる火月に自分のコートを羽織らせると、彼女を自分の車に乗せた。翌日、火月は会社を退職し、有匡と共に暮らす事になった。「へぇ~、良かったじゃん!またあいつと夫婦になれるんだね!」「ありがとう、禍蛇。」火月は有匡に学費を援助して貰いながら、製菓専門学校に通い始めた。 全てが順調だと思っていた。“彼女”が現れるまでは。「漸くお会い出来ましたわね、有匡様。」にほんブログ村
2024年02月06日
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母がイオンのフードコートで買って来てくれました。チョコとラズベリー味のドーナツには、それぞれ板チョコが入っていて美味しかったです。
2024年02月06日
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。一部性描写有りです、苦手な方はご注意ください。 かつて、この地には、人間と魔族が共存して暮らしていた。 魔族は魔界に、人間は人間界に。 互いに干渉する事をせず、境界線を互いに彼らは守って生きて来た。 しかし、その二つの世界の均衡を崩したのは、一人の人間と、吸血鬼の女だった。 共に王家として民を統べる立場でありながら、彼らは最大の禁忌を犯した。 二つの民族の血を濃く受け継いだ、子をこの世に産み出したのだ。―みろ、この子を。お前に瓜二つの顔をしているぞ。 妻に抱かれた赤子は、碧みがかった切れ長の黒―両親の瞳の色をそれぞれ受け継いでいた。―名は、どうする?―有匡、この子は有匡だ。 7年後、父・有仁によって人間として育てられた有匡は、戦へと向かう有仁を見送った。「父上、どうかご武運を。」「有匡、この国を頼む。お前だけが、この国の望みなのだ。」有仁は、そう言うと美しい装飾が施された懐剣を有匡に手渡された。「これは?」「母上の・・スウリヤの物だ。いつかお前に大切な人が出来たら、その時はこの懐剣をその人に渡しなさい。」「はい・・」「愛しているよ。」 それが、有匡が父と交わした、最後の会話だった。 有仁は、戦死しその遺体は王家の墓地に埋葬された。 その日から、有匡は白と黒、灰色の世界で生きる事になった。 有仁の死から、十年の歳月が経った。「有匡様、どちらにおられますか~!」「有匡様・・」「どこにもいらっしゃらないわ!」「あぁ、早く有匡様の子種が欲しいわ。」 この世界には、六つの性別がある。 男と女、そして第二性と呼ばれる、α、β、Ω。 人口の大半を占めるβ、そして人口の約3%を占める、αとΩ。 王侯貴族であるαと、その貴族や裕福な商人の奴隷や、娼婦・男娼であるΩ。 Ωは、男女問わず子を産める、繁殖に特化した種。 それ故に、人間界でも魔界でもΩの社会的地位が低い。 第二次性徴期―所謂思春期を迎えた頃、有匡の第二性がαだと判明すると、王宮のΩの女官達が一斉に有匡の子種を欲しがり始めた。人間も魔物も、優秀なαの子種を欲しがる。 半分吸血鬼―かつて神の一族であった高貴な血をひく有匡は、その命と子種を常に狙われていた。「祝福を!」「新しき王に祝福を!」 十八となり、成人を迎えた有匡の戴冠式は、華々しく行われた。 白貂の外套を纏い、司祭の前に跪いた有匡がその頭に戴いたのは、美しい宝石で彩られた王冠ではなく、茨棘の冠だった。「呪われよ!」「闇より生まれし忌み子に、神の呪いあれ!」 楽園から追放された有匡は、戦場へと身を投じ、その手を血で汚してきた。 いつしか、有匡は、こう呼ばれるようになった。“ブラッディー・ムーン(血まみれの月)”と。―見ろ、あれは、アリマサ様の・・―凛々しいお姿ね・・―きゃぁ、今わたしを見たわ! 戦場から帰って来た有匡は、王に拝謁を済ませ、王宮から出て行こうとした時、王に呼び止められた。「今宵、そなた達の労を大いに労ってやろう。」 その夜、有匡に王達に連れて行かれたのは、高級娼館だった。「陛下、わたしは・・」「何を言う。そなたは数々の女を篭絡して来たと聞いているぞ。現に、女達もそなたの事を熱く見つめておるではないか?」「外の風に、当たって参ります。」 有匡がそう言って娼館から外へと出ると、一人の娘が、屈強な男達に取り囲まれて、今まさに犯されようとしている所に彼は出くわした。「その汚い手を、離せ。」「何だてめぇ、こいつは俺が買った娘なんだよ・・」 有匡を睨みつけた男の首が宙を舞い、鮮血が辺り一面に飛び散った。「ひ、ひぃぃっ!」「この娘は、どうした?」「この娘は、親の借金のカタにここへ売られた貴族の妾腹の娘でさぁ。“商品”として売り出す前に、俺達が“味見”をしようと・・」「失せろ。」 有匡の殺気を感じ、男達は蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。「娘、怪我は無いか?」「はい。」 そう言って俯いた顔を上げた娘の顔を、紅い月が照らした。 腰下までの長い金髪をなびかせ、血の如き美しい真紅の瞳をした娘と目が合った瞬間、有匡は心臓が激しく脈打つのを感じた。(何だ?)「お願い、抱いて・・」「あ、おい!」己の腕の中で気絶した娘を、有匡は娼館の中へと運んだ。「まぁ、その娘をお気に召しましたのね。」 娼館の女将は、そう言って笑うと、有匡をこの娼館で一番良い部屋へと案内した。「どうぞ、ごゆっくり。」「待て!」 女将の誤解を解こうとした有匡だったが、非情にも部屋の扉は有匡の前で閉められてしまった。「ん・・」「気がついたか?」「あの、さっきは助けて下さり、ありがとうございました。」「そなた、名は?」「火月・・炎の月という意味で、火月と申します。」「そうか。火月、わたしは有匡だ。事のなりゆきでそなたを抱く事になったが、わたしはそなたを抱かぬ。」「何故ですか?」「わたしは、嫌がる娘を犯すような趣味はない。仮にもそなたは妾腹とはいえ貴族の娘。借金が幾らになるかは知らぬが、わたしは・・」 有匡がそう言って娘の方を見ると、彼女は有匡のズボンを脱がそうとしていた。「何をしている、やめろ!」「ごめんなさい・・」 娘―火月は、苦しそうに息を吐きながら有匡から離れた。 その時、彼女の全身から甘い蜜のような匂いが漂って来る事に、有匡は感じた。(こんな子供が、わたしの“魂の番”だというのか?) 魂の番、それは稀に出逢ったら最後、心から惹かれ合う、繋がり合う事が出来る運命の相手。 そのようなものは、昔話の中だけで、存在しないと思っていた。 それなのに・・「あっ、あぁ~!」 有匡は雄の本能を剥き出しにし、初めて会ったばかりの娘を貪るかのように、気遣いも優しさも無く、激しく抱いていた。 欲望が爆ぜ、脳髄が焼き切れてしまうかのような激しい快感に襲われ、有匡は意識を失った。 朝を迎え、火照った身体を冷やそうと有匡が夜着の上に外套を羽織って森の奥にある湖へと向かうと、そこには昨夜自分が抱いた火月の姿があった。「あ・・」「逃げるな。」にほんブログ村
2024年02月05日
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。一部性描写有りです、苦手な方はご注意ください。「火月、どうしたの?」「ちょっと、身体が怠くて・・」一学期がそろそろ終わろうとしている頃、火月は己の体調の異変に気づいた。倦怠感に微熱、強い眠気―それらは全て、生理前の症状と似たようなものだった。「あのさぁ、こんな事聞くのもどうかと思うんだけどさぁ、火月、有匡とエッチしている時、避妊しているの?」「え、ひっ、避妊って・・」「だってさぁ~、最近火月遅いじゃん。ヤることヤッてんのかなぁって。」「やめてよ、そんな事言うの!先生は、ちゃんとゴムつけてくれるもん!」「あのさぁ、ゴムつけてもαの繁殖力強いんだよ?もし子供が出来たらどうすんの?有匡の事だからちゃんと男として責任取ると思うけど。」「そ、それは・・」「ちゃんとそういう事、話し合いなよ。」「うん・・」火月がそんな事を禍蛇と話した後、彼女は有匡の部屋に呼び出された。「そうか、そういう話が・・」「禍蛇は、友達想いの子なんです。」「もし、子供が出来たら、か・・今まで、考えた事がなかったな。今まで、“結婚”や“家庭”といったものは、わたしには縁遠いものだと思っていたから。」有匡は、そう言うとスコッチを一口飲んだ。「やっぱり、それはお母様の事で・・」「前世の事もある。お前とは、二人の子宝に恵まれたが。」「僕は、今も昔も先生に家族を作ってあげたいんです。先生は、どう思うんですか?」「愚問だな。」有匡はそう言った後、火月の唇を塞いで彼女をソファの上に押し倒した。「ん、先生・・」「どうした、気が乗らないか?」「そ、そんな事は・・」その時、不意に玄関のドアチャイムが鳴った。「先生、誰か来て・・」「少し、そこで待っていろ。」有匡が舌打ちしながらインターフォンの画面を見ると、そこには誰も居なかった。(気の所為、か・・)有匡がリビングに戻ると、火月はソファの上で眠っていた。(こいつは、男の部屋に居るというのに、警戒心がないな。)有匡は溜息を吐きながら、火月の上にタオルケットを掛けてやると、彼女の隣で眠った。―先生・・悲しい夢を、見た。―先生、嫌です、僕を置いて逝かないで!これは、自分の最期の夢だ。疫病を鎮める為、その瘴気を受けた後の・・『泣くな、必ず迎えに行くから、待ってろ。』そう言って火月の頬を優しく撫でた後、有匡は息を引き取った。もう二度と、火月にあんな思いはさせまいと、今度こそ手を離さないと思っていたのに。それなのに―「う・・」「先生、おはようございます。」有匡がソファで目を覚ますと、キッチンで火月がコーヒーを淹れていた。「すいません、勝手に・・」「いや、いい。」有匡はそう言ってソファから立ち上がると、火月を背後から抱き締めた。「先生・・」朝日がカーテン越しに二人を照らした。「先生、あの・・」「動くなよ。」有匡は火月の制服のリボンを解き、ブラウスのボタンを外し、ブラジャー越しに彼女の乳房を揉んだ。「あっ、先生・・」「お前が、欲しい・・」耳元で有匡に掠れた声で囁かれ、火月は全身に電流のような強い快感に襲われた。「嫌か?」有匡はそう言いながら、火月の下着の中に手を入れ、彼女の陰核をいじり始めた。すると、それは暫くして膨らんで来た。「こんなに床を濡らして、悪い子だ。」有匡は荒い息を吐きながら、火月の膣に前戯無しで己のものを挿入した。「先生、ゴム・・」「そんな余裕はない。それに、抜こうにも、お前の締め付けがキツ過ぎて抜けない。」「せ、先生ぇ・・」有匡はズボンのポケットから隠し持っていたローターを取り出し、電極に繋がっている紐を火月の陰核につけた。「何を・・」「こうすると、ほら、締まってきた。」「あぁ~!」有匡が激しく突くと、それと連動してローターの振動が火月の陰核を刺激した。徐々に腰奥からせり上がって来る強い快感に耐え切れず、有匡は火月の中に欲望を迸らせた。「済まない・・」「先生、もっと、して・・」「お前、そういう所だぞ。」キッチンで火月を抱き潰した後、有匡は火月を浴室へと連れて行った。「熱くないか?」「はい・・」「ちゃんと、洗わないと。」麻薬のように、有匡は火月の躰に溺れていった。車内でも、学校の空き教室や国語科準備室でも、何処でも火月を抱いた。火月も、有匡を欲した。雌の本能に只管、彼女は従っていた。しかし―「高原さん、どうしたの?」「う・・」ある日の体育の授業の後、火月は突然下腹の激痛に襲われて倒れ、病院に運ばれた。「この子はΩだそうだが、番のαは・・」「αは、わたしです。」「そうかい。お前さん、番ならもっとこの子を大切にせんか。幾ら若いからといっても、抱き潰したらこの子の躰がもたんぞ。」火月が倒れたと聞き、病院に駆けつけた有匡は、火月を診察した医師から説教された。「彼女は・・」「妊娠はしとらん。それにしてもお前さん、他のαよりもかなり繁殖力や支配欲が強いとみれる。Ωは、繁殖に特化した種だが、短命な者が多い。番を大切にしろ。」「はい・・」有匡が火月を見舞おうとすると、そこには先客が居た。「久しいな、有匡。最後に会ったのは、二十年振りか。」「母・・上・・」突然自分の前に現れた母・スウリヤの姿を見た有匡は、突然息が苦しくなった。「母上、何故・・」「お前の番に会いに来た。」「わたしは、ずっと・・あなたを、憎んで・・」「先生、しっかりして下さい!」意識が遠のく中、有匡は必死に火月に向かって手を伸ばした。―先生・・“有匡、お父さんのようになっちゃいけない。” 父が久しぶりに夢に出て来た。―ねぇお父さん、お母さんは何処へ行ったの?“お母さんは、お父さんや有匡よりも大切な物が出来たんだ。” そう言った父の寂し気な横顔を、有匡は今でも忘れる事が出来ない。 父は、母を想いながら死んでいった。―お父さん、逝かないで! 最期の瞬間、有仁は有匡に優しく微笑んでくれた。「先生・・」「火月、ここは・・」「先生、さっき突然倒れられたんですよ。過呼吸を起こされて・・」「母上は?あの人はどうした?」「スウリヤ様なら、帰られました。これ、滞在先の住所だそうです。」 火月が受け取ったメモには、都内のホテルの住所が書かれていた。 何故、今更になって自分の前に現れたのだろう。「スウリヤ様は、先生の身を案じておられました。事情があったにせよ、先生を捨ててしまった事を後悔しているって、おっしゃっていました。」「嘘だ、そんなの信じない。」「先生・・」「お前は前に、Ωで生まれて来てどんな苦労をしたのか知らない癖に、と言ったな。お前こそわかっていない、わたしがどんな思いで生きて来たのか・・」 親族や周囲から向けられる、好奇の視線。 そして、種馬のように品定めするΩ達の視線。―有匡、お前なんて生まれて来なければよかったんだ。 有匡は、いつしか笑う事も、泣く事もしなくなった。 何の反応もしなかったら、誰も有匡に関心を持たなくなった。 あぁ、これでいいのだと思いながら、有匡は一抹の寂しさを感じていた。 どうして、僕は独りぼっちなの? 独りぼっちは、嫌だよー「先生。」 不意に火月に抱き締められ、有匡が俯いている顔を上げると、彼女は優しく有匡の頬を撫でた。「ずっと、寂しかったんですよね?僕も、先生に会うまでは独りぼっちで寂しかったんです。でも、もう僕達は独りぼっちじゃないんです。だから、僕の前では我慢しないで。」 有匡は、生まれて初めて、火月の胸に顔を埋めて泣いた。「躰の方は、大丈夫なのか?」「はい。先生が言うには、“若いからって調子に乗っていたら痛い目に遭う”って。」「そうか。火月、また来る。」「ありがとうございます。」「礼を言うな。夫が妻を見舞うのは当然だろう?」「え、今何て・・」「じゃぁな。」 有匡が去った後、火月はその夜一睡も出来なかった。(信じていいのかな?先生と、もう一度家族になれるのかな?) また、“あの頃”と同じように、有匡と暮らせるのだろうか。「有匡。」「お久し振りです、母上。」「明日は、有仁の十三回忌だろう。せめて、あの人の妻として、法事に出席しようと思って、帰国した。」「わたしは、まだあなたを憎んでいます。父は、最期まであなたに会いたがっていました。」「済まない。」 スウリヤが泊まっているホテル内にあるバーで、有匡は初めてスウリヤと酒を酌み交わした。「お前の番に、病院で会ったぞ。」「火月は、わたしが守ります。」「お前は最近、ますます有仁に似て来たな。」「そうですか?」「火月さんから、お前とは前世からの縁で結ばれているとわたしに話してくれた。お前と火月さんは、“魂の番”なのかもしれぬな。」「母上、わたしは・・」「許すな、わたしを。複雑に絡み合った糸を解すには、時間が必要だ。」 スウリヤは、そっと有匡の手を握った後、バーから出た。 翌日、有仁の十三回忌の法事が土御門家の菩提寺で行われた。 そこには、有匡とスウリヤ、そして神官の姿があった。―どうして・・―よくこの場に顔を出せるものだな。―恥知らず。 時折聞こえて来る、悪意に満ちた声。「母上、これからどうなさるのですか?」「英国に帰る。」「そうですか。短い間でしたが、あなたに会えて良かったです、母上。」「わたしも会えて良かった、有匡。」 スウリヤと有匡は、生れてはじめて抱擁を交わした。 それから彼女は、一度も振り返る事なく英国へと旅立っていった。「え、花火大会?」「お前、知らなかったのか?まぁ、このところ追試や補習で忙しくて知らないのは当然だろう。」「うっ・・」 赤点で補習ばかり受けていた火月は、有匡の言葉を聞いてへこんだ。「まぁ、お前も今日まで頑張ったから、明日の花火大会は楽しめるな。」「え!?」「そんなに驚く事は無いだろう?」 花火大会当日、火月は有匡に連れられて都内の呉服屋へと向かった。「うわぁ、こんなに高い着物や浴衣、僕が着てもいいんですか?」「当然だろう。妻を着飾らせるのが、夫の本望だからな。」「先生・・」「そろそろ行かないと、遅れるぞ。」「はい・・」 花火大会の会場となっている河川敷は、沢山の人でごった返していた。「う、わわっ!」「全く、そそっかしい奴だな、ほら。」 有匡が差し出した手を、火月はしっかりと握った。「ここなら、花火が良く見える。」 有匡が火月を連れて来たのは、河川敷から少し離れた、高台にある神社だった。 そこは、人気がなくて静かだった。「どうして、ここへ?」「誰にも邪魔されずに済むだろう。」 そう言うなり、有匡は火月のうなじを甘噛みした。「やぁっ、浴衣、汚れちゃうっ!」「どうして欲しい?」「先生ので、中を掻き回して欲しい・・」「いい子だ。」 花火の音と連動するかのように、獣のように交わる二人の姿を、木陰から狐面を被った男が見ていた。「あっ、あっ~!」 嬌声を上げる火月の顔が花火で照らされた時、男は己の欲望を解き放った。「炎様・・」 間違いない―長い間、自分が恋い焦がれ続けて来た、美しい金髪紅眼の、生きた宝石。 やっと見つけた―男は息を殺しながら、そっとその場を去った。「お館様に、ご報告しなくては・・」にほんブログ村
2024年02月04日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。一部性描写有りです、苦手な方はご注意ください。「もうカゲツとエッチしたんでしょ?」「お前にそれを言う必要があるのか?」「ちゃんと避妊したの?」ズケズケとそう詮索してくる妹を適当に有匡があしらっていると、国語科準備室に控え目なノックがした後、火月が入って来た。「先生、失礼します。」「どうした、火月?」「あのプリントを届けに・・」「そうか。」「じゃ、お邪魔虫は退散するね。」神官はそう言って有匡に向かって意味深長な笑みを浮かべた後、国語科準備室から出て行った。「どうした?」「あ、あの・・すいません、何でもないです。」「その様子だと、お前またクラスの女達から何か言われたのだろう?」「僕じゃ、先生と釣り合わないって・・」「お前は、どうなんだ?」「そ、それは・・」火月は俯いていた顔を上げると、有匡に抱きついた。「僕は、“今も”先生の傍に居たいです!離れる位なら死んだ方がいい!」“離れる位なら、死んだ方がいい。”「そうか。わたしも、お前を失うつもりも、離れるつもりなどないから、覚悟しておけ。」有匡はそう言うと、火月の唇を塞いだ。「んっ、はぁ・・」有匡に口内を犯され、火月は徐々に下腹の奥が疼いて来るのを感じていた。「キスだけで、こんなに感じるとはな。」「や、やだ、そんな所・・」スカート越しに敏感な所を有匡によって愛撫され、火月は声を押さえようとしたが、有匡にそれを阻まれた。「我慢するな。ここには、わたし達しかいない。それに・・」有匡が熱く濡れた火月の膣を下着の上から指で巧みに愛撫すると、火月は甘く喘いだ。「こうしてわたしが巧みに指を動かせば、お前は好い声で啼く。どうした、やめて欲しいか?」「先生の、意地悪っ!」 有匡は、そう叫んで自分を睨んだ火月の涙を、天鵞絨のような舌で舐め取った。「残念だな、お前の涙は昔、美しい紅玉に変わったのに・・」火月は、そっと有匡の下半身へと手を伸ばすと、そこはズボンの上からでもわかる位に、熱く猛っていた。「おい、何してる?」「僕ばっかり気持ち良くなると、先生がお辛いでしょうから。」「言ってくれるな。」有匡は火月の下着を脱がすと、ズボンの前を寛がせた。「これが、欲しいんだろ?」「欲しいです・・」「わかった。」有匡はそっと己の分身に避妊具を装着した後、火月の中へと入っていった。「先生、愛しています。」「わたしもだ。」有匡と火月が愛し合っている頃、神官は屋上で火月のクラスメイト達に取り囲まれていた。「一人に対して五人って、これから神官をリンチするつもり?何処までバカなの、あんたら?」「うるさい!」神官に挑発された女子生徒の一人がそう叫んで彼女の頬を平手打ちすると、彼女は口端を歪めて笑った後、こう言った。「先に手を出して来たのは、そっちだからね?」彼女の達の顔が、恐怖で蒼褪めた。「火月、大丈夫か?」「ん・・」何度も共に果てた後、有匡は己の腕の中で眠る火月の髪を、優しく梳いた。「無理をさせたな。」「いいえ。」有匡は火月の身体を清めた後、溜息を吐いた。「年甲斐も無くあんなにお前に夢中になるなんて、わたしらしくないな。」「え、先生らしいですよ?テクニシャンだしツンデレだし、ドSだし・・」「殴られたいのか、お前?」「ご、ごめんなさいっ!」「まぁいい。放課後、時間あるか?」「はい、今日はバイトがお休みなので・・何か、あるんですか?」「お前、もうすぐ誕生日だろう?一緒にプレゼントでも選ぼうと思ってな。」「え、僕の誕生日、憶えていてくれていたんですか!?」「当たり前だろう。」(どうしよう、嬉しくて死にそう!)屋上では、神官にリンチされ倒れている仲間を見ながら、リーダー格の女子生徒は恐怖に震えながら彼女に命乞いをした。「お願い、助け・・」「何びびってんの?お前らみたいな雑魚、ハナから神官の相手じゃないんだよ。神官を今度怒らせたら、殺すよ?」「ひ、ひぃぃっ!」「あ、そうだ、もうひとつ。お前ら、アリマサを狙っているらしいけど、アリマサにはカゲツっていう番が居るから、粉かけても無駄だから。」昼休みになり、火月がいつものように空き教室で弁当を食べていると、そこへ神官が入って来た。「あ・・」「そんな顔しなくてもいいじゃん。別に取って喰うつもりないし。それに、もうあんたには神官、嫉妬しないよ。」神官の頬に、少し腫れた痕がある事に火月は気づいた。「それ・・」「あぁこれ?あんたのクラスメイトに屋上へ呼び出されたけれど、逆に返り討ちにしてやった。」「そ、そうなんですか・・」「あんた、これからアリマサとどうするの?」「どうするって・・」「結婚とか、考えてんでしょ?ま、アリマサは最初からそのつもりだけどね。」「えっ・・」「そんなに驚く事ないじゃん。あんたって、昔から鈍いよね。」神官はそう言った後、顔を赤くしている火月を見た。“昔”は、火月の事が憎くて堪らなかった。長年生き別れた兄の愛情を独占していた彼女に。産まれてからずっと、独りだったから、有匡という存在に縋りつきたかった。しかし、神官は気づいてしまった。二人の間には、誰にも入る隙間が無いと。だから転生し、再び有匡と兄妹となっても、神官は有匡にもう執着しなかった。「ま、あんたとアリマサ、お似合いじゃん。」六時間目は、体育の時間で、火月のクラスは水泳をやっていた。「高原、おっぱいでかいな~」「一度だけでいいから、触ってみてぇ~」教室で別のクラスの男子生徒達がそんな事を言いながら笑い合っていると、数本のチョークが彼らの額に突き刺さった。「私語を慎め!」(油断も隙も無いな。)有匡は溜息を吐くと、授業を再開した。「高原さん、またね~」「うん、バイバイ。」放課後、火月は友人達と別れると、有匡が居る国語科準備室へと向かった。「先生、居ますか?」「あぁ。」有匡はそう言うと、笑顔で火月を迎えた。「さぁ、行こうか。」有匡が火月を連れていったのは、六本木にある高級宝石店だった。「え、いいんですか、こんな高そうな所・・」「遠慮するな。」有匡が火月を連れて店に入ると、店員が恭しく彼らを出迎えた。「予約していた土御門だが・・」「土御門様ですね、どうぞこちらへ。」店員が二人を案内したのは、店の奥にある個室だった。「土御門様、ご予約された品をお持ち致しました。」店長と思しき女性がそう言って有匡達に見せたのは、紅玉と柘榴石のペアリングだった。「うわぁ、綺麗・・」「火月、手を出せ。」「え、こうですか?」火月はそう言うと、有匡に向かって右手を出した。「違う、出すのは左手だ。」「は、はい・・」有匡は、柘榴石の指輪を火月の左手薬指に嵌めた。「これ‥確か先生の・・」「互いの誕生石を身に着けるのも、いいだろう?」「大切にします・・」宝石店を出た後、有匡と火月は近くにあるファミレスで夕食を取った。「珍しいですね、先生がこういう所で食事するなんて。」「まぁな。」二人がそんな事を話していると、時折幼子の泣き声が聞こえて来た。「子供、か・・」「先生、子供苦手なんじゃないんですか?」「あぁ。だが子供をお前と持つのも悪くはない。」「え、子供に僕を取られると嫉妬していたのに?」「それは昔の話だ。」食事を終え、店から出た二人が駐車場へと向かっていると、そこへスーツ姿の屈強な男達が現れた。「先生・・」「何だ、貴様ら!?」「我々はバース機関の者だ。Ω隔離政策の為、そちらのΩの身柄を拘束する。」「いやっ、離して!」「火月に触るな!」火月を取り戻そうと男達と揉み合いになった有匡だったが、男達の一人にスタンガンで気絶されられた。「嫌だ、先生~!」「連れて行け!」目隠しをされ、手錠をされた火月が連れて来られたのは、バース機関が運営する隔離施設だった。「僕をうちへ帰して!先生の所へ帰してよ!」白一色の部屋へと閉じ込められた火月は、声が枯れるまでそう叫びながらドアを叩いたが、何の反応もなかった。(ここは何処?先生の元に帰りたい・・)「被験体の様子は?」「今の所、異常なしです。」「このΩは、番あり、か・・少し、厄介な事になったな。」「ええ・・」「番持ちのΩ?実に興味深い話ですね。」研究員達が監視カメラの動画で火月の様子を観察していると、そこへ一人の男がモニタールームに入って来た。「主任・・」「おや、この子は・・」(よもや、このような形で再会するとは・・面白い!)この隔離施設の主任・殊音文観は、そう思った後、ある事を企んだ。「この子の部屋は?」「3Aですが・・」「わたしが、この子と話をしてきます。」「ですが・・」「安心なさい、彼女とは“古い”知り合いなのですよ。彼女とは、少し“昔話”をするだけです。」火月が有匡と引き離されてから、数日が経った。「先生・・」有匡から贈られた柘榴石の指輪を首に提げているプラチナのチェーンごと服の下から取り出した火月は、有匡の事を想い、涙した。「お久し振りですね、火月さん・・いや、義姉上とお呼びした方がよろしいかな?」「あ、あんたは・・」「おや、わたしの事を憶えて下さったのですね。」鉄格子の窓越しに火月を見た文観は、そう言って笑った。―先生、助けて・・火月が、自分を呼んでいる。―先生・・(火月!?)虚空に向かって有匡は手を伸ばした後、溜息を吐いた。火月がバース機関と名乗る男達に拉致されてから、彼女の消息はわからずじまいだ。(一体、どうなっている?政府は、Ω隔離政策については本格的に辿り着いていない筈・・)「有匡、お前に手紙が来ている。」「手紙、ですか?」義父から自分宛の手紙を受け取った有匡は、差出人が誰なのかわかった。封筒の中に、火月に自分が贈った紅玉の耳飾りが入っていたからだ。「父上、有匡は?」「さぁな。」(ここが、隔離施設か・・)鬱蒼と茂った森を抜けると、有匡の目の前に白亜の研究所と思しき巨大な建物が現れた。「ようこそ、我が城へ。こうして会うのは、実に七百年振りですね、有匡殿。いや、義兄上。」「文観・・」有匡が殺意を宿した瞳で文観を睨みつけると、彼は嬉しそうな顔をした後、口元に笑みを閃かせた。「火月は何処だ?」「彼女なら、病室に居ますよ。安心して下さい、彼女に危害を加えてはいませんよ。彼女は、大切なΩですからね。」文観はそう言って研究所のパスコードを打ち込むと、有匡と共にその中へと入った。そこには、揃いの服を着たΩ達が、研究員達によって強制的に採卵されて悲鳴を上げる姿があった。「これは、一体何だ?」「種の保存、というやつですよ。優秀な遺伝子を遺す為のね。」「火月に会わせろ、今すぐに。」「そんな怖い顔で睨まないでください。なぁに、あなたの大切な宝石は、すぐに返してさしあげますよ。我々に協力して下されば、ね。」「協力?」「えぇ、あなたには、その優秀な遺伝子を三日間提供して頂きます。」「本当に、それだけで火月を解放してくれるのか?」「ええ。さぁ、こちらの契約書にサインを。」文観はそう言うと、有匡に一枚の契約書を差し出した。「本当に、これにサインすればいいんだな?」「ええ。何を迷う事があるのです?あなたには火月という番が居る。己の遺伝子を提供するだけの話ですよ。さぁさぁ、どうなさるのです?」有匡は火月の身を案じ、契約書にサインした。「さてと、早速その遺伝子を提供して頂きましょうか。」文観はそう言って笑うと、有匡に痺薬を打った。三日間、有匡と火月と会えぬまま休む間も与えられず、遺伝子を半強制的に採取された。それは、地獄のような苦しみだった。そして三日後、有匡は漸く火月と再会した。「火月・・」「先生、ごめんなさい、僕・・」「謝るな・・」有匡はそう言うと、火月を抱き締めた。(もう二度と、離さない。)にほんブログ村
2024年02月04日
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6年前に一度読みましたが、流し読みしていたので、再読しました。恋愛小説の要素もありながら、サスペンス要素もあって、面白かったです。
2024年02月03日
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この前、文具専門店でまえから気になっていたノートを購入しました。marumanというスケッチブックで有名なメーカーさんの商品です。紙質もよくて、今から物語を綴るのが楽しみです。
2024年02月03日
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摩訶不思議な作品でしたが、人間の業を怪奇と絡めて描くのは京極夏彦さんらしいですね。
2024年02月02日
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コウレルが描いた絵の中に父を見つけた桜子。理不尽な形で命を奪われた父を想う桜子が涙を流すシーンを読んで、こちらももらい泣きしてしまいそうになりました。
2024年02月02日
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今年の大河ドラマ「光る君へ」の舞台が平安時代なので、どうしてもこの作品と重ねてしまいました。宮中内における権力闘争に巻き込まれる荇子。平安時代というか、雅でキラキラしたイメージがありますが、実際は血みどろの権力闘争やら、呪詛やら、疫病やらで結構ドロドロとしていて怖い時代だったんですよね。さて、荇子はこの先どうするのか?続きが気になりますね。
2024年02月02日
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素材表紙は湯弐さんからお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「や~い、火月の男女!」「ブース!」 小さい頃、火月は自分の容姿が周りから違うという事で、いじめられていた。『いいかい、火月。“人と違う”と言う事は、強みになるんだよ。』 毎日泣きながら学校から帰って来た火月を優しく膝上に抱いた祖母は、そう言って彼女を励ました。『お祖母ちゃん、僕アイドルになれる?』『なれるさ、あんたは、“特別”なんだからね。』祖母の言葉を胸に、火月はアイドルになるという夢を叶える為、音楽学校へと入学した。だが、そこで待っていたものは、秒刻みの過酷なスケジュールと、先輩達による厳しい指導だった。(僕、才能ないのかなぁ・・) 音楽学校での厳しいレッスンを終え、火月は人気のない場所で日本舞踊の練習をしていると、不意に背後から視線を感じたので彼女が振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。 燃えるような美しい紅い髪をしたその女性は、澄んだ海のような碧い瞳で火月を見た後、こう言った。“見つけた・・” その女性は、そう呟いた後、煙のように掻き消えていった。(え、何今の!?) 不気味な体験をした火月は、音楽学校を卒業するまで、その場所には二度と近づかなかった。「高原さん、あなたに話があるの。」「え、はい・・」 音楽学校の卒業式を終えた火月は、理事長室に呼ばれた。 そこには、大手芸能事務所の社長が居た。「あなた、芸能界に興味ない?」 夢への扉が、開いた気がした。「土御門有匡さん、クランクアップです!」「お疲れ様でした~!」 漸く終わった―そう思いながら、土御門有匡はドラマの撮影を終えて楽屋へと戻ると、大きな溜息を吐いた。 7歳の頃から子役としてデビューし、もう20年もこの虚飾に塗れた世界で生きている。 実家は世界で五指に入る程の財閥でありながら、こうして彼が家業を継がずに役者をしているのは、かつてハリウッドで名優としてその名を馳せた父・有仁のお陰だ。 ただ、もうこの業界で生きるのは限界だと、有匡は最近感じていた。(もう潮時かもしれないな。) そんな事を思いながら有匡が衣装から私服へと着替えていると、突然楽屋のドアが開き、一人の少女が入って来た。 金髪紅眼の容姿をした少女は、有匡が上半身裸である事に気づいて、慌てて彼に向かって頭を下げると、こう言った。「すいません、間違えました!」(うるさい奴だったな・・)「殿、如何なさいましたか?」「いや、さっき間違えて入って来た子が気になってな。」「あぁ。あの金髪の子ですか?“ウィッシュ☆”というアイドルグループのメンバーですわ。」「アイドル、ね・・」 そういえば今日は音楽番組の収録があると誰かが言っていたな―そんな事を思いながら、有匡は備え付けのテレビのスイッチを自然につけていた。 画面には、5人位の少女達が煌びやかな揃いの衣装に身を纏いながら、歌い、踊っていた。 その中で一際光っているのは、自分の楽屋に間違って入って来た金髪の少女だった。 その歌声は美しく澄んでいて、踊りにもキレがあった。「あの金髪の子は、誰だ?」「あの子は、高原火月ちゃん。あの椿音楽学校の卒業生ですわ。」「椿音楽学校ねぇ・・」 そこは数々の名優を輩出してきた名門校で、バレエ・声楽・日本舞踊のみならず、茶道・礼儀作法などの授業がある“女学校”として有名な所だった。「まぁ、お珍しいですわね、人嫌いの殿が他人に興味を持つなんて。」「うるさい、放っておけ。」 そうマネージャーの小里に憎まれ口を叩きながら、有匡は番組が終わるまでテレビから目を離せなかった。「お疲れ様でした。」「お疲れ~!」 番組の収録を終えた火月が他のメンバー達と楽屋へと向かっていた時、一人の男と擦れ違った。 彼は、自分が間違えて楽屋に入ってしまった時に居た男だった。「お疲れ様です!」「耳元で喚くな、うるさい。」「す、すいませんっ!」 男が去った後、火月は他のメンバー達からの質問責めに遭った。「火月ちゃん、土御門有匡様とお知り合いなの!?」「え、さっきの人が?」「え~、火月ちゃん知らないの!?芸能界で“抱かれたい男”10年連続ナンバーワンに選ばれているスターなのよ!」「へ~、そうなんだ~」 帰宅した火月は、有匡が出演していたドラマのDVDを観た。(何だろう、この人とは、何処かであったような気がする。) 翌日、事務所の社長から、火月はとんでもない知らせを受けた。「え、僕がドラマ出演ですか!?しかも時代劇で主演!?」にほんブログ村
2024年02月01日
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高校生の頃、「天上の愛地上の恋」を読んで大好きになったのに、全巻を売ってしまい、激しく後悔していました。しかし、先月火宵の月文庫全巻をブックオフオンラインで購入したので、もしかしたら…と、検索してみたら全巻あったのでお店で注文し 、今日お店で購入しました。一部日焼けがありましたが、綺麗な状態のものばかりだったので、大満足です。じっくりと、今から読んでいきます。
2024年02月01日
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表紙素材は、装丁カフェからお借りしました。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「あの、あなたは・・」「エル=ティムール神官、あんたの義妹(いもうと)になる女さ。」「御台所(みだいどころ)様、大奥に入られた暁には、京風の装束や調度品を全て武家風に改めて頂きます。」「そのような事、主上がお許しになる筈がございません!」「そうや、宮様を蔑ろにする事は、主上を蔑ろにする事どす!身の程を弁(わきま)えなはれ!」滝山の言葉に猛反発したのは、火月のお付きの女官達だった。「あ~あ、やっぱり始まったね、縄張り争い。下らないったらありゃしない。」神官はそう言って笑うと、その場から去っていった。「皆さん、待ってください!僕が、今から装束や調度品を武家風に改めます。」「宮様・・」「あきません、そのような事をなさっては!」「荻、僕は武家に嫁いだのですから、その家風に染まるのは当然でしょう。」「まぁ、御台所様からそのような言葉を頂き、嬉しい限りでございます。では早速、わたくし達が・・」「装束や調度品は大切な物ばかりなので、荻達に運んで貰います。」「そ、そうですか・・」大奥での騒動は、たちまち「表」にも伝わった。「絢宮様は、どうやら芯がお強いお方のようで・・」「偽者だけどね。」「つ、艶夜様!?」「なぁに、そんなに驚く事ないじゃん。アリマサはそれを承知のうえでカゲツと結婚したんだし。」「それは、まことなのですか、上様!?」「あぁ。」有匡はそう言うと、食事に手をつけずに本を読み始めた。「どうかされたのですか?」「何でもない、下がれ。」「は・・」「もしかして、また毒入りの食事が運ばれると思ってんの?」「お前には何の関係もないだろう。」有匡は、一度毒殺されそうになった事があった。彼を亡き者にしようと企む者達が毒見役の者達を買収し、“安全だ”と有匡に嘘を吐いて河豚(ふぐ)の肝を食べさせたのだ。それ以来、有匡は自分が贔屓にしている料亭が作る料理しか食べなくなった。「要らないなら、神官が食べちゃおう。」「好きにしろ。」有匡がそう言いながら呆れ顔で自分の食事を平らげている神官を見ていると、突然廊下の方が騒がしくなった。「何事だ?」「上様、一大事にございます!水戸にて攘夷の動きあり!」「放っておけ。水戸では、誰も彼もが尊王攘夷を叫ぶ輩が居ると聞く。それは今に始まった事ではないのだから、どうという事ではないだろう。」「上様、水戸の攘夷運動を放置すれば、それらは野火のように日の本に広まりまする!」大老・井伊直春(いいなおはる)はそう叫ぶと、互いの鼻先が触れ合うか合わぬかの距離で有匡に詰め寄って来た。「上様、どうか・・」「其方(そなた)の好きにいたせ。わたしは知らぬ。」「有難き幸せにございまする!」こうして、“安政の大獄”が始まった。外に、動乱の嵐が吹き荒れている事など露知らず、大奥では有匡をもてなす宴の準備が慌しく行われていた。「あの、僕にお手伝い出来る事はありますか?」「まぁ御台所様、そのような格好でこちらにおいでになってはなりません!」小袖に襷姿(たすきすがた)で御膳所に入って来た火月を見た御殿女中達はそう叫ぶと一斉に慌てた。「上様が初めてこちらへいらっしゃるので、上様の好物を作ろうと思って・・駄目かな?」「まぁ、御台所様・・」「御台所様がそうおっしゃるのなら、わたくし達は御台所様に従うまでです。」「ありがとう、皆さん、あの、上様のご好物は・・」「上様は、河豚の刺身が大層お好きでございますよ。」そう火月に教えたのは、上臈御年寄(じょうろうおんとしより)の常盤(ときわ)だった。「ありがとうございます!」「いいえ。わたくしのような年増でも、御台所様のお役に立てて何よりです。」時間はあっという間に過ぎていき、有匡が大奥入りする時が来た。「上様のお成り~!」大奥と中奥を繋ぐ錠が外され、滝山の合図によって鈴が高らかに鳴らされた。(先生、何と凛々しいお姿・・)裃姿の有匡に火月が見惚れていると、不意に彼と視線がぶつかった。「その簪・・」「え?」火月は、有匡の視線が、彼女が髪に挿している赤い薬玉の簪に注がれている事に気づいた。「憶えて下さって嬉しいです!この簪は昔、あなた様が僕に・・」火月がそう言って有匡に笑みを浮かべると、彼は火月の髪から徐にその簪を抜き取った。「其方には幼過ぎて似合わぬ。」「先・・生・・?」「代わりにこれを。」有匡がそう言って火月の髪に挿したのは、赤い椿の簪だった。「何だ、気に入らぬか?」「い、いいえ・・」「ならば良い。」そう言って廊下を再び歩き出した有匡の後を、火月は慌てて追い掛けた。華やかな宴の間、有匡は終始無言だった。「上様、どこかお加減でも・・」「構うな。」「上様、膳の用意が出来ました。」常盤の合図で、女中達が膳を持って部屋に入って来た。「今日は、河豚の刺身をご用意致しました。」有匡は、火月を睨むと、こう言った。「お前か、この膳を用意せよと命じたのは?」「先・・上様が、河豚の刺身がお好きだと聞きましたので・・」「戯(たわ)けた事を申すな!」有匡はそう怒鳴ると、膳を乱暴に払い、部屋から出て行った。「待って下さい、上様!何がいけなかったのですか?」慌てて自分に追い縋ろうとする火月の手を、有匡は冷たく振り払った。「其方には、何も望まぬ。」「あ、待って、先生!先・・」有匡に触れようとした火月の眼前で、冷たく非情な音と共に、大奥は再び閉ざされた。「御台所様は?」」「お部屋にて、お休み中でございます。」「まぁぁ、何処かお身体が優れないのですか?」「いいえ、お気になさらず。」菊は、そう言うと見舞おうとする常盤を拒絶した。(どうしたんだろう、先生・・昔は、優しかったのに・・)火月は寝返りを打ちながら、枕元に置いている椿の簪を手に取った。有匡からこの簪を髪に挿して貰った時、とても嬉しかった。 彼が、自分の事を憶えていてくれたと。それなのに、何処か有匡と自分との間に見えない壁があるようで、悲しかった。「不貞寝してんの、だっさ。」「どうして、ここに?」「別にぃ。それにしても常盤って奴、あんたに嘘吐いてアリマサから寵愛されようなんて、浅ましいよね。」「嘘って、どういう事ですか?」「知らなかったの?アリマサは、肉と生魚が苦手なのさ。特に、河豚はね。昔、河豚の肝を食べさせられて、死にかけたからね。」(あ・・)「僕、何も知らなくて・・」「誰だって、自分の弱味を他人に見せたくないし、知られたくないもんだよ。ここは、アリマサにとって敵ばかりだからね。」「先生の、好物って・・」「アリマサが好きなのは、稲荷寿司とおはぎ、それに野菜の和え物だね。あんただけに、特別に教えてあげる。」だから、もっと神官を楽しませてよね。「そのお顔を見るに、随分とお疲れのご様子ですな、上様?」「放っておけ。」「しかし、ここ数日お食事を召し上がらず、上様のお躰を皆心配しております。せめて、一口だけでも・・」「わたしが食事を取らぬのは、また毒を盛られて死にかけるのが嫌だからだ。」「上様・・」「もしわたしが死んでも、悲しむ者は居らぬだろうよ。あぁ、井伊あたりがわたしの死を喜ぶかもしれん。何せわたしは・・」「失礼致します、上様。御台所様からお届け物にございます。」「御台所様から?」「失礼仕(つかまつ)ります。」そう言って側仕えが有匡の前に運んで来たのは、膳の上に載った、おはぎだった。「これは?」「それは、御台所様が直々にお作りになられたものです。」「御台が?」「はい。先日のお詫びをしたいと。」「そうか・・」有匡は、恐る恐るおはぎを一口食べると、それはとても甘かった。「上様、どうかされましたか?」「いや、何でもない。」その時、有匡は自分が泣いている事に気づいた。―お珍しいわね、上様がお渡りになるなんて。―大奥嫌いの上様が・・「僕、どうしよう、緊張してしまう・・」「火月様、何もご心配なさる事はありませんわ。わたくしが、“ちゃんと”手筈を整えましたから。」「手筈・・?」「さぁ、そろそろお時間ですよ。」火月は菊に、それ以上聞く事が出来なくなった。「おもてを上げよ。」有匡が寝所に入り、そう火月に声を掛けると、俯いていた顔を上げた彼女は、何処か苦しそうだった。「どうした、気分が悪いのか?」「いいえ。躰が、急に熱くなって・・」火月はそう言うと、有匡に抱きついた。「其方は、わたしに抱かれていればよい。」「あの、ひとつ、お願いが・・」「何だ?」「痛く、しないで下さい。」「わかった、優しく抱いてやる。」寝所には、衣擦れの音と、二人の甘い声が響いた。「常盤、其方には暇(いとま)を出す。」「上様、何故にございます!?」「其方、わたしからの寵愛を得ようとし、火月を陥れるとは、浅ましいにも程がある。貧乏公卿(くげ)の娘が、宮家の姫に勝てるとでも?分を弁えよ。」「上様、どうか・・」「わたしは此度の事で其方を罰するつもりはないが、其方を大奥へ送り込んだ井伊はどう思うであろうな?」「あ・・」常盤は、その夜の内に大奥から追い出された。「この痴(し)れ者が!」「申し訳ございませぬ、井伊様・・」「もう良い、下がれ。」(あの異人とのあいの子には、好きにはさせぬ!)正春は有匡への憎しみを滾らせていった。にほんブログ村
2024年01月31日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。その日は、いつも通りのフライトだった。『皆様、間もなく当機は関西国際空港に到着致します。到着後、シートベルトの着用ランプが消えるまで、ご着席をお願い致します。』乗員乗客200人を乗せた青龍航空羽田発関空行き60便は、何のトラブルもなくフライトを終える筈だった。突然紅蓮の炎と黒煙に包まれた機内は、たちまち怒号と悲鳴に包まれた。「荷物を持たないで下さい!ヒールのある靴は脱いで下さい!」客室乗務員たちの指示に従った乗客達が次々とシューターで脱出する中、一人の少女だけが、恐怖の余り後部座席に座り込んで、そのまま動けなくなってしまった。「あぁ、ここに居たのか。」頭上から声がして、少女が俯いていた顔を上げると、そこには自分に笑顔を浮かべて手を差し伸べる機長の姿があった。「さぁ、一緒にいこう。」「うん・・」少女を救出した際、機長は背中に重度の火傷を負っていた。「先に行きなさい。わたしは、後で行くから。」「助けてくれて、ありがとう。」少女が脱出した直後、機体は炎に包まれた。「え、父上が?それは、確かなのか!?」「大丈夫ですよ、坊ちゃま。」執事と共に、有匡が父が入院している病院へと向かうと、父は花に囲まれた棺の中で永久の眠りに就いていた。「父上・・」あの悲惨な事故から、10年の歳月が過ぎた。(も~、どうして目覚まし時計止めちゃったんだよ、僕のバカ!)羽田空港の中を、一人の女性が走っていた。青龍航空の真新しい制服に身を包んだ彼女の名は、高原火月。幼い頃からの夢だったCA(客室乗務員)となり、今日がその初出勤日なのだが、彼女は寝坊して遅刻してしまった。(な、何とか間に合いそう・・)職員専用の出入口へと向かおうとした火月は、一人の男とぶつかってしまった。「す、すいません・・」「怪我は無いか?」そう言って自分に手を差し伸べてくれた彼の手が一瞬、“誰か”の姿と重なったように見えた。「は、はい・・」火月は俯いていた顔を上げた時、自分とぶつかった男が肩章と袖口に4本線が入っている制服姿である事に気づいた。(この人、もしかして・・)「急いでいるんじゃないのか?」「あ~、そうだった。」火月は男に頭を下げ、走り去った。「遅い!」「す、すいません・・」「初日から遅刻なんて、先が思いやられるわね!」憧れのCAとなった火月だったが、彼女を待ち受けていたのは2ヶ月にも及ぶ救難訓練だった。先輩CA達から、目をつけられてしまった火月は、実技訓練でことごとく駄目出しされて落ち込む日々が続いていた。(僕、本当にこの仕事に向いているんだろうか?)そんな事を思いながら火月が社員食堂でサンドイッチを齧っていると、そこへ同期の禍蛇がやって来た。「どうしたの、火月?また先輩達から駄目出しされたの?」「うん。僕、この仕事に向いていないかなぁって、思うんだけど・・」「そんな事ないって!この後、皆で勉強会開くんだけど、火月も来る?」「うん。」救難訓練に見事合格した火月は、同期生達と共にサービス訓練を受ける事になった。「高原さん、良く出来ているわね。飲み物をお客様にお出しするタイミングが良かったわ!」「ありがとうございます!」サービス訓練を経て、火月達はOJTを受ける事になった。「火月ちゃん、地上と上空は全く違う状況だから、その事を頭に入れておいてね。」「は、はい。」「そんなに緊張しなくても、訓練の通りにやればいいのよ!」チーフパーサーの種香は、そう言って火月を励ますかのように、彼女の背中を叩いた。「何だ、今日は随分賑やかだな?」火月と種香がそんな話をしていると、背後から美しい男の声が聞こえた。「あら機長、今日から、この子達をお願いしますね。火月ちゃん、こちら機長の土御門有匡様よ。機長、この子が訓練生の、高原火月ちゃんです。」「は、初めまして・・」火月がそう言って機長に挨拶すると、彼は切れ長の碧みがかった黒い瞳で彼女を見た。「お前は・・」「あの、どうかしました?」「いや・・よろしく頼む。」機長・土御門有匡は、そう言って火月がつけている紅玉の耳飾りに気づいた。「それは?」「これ、お守りみたいなものです。邪魔でしたら、外します。」―先生・・「いや、いい。」(何だ、今のは?)にほんブログ村
2024年01月30日
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陰陽道の教えは、暮らしに深く根付いているのだとわかりました。
2024年01月30日
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表紙素材は、てんぱる様からお借りしました。「火宵の月」「FLESH&BLOOD」の二次小説です。作者様・出版社様とは一切関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は読まないでください。―先生・・ 波のように、繰り返し己を呼ぶ声。(火月・・) 土御門有匡が妻の声に気づいて目を静かに開けると、そこは見慣れた鎌倉の邸でも、唐土の紅牙族の村でもなかった。 有匡が居るのは、薄暗く悪臭が漂う奴隷船の中だった。(ここは、一体・・) 周囲をよく観察しようと有匡が身体を動かしたとき、彼は初めて自分の手足が鎖に繋がれ、それが数珠のように数人の奴隷達とひとまとめにされている事に気づいた。(火月、火月は何処に!?) 有匡は祭文を唱え、妻・火月を捜した。 彼女は、太った男に凌辱されそうになっていた。(そうはさせぬ!) 有匡は、火月を救う為、嵐を起こした。 同じ頃、火月は訳が分からぬまま夫と引き離され、太った男に凌辱されそうになっていた。『大人しくしろ!』「嫌、放して!」 火月が男の顔を爪で引っ掻いた時、今まで晴れていた空を急に黒雲が覆い、嵐が奴隷船を襲った。『ギャァァ~!』『どうした、一体何が起こった!?』『わ、わかりません!船底に居た奴隷が、急に暴れ出して・・』『何とかしろ、このままでは船が沈んでしまう!』「火月、何処に居る!」「先生!」 火月が太った男を突き飛ばして船室から甲板へと向かうと、そこには両手を広げて立っている有匡の姿があった。 火月は、迷わず夫の胸に飛び込んだ。『居たぞ、あいつだ!』『逃がすな!』「火月、わたしから離れるな。」「はい・・」 有匡は火月を抱き締めると、嵐の海の中へとその身を躍らせた。『正気じゃないぞ、あいつら!』『如何いたしましょう、ラウル様?』『放っておけ。あの美しい奴隷達を喪ったのは大きな痛手だけれど、すぐに会える気がするよ。』 ラウル=デ=トレドは、そう言った二人が消えた水面を見つめた。(この借りは、必ず倍にして返してやる。)「火月、大丈夫か?」「はい・・」 有匡の呪力で二人共凍死せずに済んでいるが、それもいつまでもつかわからない。「大丈夫だ、お前はわたしが守るから・・」 有匡は、そう言って火月を抱き締めると、意識を失った。「ジェフリー、嵐が治まって来たよ。」「あぁ、そうだな。」 グローリア号船長、ジェフリー=ロックフォードとその恋人の東郷海斗は、嵐が去った後の海を眺めていた。「それにしても、さっきの嵐、なんだったんだろう?まるで、誰かが魔法で嵐を起こしたみたいに、急に起きて・・」「そんな魔法使いみたいな奴が、お前の国には居るのか?」「う~ん、わからないけど、昔俺の国にもオンミョウジっていう魔法使いが居て、アベノセイメイっていう人が有名だよ。」「へぇ、そんな奴が居たのか。お前の国は興味深いな。一度行ってみたいものだ。」「そう?」 二人がそんな事を話していると、檣楼の上に居たユアンの声が聞こえた。「キャプテン、死体が浮いています!」「ユアン、本当か!」「へぇ。ん・・待てよ、ありゃ死体じゃありやせん、生きてまさぁ!」「何だって!?」 ジェフリーが檣楼から下りて来たユアンから望遠鏡を受け取り水面の方を見ると、そこには黒髪の男と金髪の女が浮かんでいた。「どうした、ジェフリー?」「ナイジェル、遭難者だ!ボートを!」「わかった。」 ジェフリー達はボートを出し、遭難者の男女を救助した。「おい、しっかりしろ!」「ジェフリー、毛布を持って来て!二人共長時間海水に浸かっていたから、停滞温床になっているかもしれない!」(火月、無事なのか?) 有匡がそう思いながらゆっくりと目を開けると、そこには見知らぬ男達の姿があった。「先生、良かった!」「火月・・無事だったか。」 火月が無事である事を知り、有匡は安堵の表情を浮かべた。「良かった、二人共無事で。」 そう言って二人の前に現れたのは、赤毛の少年だった。「お前は、誰だ?」「俺は東郷海斗。あなた達は?」「わたしは土御門有匡。わたしの隣に居るのは、妻の火月だ。ここは、何処だ?」「ここは、グローリア号。あなた達、低体温症になりかけていたんだよ。」 赤毛の少年―海斗がそう言った時、船室に金髪の男と、眼帯をした黒褐色の髪をした男が入って来た。『漸くお目覚めかい、お二人さん?』 有匡は、金髪の男とは気が合わないと感じた。 それは金髪の男も同じようだったようで、彼は有匡に向かってこう言った。『色男がこれ以上居たら、船の風紀が乱れるな。』にほんブログ村
2024年01月29日
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ブックオフオンラインで取り寄せていた火宵の月文庫、7巻以外全てが届いていたので購入しました。あと、天上の愛地上の恋単行本全巻をお店で取り寄せて貰いました。火宵の月文庫7巻は、ブックオフのアプリで注文しました。店頭にはなかったので、取り寄せできて良かったし、天上の愛地上の恋は全巻絶版だったので、中古でも取り寄せできて良かったです。※追記※31日に、注文していた7巻が届きました。時間は沢山あるので、全8巻をじっくり読もうとおもいます。 あと、天上の愛地上の恋全巻も届きましたので、これもゆっくり読もうとおもいます。職場の韓国フェアで母が買ってきてくれたチーズホットック。ホットドッグみたいなもので、中にチーズがたっぷり入っていて食べごたえがありましたが、チーズが少し熱いと火傷しちゃいますね。
2024年01月28日
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「頼もう!」閑静な住宅街の一角に、少女の声が高らかに響いた。(誰だ、こんな朝早くに・・)土御門有匡は、大量のチョコレートをガトーショコラにしながら、突然響いた少女の声に驚いてしまい、思わず手元が狂い、ケーキを飾るアイシングのハートが崩れてしまった。「頼―」「うるさい、近所迷惑だろうが!」有匡が厨房から店の外へと出ると、店の前には一人の少女が立っていた。長い金髪をポニーテールにし、セーターにデニム姿の彼女は、紅玉を思わせるかのような美しい真紅の瞳を輝かせながら、有匡に向かってこう尋ねた。「土御門有匡様ですよね?」「あぁ、そうだが・・」「僕を、弟子にして下さい!」「・・耳元で喚くな。」「す、すいません・・」「それと、わたしは、弟子は取っていない。」有匡がそう言って店の中へと戻ろうとすると、少女が突然ドアの隙間に足を挟んで有匡にドアを閉じさせないようにした。「何処でそんな事を覚えた?」「弟子にして下さい!」暫くすると、近所の住民達が何事かと彼らの方を時折指さしながら見始めた。中には、スマートフォンを二人に向ける者も居た。「入れ、話だけなら聞いてやる。」「ありがとうございます!」有匡は素早く少女を店の中に入れた後、中を覗かれないよう、レースのカーテンを閉めた。「わぁ、ここが先生のお店なんですね。雑誌で見た事はありますけれど、直接この目で見た方が、素敵なお店だってわかります。」突然有匡の前に現れた少女は、そう言うと有匡の“城”である店内を興味深そうに見ていた。(一体何なんだ、こいつは?)「お前、名前くらい名乗れ。」「僕、高原火月と申します。あの、今日は僕、先生にお願いがあって来たんです。」「弟子は取らぬと、先程言った筈だが?」「僕、あなたの子供が産みたいんです。」早朝に突然押しかけて来て、その上自分の子どもを産みたいなど―彼女は、正気じゃない。「早朝に弟子にしろと押しかけて来た上に、わたしの子を産みたいだと?これ以上おかしな事を言うと、警察を呼ぶぞ。」「違うんです、僕は・・」「さっさと出て行け!」有匡は少女―火月を店から追い出し、ガトーショコラ作りを再開した。「火月、どうだった?」「惨敗・・というか、僕の事、先生は憶えていないみたい。」有匡に店から追い出され、火月は幼馴染である琥龍が営むラーメン屋「紅牙」のカウンター席でそう彼と彼の婚約者・禍蛇に愚痴った。三人の共通点―それは、前世の記憶を持っている事。火月が二人と再会したのは、火月が7歳の時だった。『火月、やっと会えた!』『琥龍、禍蛇!』二人と再会した時、火月は前世の記憶を取り戻した。そして、火月は自分の伴侶―有匡が自分の隣に居ない事に気づいた。(先生に、会いたい・・)「火月、有匡に会いたいよね?」「うん・・」公園のブランコを漕ぎながら、火月と禍蛇がそんな事を話していると、一人の少年が公園の前に通りかかった。“火月”その少年は、有匡だった。 髪は短くなったものの、切れ長の碧みがかった黒い瞳は転生しても忘れられなかった。「先生、先生!」「火月、待って!」突然火月がブランコから降りて走り出したのを見た禍蛇は、慌てて彼女を止めた。「どうしたの?」「先生・・」「お前、誰?僕は、お前なんて知らない。」(どうして・・)あぁ神様。どうして、このような残酷な事をなさるのですか?僕はただ、愛しい人に会いたかっただけなのに。「ねぇ火月、諦めたら?有匡が“何も”憶えていないのは、きっと理由があるからだよ。」「そうかな・・」「今日は、ゆっくり休みなよ。」「うん・・」(ごめん、禍蛇、僕先生の事を諦められないよ。だって・・)僕の居場所は、いつだって―生まれ変わっても先生の傍だから。『先生、待って!』あの時、自分を必死に追い掛ける少女が、前世で心の底から、魂の底から愛した妻だと、有匡は気づいた。だが、彼は火月を冷たく拒絶した。(わたしは、お前を愛してはいけない・・わたしは・・)今朝店の前に現れた火月を見て、本当は彼女を抱き締めて愛の言葉を囁きたかった。だが、有匡にはそれが出来なかった。何故なら、自分の手は血で汚れてしまっているから。(済まぬ、火月。わたしは、お前を愛してはいけない。わたしは、お前を傷つけてしまう・・)有匡が煙草を吸いながら空を見上げると、そこには紅い月が浮かんでいた。にほんブログ村
2024年01月27日
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。ピアノの音色が響く中、天使のような美しい歌声が、部屋に響いた。「ブラボー!」「ありがとう、小父様。」「今日のレッスンは、ここまで。」土御門有仁がそう言ってレッスンをしていた少女―火月の頭を撫でた時、部屋に一人の少年が入って来た。「ただいま帰りました、父上。」「お帰り、有匡。」有仁の一人息子・有匡は、切れ長の碧みがかった黒い瞳で、自分に抱き着いている火月を見た。「先生、お帰りなさい。」「ただいま、火月。」有匡は17歳。夏になれば、イートン校を卒業し、ウィーンの音楽大学へ進学する予定だ。「先生、僕ね、いつかプロの歌手になるんだ!」「そうか。お前ならなれるよ。」「本当!?」「あぁ、その時はわたしがお前と同じ舞台に立ってやる。」「約束ですよ!」「あぁ、約束だ。」「ちょっと、アリマサにベタベタしないでよ!」二人に間に割って入って来たのは、有匡の妹・神官だった。「アリマサは、神官のものなんだからね!」「違うよ、僕のだもん!」「二人共、うるさい!」ギャーギャー自分を間に挟んで喚く神官と火月を有匡が叱ると、二人は頬を膨らませた。「みんな、お茶でも飲もう。」有仁が、紅茶とスイーツを載せたワゴンを部屋に運びながら入って来ると、三人は笑顔を浮かべた。「有匡、来年からはウィーンか。ウィーンは、美しい街だ。」「そうですか。」そう言った有匡の顔は、何処か暗かった。日本人と英国人との混血として生まれ、周りとは違う事で苦しんで来た息子の事を、有仁は知っている。それは、かつて自分も苦しんで来た事だった。「有匡、どんな事があっても何が起きても、自分自身を信じて、愛してやりなさい。」「はい・・」「運命の人を見つけたら、絶対にその人の手を離さないようにしなさい。わたしのように、後悔しないように。」有仁はそう言うと、亡き妻・スウリヤの肖像画を見つめた。有匡と神官の母・スウリヤ、世界的に有名なピアニストで、大学時代にウィーンで有仁と出会い、彼と大恋愛の末に結ばれた。有仁とスウリヤは、有匡と神官が産まれても仲睦まじい夫婦だった―有匡が12歳、神官が5歳の時に、スウリヤが不慮の事故で亡くなるまでは。公演先のパリで宿泊していたホテルが放火され、スウリヤは他の宿泊客達と避難している最中、炎に巻かれ、亡くなった。「この指輪だけを遺して、彼女は逝ってしまった。」有仁はそう言うと、首に提げているガーネットの指輪を見つめた。「父上・・」「有匡、もしわたしが死んだら、この指輪を棺に入れて欲しい。きっと、この指輪がわたしをスウリヤの元へと導いてくれるだろうから。」「わかりました。」これが、父と交わした、最後の会話だった。有匡がイートン校を卒業した年の冬に、有仁は急性心不全でこの世を去った。土砂降りの雨の中、有仁はスウリヤの隣に葬られた。「先生、もう会えないの?」「さぁな。火月、これを。」「これは?」「母の形見だ。」「ありがとう、大切にしますね!」火月は、スウリヤの形見である紅玉のペンダントを有匡から受け取ると、彼に微笑んだ。それから、十年の歳月が過ぎた。(嘘、合格している!)火月は、ノートパソコンの画面に表示された受験番号を見た後、思わず歓声を上げた。「どうしたの?」「お母さん、僕合格していた!」「良かったじゃない、おめでとう!」(これで、先生との約束を果たせる!)火月は、そっと首に提げている紅玉のペンダントに触れた。(ここが、日本か・・)欧州で長年暮らしていた有匡は、飛行機の窓から見えるもうひとつの母国―日本に想いを馳せていた。喧騒に満ちた空港の中を有匡が歩いていると、一台のピアノが目に入った。ピアノに触れる事も、見る事すらしなくなっていたというのに、有匡は自然とそのピアノへと向かっていた。恐る恐る鍵盤の上に指を滑らせてみると、それは美しい音色を奏で始めた。突然始まったパフォーマンスに、忙しなく歩いていた観光客達が足を一斉に止め、有匡が奏でる音色に聴き入っていた。有匡が演奏を終えてピアノの前から去ろうとすると、彼は周囲から歓声と喝采を浴びた。それらに背を向け、有匡は独り、歩き出した。都内のホテルに泊まった彼は、眼下に広がる人工的な銀河を眺めながら溜息を吐いた。『は?わたしが音大の教授?冗談でしょう?』『鶴岡音楽大学の理事長が、君を是非迎えたいと思っている。アリマサ、ユージーン(有仁)が生まれ育った国へ、一度暮らしてみるのもいいかもしれないよ。』恩師の言葉に半ば背中を押される様に、有匡は鶴岡音楽大学の客員教授となった。鶴岡音楽大学は、古都・鎌倉を象徴する観光名所・鶴岡八幡宮の近くにあった。有匡が鶴岡八幡宮に参拝すると、ここへ来たのは初めてではないような感覚に陥った。(なんだ・・)「それじゃぁお母さん、行って来るね!」4月、火月は鶴岡音楽大学に入学する為、初めて一人暮らしをする事になった。「身体に気をつけてね。」「うん!」桜が舞う鶴岡八幡宮に参拝した火月は、初めて訪れた場所なのに、既視感を抱いた。(何だろう、初めて来たのに、何だか懐かしいような・・)鶴岡音楽大学の学生寮に入った火月は、荷物の整理を終えてふと窓の外を眺めると、そこには紅い月が空に浮かんでいた。“知ってる?紅い月には魔力があってさ、願い事を何でも叶えてくれるんだってさ。”脳裏に、懐かしい“誰か”の声が聞こえて来た。(先生と、会えますように。)紅い月に向かって火月はそう願うと、疲れていた所為かすぐに眠ってしまった。そして彼女は、不思議な夢を見た。にほんブログ村
2024年01月27日
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プロローグの部分からラストまで一気読みするほど面白かったです。これ以上書くとネタバレになりますが、悪役がとんでもない屑でした。もうね、こんな屑早く●ねばいいのに・・と思いながら読んでみたら、望み通りの結末を迎えてスカッとしましたね。サンドラ・ブラウン作品は、勧善懲悪があって安心して読めます。
2024年01月26日
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いまいちだった「顔」とは違い、ラストまで見逃せない展開が続いて、伊豆の美しい海岸線の風景も相まってか、これぞ松本清張!と思わせるほどの良作でしたね。というか、二夜連続よりも、「ガラスの城」だけ放送したらよかったのでは?木村佳乃さんと波瑠さん、武田真治さんがいい演技していましたね。特に、悪役を演じるのが上手い武田真治さん・・まさかの黒幕だったとはね。ラストシーンは悲しいものでしたが、面白かったです。
2024年01月25日
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素材はNEO HIMEISM 様からお借りしております。「火宵の月」オメガバースパラレルです。作者様・出版社様とは一切関係ありません。オメガバース・二次創作が苦手な方はご注意ください。「やめろ、来るな!」有匡は女を睨むと、威嚇フェロモンを彼女にはなった。女は悲鳴を上げ、壁に激突し気絶した。「一体、何があったのですか!?」「お前か、この女を部屋に入れたのは?」「アダム様、お許しを!」気絶した女の仲間は、そう言うと手枷と足枷を外した後、有匡の前に平伏した。「ここは何処で、火月は何処に居る?」「そ、それは・・」「わたくしから、お話ししましょう。」凛とした声が部屋から響いたかと思うと、高原鈴子が部屋に入って来た。「手荒な真似をして申し訳ありませんでした。」高原鈴子は、そう言うと有匡の手を握り、微笑んだ。「お待ちしておりました、土御門有匡様。」「何故、わたしの名を・・」「スウリヤ様から、あなたの事をお聞きしておりましたよ。」「母から・・」母の名を聞いた途端、有匡の胸に見えない棘が刺さったような気がした。自分と父を捨てた母。その母が、この施設内に居る。「母を、知っているのか?」「ええ、存じておりますとも。スウリヤ様は、長年我々に貢献して下さいました。」「貢献、ねぇ・・随分と立派なこの建物は、信者達の金によって建てられたのですね。わたしの母は、あなた方の為に貢献したのだから、家を捨てなければならなかったのかもしれない・・」「それは違います。スウリヤ様は、妊娠されていたのですが、旦那様のご親族に反対された上に暴力をふるわれて、ここへ逃げて来たのです。」「そんな事、父は何も・・」「あなたのお父様は、あなたの事を慮って、自分が悪者になったのでしょう。」高原鈴子の言葉が嘘ではないと有匡が確信したのは、ある物を彼女から渡された時だった。それは、生前父が母に贈った、ペアリングだった。プラチナの台座には、美しく研磨され加工されたガーネットとダイヤモンドが載っていた。―有匡、どうした?―お父さん、それなぁに?―これは、この世で一番大切な物なんだ。亡くなる一月前、有仁は有匡に、首に提げている指輪を見せた。―いつか、大切な人が出来たら・・「こちらです。」高原鈴子が有匡を案内したのは、“聖母の間”と呼ばれた部屋だった。「ここは・・」「我らが聖母・炎様の遺骨が安置されているお部屋です。」白一色の部屋で、女性の肖像画が一際存在感を放っていた。女性は、火月と瓜二つの顔をしていた。「火月・・」「“マザー”、“聖女”様をお連れしました。」「せ、先生・・」「火月、無事だったのか?」有匡がそう言って火月に駆け寄ると、彼女は苦しそうに喘ぐと床に蹲った。「どうした?」「躰・・熱い・・」「どうやら、発情期を迎えたようですね。我々はΩだけで構成された教団です。αは、あなただけです。」「そんな・・」有匡は、火月の全身から漂う、蜜のような甘い匂いを嗅ぎ、気が狂いそうな程欲情していた。αの本能―今まで向き合おうとしなかった雄の本能が、火月を抱いてしまえと、悪魔のように耳元で囁くのを感じた。「彼女を、抱きなさい。」「わたしは・・」生涯番を持たない、父のようにはならないと、そう己に言い聞かせていた。だが―「抑え込まれていた本能を、解放なさい。」「火月、立てるか?」「はい・・」「あちらの部屋をお使いください。」高原鈴子は、そう言うと有匡と火月を、“紅の部屋”へと案内した。「火月、この部屋で休んでいろ。」「嫌です、お願いです、抱いて下さい。」有匡は、火月の華奢な身体を寝台の上に横たえた。「どういう意味か、言ってわかっているのか?」「はい。」「抑制剤は?」「飲んでいません。」「そうか。」有匡は火月から離れようとしたが、火月は有匡から離れようとしなかった。「僕、あなたの子供を産みたいんです。」「望むところだ。」有匡はそう言うと、火月の唇を激しく貪った。―“運命の番”?―あぁ、お父さんとお母さんは、“運命の番”だったんだ。―お父さん、僕にも、“運命の番”が現れるかなぁ?―あぁ、現れるよ。その時は、運命に抗ってはいけないよ。―うん!ずっと、こわかった。大切な人が、自分の前から居なくなってしまうのが。大切なものが、両手の隙間から零れ落ちてしまうのが。ずっと、こわかった。だが―「先生・・噛んで・・僕のうなじ・・」「あぁ・・」もう、迷わない。有匡は、鋭い犬歯を、火月の白いうなじに突き立てた。「後悔していないか?わたしと番になった事を?」「はい。あの、こんな事を言うのはおかしいと思うんですが、先生と初めて会った時、僕は嬉しかったんです。やっと、先生に会えたって。」「そうか・・」「もしかしたら、僕と先生は、前世では夫婦だったかもしれませんね。」互いの想いが通じ合った後、火月はそう言うと有匡を見た。「これから、どうします?」「それは、これから考える。色々と問題が山積みだからな―母の事や、妹の事、それに家の事も。」有匡は火月に、スウリヤと、彼女の娘の事を話した。「それで、お母様とは会えたのですか?」「母は、半年前にここを出て、妹と共に渡英したそうだ。」「渡英?」「英国は、母が生まれ育った国だからな。それに、Ωに対する福利厚生が整っており、バース性による差別も厳しく罰している国らしい。」「先生は、お母様と妹さんに会いたくないんですか?」「さぁ、わからん。母が自分達を捨てたのではなく、止む負えぬ事情があって逃げたのだろうと頭では理解していても、まだ混乱している。」「そうですか・・」有匡は今、ただ静かに眠りたかった―愛しい人の隣で。―先生、おやすみなさい。その声に応えるかのように、有匡は静かに目を閉じた。―先生、起きて下さい。 有匡が目を開けると、そこには袿姿の火月が立っていた。―先生、もうすぐ家族が増えますよ。 火月はそう言うと、嬉しそうに笑った。「ん・・」「おはようございます。昨夜は良く眠れましたか?」 有匡が目を開けると、隣に火月の姿は無かった。「“聖女”様なら、“マザー”と共に菜園にいらっしゃいますよ。」「ありがとう。」 菜園には、様々な種類のハーブや花が植えられていた。「火月。」「先生、おはようございます。」「おはよう。」 有匡はそう言うと、火月の頬にキスをした。「火月、お前はこれからどうしたい?このまま、ここで暮らすのか?」「いいえ。ここは居心地が良いけれど、僕の居場所じゃありません。僕の居場所は、先生の傍しかありませんから。」「そうか・・」 そんな二人の姿を、高原鈴子が木陰から見ていた。「“マザー”・・」「あの二人は、ここに居てはなりません。」(あの二人に、この世界は似合わない。)「わざわざお二人をこちらに呼んだのは、“聖女”様・・いえ、火月様、あなたのお母様についてのお話があるのです。」「え・・」「炎様は、孤児のΩでした。彼女は、あなたと同じように施設で暮らしていましたが、彼女は酷い虐待を受けていました。」 火月の母・炎は、施設を抜け出し、山中を彷徨った末に、“輝きの星”へと辿り着いた。 そして彼女は、一人の男性と出会った。 彼は、高原良―鈴子の一人息子だった。 良と炎はいつしか惹かれ合い、番となった。「そして、あなたが生まれたのです。」「でも、どうしてお母さんは、死んでしまったの?」「二人は、死んだのではありません。殺されたのです、炎様の親族に。」 炎の親族は、平安の御世から続く、由緒ある巫女の家系だった。 だが度重なる血族婚の末に、その家系は断絶寸前になってしまった。 しかし、彼らは炎の血を濃く受け継いだ火月に目をつけ、炎から奪おうとした。 炎は彼らから火月を守ろうと、火月を施設に預けた後、夫と共に事故死した。「そんな事が・・」「炎様の親族は、あなたの事を諦めていません。いずれ、この場所も彼らに知られる事でしょう。」 鈴子がそう言った時、外から激しい音と悲鳴が聞こえた。「“マザー”、大変です、襲撃が・・」「あなた達は、逃げて下さい。もう、ここは終わりです。」「でも・・」「有匡様、火月様を・・わたしの孫娘を宜しくお願い致します。」 鈴子は有匡にスウリヤのペアリングを手渡すと、炎の中へと消えていった。「嫌ぁ~、お祖母様!」「行こう。」 有匡と火月は、燃え盛る教団の施設から命からがら脱出した。「僕、また独りになっちゃった・・」「独りじゃないだろ。」「え?」「わたしが、お前を護ってやる。」「先生・・」 夜が明け、朝日の光を浴びた二人を、警察が発見・保護した。「火月、無事で良かった!」「心配かけてごめんね、禍蛇。」「本当だよ!」 禍蛇は火月と抱き合った後、有匡に向かって頭を下げた。「火月を助けてくれて、ありがとう。」「礼は要らん。」 事件から数ヶ月後、有匡と火月は日常に戻っていった。 ただひとつ、変わったのは―「え、火月あいつと番になったの!?」「うん・・」「おめでとう~、俺、いつかあいつと結ばれるんだろうなって思ってたんだよね。」「え?」「いや、昔色々あったじゃん、火月と有匡。結ばれて双子が産まれるまで・・」「昔って・・禍蛇、もしかして、前世の記憶、あるの?」「うん。だから施設で火月と会えた時、嬉しかったんだ。あ、琥龍ともね!」「そうか・・」 火月は禍蛇とそんな事を話しながら、有匡と築く未来へと想いを馳せた。「先生、おはようございます。」「おはよう。」 火月が登校すると、丁度出勤してきた有匡と会えた。「丁度良かった。お前に贈り物がある。」「贈り物?」「あぁ。」 有匡はそう言うと、火月の左耳に紅玉の耳飾りをつけた。「お前の瞳の色と同じだ。」“証さ、専属契約更新の” 火月の脳裏に、遥か遠い昔に、有匡が自分に言ってくれた台詞がよみがえった。「ありがとうございます、大切にします。」「泣く事はないだろ。」「すいません、嬉しくて、つい・・」―何あれ・・―どうなっているの? 教室の窓から、火月のクラスメイト達が恨めしそうに二人の様子を見ていた。「高原さん、ちょっといい?」「僕、急いでいるんだけれど。」「あなた、先生と一体どういう関係なのよ?」「別に。」「ふ~ん、じゃぁ言うけど、あんたみたいな子は、先生とは釣り合わないの!」「そうよ!」 クラスメイト達から一方的に責め立てられた火月は、黙って俯く事しか出来なかった。「その耳飾り、寄越しなさいよ!」「嫌だ、放して!」 彼女達と火月が揉み合っていると、突然冷水が彼女達を襲った。「きゃぁ~、冷たい!」「少しは頭冷えた?ギャーギャーうるさいんだよ、メス猿共。」 少し甲高い声と共に、一人の少女が教室に入って来た。 彼女は美しい銀髪をお団子にし、両耳には個性的な耳飾りをつけていた。「あ、あんた誰よ!?」「エル=ティムール神官、今日からこの学校に世話になる転校生さ。」 少女―神官はそう言うと、火月を見た。「ふ~ん、あんたがアリマサの・・」「え・・」(もしかして、この子・・)「神官、こんな所に居たのか?」「アリマサ~!」 教室に渋面を浮かべながら入って来た有匡に、少女は躊躇いなく抱きついた。「先生、その子誰ですか!?」「アリマサの妹だよ。」(え~!) 突然の有匡の妹・神官の出現に、学校中が騒然となった。「妹、聞いてないわよ!?」「嘘でしょ、そんなの!」にほんブログ村
2024年01月25日
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恋人のDVに耐えかねて事故に見せかけて殺した女性。歌手としてプロデビューを果たそうとするが、過去の罪が…松本清張らしい、人間の業を描いた作品。ちょっとモヤモヤしたけど。あれ、主人公が顔出ししなかったら捕まらなかったのかなぁ。でも、いずれ隠された罪は明らかになってしまうから、ああいうラストで良かったのかと思いましたね。ただ、弁護士娘のエピソードとかは余計だったかな。う~ん、物語に厚みがないような気がしますね。昔の松本清張原作ドラマ「霧の旗」と比べると、何だかなぁ・・いまいちだったので、「ガラスの城」に期待します。
2024年01月24日
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。―先生・・ 誰かが、呼んでいる。 有匡が目を開けると、そこには涙を流して自分を見つめている最愛の妻の姿があった。(泣くな、また・・会えるから。) 意識が遠のく中、有匡の耳に微かに聴こえたのは、妻の、ある言葉だった。―僕も、すぐに会いに来ますから。「ん・・」 不思議な夢を見た後、有匡は低く呻くとベッドから起き上がった。「おはようございます、有匡様。」「おはよう。」 執事に挨拶を済ませた後、有匡は浴室に入り、冷たいシャワーを頭から浴びた。「本日のご予定ですが、朝はT物産とのオンライン会議、夜は帝国ホテルにて龍崎財閥創立百周年記念パーティーです。」「パーティーか・・」 社交家の父とは対照的に、有匡は人嫌いで社交嫌いであるが、副社長という立場故、そういった集まりを無視する事が出来ない。「そういえば、四条家の高子様から、昨夜ご連絡がありました。」「そうか・・」 一度見合いしただけの、吐いて捨てる程の女は、どうやら有匡の事を気に入ったようで、しつこく連絡してくる。 いい加減、彼女に直接言わなくては。 お前とは、結婚出来ないと。「本日の朝食は如何なさいますか?」「要らない。」「かしこまりました。」 身支度を済ませ、有匡が運転手付きの車で会社へと向かっている頃、火月は緊張した面持ちで秘書課のフロアがある七階へと向かっていた。 今までして来た仕事と言えば、飲食店やコンビニのアルバイトくらいだ。(あ~、どうしよう・・) 火月がそんな事を思っている内に、エレベーターは七階に着いてしまった。「すいません、本日からお世話になります・・」「火月ちゃん!」「火月ちゃんじゃない、久し振り~!」 火月が秘書課のドアを開けると、二人の女性達が彼女に駆け寄って来た。 彼女達の顔を見た火月は、思わずこう叫んでしまった。「式神の、お姉さん達なの!?」「いやぁ、まさか火月ちゃんが殿の専属秘書になるなんてねぇ~」「世間って、案外狭いもんよねぇ~!」 元式神シスターズ、種香と小里は、そう言いながらフラペチーノに口をつけた。 彼女達は有匡の専属秘書として社内で辣腕をふるっている。「ねぇ火月ちゃん、ひとつ質問していいかしら?」「は、はい・・」「殿とは、もう寝たのかしら?」 火月は小里の言葉を聞いて、思わず飲んでいたフラペチーノを噴き出しそうになった。「え、寝、寝たって・・」「いやぁ~、今も昔も殿のフィンガーテクは健在だからさぁ~、火月ちゃんを専属秘書としてスカウトしたのも、そうなのかなぁ~って。」「バッカ、火月ちゃんをスカウトしたのは大殿様よ~、あの人思いついたらすぐにやる人だからね。」「そうね。」 種香と小里がそんな事を話していると、カフェに有匡が入って来た。「あら、珍しいわね。殿がこんな所に来るなんて。」「いつも出社なさったら副社長室に籠もりきりなのにね。」 有匡はカウンターでコーヒーとサンドイッチを注文すると、そのまま火月達が居るテラス席へと向かった。「あら殿、お珍しいですわね。」「お前達、どうしてここに居る?」「火月ちゃんと、少しお話していましたの。あ、もうこんな時間だわ、急がないと!」「火月ちゃん、後はお二人で楽しんでね~!」「え、お、お姉さん達~!」 急に有匡と二人きりにされ、火月は暫く有匡と目を合わさないようにした。「おい、そんなに怯える事はないだろう?何も取って食ったりはしないから、こっちへ来い。」「は、はい・・」 火月が恐る恐る有匡の隣に座ると、彼はサンドイッチを一口かじってそれをゴミ箱に捨てた。「あの、それで栄養足りてます?」「余計なお世話だ、秘書だからと言って女房気取りはよせ。」「す、すいません・・」「ったく、調子が狂う・・」 有匡はそう言って火月に背を向けて、カフェから出て行った。「あら殿、お早いお帰りです事。」「火月ちゃんとのデートは、如何でしたの?」「うるさい。」 不機嫌な様子の主を見て、元式神シスターズは互いの顔を見合わせながらこんな話をしていた。「昔の殿も塩対応だったけれど、今の殿はかなり・・」「なんか、精製前の粗塩っぽいわね~」「本当に素直じゃないんだから。」「すいません、土御門有匡様はいらっしゃるかしら?」「まぁ、四条様・・」 有匡の見合い相手・四条高子が秘書課に現れ、周囲は暫し騒然となった。「お姉さん達、どうしたの?」「あ、丁度良いわ、コーヒー、殿に持って行って。」「え?」「よろしくね~」 火月が渋々副社長室へと向かうと、中から男女が言い争うような声が聞こえて来た。「どうして、わたくしと結婚出来ないのです!」「先程から申し上げているように、わたしはまだ結婚などを考えておりません。」「嘘です、心に決めた方がいらっしゃるのでしょう!」 高子が粘着質な女である事は以前からわかっていたが、いくら有匡が彼女に結婚出来ない事を話しても、中々理解して貰えない。 一体、どうしたものか―有匡がそう思っていると、控え目なノックの音が聞こえて来た。「失礼致します、コーヒーをお持ち致しました。」 火月が副社長室に入ると、そこには一人の美女と対峙している有匡の姿があった。「そこへ置いておけ。」「は、はい・・」「もしかして、そちらの方が・・」「ええ、彼女がわたしの・・婚約者です。」 揉め事に巻き込まれたくなかった火月が副社長室から出ようとした時、突然彼女は有匡に抱き寄せられた上に唇を塞がれた。(えっ、これは・・)ファーストキスを奪われてしまったのだろうか。「キエエ~!」 高子は怒りの猿叫を上げ、早口の薩摩弁で有匡に向かって何かを捲し立てた後、副社長室から出て行った。「あの、追い掛けなくてもいいんですか?」「いい。」「え、僕が今夜のパーティーに?」「そうよぉ~、何たって火月ちゃんは、殿の婚約者だもの~」「そ、それは成り行きで・・」「成り行きでも、いいじゃな~い!さぁ、おめかししましょ、おめかし!」 種香と小里によって火月は銀座の高級ブティックへと連行され、更に高級エステへと連れて行かれた。「そんなにしなくてもいいのに・・」「だぁめ、殿の為に綺麗にならなくちゃ!」「そうそう!」 帝国ホテルで行われた、龍崎財閥創立百周年記念パーティーは、政財界の名士などが出席している、華やかなものだった。「火月ちゃん、素敵~!」「わたしのヘアメイク術はダテじゃないわ。」 真紅のAラインの膝丈ドレスの火月は、慣れないハイヒールを履いて覚束ない足取りで歩いていた。「ホラ、背中丸めないの!」「でも・・」「あら、殿だわ!」 火月達が有匡の方を見ると、彼の隣にはマーメイドラインのドレスを着た黒髪の美女が立っていた。(わかっているよ、副社長には、あぁいう人が似合うって。) 有匡とあの美女が並んでいる姿は、まるで一幅の絵画のように美しかった。(場違いなんだろうな・・) 火月はそんな事を思いながらシャンパンを飲んでいると、そこへ一人の男がやって来た。「ねぇ君、可愛いね。」「あの、えっと・・」「この後、二人きりで飲まない?」「わたしの婚約者に何か用か?」 火月が男からの誘いをどう断ろうかと思っていると、そこへ有匡がやって来た。「す、すいません・・」「謝るな。ったく、お前は昔から放っておけないな。」「え?」(先生、今何て・・)「あの、先・・」 火月が有匡の手を握ろうとした時、突然視界が霞んだ。「おい、どうした?」「急に、躰が・・」「歩けるか?」 有匡の問いに、火月は静かに頷いた。「あら殿、どちらへ?」「厄介な事が起きた。」 そう言った有匡の息が、少し荒い事に種香は気づいた。「わかりました、後はわたし達にお任せ下さいな。」「頼んだ。」 有匡は火月の身体を支えながら、予約していたスイートルームへと入った。「先生・・どうしたんですか?」「どうやら、わたし達はいつの間にか媚薬入りの酒を飲まされていたらしい。」「あの、大丈夫なんですか?」「大丈夫じゃない。今、お前を抱き潰して、壊したい衝動に駆られている。だから、お前はさっさと・・」 火月は、有匡に抱きつくとこう言った。「お願い、抱いて下さい。」「お前は・・」 有匡の中で、理性を保っていた“何か”が切れる音がした。「本当に、いいんだな?」「はい。」「途中でやめろと言われても、やめないからな。」「はい・・」 有匡は、ネクタイを緩めた後、それを乱暴に外して火月の目を覆い隠した。 欲望に負けた、醜い己の顔を火月に見せたくなかったから。にほんブログ村
2024年01月24日
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※BGMと共にお楽しみください。「陰陽師」・「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「今日は月が綺麗だな、晴明よ。」「あぁ。」源博雅は、いつものように親友であり恋人である安倍晴明と共に、空に浮かぶ紅い月を眺めていた。「知っているか、博雅。紅い月には魔力があって、願い事を叶えてくれるそうだ。」「そうか。」「もし、願いを叶えるとしたら、博雅よ、お前は何を望む?」「こうして、いつまでもお前と酒を酌み交わしたい。」「そうか・・」そう言った晴明の横顔は、何処か悲しそうに見えた。「なぁ、晴明・・」博雅がそう言って晴明の方を見た時、激しい揺れが京の都を襲った。「何だ!?」「晴明、俺から離れるな!」揺れは暫くすると治まったが、晴明の邸の土塀が少し崩れていた。「無事か、博雅?」「あぁ・・」晴明はそう言って邸の周辺を見渡すと、向こうの通りから誰かの叫び声が聞こえた。「どうした?」「何やら、おかしい。」「おかしい、とは?」博雅がそう言って晴明に尋ねた時、彼の姿は既になかった。「晴明!?」京が地震に襲われる数時間前、鎌倉では一組の夫婦が生命の危機に瀕していた。「火月、しっかり掴まっていろ!」「はい!」土御門有匡と、その妻・火月は、突如幕府から倒幕祈禱に加担したという疑いをかけられ、逃亡先の唐土への次元通路を開こうとしたが、開かなかった。「先生、これから一体何処へ行けば・・」「それはわからん。今は、追手を撒く事だけを考え・・」有匡がそう言いながら馬を走らせていると、突然地の底から轟音が響き、地面に大きな裂け目が出来た。「先生!」「火月!」有匡と火月は、互いに抱き合ったまま、静かに落ちていった。「う・・」「火月、大丈夫か?」「はい。でも・・」火月はそう言うと、有匡の肩越しに何かを見て、怯えた。「どうした?」“美味そうだぁ・・”闇の中で不気味な声が響いたかと思うと、鋭い鋏と牙を持った巨大な蜘蛛が二人の前に現れた。「火月、さがっていろ。」“この芳しい匂い・・其方から、白狐の匂いがするぞ。”蜘蛛はカチカチと牙を鳴らしながらそう言うと、有匡に襲い掛かって来た。「縛鬼伏邪、急急如律令!」“おのれ・・”蜘蛛の身体は、砂のように消えていった。「先生、大丈夫ですか?」「あぁ・・」火月を安心させる為に有匡はそう言ったが、蜘蛛の毒牙が右胸を掠めていた。「おぉい、あそこに誰か居るぞ!」「運が良い、こんな日に貴族を見つけるとはなぁ!」「しかも連れの女は上玉だ。さっさと男を殺して女を売り飛ばそうぜ。」そう言いながら二人の前に現れたのは、野盗と思しき男達だった。「火月、お前は先に逃げろ。」「嫌です!」(まだ毒は全身に回っていない・・相手は五人・・一か八か、やるしかない!)「火月、目を閉じていろ。」「はい。」有匡は深呼吸した後、妖狐の力を解放した。「ひぃっ・・」「た、助け・・」「わたしに会ったのが、運の尽きだったな。」物言わぬ骸となった男達を見下ろしながら、有匡は苦しそうに喘ぐと、地面に蹲った。「先生、しっかりして下さい!」「心配するな。お前は、わたしが守る・・」 有匡は、自分達の方へと近づいて来る人の気配を感じた。(敵か・・?)「おや、俺と同じ“気”を感じるなと思って来てみれば、“同族”だったか。」紅い月が、自分達を見下ろす一人の男を照らした。「あなたは、誰?」「俺は、安倍晴明。この京の都を守る陰陽師だ。」「先生を、助けて下さい!」火月は、そう晴明に助けを求めた後、有匡を己の方へと抱き寄せ、涙を流した。その涙は、美しい紅玉となった。「晴明、そこに居たのか。」「博雅、いい所へ来た。」「その者達は?」「話はあとだ。まずは、怪我人を邸で手当てせねば。」「あぁ、わかった・・」 鎌倉の世と平安の世に生きた二人の陰陽師は、こうして紅い月に導かれる様にして、出会った。その出会いが、二人の運命を変える事になろうとも、この時の彼らには知る由もなかった。にほんブログ村
2024年01月24日
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何とも後味が悪い事件でした。
2024年01月23日
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究極の「悪」を目撃した少年達は、どう行動するのか。正義と悪との戦いは単純なものではなく、それぞれの正義をもった者の戦いだと。タイトルの意味がわかったとき、腑に落ちました。
2024年01月23日
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何とも摩訶不思議な作品でした。
2024年01月23日
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素材は、湯弐様からお借りしました。「火宵の月」「ツイステッドワンダーランド」二次小説です。作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。有匡様が闇堕ちする描写が含まれます、また一部暴力・残酷描写有りですので苦手な方はご注意ください。リドルの横暴ぶりにハーツラビュルの寮生達が彼に反旗を翻し、激昂したリドルがオーバー=ブロット、所謂“闇堕ちバーサーカー”状態に陥ってしまった。精神崩壊は何とか免れたが、リドルの意識はオーバー=ブロットして数日経っても戻らなかった。「このままだと、リドルの生命が・・」「医療の力には限界がある。」「失礼。」有匡はそう言うと、リドルの額に手を当てた。(微かに生気を感じる。)「なぁ、何か手はあるのか?」「彼の精神下に潜る。」「何ですって!?他人の魂の中に入るなんて、どんなに修業した魔法士すら無理だと言うのに・・」「一か八か、やってみないとわからないでしょう。」有匡はそう言った後、祭文を唱え、リドルの精神下に潜入した。そこで見たものは、母親に生活の全てを管理された、リドルの心の叫びと、深い孤独だった。―友達が、欲しいだけなのに。「友達なら、お前の帰りを待っている。」―本当?「あぁ、だから帰ろう。」有匡は、そう言って小さなリドルの手を握った。「ん・・」「リドル、良かった!」「監督生、凄ぇ!」リドルの命を救った有匡は、オンボロ寮へと引っ越す事になった。「ここか。名の通り、古いな。」そう言いながら数少ない荷物をオンボロ寮へと有匡が運び込むと、そこには先客が居た。「お前、ここは俺様の部屋なんだゾ!」寝室に居たのは、尻尾が鈎型をした猫だった。「俺様はグリム、さっさとツナ缶を寄越すんだゾ!」「黙れ。」「フナァ~!」こうして、有匡と奇妙な猫・グリムとの共同生活が始まった。「おはよう監督生!」「また、お前達か。」朝食を取りに大食堂へと向かった有匡は、そう言ってエースとデュースを見て溜息を吐いた。「なぁ監督生、オンボロ寮にはゴーストが居るんだろう?」「あぁ、うるさいから黙らせた。」「え・・」昨夜、有匡が寝ようとしたらゴーストたちが騒いだので、“力”をぶつけて彼らを黙らせた。「寮長の様子はどうだ?」「オバブロする前より少し丸くなったかなぁ。」「そうか。」「あ~、もうすぐ期末テストかぁ~。」「期末テスト?」「監督生はその様子だと余裕なんだろうな。」「は?わたしは受けんぞ。下らん試験よりも、大切な事を・・」「いけませんよ~、いくら魔力が高いからって、わたしはあなたを特別扱いしませんからね。わたし、優しいので!」(下らん、何が試験だ。)そう思いながらも、有匡は期末テストで全学年2位の成績を取った。―誰か、助けて・・闇の中から、誰かの声がした。有匡が目を開けると、そこには助けを求める火月の姿があった。「火月!?」―先生、助けて!自分に向かって手を伸ばそうとした火月の手を有匡が掴もうとした時、彼は夢から醒めた。(あれは、一体・・)「おはよう子分・・って、お前その髪どうしたんだゾ!?」「は?」グリムからそう指摘され、有匡が鏡を見ると、自分の髪が紅くなっている事に気づいた。「うわ、どうしたんだよ、その髪!?」「リドル寮長よりも真っ赤じゃん!」そう言ったエースとデュースの頭には何故かイソギンチャクが生えていた。「お前達、それは何だ?」「え~と、これには深い理由があって・・イテテ!」二人が急に痛みを訴えたので、有匡が怪訝そうに周囲を見渡すと、頭にイソギンチャクが生えた生徒達がある場所へと吸い込まれるかのように、ぞろぞろと大食堂から出て行った。「ここは?」「各寮に繋がる鏡舎だ。うわ、みんなオクタヴィネルの方へと引っ張られていく!」「おい!」 エース達に腕を掴まれ、有匡はオクタヴィネル寮へと足を踏み入れた。(何だ、ここは?まるで海底に居るかのような・・)有匡がそう思いながら水槽を眺めていると、水面に紅玉の耳飾りが光ったような気がした。にほんブログ村
2024年01月22日
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「火宵の月」二次小説です。作者様・出版者様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。その日、火月は運命の出会いをした。それは、スケートリンクで行われた体験教室での事だった。「皆さん、今日は素敵な先生に来て貰いました!土御門有匡さんです!」流れるように火月たちの前に現れたのは、世界王者の土御門有匡だった。美しく艶やかな腰下まである黒髪をポニーテールにし、碧みがかった切れ長の黒い瞳をした彼を一目見た瞬間、火月は彼に一目惚れした。「火月ちゃん、どうしたの?」「先生、僕、あの人のお嫁さんになる!」その日から、火月はスケートに精を出すようになった。「火月、頑張っているわね。」「あのね、将来、オリンピックで金メダルを獲りたいの!」「まぁ、素敵な夢ね。」両親は、火月の夢を子供の戯言だと思っていたのだが、彼は彼女が本気でオリンピックを目指している事を知り、全力で娘を応援するようになった。火月はジュニア女子で数々の好成績を残し、金髪紅眼の愛くるしい容姿故に、周囲から“生きた宝石”と呼ばれていた。火月が銀盤で頭角を現している頃、有匡はスランプに陥っていた。原因は、左耳が聴こえ辛くなった事だった。その所為で、ジャンプやステップのタイミングがずれてしまう。耳鼻咽喉科の名医に診て貰った所、突発性難聴と診断された。「それは、すぐに治るのですか?」「いいえ・・今の所、治療法が見つかっていませんので、何とも・・」その診断を受けたのは、オリンピックを半年後に控えた時だった。半年後、有匡は平昌五輪で四大会連続金メダルを獲得し、選手として引退することを発表した。「そんな、嘘でしょ・・」有匡が選手として現役を引退したニュースを知った火月は、スマートフォンの画面から暫く釘付けになった。「火月ちゃん、そろそろ時間よ。」「は、はい!」火月はコーチから呼ばれて、スマートフォンをジャージのポケットにしまうと、慌てて更衣室から出ていった。「さぁ、行ってらっしゃい!」「はい!」今日は、火月にとって特別な日だった。シニアデビューを飾る世界選手権大会で、火月は入賞も出来なかった。「はあ・・」女子トイレの個室で何度目かの溜息を吐いた後、火月はバンケットの会場となるホテルの宴会場に入った。すると、宴会場の注目を集めている世界女王の隣に居る有匡と火月は目が合った。(え、嘘でしょ!?)憧れの人を前に、火月はまるで金縛りに遭ったかのようにその場から動けなかった。気を紛らわす為に、火月は会場の隅でシャンパンをチビチビと飲み―泥酔してしまった。「え・・」気が付けば、火月は有匡とタンゴを踊っていた。「ふ~ん、鉄面皮だと思っていたのに、あんな顔するんだね。」そう呟いた有匡の妹・神官は、脳裏を一瞬前世の記憶が掠めたような気がした。(ま、アリマサはカゲツの事、憶えているのかな?)有匡と神官の共通点―それは、前世でも今世でも実の兄妹だという事だった。二人には、前世の記憶があった。にほんブログ村
2024年01月22日
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※BGMと共にお楽しみください。「火宵の月」二次小説です。作者様・出版社様とは関係ありません。二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。「鬼だ、鬼が来たぞ!」「逃げろ~!」いつものように近所の子供達から石を投げられ、火月が泣いていると、そこへ一人の少年がやって来た。「大丈夫か?」「はい・・」「僕がお前を守ってやるから、もう泣くな。」そう言って彼は、火月の涙を優しく拭ってくれた。それが、土御門家の嫡子・有匡との出会いだった。有匡も火月も、異人との間に産まれた混血児だった。それ故、周囲の者達からは、鬼だの妖だの化猫だのと言われ、迫害を受けていた。「まぁ宮様、どうなさったのです!?」「少し、転んだだけ。」乳母の菊は火月が嘘を吐いている事に気づいた。「さぁ、お召し替えをなさいませんと。」火月は、菊に髪を梳いて貰いながら、有匡と再会できたらいいなと思っていた。同じ頃、有匡は病床の父・有仁を見舞っていた。「父上、お加減は如何ですか?」「調子はいい。有匡、お前に渡したい物がある。」「父上、これは・・」有仁が有匡に手渡した物は、自分の前から姿を消した母の懐剣だった。「いつかお前に、大切な人が出来たら、この懐剣をその者に渡せ。」「父上・・」「有匡、お前だけは幸せに・・」「父上~!」土御門家十四代将軍・有仁が逝去した事により、有匡は時期将軍として江戸城で暮らす事になった。「有匡様、もう会えないのですか?」「そんなに悲しまないで。生きていれば、きっとまた会えるから。」自分と別れるのを嫌がる火月に、有匡はそう言うと、彼女の髪に赤い薬玉の簪を挿した。「また、会おう。」それから、十年もの月日が流れ、火月は成人を迎えた。「姉様、ご結婚おめでとうございます。」「ありがとう。でも、あの方は冷たく、少し粗相をしただけでも家臣を斬ってしまう程恐ろしい方だとか・・」火月の姉・絢は、有匡との婚儀を一月後に控えたある日、失踪した。「何という事でしょう、このままでは・・」「火月様、お館様がお呼びです。」「はい・・」火月は、父から、失踪した姉の代わりに、有匡の元へと嫁ぐ事を命じられた。「宮様、よろしいのですか?」「何をそんなに悲しがっているの、菊?僕が有匡様・・先生の妻になれるなんて、嘘みたい。」火月はそう言いながら、袱紗に包まれた赤い薬玉の簪を見た。 それは、幼い日に有匡から贈られた物だった。(また先生と昔みたいに一緒に居られる!)こうして、火月は有匡の元へ嫁ぐ事になった。京を発った火月の花嫁行列が江戸へ向かっている頃、有匡は弓を射っていた。「お見事です、上様。」「そなたは?見ない顔だな。」「お初にお目にかかります、この度老中に任命されました、阿部定春と申します。」「へぇ、あんたが新しい老中?あの親父と全然似てないね。」有匡と阿部の間にそう言って割って入って来たのは、一人の少女だった。「艶夜、ここへ何しに来た?」「別にぃ、大奥が退屈だから、こっちに来ただけ。何かさぁ、滝山あたりがカリカリしてんだよね。輿入れの事で。」「輿入れというと、京から・・」「あいつら、必死になってその宮様に対抗心燃やして馬鹿みたい。アリマサの寵愛なんて、一緒得られないのにね。」有匡の妹・艶夜こと神官は、そう言うと笑った。「絢宮様は、大変気立てが良い方だとお聞きしています。」「ふ~ん、それじゃぁあいつらに虐め殺されるのがオチだね、可哀想に。」「口を慎め。」「まぁ、その宮様、神官が可愛がってあげるから、心配しないで。」神官は、そう言うと笑った。「あの、あの方は・・」「あいつは、長年生き別れていた妹だ。百戦錬磨の滝山も、あいつには敵わないらしい。」京を発ってから一月後、火月は有匡との婚儀の日を迎えた。「宮様、こちらへ。」「は、はい・・」婚礼装束である十二単姿の火月が婚儀の場に現れると、周囲はその美しさにどよめいた。―あれが・・―絢宮様・・暫くして、直衣姿の有匡がやって来た。(あぁ、漸く会えた・・)火月がそう言って有匡を見ると、彼は氷のような瞳で火月を睨むと、彼女にそっぽを向いた。(え・・)一瞬何が起きたのか、火月は信じられなかった。(この人が、僕に優しくしてくれた先生?まるで、別人みたい。)有匡と婚儀を終えた後、火月は大奥に入った。「お初にお目にかかります、御台所様。わたくしは大奥総取締役の、滝山と申します。」嫉妬と欲望、愛憎渦巻く大奥という茨の海の中に、火月は放り込まれた。「へぇ、あんたアリマサの嫁?偽物の癖に可愛いじゃん。」神官はそう言うと、口元に笑みを閃かせた。にほんブログ村
2024年01月21日
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2017年からコツコツと、足掛け約7年位書いていた薄桜鬼と火宵の月のクロスオーバーパラレル二次創作小説「想いを繋ぐ紅玉」、漸く完結させました。この作品を書くきっかけは、昔書いてデータごと誤って削除してしまった「瑠璃色浪漫譚」のリメイク版として書き始めました。しかし、書いている内に薄桜鬼とのクロスオーバーにしたら面白いのではないのかと思い、有匡様と火月ちゃんが純血の鬼設定で書いていったら・・と、ある程度構想が固まった所で書き始めました。全40話で終わらせるつもりが、色々と書きたい事が多過ぎて、全54話となりました。大学ノート三冊分の長編二次小説を漸く書き終えて良かったという思いと、もうこの物語を書くことが出来ない寂しさに襲われたりしていますが、無事完結出来て良かったです。最終話まで読んでいただいた読者の皆様、ありがとうございました。2024.1.20 千菊丸
2024年01月20日
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戸籍から自分のルーツをたどるミステリー、面白かったです。
2024年01月20日
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