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第52回泉鏡花文学賞に、原田マハさんの「坂上に咲く」が選ばれました。原田マハさんファンとしてもにうれしい所ですが、この「坂上に咲く」は半年ほど前に読んで特に素晴らしい作品と思いましたのでご紹介させていただきたいと思います。原田さんの作品は、映像化されている「キネマの神様」や「総理の夫」「本日は、お日柄もよく」など軽い調子で楽しく感動的な作品も多いのですが、いわゆる「アート小説」と言われる作品も読みごたえがあって、芸術家の素顔や美術にまつわる話題を知ることができ、読書が美術体験につながるという、私にとってとても貴重な作品たちです。元美術館のキュレーターだったという原田さんの経験が生きていますね。そんなアート小説の最新作「坂上に咲く」(2024年3月発行)は、昭和の大版画家である棟方志功氏の半生を妻のチヤの目を通して語られる物語になっています。チヤと志功の出会い、夫婦となり極貧の中でのゴッホを目指して突き進む志功とそれを支えるチヤ、そして志功の才能を見出して支援してくれる人たちの優しい気持ち。棟方志功氏を取り巻く人々と逆境にも負けずに夢を目指す夫婦の暮らしを優しいタッチで描いていきます。一つの才能が世に出るのには、多くの人たちの理解ある支援と本人の折れない強い心が必要だとつくづく感じました。感動の一作です。作品中の会話には、青森弁が多く出てきますが、決して分かりにくくはなく登場人物の雰囲気が良く出ていて好感が持てました。ネットの評判を見ると、渡辺えりさんが朗読した「Audible版」がすこぶる評判がいいようです。私も「Audible版」をちょっと聞いてみたくなりましたので、初Audibleにチャレンジしてみようと思います。
2024.10.08
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最近、東野圭吾さんの作品をずっと読んでいなかったのですが、突然読みたくなって「希望の糸」という作品を手に取りました。「希望の糸」については事前の知識がないまま読み始めたのですが、読み始めてから阿部寛さんのドラマで有名な加賀恭一郎シリーズ作品と気が付きました。加賀恭一郎シリーズでは「嘘をもう一つだけ」という短編集しか読んだことがありませんでしたが、その時はその作品に短編の限界を感じて私としてはあまりピンとこない感じでした。その後、加賀恭一郎シリーズは全く読んでいません。今回読んだこの作品は、加賀恭一郎がメインではなく従弟の刑事松宮脩平が主人公になって話が進んでいきます。親子・夫婦の繋がりと愛情をテーマにした作品で、事件の謎解きを楽しむようなストーリーではありません。それだけに、登場者の心理描写が重要な位置を占める重厚な作品に仕上がっています。震災で二人の子供を亡くした夫婦の再生の物語、松宮脩平の出生の秘密にかかわる物語、喫茶店を経営している女性が被害者となった殺人事件、被害者の元夫の家庭、とバラバラに描かれる物語が後半で一気に収束していきます。そして多くの疑問点が繋がりながら回収されていきます。この展開は見事というしかありません、さすが東野圭吾さんです。間違いありません!ミステリーというよりもヒューマンドラマと言った方が当たっているかもしれません。作品の後半からは一気に読み進め、止まることができませんでした。そしてラストは、あの「容疑者Xの献身」に匹敵するほどの感動が待っていました。号泣です。加賀恭一郎がちょい役でしか登場しない加賀恭一郎シリーズですが、傑作ですね!今までこのシリーズ、読んできませんでしたが読まないとだめですね。希望の糸 (講談社文庫) [ 東野 圭吾 ]
2024.09.09
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半年ほど前に、新聞の書評欄で、女性お笑い芸人ヒコロヒーの処女作を、サラダ記念日で有名な歌人の俵万智さんが絶賛しているのを読んで俄然興味を持ちました。ヒコロヒーさんと言えば、ちょっとクセのある視点で作られたお笑いネタが秀逸で、気になる芸人の一人なので、どんな作品ができたのかと読むのを楽しみにしていました。作品は、10ページ程度の短編が18篇とあとがきで構成されています。ほとんどが男女間の恋愛を描いたものです。交際前の二人、交際中、別れる前、別れた後など様々なシチュエーションの恋愛模様が書かれています。かなり短めの短編ではあるし、複雑な設定もないので、とても読みやすくすきま時間に読む本としては最適ではありますが、ちょっと私の予想とは違いヒコロヒーさんらしい毒がありません。どんでん返しや読者の予想を裏切る展開もありません。「普通の恋愛小説じゃん!」というのが私の感想です。著者がヒコロヒーさんという事で過剰に期待してしまったようです。色々なタイプの恋愛を題材にしていることで、読んで飽きることはありませんでした。恋にあこがれる女性の作品かな、と感じられるような内容でした。けっしてレベルが低いというわけではないのでしょうが、残念ながらあまり感動はありませんでした。この作品で感動するには、歳をとりすぎてしまったようです。最後にあとがきで、この作品を書いたいきさつや作品のタネアカシが書かれていますが、ヒコロヒーさんの正直な思いがわかって腹落ちした感じでした。黙って喋って [ ヒコロヒー ]
2024.09.03
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今年の直木賞の候補になり惜しくも受賞はできませんでしたが、「本格ミステリ大賞」や「日本推理作家協会賞」「山本周五郎賞」とトリプル受賞して話題の作品の「地雷グリコ」を読んでみました。著者は「水族館の殺人」や「図書館の殺人」などで人気のミステリー作家、青崎有吾さんです。「地雷グリコ」という奇妙な題名が表わすように、チョッと変わった小説です。ミステリーと言えばミステリーなのでしょうが、殺人事件は起こらないし、犯人も探偵も出てきません、高校生の学園生活の中で繰り広げられるゲームの実況がメインになっています。しかも、そのゲームと言ったらパソコンやスマホのゲームではなく伝統的でアナログなゲームばかりです。しかし、そのゲームにはひとひねりしたルールが追加されていて、そのひと手間がゲームを複雑にしていて、相手の戦略や感情を読みあうという面白味を出しています。例えば、表題の「地雷グリコ」では、グー・チョキ・パーで勝った人がグリコ・チヨコレイト’・パイナツプルと言って階段を登るゲームに、お互い好きな位置に地雷を仕掛けることができるというルールが加わります。地雷を踏んだら10段下がらなければいけません。このルールが加わるだけで、俄然難易度が増しお互いの戦略の探り合いになります。数学的な思考も加わって物語が進むので、理系の人には好物になるかもしれません。主人公は、都立頬白高校(ほおじろこうこう)一年女子の射守矢真兎(いもりやまと)、ちょっとぼんやりしているようだけど勝負にはめっぽう強い変わった女の子です。親友の鉱田ちゃんが語り手として物語は進みます。見方によっては学園青春小説と言えるかもしれません。真兎ちゃんと鉱田ちゃんの関係を見ていると何だか「成瀬は天下を取りに行く」の成瀬と島崎を思い出してしまいました。「地雷グリコ」「坊主衰弱」「自由律ジャンケン」「だるまさんがかぞえた」「フォールーム・ポーカー」「エピローグ」の6つの章で構成されていますが、「エピローグ」を除く各章に斬新な仕掛けのゲームが登場し、対戦の面白さを楽しむことができます。作者の青崎有吾さんのは創造力の素晴らしさを感じます。地雷グリコ(1) [ 青崎 有吾 ]出版社の宣伝では「究極の頭脳戦小説」と表現していますが、まさに頭脳戦です。この小説、一気に読んでしまいましたが、さすがに私の頭脳も疲労困憊気味になりました。確かに痛快で面白い小説ですが、頭を休めながら読んだ方がいいのかもしれません。
2024.08.28
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原田マハさんの「キネマの神様」、15年程前に発行されたチョッと古めの作品なのですが、まだ読んでいなかったので読んでみました。この作品、3年ほど前に山田洋次監督によって映画化されたことは知っていましたが、個人的に主演の沢田研二さんが少々ニガテなため観るのを躊躇していました。そして恥ずかしながら、最近本屋さんでこの本を目にしたときこの作品が原田マハさんの作品であることを初めて知りました。原田さんの作品は今年既に3冊読んでいて、いずれも良い印象を持っていましたのでさっそく読んでみることにしました。マンションの管理人をやっている映画好きだがギャンブル依存症で借金まみれの親父と、一流企業をやめることになり映画誌出版社に就職することになった娘の物語でした。主な登場人物はみんな映画好き、そしてみんなが協力して「キネマの神様」というブログを立ち上げ、そのブログを中心に物語が展開していきます。読む前に想像していたストーリーとは全く違っていて予想を覆されました。チョッと都合がよすぎる展開とも思えましたが、問題が発生したり解決したり、又々問題が発生したりと最後まで飽きさせない構成に原田さんらしさを感じさせられました。親父の日記やブログの記事、ブログのコメントに懐かしい映画たちの評論が出てきます。映画を観ているような映像描写や映画への思い入れが溢れていて、この部分を読んだだけで原田さんの映画愛をたっぷり感じられます。文章は平易で読みやすくあっという間に読み終えてしまいました。最初はご都合主義の軽い読み物と、軽く侮りながら読み進めたのですが、読んでいるうちに映画愛溢れるこの作品をとても楽しく感じながら読んでいました。最後にはなぜか涙をイッパイ流しながら読み終えました。悲しみの涙でも感動の涙でもなく楽しみの涙だったようです。読後感は爽やかで最高です。自分が映画ファンで良かったと感じさせてくれる作品でした。この作品には色々な映画が出てきますが、「改めてもう一度観てみよう!」と思います。特にラストに出てくるあの名画は絶対に!キネマの神様 (文春文庫) [ 原田 マハ ]お帰り キネマの神様 (文春文庫) [ 原田 マハ ]
2024.07.01
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最近映画化もされ、結構話題になっている「変な家」という小説を読んでみました。「雨穴(うけつ)」さんというインターネットを中心に活動し、YUtuberとしても活躍しているホラー作家の方が書かれた作品です。私はあまりよく知らなかったのですが、この作品、最初は「オコモロ」というWEBメディアで発表されその後すぐにYoutubeで雨穴さん自身が出演している動画が公開され人気となったようですね。昨日Youtubeを見てみたら 2,223万回という凄まじい再生回数になっていました。WEB発表の翌年の2021年7月には小説版が発売され大人気になりました。本屋さんで「この表紙よく見るな」と思っていたら、2023年に最も売れた小説になったそうです。特に学生や20代の若者に人気があるみたいですね。さてこの作品、内容はどんなものなんでしょう?Youtube で公開されている動画部分を第1章として、全部で4章の構成に膨らませた作品になっています。筆者の知人の柳岡さんから、変な間取りの家が売りに出ているが買うべきかどうか迷っているとの連絡があり、知人で建築設計士の栗原さんに相談し変な家の秘密を解いていくという内容でした。間取りをこのように扱ったミステリという事で、新しさもあり面白く読める作品です。謎を解いていくと、意外な方向にどんどんと話は広がっていき、変な間取りの家は最初に相談された1軒だけでなく、全部で3軒の変な家が現れます。そして徐々に、横溝正史風のおどろおどろしい因習とオカルトっぽい話になっていきます。(それほどヘビーではないのですが)話が込み入っていて登場人物もそこそこ多い割には、わかりやすくしっかりと頭に入ってきました。ミステリーにはありがちな「ご都合主義」と「推論」が幅を利かせすぎな感じは否めませんが、サラッと2~3時間程度で読めるので、スキマ’時間に楽しむには最適の一冊かもしれません。変な家 [ 雨穴 ]話題に乗り遅れないように読んでおくべき作品かもしれませんね。
2024.05.17
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「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」、2年以上前に発売された本なので新しい本ではありませんが、何かと話題の作品なので読んでみました。主に英米文学の文芸評論家として活躍されていた川本直氏の小説デビュー作だそうです。デビュー作で読売文学賞など多くの賞を受賞して話題になった作品です。ちょっとネタバレでご紹介します。妖しげな表紙が印象的で、猥雑感が漂っています。思った通り、いきなりキワドイ描写から始まってビックリです。このお話は20世紀のアメリカ文学を中心に活躍した人たちがたくさん登場しますが、虚実入り混じった内容に何が事実で何が虚構か、誰が実在の人物で誰が創作上の人物か判然としません。アメリカ文学に詳しくない私にとってはネットで確認しながらの読書となりました。アメリカ文学史上最もスキャンダラスな作家のジュリアン・バトラーの一生を、陰で支えてきた友人で作家・評論家のジョージ・ジョンが書いた最後の作品「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」を川本直氏が翻訳して出版、というていで書かれています。そのこだわりは徹底していて、時代背景や登場者の交友関係そして最後の参考文献の資料まで緻密に矛盾なく構成されています。最初に訳者前書きを川本氏が書いている所から虚構は始まっているのがとても面白いと思いました。本文も外国文学の翻訳調でその気にさせてくれます。全体を通して、細かな会話やちょっとした事件、彼らの書いた作品の内容などが綴られていて冗長な感じがしないでもありません。読書マニアにはたまりませんが、苦手な人もおおいのでは?と感じました。全部で380ページほどのボリュームで読み応えがあるのですが、最後の80ページ程が訳者のあとがきになっています。ここでこの作品で何を表現したかったのかを集約しているような気がします。本文を読み進めている間は気が付かなかったことも、ここで明らかになり満足感をもって読み終えることができました。なかなか難しい作品なのですが、読後の充実感はずっしりと感じます。私は、毎日100ページづつ楽しみながら読み進めましたが、読み終えたら何だか寂しくて、もう一度初めから読み直してみたいという欲求がわいてきています。読書好きなら、是非読んでみるべき作品と思います。ジュリアン・バトラーの真実の生涯
2024.04.29
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基本的には若者向けの作品だと思われる「成瀬は天下を取りにいく」を、年甲斐もなく読んでみました。昨年この本が発売されると瞬く間にスゴイ評判になりましたね。私もどんな作品か興味津々で、私の読書予定リストに入りました。とにかく前向きで気持ちのよい作品です。主人公の「成瀬あかり」はどこまでもまっすぐなポジティブ・シンキング。勉強も運動も美術も手品もけん玉も全力で取り組みます。元々能力が高いので、すべて完璧にやりこなします。周りの人達は、そんな成瀬を敬遠がち。でも成瀬は全然気にしないでマイペース。幼なじみの「島崎みゆき」は、迷惑がりながらもいつも成瀬の挑戦につきあわされてしまいます。小学校5年生から高校3年生までの成瀬を中心とした、友達との交流や生活を綴った青春小説です。成瀬の並外れた思考と行動力、それに振り回される友人達がコミカルに描かれています。でも、このまっすぐさとポジティブ・シンキングは絶対に見習うべきです。私はこういう人、大好きです。ついつい応援したくなります。あまり深く考えなくても読めますし、落ち込んだときも元気が出そうです!続編「成瀬は信じた道をいく」も、読まなくては!成瀬は信じた道をいく/宮島未奈【3000円以上送料無料】
2024.04.04
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2009年の第140回直木賞を受賞した山本兼一さんの歴史小説「利休にたずねよ」、今さらですが読みました。読みたいとは思っていたのですが、何故か今日まで読んでいませんでした。全く予備知識のない状態でページを開いたところ、まずは章の多さにビックリ、全部で24章もあります。まるで短編小説集のようです。そして、いきなり利休切腹の日から始まります。この先の展開はどうなってしまうのかなと思い読み進めると、次の章は切腹の前日、次は15日前と徐々に時間をさかのぼって行くという仕掛けになっています。チョッと見たことのない構成ですね。この形式で作品が成立するのかなと思いながらも、その一章一章が興味深く読むのを止められません。どうやら、利休と関係のあった人達とのエピソードを通して利休という人間を深く描き出そうとした作品のようです。一章ごとに、秀吉・細川忠興・徳川家康・石田三成のようなサブタイトルが付けられていて、その人との交流エピソードが静かに落ち着いた調子で語られて行きます。それぞれの章が約20ページ程度という、隙間時間にもちょっと読めてしまう量と読みやすい文体で、読書するのが楽しく感じられます。この短編集のような作品を通じて、今まで私が利休に抱いていたイメージが覆されましたし、どうして利休が後世にまで名を残したのかが分かった気がしました。時間をさかのぼりながら、その時々の交流エピソードを連ねていくという構成は、果たして成功しているのでしょうか?しっかり成功しています。利休の思い、周りの人々の思い、そして利休切腹の謎など、利休に関する疑問に対する一つの解答をもらった気がします。読みやすいのに、読み応えのある良い作品でした。利休にたずねよ (文春文庫) [ 山本 兼一 ]
2024.04.02
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何故、この本を読もうと思ったのかはっきりと覚えていません。きっとどこかで、書評を見たんでしょうね。小田雅久仁さんの作品とは初対面になります。小田さんは「残月記」で数々の賞を受賞したそうで興味津々ですが、私はまだ読んでいません。この「禍」という作品、表紙を見ただけで気味悪さが漂っていますが、内容もかなり衝撃的で驚かされました。七つの短編で構成されているのですが、どれもが体の部分をモチーフとした悪夢のような身の毛もよだつ作品集です。最初にページを開くと、20行X44字の1ページがほとんど改行無く文字で埋め尽くされています。見ただけで重さがじわっと感じられます。ページ数の割に文字量が多くズッシリとした読みごたえを感じます。題名とモチーフの関係は次のようになっています。 ・食書 → 口 ・耳もぐり → 耳 ・喪色記 → 目 ・柔らかなところへ帰る → 肉 ・農場 → 鼻 ・髪禍 → 髪 ・裸婦と裸夫 → 肌どの作品も不条理な展開・想像を超える展開で頭の中がパニックになりそうです。これはいったいホラーなのでしょうか、SFなのでしょうか、ミステリーなのでしょうか、ジャンルも決められません。気持ちの悪さに途中でやめようかと思っても、なんだかやめられない魅力も持っています。ほとんどの作品が、ハッキリとした結末らしいもの(オチ?)も無いのですが印象に残る作品ばかりです。私としては「食書」と「耳もぐり」「裸婦と裸夫」あたりが「いいかな」と思ってます。読後感はあまり爽快なものではありませんし、ストーリーもついていけない人もいると思いますので万人に進められる作品ではないと思いますが、たまには「怖いもの見たさ」でこんな作品も面白いと思いますよ!禍 [ 小田 雅久仁 ]
2023.11.08
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今村翔吾さんの「教養としての歴史小説」という、なんだか研究論文の様な題名の本を読んでみました。今村翔吾さんといえば、「塞王の楯」で直木賞を受賞したほか吉川英治文庫賞や山田風太郎賞など数多くの賞を受賞している人気作家です。最近ではテレビでもコメンテーターとしてちょくちょく見かけますね。私としては半年ほど前に「じんかん」という、戦国時代の大悪人、松永壇上少輔久秀(まつながだんじょうしょうゆうひさひで)の一代記を読んでファンになった小説家です。(「小説「じんかん」 戦国時代の大悪人の本当の姿は?」)「教養としての歴史小説」ってどんな内容が書いてあるのか気になりますね。ザっと目次を確認してみましょう。 序 章 人生で大切なことは歴史小説に教わった 第1章 歴史小説の基礎知識 第2章 歴史小説が教える人としての生き方 第3章 ビジネスに役立つ歴史小説 第4章 教養が深まる歴史小説の活用法 第5章 歴史小説を読んで旅行を楽しむ 第6章 歴史小説 創作の舞台裏 第7章 教養としての歴史小説ガイド題名は研究論文的なのですが、内容は歴史小説を楽しむ方法や、歴史小説を読んで生活を豊かにする考え方が書かれたエッセイのような感じの本でした。肩肘を張らずに気軽に読める内容で、歴史小説を今まであまり読んでいなかった人にも歴史小説を楽しむコツやお勧め本などが書かれていて結構楽しめる内容でした。歴史小説を通じて、歴史だけでなく地名だったり風習や芸術・食・建築物など教養を深める読み方も書かれてて、なるほどと感じることも多かったです。どちらかというと、私は歴史小説好きの仲間に入ると思うのですが、歴史小説好きから見れば目新しさという点はあまり感じませんでしたが、納得する点ばかりで楽しく読書できました。しかし、今村さんの「歴史小説愛」がスゴイ!小学校5年生で「真田太平記」全16巻をわずか35日で読破した歴史小説との出会いエピソードもすごいのですが、その後のあまりの読書量で読む本が無くなってしまうのではないかという不安から小説家になって歴史小説を書こうとしたという志望動機エピソードもすごいですね。最後に世代別代表作家のお勧め本も載っていて、偏りがちになりやすいい読書習慣の見直しにもいいかもしれません。私ももっと幅広く読んでみたいという気になりました。読書週間のガイドに良いかもしれませんね!教養としての歴史小説 [ 今村 翔吾 ]
2023.11.07
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Amazon Prime Video で映画「億男」をを見つけました。「億男」は前々から小説を読んでみたかったのですが読んでいませんでした。映画が公開された時も観てみたいと思ったのですが、観ていませんでした。せっかく見つけたので映画を先に見てみることにしました。佐藤健さんと高橋一生さんが出演する映画で、最後まで楽しんで観られました。3,000万円の借金を残して失踪した兄の肩代わりをしたため、借金返済のためダブルワークで疲れ切っている一男に3億円の宝くじが当たったが、宝くじに当選して不幸になった人たちの話ネットで目にし不安に駆られ、学生時代の親友でベンチャー起業で大金持ちになった友人の九十九にお金の使い方のアドバイスをもらいに行くが、酔いつぶれて寝ている間に全額を持ち逃げされてしまう。一男は九十九の行方を追うために、九十九の解散した会社の仲間を訪ねていくという物語でした。話はそこそこ面白かったのですが、時間が前後して話が進む所もあって冒頭部分は少々わかりにくかったのが残念な所です。又、上映時間2時間の制約のためか、説明不足な点も多々あって?マークがついたまま終わったエピソードもいくつかありました。そして、この映画のメッセージは「変わらぬ友情」なのだと感じました。映画を観終わって、さっそく次は小説を読んでみました。小説は、ほぼ時系列に話が進んでいくのでとても分かりやすく物語が頭に入っていきます。映画で疑問に思っていた点も、しっかりと書かれています。・どうして九十九の所に行ったのか?・どうして落語の「芝浜」を九十九が演じたシーンが描かれていたのか?・どうして会社仲間の十和子は、質素な生活をしているのか?・どうして会社仲間の百瀬はいまだに競馬をやっているのか?・妻の万佐子は一男に何を求めているのか?などなど、映画であいまいだった点がすっきりと解決されました。なにより、エンターテイメント目線で描かれていた映画と違い、小説はどちらかというと純文学的な心の葛藤描写を主にする考えさせる作品でした。この小説のメッセージは「お金と幸せの答え」であり、それぞれがそれぞれの「お金と幸せの答え」を考えて生活すること、なのではと思いました。そして、落語「芝浜」が何回も出てくるところを見ると、現代版「芝浜」を書きたかったのかなとも感じました。映画も小説もエンディングは若干違いますが、どちらもさわやかなシーンで終わります。今回は、映画→小説の順に「億男」を体験しましたが、この順が正解だったような気がします。どちらも、充分楽しんで体験できたので。億男 (文春文庫) [ 川村 元気 ]
2023.10.10
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1週間ほど前、我が家で購読している地元新聞の1面コラムに、文化庁の国語世論調査に関連して原田マハさんの「本日は、お日柄もよく」の内容を紹介しスピーチの常套句と感動的なスピーチについての記事がありました。このコラムを読んで、俄然この作品に興味がわいてきました。原田マハさんの作品は読んだことがなかったので、この際良い機会だと思って読んでみることにしました。この作品は、2010年発表された原田さんの比較的初期の作品のようです。物語は、主人公の二ノ宮こと葉がいとこの厚志の結婚披露宴に出席している場面から始まります。「本日は、お日柄もよく・・・」で始まる来賓のスピーチがあまりに退屈で眠気を誘うのと睡眠不足がたたってついつい居眠りをしてしまい目の前のスープに顔を突っ込んで恥をかいてしまいます。披露宴も進み、ある女性がしたスピーチのあまりの素晴らしさに感動したこと葉は、女性が誰なのか気になり調べると「伝説のスピーチライター」の久遠久美ということがわかります。スピーチライターとは何かを知らないまま、こと葉は久遠久美に近づきついには弟子入りしてしまします。その後、こと葉の人生は二転三転し大団円に向かいます。抱腹絶倒であり涙も感動もあり、とっても楽しい作品でしたが、この作品を通じて良いスピーチとは何かを学ぶことができました。なによりもこの作品に出てくる数々の名スピーチは確かに参考になります。言葉の持っている力をうまく使う事の大切さを思い知らせてくれます。読み始めたら、あっという間に読んでしまえる読みやすさと、暖かい気持ちにさせてくれる読後感がとっても良い作品です。読書の秋にお勧めの一作です。本日は、お日柄もよく (徳間文庫) [ 原田マハ ]
2023.10.08
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先日、阪神タイガースがセ・リーグ優勝を決め、パリーグはオリックス・バッファローズが優勝しそうな勢いですね。そのままオリックスが優勝し、両優勝チームがクライマックス・シリーズを突破したら、59年間前の阪神・南海線以来の関西対決になると話題になっていますね。こんな状況を見ていたら、突然はるか昔に読んだ「決戦・日本シリーズ」という小説を思い出しました。1974年に発表され、1976年に早川書房から短編集として出版された「かんべむさし」さんの捧腹絶倒のドタバタ小説です。阪神と阪急のリーグ優勝後の日本シリーズ対決を想定して、その騒乱模様を面白おかしく書いています。阪急といえば現在のオリックスの元球団ともいえますので、今年の状況とダブりますね。(現在のチームカラーやファン気質は違うとは思いますが)思い出した途端、あの作品を読んだ楽しさも思い出してもう一度読んでみたくなりました。家の本棚を探してみましたが、どうやら処分してしまったようで見つかりません。そてではと、Amazonのkindleにあるか検索してみたら、ありました。しかも、kindle unlimited の会員なら無料でレンタルできる対象作品になっていました。さっそく、タブレットにダウンロードして読み始めました。物語は、主人公「俺」の勤める新聞社「スポーツイッポン(スポイチ)」では創立25周年の記念行事が募集され、俺が提案した企画が採用される。開幕以来破竹の快進撃で独走する阪神と阪急が日本シリーズで対戦するのはほぼ間違いないので(当時はクライマックス。シリーズは無かったので)、これを徹底的に盛り上げようという企画。どちらが日本一になるかの投票ハガキを募集し、日本一になったチームの投票者1,000人をそのチームの選手たちと一緒にその親会社の電車に乗って相手親会社の路線をドンチャン騒ぎしながらパレードするというハチャメチャな企画です。この企画が発表されると、ファンや関連企業だけでなく直接関係無い企業までもがのって大盛り上がりになるというお話です。たしか、紙の本では最後は阪神が勝った場合と阪急が勝った場合の騒ぎの状況を対比するように、上下二段の組印刷で表現していたのですが、残念ながらkindleでは章が変わっての表現になっていました。まさか、実際の対戦はこんなことになるはずはないのですが、ドタバタ具合が爽快で楽しく読み終えることができました。当時、この作品をきっかけに、かんべむさしさんの作品を読み漁った記憶があります。kindleにはかんべむさしさんの作品が結構出ていたので、この機会に読んでみようと思いました。
2023.09.18
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毎年、年初に「今年こそ100冊の本を読もう!」と目標を立てるのですが、100冊読むのはかなり難しくて、今年もそろそろ4分の3が過ぎようとしているのに49冊しか読めていません。今回読んだ「叩く」が、ちょうど今年の50冊目となります。目標を達成するには、今までの倍以上のスピードで読書しないといけませんね。私は読む本を選ぶ時、新聞や雑誌の書評欄やYoutubeの本紹介チャンネルで興味を持った本をメモしておいて読むようにしています。今回の「叩く」も、おそらく新聞の書評欄に紹介されていたんだと思いますが、何に興味を持ったのか全く覚えていません。著者の高橋弘希さんの作品も今まで読んだことがありませんでしたので、なにも知らないまま期待を込めて読み始めました。高橋弘希さんは3回の芥川賞候補の後、2018年に「送り火」という作品で第159回芥川賞を受賞された方です。その高橋さんの最新短編小説集がこの「叩く」でした。・叩く・アジサイ・風力発電所・埋立地・海がふくれての5つの短編で構成されています。「叩く」は闇バイト(いわゆるタタキ)に応募し、犯行現場で仲間の裏切りにあった男の思いと行動を書いた物語。「アジサイ」は、突然妻が家を出ていった男の物語。「風力発電所」は、生まれ故郷を訪れた作家が、近くの町の風力発電所を見学に行き、経験した奇妙な体験の物語。「埋立地」は、公園で息子に話す、自分が子供の頃の公園設置前に体験した冒険談。「海がふくれて」は、漁村に暮らす高校生の幼馴染みカップルの青春小説。どの作品も、登場人物の内面を細かく丁寧に描写した純文学系の作品です。気取ったところや難解な表現もなく、文章がスルスルと頭に入ってきます。とても読みやすく、「次はどうなるのだ!」と話に引き込まれ、途中で止めることができません。しかし、どの作品もはっきりとした結末がありません。あえて言うと、後の2作品は結末らしい展開はあるのですが期待するほどの大きな展開ではありません。でも、良いんです!結末が無くても、結末を読者に想像させてくれます。良いんです!大きな展開が無くても、淡々と進む話に引き込まれていきます。こんな小説は、好き嫌いがハッキリと分かれるんでしょうね。私は、とっても気に入りました。読み方によっては、あまり深く考えないで純粋に文を追うという読書が楽しめますし、どのような結末になるだろうと考えても楽しいし、面白い作品でした。高橋さんの芥川賞受賞作品も読んでみなくては、と思った次第です。叩く [ 高橋 弘希 ]【中古】送り火 /文藝春秋/高橋弘希(単行本)
2023.09.15
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今年は、あの偉大なロックバンド「クイーン」が「戦慄の女王」でデビューしてから50周年の記念すべき年です。この記念すべき年に合わせたのかどうかは知りませんが、「フレディ・マーキュリー解体新書」という本が新書版で出版されました。デビュー当初からの大ファンで、ずっとクイーンを追ってきた私としては読んでみるしかありません。さっそく、この本を手に取ってみました。新書サイズで310ページ、文字量としては一般的な量なのですが、内容はうわべの量以上にぎっしりと詰まった読み応えのある本でした。元朝日新聞記者で、独立した今も音楽・演劇・美術・芸術・伝統芸能などの文化的なジャンルで取材・執筆を続ける米原範彦さんが著した大力作の一冊です。作品を読み進めると、中学時代からずっとクイーン・ファンだったと言う米原さんの熱意が確実に伝わってきます。クイーンの幅広いファン層を分析して、①デビュー当初からのファン②デビュー当時はファンだったが80年代から遠ざかった人③80年代からのファン④テレビドラマで「ボーン・トゥー・ラヴ・ユー」が使用された以降にファンになった人⑤映画「ボヘミアン・ラプソディー」からファンになった人10代から70代に渡る幅広さはビートルズより広いかもしれないと言っています。その幅広いファン層に向けて、いかにクイーンというバンドがすごいのか、フレディ・マーキュリーのどこがすごいのかを、膨大な資料と歌詞・曲・映像から検証していきます、最初は、映画「ボヘミアン・ラプソディー」について詳しく語られます。私も劇場で3回、DVDや配信で4回は観てはいたのですが、この本の内容を確認するため、もう一度配信で観てしまいました。なるほど!確かに! という感じで納得することばかり。最初の章を読んだだけでも楽しさ全開になりました。章が進んで、フレディの生い立ちやクイーンでの活動の経緯、他のロックバンドやボーカリストとの比較などが綴られていきますが、フレディの凄さがエビデンスを示しながらの検証が始まります。その「凄さ」とは①声のそのもの②ヴォーカリスト(歌い回し)③作詞・作曲④パフォーマー⑤存在(人生への立ち向かい方)です。この検証は、正に学術論文化と思われるほどの精密な文体で記述されていきます。(著者の個人的感覚も入ってはいますが)納得の論文でした。読書中には、タブレットをすぐ脇に置き、文に出てくる曲を聴きながら読み進めたので著者の意図もよくわかり、最後までとても楽しく読み進められました。でも、きっとそれは、私がクイーンの熱烈なファンだからなのかもしれません。クイーンに興味のない人は全く面白くも何ともないのでしょうね。クイーンの熱烈ファン以外はあまり手を出さない方が良い危険な本かもしれません(?)要注意!フレディ・マーキュリー解体新書(1031;1031) (平凡社新書) [ 米原 範彦 ]
2023.09.06
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今年4月に発売された、宮部みゆきさんの最新刊「ぼんぼん彩句」を読みました。この作品は、ちょっと変わった経緯で書かれたもののようです。十数年前、ほぼ同世代の友人たちと「BBK」という会を作ったそうです。「BBK」というのは「ボケ防止カラオケ」の略だそうで、3~4ヶ月に一回集まってカラオケを歌う会なのですが、その際には必ず新曲を披露してボケないようにしようという趣旨で始めた買いだそうです。その後、宮部さんが俳句に興味を持ち句会を開こうとBBKのメンバーを誘ってみたところ、BBKの会員全員(14名)が参加してくれただけでなく、経験者や先生について習っていた人もいて活発に活動が始まりました。その句会で良い句が出るとそれを題材にした小説にしてみたいという小説家魂がうずいてきたようです。「ぼんぼん彩句」の題名は、BBKの皆さんはまだまだ「凡手(平凡な腕前の人)」だけれど、お菓子のボンボンのように繊細できれいで、彩豊かな句を詠みたいという気持ちから名付けたそうです。本の内容は、12句の俳句を元に10ページから30ページ程の作品から構成されている短編集です。1つの作品がとても短い短編なので、ちょっとした空き時間にもサラッと1作品読めてしまう感じで、あっという間に読み終えてしまいました。その作品はというと、コワいもの、イヤミス的なもの、SF的なもの、癒されるもの、等々趣向が変わった作品が連なっています。そして、元の俳句からは想像できないような世界が広がっていきます。出だしは普通の日常風景から始まるのですが、話が進むにつれ異常な世界が顔を覗かせていきます。そして予想外の結末を迎えるという形の作品が多かったです。さすがにいろいろなタイプの傑作を生んできた宮部さんです、どの作品も少ないページ数の中で見事に物語を作り込んであります。久々の宮部作品読書でしたが、ベテランの筆力に感動させてもらいました。幸いなことに、「BBK(ボケ防止句会)」はまだ続いていて、作品もたっぷりとあるようですので「ぼんぼん彩句」も二巻、三巻と続けていきたいとのことです。私は、もう「ぼんぼん彩句 第二巻」が読みたくなっています。「宮部さん、待ってますよ!」ぼんぼん彩句 [ 宮部 みゆき ]
2023.08.24
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凪良ゆうさんの「流浪の月」を読みました。2020年に本屋大賞を受賞し、2022年5月には広瀬すずさん・松坂桃李さん主演で映画も公開された作品でもあります。本屋大賞の受賞作品と聞いたので、明るく希望溢れる作品かなと思って読み始めたのですが(私は本を読む前に事前情報を入れないで読むタイプなので)、予想外に重いテーマで息苦しささえ感じる作品でした。親がいなくなって伯母の家に引き取られながらも生きづらさを感じている小学生の女の子と、いつも小学生の遊ぶ公園のベンチに座り「ロリコン」と噂されている大学生の青年が、なぜかお互い通じ合うモノを感じて青年のマンションで同居生活を始めてしまいます。二人は2ヶ月の同居生活を楽しく送りますが、ある日外出先で行方不明と報道されている少女と知られてしまい、青年は誘拐犯として逮捕されてしまいます。それから15年後、その二人が偶然出会います。世間の勝手な思い込みや善意・好奇心に翻弄されながら、さらに苦しい日々が始まります。流れるような文章でとても読みやすく一気読みしてしまいましたが、テーマの重苦しさと理不尽な周りの反応、言いたいことも言えない主人公の歯がゆさなどで読んでいるのが辛いと感じる部分も多く、私としても今までにない珍しい読書体験をしました。私にとってとても変わった小説という位置づけになりました。このまま進んでいったら、救いのない結末になってイヤな読後感になるのではないかと気にしながら読み進めました。静かな中にもドラマチックな展開もありどんな結末かを期待させました。そして最終章、予想に反した爽やかな結末。こういう生き方もあるよね、と思わせてくれました。最後がとても印象に残る作品となりました。普通は、映画化されている場合、どんな具合になっているのかなと、映画も見て比べてみたい感覚になるのですが、この作品は小説だけで充分でした。これ以上付け加えることも差し引くこともできない作品です。映画にしたらこの小説の持ち味が無くなってしまいそうで怖い気もしました。万人受けはしないかもしれませんが、心打たれる人も多いと思います。とてもやさしい作品でもありました。流浪の月 (創元文芸文庫) [ 凪良 ゆう ]
2023.08.15
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最近テレビは、ニュースとスポーツ以外あまり見ません。同じ内容の繰り返しばかりのワイドショーや、出演者だけが騒いでいるバラエティー、内容の薄いドラマなどテレビのオワコン化が現実となってきた感があります。今やテレビは常につけておくものではなく番組を選んで見るものというのが定着してきた感がありますね。高齢者はまだ何となくテレビを見ている人も多いかもしれませんが、若い人にはテレビを見ない暮らしが当たり前になっているようですね。我が家でもテレビ番組は選んで見るようにしていますが、NHKの大河ドラマは毎年見るようにしています。なんだかんだ言っても1年をかけてじっくり描いた歴史ドラマはそれなりに面白く、新たな発見もあって毎年楽しんでいます。しかし、今年の大河ドラマ「どうする家康」はいつもの大河ドラマとチョッと違いますね。いつもの大河ドラマは、そこそこ史実に忠実に作ってあるようですが、今年のは大胆に従来常識とされてきた史実をアレンジして独特の解釈でドラマが進んでいきます。史実とされていることの中にも、歴史学者・研究家により確定したものと、おそらくそうであろうというグレーゾーンのもの、原因や詳細が全くわからないものなどグラデーションがあります。実際、私が子供の頃に観た大河ドラマの中のエピソードが今では研究が進み間違いだったことが分かったものもずいぶんあります。「どうする家康」は人気脚本家の古沢良太さんが脚本を担当していますが、歴史の中にある不確定な史実を大胆な発想でドラマ化しています。これでは歴史ドラマではないという人もいるようですが、確かに歴史ドラマの形をしたオリジナルドラマと言えないこともない気がしますね。最初は私も、この大胆なストーリー展開にチョッとついていけないという感じもしましたが、回を重ねる毎に「そういった考え方もあるんだ」「その考え方、面白い!」「その方が納得できる」という場面が増えてきて、今では次のエピソードは古沢さんはどのように仕組んでくるのかと楽しみにするようになっています。案外、こんな鑑賞方法があっているのかもしれませんね。この作品に出てくる、信長・秀吉・家康・その他の戦国大名は今までにも多くのテレビドラマや映画、小説に取り上げられているので、今さら本来の史実を再現するよりも違った解釈を見せてくれるのが「どうする家康」なのだと思います。この「どうする家康」には、今までのテレビドラマではあまり取り上げられていなかった小ネタ的史実も取り上げられているようで、その辺の正当な解釈はどうなのかも気になるところです。そこで人気の歴史学者、磯田道史さんが書いた「徳川家康 弱者の戦略」を読んでみました。この本では、「どうする家康」に出てくるようなエピソードを正当な歴史の観点で分かりやすく解説してくれてあります。この本を読むと、家康の人柄や三河家臣団の実際、信長や秀吉との関係などなど興味深い話が信頼できる歴史資料を基に説明されていますので、この時代の家康を取り巻く環境が良く理解できます。きっと、これからの「どうする家康」を見る時に、古沢さんはどうアレンジしているのかを理解する副教材になりそうな良著でした。徳川家康 弱者の戦略 (文春新書) [ 磯田 道史 ]
2023.08.11
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新聞の書籍広告や雑誌記事などでよく目にする和田秀樹さんの本ですが、「80歳の壁」が大ベストセラーになった以降、出版される本の数もかなり多くなってきているような気がします。時々書店でパラパラと見たりはしていますが、どうやら和田さんの本は年齢を重ねた人にとっての快適な生き方の指南本のようです。「80歳」にはまだ早いので「60歳からはやりたい放題」と「70歳の正解」を読んでみることにしました。精神科医である和田さんの医師としてのアドバイスや経験上身に着けた知恵をわかりやすく書いてくれています。ザっと目次を見てみると、何となく内容がわかります。一部をご紹介します。▼第1章:60代以降は「嫌なことはやらない」・60代に起きる環境や体の変化を知っておく・60代以降でも脳は鍛えられる・60代以降のほうが、個人の差が大きく開く・日本には長生きの専門家がいない・「嫌なことはやらない」のが、60代以降の鉄則など▼第2章:好物を食べれば脳も体も健康に!・小太りの人のほうが長生きする・「肉を食べすぎてはいけない」にだまされるな・脂肪がないと「脂肪」は燃えない・「食べたいもの」は「体が欲しているもの」・60歳以上ならばタバコはやめなくていいなど▼第3章:「新しい体験」で前頭葉も活発に・60代から絶対にやってほしい「散歩」・スポーツはやりすぎないほうがいい・「若作り」が老化にストップをかける・毎日に少しでいいから、変化をつけよう・60歳以降に欠かせない男性ホルモンなど▼第4章:良い医師や病院の選び方とは?・「死にさえしなければいい」という日本の医師・高齢者に大学病院はふさわしくない・健康診断を受ける価値はない・受ける価値があるのは「心臓ドック」と「脳ドック」・薬漬け医療に拍車がかかる理由など▼第5章:「認知症、うつ病、ガン」を怖がりすぎない・「認知症=かわいそう」は間違い・なぜ、ひとり暮らしは認知症が進まないのか?・認知症と間違われやすい老人性うつ・老人性うつを回避するには?・ガンは治療しなければ「理想的な死に方」など▼第6章:嫌な人と付き合うよりは孤独でいい・結婚は2度するくらいがちょうどよい?・子どもの「介護離職」は絶対に止めるべし・家庭内介護で起きる「介護虐待」・自殺者が予想外に増えなかったコロナ禍に証明された「孤独の価値」・孤独は避けるべきものではないなど▼第7章:お金使うほど幸福感は高まる・「老後資金2000万円不足」のウソ・介護保険の利用をためらう必要はない・遺産相続の高齢化が生むトラブル・子どもにお金を残すよりも投資・お金はどんどん使ったほうが幸せになれるなど▼第8章:60代からこそ、人生を最高に楽しめる!・「ピンピンコロリ」への疑いのまなざし・なんて素敵な「寝たきりライフ」・終の棲家は60代までに決めておこう・60代になったら、どんどん自己主張しよう・とにかく「やってみたかったこと」をやろうなどどのセクションもだいたい2ページほどにまとめられているので、すきま時間に読むのにちょうどよい感しの本です。今まで常識と思っていたことがそうではなかったり、こうあるべきと行動していたのが間違いだったりと、良い刺激をもらうことができました。私が、印象に残った部分は、・60代以降は我慢しない(ストレスをなくして免疫力を上げる)・小太りの方が長生きする(BMI値25~29が最も長生き)・お酒の一人のみは避ける(酒量が多くなりがち)・健康診断の基準数値は単なる平均値(基準外でも健康状態が悪い根拠はない)・会話が認知症の予防になる・60歳を過ぎても脳は成長する・ガンは治療しない選択もある(治療しなければ苦しくない、QOLを上げた理想的な死に方)・老後はドンドンお金を使って幸せに・今までにやってみたかったことをやってみるなどなど。。。全く知らなかったことや、何となくわかってはいるけれど実際どうなの、というようなことが書かれていて結構楽しく読みました。すぐに忘れてしまいそうなこともあるので、机の横に置いておいて時々読み返すのが良いのでは、と思いました。ただし、和田さんの本はたくさんありますが、重複も多いようですので自分に合いそうなものを選んで読めば全部読む必要はなさそうですね。60歳からはやりたい放題 (扶桑社新書) [ 和田 秀樹 ]70歳の正解 (幻冬舎新書) [ 和田 秀樹 ]80歳の壁 (幻冬舎新書) [ 和田秀樹 ]どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる [ 和田秀樹 ]
2023.08.01
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今年の2月に発売された桐野夏生さんの最新刊「真珠とダイアモンド」を読みました。読書した後なるべくこのブログに、ネタバレしない程度の内容と感想などを書くようにしています。おかげで後からどんな本だったか忘れかけた時に、ブログを読み直すことで記憶を呼び起こすことに役立っています。読んだ全ての本をブログに残すことは難しいかもしれませんが、少しでも多く書いて自分の読書記録としても役立てたいと思っています。今回読んだ「真珠とダイアモンド」は、1980年代後半のバブル発生から1990年代初めのバブル崩壊までの経済狂乱時代に若い男女が時代に翻弄されて人生を狂わせていくさまが苦しく悲しい物語として綴られている作品でした。上巻365ページ、下巻282ページという大作ですが、中学生でもスラスラ読めそうな平易な文章と、すぐに情景が思い浮かぶような分かりやすい表現、次々と読み進めたくなるストーリー展開のため2日間で一気読みしてしまいました。面白かったけど切ない話でした。学卒で福岡の証券会社に入社した短大卒の小島佳那(かな)と高卒の伊東水矢子(みやこ)が、学歴も部署も性格も違うけれどどこかひかれあうところがあり、2年後に違う目標をもって東京に行く夢を持って暮らしていました。そこに同じ年度入社の大卒で野心家の望月昭平が絡んで物語が進んでいきます。危ない橋を渡りながらも成功をつかむのですが、やくざや怪しい医者との付き合いを通じて不穏な空気も流れていきます。そして3人の結末は。。。真珠とダイヤモンド 上 [ 桐野 夏生 ]真珠とダイヤモンド 下 [ 桐野 夏生 ]上巻の最初に「プロローグ」があるのですが、最後までプロローグと物語の展開がどう関係しているのか気になりながら、ドンドン読み進めてしまいました。私もバブル時代を通過してきましたが、普通の製造業のエンジニアとして過ごしていましたので、バブルの恩恵もバブルの闇も直接は受けませんでしたが、やはりあの時代の浮かれた感覚は記憶に残っています。この作品を読んで、あの時代はこんな状況もありがちで今考えるとかなり「ヤバイ」時代だったな、と改めて感じました。小説には色々な読み方があると思います。エンターテインメントとして純粋にストーリーを楽しむこともできますし、作品をきっかけに自分の考えを深く見直すこともできます。この作品はどちらもできる作品だと思いますが、桐野さんがあえて今バブル時代の話を書いたということは、今のこの時代にあのバブル時代の功罪を総括してこれからの時代を生きる心構えを考えるきっかけにしたかったのかな、などと考えたりしました。読み応えのある一作でした。
2023.07.25
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先日平野啓一郎さんの「ある男」を読んで、何故か平野さんの文体や物語展開が私にピッタリときた感じがして、もっと平野さんの本が読みたいと思いました。(「平野啓一郎さんの「ある男」読みました。」)「本心」という題名も思わせぶりで興味をそそりましたので、さっそく読んでみることにしました。物語は近未来の日本。「自由死」という名の死を選ぶ権利が認められた社会。母一人子一人で育った主人公の朔也は、母から自由死を選びたい事を告げられ、猛反対し思いとどまらせようとしているうちに不慮の事故により母を失ってしまう。自分が自由死に反対しない方が良かったのではと悩みながら、母が告げた「もう十分だから」という自由死の理由の真意を考えようとする。母の不在に喪失感を感じるとともに母の本心も知りたくてVF(ヴァーチャル・フィギュア)と呼ばれる仮想現実上のキャラクターとして母をよみがえらせ母との生活を再開する。VFとの生活の中で、リアル世界での新たな出会いや体験を通してわずかではあるが成長していく、というお話でした。SFの形式をとってはいますが、内容は抽象的な部分も多く読者に深く生と死や申請と生活などについて考えさせる、いわゆる純文学的作品でした。修飾の多い文体ではありますがとても読みやすく、次はどうなるのかと展開を楽しみながら449ページをあっという間に読んでしまいました。本心 [ 平野 啓一郎 ]呼んだ人によって解釈が変わるのでしょうが、私には爽やかな読後感がある良い作品に感じられました。人それぞれ自由に解釈して自由に想像して楽しめばいい作品でしょう。読了後も余韻を引きずるような感じで、こういった作品はじっくりと小説を楽しむのに最適ですね。エンターテインメントな作品もいいですが地味な純文学もいいですね。
2023.07.17
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もうすぐAmazonでプライムデーが始まりますね。半年1度のビッグセールなので少なからず楽しみにしています。この機会に、自分のリスキリング(『マイ・リスキリング 第一弾『Python学習』が終了!』)に使おうと思っているマニュアルやテキストを買っておこうかと思ってAmazonのサイトを見てみたら、なんとKindle本が格安になっているではありませんか。全ての本ではありませんが、7月12日までは最大70%の割引があったり、8冊まとめ買いすると15%のポイント還元があったり、マンガ10冊で50%ポイント還元だったりとお得なセールになっています。私もこれからリスキリングのために何冊か各種プログラミング言語のテキストを買う予定でいましたので、さっそくチェックしてみました。とりあえず買おうか迷っていた本を見てみたら、3,300円→1,485円だったり2,739円→1,370円だったりと半額以下になっています。このタイミングを逃す手はないですね。テキストやマニュアルの場合、実際は紙の本の方が扱いやすいし勉強の時も身に入りやすい印象を持っているのですが、この価格には逆らえません。又、候補に上がっている書籍は、辞書的な使い方をする分厚い本なので、かえってkindle版の方がいいのかもしれません。この機会に半年分の教材を揃えてしまおうかと思っています。でも失敗しないようにテキストの内容は、事前に調べておかないといけませんね!
2023.07.07
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最近、門井慶喜さんの作品を連続して読んでいます。( 『「どうする家康」じゃなくて「なぜ秀吉は」』,『「文豪、社長になる」読みました』 )門井さんの作品は、緻密な調査と論理的な文章、そして感情的になりすぎない少々抑え気味の表現で、とても読みやすく理系の私としては、論文やマニュアルを読むのに通じる感覚があり好感を持っています。次にどの門井作品を読もうかと思った時、直木賞受賞作で最近映画化された「銀河鉄道の父」をまだ読んでいなかったので、これを読むことにしました。題名からもわかる通り、宮沢賢治とその父政次郎のお話で主人公は政次郎、主に政次郎の視点で物語は進んでいきます。この作品を読んでみて改めて気づいたのは、宮沢賢治の作品は良く知っているのですが宮沢賢治についてはほとんど知らなかったことです。なんとなく雰囲気で知った気になっていただけだったことがわかって愕然としました。もちろんお父さんについては全く知識はありませんでした。宮沢賢治という人は、貧しい生まれで苦労しながら学問に励み聖人のように生き、若くして亡くなった天才というイメージしかありませんでしたが、全くそのイメージが覆され驚きの連続でした。宮沢賢治はこんな人だったんだ、と改めて知り聖人君主ではない人間臭さと多くの悩みを抱えていたその人生を感じることができました。家族の描写も細かく、祖父・父・母・4人の兄弟がどのような人だったかが良くわかります。すぐ下の妹トシが優秀な人だったことや亡くなったのは成人してからだったことなども知らずにいたことで、私自身の知識不足を恥じました。父の政次郎はとても優秀な人ですが、この時代の家長というしがらみにとらわれずに子供たちの才能を伸ばすように当時としては型破りの方法で育てていく姿には感動しました。そして色々と悩みながら家族と相対していく姿は、3人の子供を育てた私の体験もオーバーラップして共感を持って読み終えました。銀河鉄道の父 (講談社文庫) [ 門井 慶喜 ]とてもいい作品でした。映画も是非見てみたいと思います。
2023.06.30
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人気作家の平野啓一郎さんの作品は、今までに「マチネの終わりに」しか読んだことがありませんでしたが、純文学的な重厚な作品も評判がいいので、是非読んでみたい作家のひとりでした。昨年末に「ある男」という作品が映画化され、気になっていたので、これを機会に読んでみることにしました。主人公の弁護士城戸は、かつて離婚調停の依頼を受けたことのある里恵から再度依頼を受ける。宮崎県に移っていた再婚していた里恵は、再婚して三年九ヶ月で夫を事故で失ってしまう。死亡した夫「谷口大祐」は一周忌後に訪れた実兄により全くの別人と判明した。死んだ夫は誰だったのか、理恵は戸惑い城戸に調査を依頼する。城戸が調査を進めていくうちに、隠された真実が徐々に姿を現していく。というストーリーの作品です。謎が気になる「ミステリー小説」仕立ての作品なのですが、どちらかというと登場人物の心理を深く掘り下げる「純文学」的な小説でした。少々回りくどい表現も見受けられますが、特に読みにくいわけでもなく、ストーリーの面白さも相まってドンドン読み進められます。次第に文章の美しさとテンポにのって気持ちよく読書が続きます。読書好きにはお勧めの作品と感じました。作品中に、ジャズやロックの名曲が流れる場面が結構あるのですが、その場面では気分を共有するため私もアマゾン・ミュージックで同じ曲を流しながら読書してみました。とってもイイですね!どんでん返しや奇想天外な結末というのはありませんが、、登場する人物たちそれぞれの内面も丁寧に描かれていて読みごたえも充分、そして暖かさを感じるエンディング、と読書の幸せを感じた一作でした。ある男 (文春文庫) [ 平野 啓一郎 ]映画の方も評判はよかったようですが、はたしてどれだけ原作の雰囲気を伝えられているかが気になるところです。配信で公開されたら絶対観てみようと思っています。もっと平野啓一郎さんの作品が読んでみたい!
2023.06.28
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先週に引き続き、門井慶喜さんの作品を読みました。「文豪、社長になる」という作品です。最近よく話題になる「文春砲」で有名な「週刊文春」の出版社「文藝春秋」社を創設した菊池寛のお話です。「恩讐の彼方に」や「真珠夫人」などの大衆文学で有名な「文豪」菊池寛がどうして文藝春秋社の社長になったか、以前から興味があったので、この作品を手にとってみました。菊池寛と聞くと戦時中の「ペン部隊」の結成により作家を中国の戦地に派遣したり、大映の社長になって国策映画を製作したりと日本軍に協力した結果、戦後GHQにより公職追放になったということや、昭和後期の週刊文春の右傾化などで私としてはあまり良い印象は持っていなかったのですが、いったい真実はどうだったのだろうと興味をもって読み始めました。読書好きの少年時代から始まり、失意の学生時代、新聞社勤め、作家に転身、出版社社長との二足の草鞋、そして戦争時代とその後の、彼の亡くなるまでの一生を菊池の気持ちを追いながら描写しています。雑誌「文藝春秋」を発行したいきさつは川端康成などの後輩に作品を発表する場を提供するためで、のちに法人化して社長となったのは、個人出版の域を出ない状態ではスタッフのやる気も、雑誌出版の存続性もないことに気づいたからだということがわかりました。戦時中の軍への協力も、本意ではなくシブシブ協力していくうちに世間の波に飲み込まれてしまったということのようです。どこまでが本当のことかは疑問が無いわけではありませんが、一応長年の「引っ掛かり」が解決しました。この作品で、菊池寛とはどのような人でどのように生きたかがよくわかりました。作家と社長、全く異なる才能を十分発揮した二刀流だったのですね。豪快さや面倒見の良さも良く伝わってきました。また、芥川龍之介や直木三十五との友情も、私の想像以上の関係で興味深かった点でもあります。私にとって、いろいろな発見のあった作品でした。文豪、社長になる [ 門井 慶喜 ]
2023.06.19
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2017年下半期の直木賞受賞作で最近映画にもなった「銀河鉄道の父」の作者である門井慶喜さんの作品の「なぜ秀吉は」を読んでみました。門井さんの作品は「家康、江戸を建てる」しか読んだことはありませんが、この「家康、江戸を建てる」があまりに面白くて一冊でファンになりました。ある書評では『これは江戸時代のプロジェクト✕だ!』と書いあったのが印象に残っています。関東に転封になった家康が、どのようにして江戸を作っていったかが5つの話で語られていて、とても楽しく読んだのを記憶しています。家康、江戸を建てる (祥伝社文庫) [ 門井慶喜 ]その門井さんの作品で「なぜ秀吉は」というちょっと変わった「どうする家康」的タイトルの本を目にしたので読んでみることにしました。秀吉の晩年には疑問を持つような行動が結構あるのですが、文禄・慶長の役といわれる朝鮮出兵も間違いなく「なぜ?」と言いたくなる謎です。この作品はその謎にこだわって、どうして秀吉が朝鮮出兵を行ったかを色々な登場人物に語らせています。最後には秀吉の語りもでてきますが、果たして本音かどうかもちょっと謎と言うようなお話でした。はっきり言って、読みやすくて引き込まれる部分も多いのですが、話自体があまりドラマチックとは言えないためか、読後の印象はチョッともの足りない感じではありました。秀吉晩年の時代状況や、どうして北九州の名護屋が出兵の拠点として選ばれたか、名護屋はどんな町だったかなど今まで知らない情報も知ることができてそれなりの満足感はありました。なぜ秀吉は [ 門井慶喜 ]もう少し門井さんの作品を読んでみたくなりました。
2023.06.13
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私の好きな作家に橘玲さんがいます。昨年「バカと無知」という本を出してベストセラーにもなりましたが、「言ってはいけない」や「幸福の資本論」「上級国民/下級国民」等々、鋭い視点でハッとさせられる著作が多く、読むたびに新しい発見をさせてもらっています。バカと無知 人間、この不都合な生きもの (新潮新書) [ 橘 玲 ]言ってはいけない 残酷すぎる真実 (新潮新書) [ 橘 玲 ]橘さんの考え方に一つに、人間の考え方・行動・生活のほとんどの部分は人類が石器時代に環境に適応した結果身に着けたものであるので、不思議に感じる振る舞いもそれで説明できるということがあります。また、人それぞれが持つ能力は遺伝の要素が大部分を占めていて、育った環境(特に家庭環境)によるものはあまり大きくないと主張されています。橘さんの著作では、それらの考えを公開されている膨大な論文や資料を使って証明していきます。それがとても心地よく、ついつい夢中になって読んでしまいます。そんな橘さんの考えを肯定してわかりやすくしたような本がありました。明治大学の教授で進化心理学者である石川幹人さんの「生物学的に、しょうがない!」です。この本は、皆さんがついついやってしまって反省したり落ち込んだりしてしまうような事を、人類が持っている習性なのだからと慰めてくれるような内容になっています。目次を見ると・なんでも先延ばし、やりたくないの、しょうがない・片づけられないの、しょうがない・いつも遅刻ギリギリ、しょうがない・人前で緊張しちゃうの、しょうがない・人の目が気になるの、しょうがない・ついつい衝動買い、しょうがない・人前で話すの苦手なの、しょうがない・不安になっちゃうの、しょうがない・集中できないの、しょうがない・上司への報告が遅れちゃうの、しょうがない・後悔しちゃうの、しょうがない・周りの人の目が気になるの、しょうがない・お酒を飲みすぎちゃうの、しょうがない・ブランド品が好きなの、しょうがないというような日常の悩みをなんでそうなるのかと進化心理学的に解説しています。こんなことで悩んでいる人がいたら、少しはスッキリするかもしれませんね。全部で51の「しょうがない」が書かれています。正に橘さんが書かれている石器時代の名残りがよくわかります。文章は読みやすく、集中して読めば半日程度で読めてしまえそうな、比較的軽めの本です。学術的な感じではないので、豆知識・話のタネ的な感覚でサッと読むのがいいのかもしれませんね。生物学的に、しょうがない! [ 石川 幹人 ]
2023.06.09
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昨年12月に発表された第14回日経小説大賞に中上竜志さんの「散り花」が選ばれました。この「散り花」はプロレスを題材とした小説で、文学賞受賞作としては珍しい題材ではないかと思いました。格闘技大好き人間で、もちろんプロレスも大好きな私としては読まないわけにはいきません。そもそも、ボクシングは映画や小説に取り上げられることがあるのですが、それに比べてプロレスはかなり少ないと感じています。その貴重なプロレス小説です、読む前から期待が高まります。物語は、将来を嘱望されて海外修行にも抜擢された立花は、帰国後ある事件をきっかけにやる気を失いスターの引き立て役の中堅選手に甘んじていた。引退も考えているが、なにかやり残した、自分を出し尽くしていない感覚でどっちつかずの中途半端な生活を送っている。そんな時、後輩のスター候補の若手との試合で思わぬ展開となり、予想もしていなかった人生が開けていく。ハードボイルド調で、物語に直接関係しないような余分な描写もなく、最初の1ページから集中してよめる作品でした。1日で一気読みしてしまいました。(チョッともったいなかったような)この作品は試合の場面が多いのですが、その描写が凄まじい! スピード感・臨場感・迫力がハンパなく、まるで映像を見ているように頭の中で再現されます。こんな経験ははじめてです。映画「ロッキー」の試合シーンで物語が最高に盛り上がっていくのと同じような感覚です。日経小説大賞の選者の一人である角田光代さんは「技の名前を知らない私でも動きが目に見えるようだった。」と評しています。作者の中上さんの筆力がよくわかります。中上さんは、プロレス大好きでレスラーやプロレス業界にも詳しいマニアックな人なんだろうなと推察されます。プロレスファンならニヤッとしてしまう部分も有りプロレスファンには絶対お勧めの一冊です。プロレスファンでなくても、物語の面白さは日経小説大賞受賞が証明しています。物語の面白さと、読むプロレス試合という新しい体験ができる楽しい作品でした。散り花 [ 中上竜志 ]中上さんは、この作品がデビュー作だそうですが、次回作も期待してしまいます。次の作品、お待ちしています。
2023.06.03
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昨年・今年と若いころから親しんできたミュージシャンの訃報が相次いで寂しい思いをしてきましたが、それをきっかけとして70年代・80年代などの昔の曲をよく聴くようになりました。もちろん存命中の方の作品も多く聴いています。昔の曲を聴きながらネットで資料を検索しては、昔を懐かしみつつ色々な曲との出会いを楽しんでいます。そんなことを繰り返しているうちに、今さらながら細野晴臣さんの存在感の大きさ・偉大さをあらためて感じました。そして、昨年「細野晴臣と彼らの時代」という一冊の本と出会い、大きな感銘を受けたのを思い出し、もう一度読み返してみました。この「細野晴臣と彼らの時代」という本は、500ページ以上の分厚い本で結構読みごたえがありますが、昨年の私の読んだ本ベスト3に入る素晴らしい本です。細野晴臣と彼らの時代 [ 門間 雄介 ]細野さんの幼少時代から現在までを、膨大な資料とインタビューや周辺取材を元にわりと淡々と書き連ねています。とても丁寧に時系列に沿って記述されているので、そのころの音楽に思い入れのある人には読むのを止められないと思います。ジャンルは違いますが、膨大な資料と丁寧な取材で構成された作品として、「フェルマーの最終定理」や「木村正彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」などの本と同じ雰囲気も感じました。読んでいる瞬間が楽しくて、私はこんな本が大好きです。題名に『彼らの時代』とあるように、細野さんだけでなく大瀧詠一さん・松本隆さん・坂本龍一さんなど細野さんと関連のあった多くのミュージシャンを含めた、日本のポップ・ロック史になっている優れた読み物です。大瀧さんや坂本さんとの確執や和解のくだりも印象に残るエピソードでした。また、彼らが青春しているエピソードも興味深いものでした。この本を読むと、細野さんの思いや好みそして人間性の一部を知ることができ、曲を聴くときの深みが変わります。読んでよかったと思います。これからも、何回か読み返す本になるのでしょうね。なにより、こんな音楽家が現在も活躍中なのがうれしいですね。現在75歳だそうですが、多くのミュージシャンに影響を与えながら、もっともっと自身の楽曲を発表していってもらいたいものです。機会があったら、ライブにも行ってみたいな~。Youtubeで、細野さんのソロ・デビューアルバムの中にある「終わりの季節」という私の大好きな曲を矢野顕子さんとデュエットしている動画があったので紹介しておきます。
2023.05.21
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もう2カ月ほど前になりますが、映画館で「Winny」を見ました。その時にこのブログで記事を書きましたが ( 「 映画「Winny」 公開日に見てきました! 感動の実話(少しネタバレ)」 )、かなり面白い映画でもっと内容を深く知ってみたいと思っていたところ、担当弁護士としてこの事件にかかわった壇俊光さんが書いた小説が、kindleunlimitedで読めるようになっていたのでさっそく読んでみました。壇さんは、いわゆる「Winny 事件」で弁護団の事務局長を務めていた弁護士です。映画では三浦貴大さんが演じました。この小説は、彼のブログを元に小説としてまとめた形になっています。ブログが元になっていますので、事実が当時の状況のまま表現されていて、生々しさや悩み具合などの表現が映画とは違った形で伝わってきて、とても興味深く読ませてもらいました。これを読むと、映画は結構事実に忠実に作られていることもよくわかり、東出昌大さんが演じたWinny開発者の金子さんの人柄もピッタリときました。小説では、さらに金子さんのいろいろなエピソードが紹介され、チャーミングさも伝わってきました。映画では表現しきれなかった裏話や、検察と裁判所の関係性、マスコミ対応の苦労など興味を引く話ばかりです。なにより映画では、第一審で有罪判決を受けるところまでの話で、その後の戦いについてはテロップで表示されるだけなのがちょっと物足りなかったのですが、小説では最終的に最高裁で無罪を勝ち取るまでの話もじっくりと書かれているので、その点でも満足できる内容でした。さらに、裁判でWinnyやP2Pについて壇さんが解説した時に使用したパワーポイントの原稿まで付録として掲載されていました。興味が尽きません。壇さんのIT知識が素晴らしかったこともよくわかります。映画を見た人も見なかった人も、「Winny 事件」に関心があったら是非読んでみるべき作品だと思います。Winny 天才プログラマー金子勇との7年半【電子書籍】[ 壇 俊光 ]
2023.05.04
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先日書いた記事(「気になる! 「我慢して生きるほど人生は長くない」ってどんな本」)に引き続いて気になるタイトルに魅かれて自己啓発本を読んでみました。「限りある時間の使い方」という本で、アメリカでベストセラーになって日本でも話題沸騰の本のようです。この本もタイトルが実に良い!つい中身を見たくなってしまいますね。特に、私の様に人生の後半を過ぎ『限りある時間』を実感している者にとっては興味津々です。この本の構成は次のようになっていました。PART 1 現実を直視する 第1章 なぜ、いつも時間に追われるのか 第2章 効率化ツールが逆効果になる理由 第3章 「時間がある」という前提を疑う 第4章 可能性を狭めると、自由になれる 第5章 注意力を自分の手に取り戻す 第6章 本当の敵は自分の内側にいるPART 2 幻想を手放す 第7章 時間と戦っても勝ち目はない 第8章 人生には「今」しか存在しない 第9章 失われた余暇を取り戻す 第10章 忙しさへの依存を手放す 第11章 留まることで見えてくるもの 第12章 時間をシェアすると豊かになれる 第13章 ちっぽけな自分を受け入れる 第14章 暗闇のなかで一歩を踏みだすエピローグ 僕たちに希望は必要ない付録 有限性を受け入れるための10のツールちょっと見たところ、よくあるビジネス書のような感じもしますが、読んでみたら予想は全く覆されました。少々哲学的でもある、人生を考えるための一冊でありました。まずは、『限りある時間』について。人間、80歳まで生きるとして、人生は約4,000週間しかありません。作者は『バカみたいに短い。』と言います。その短い時間をできるだけ有効に使うために書かれた本だと言います。私がこの本を読んで感じたポイントは。・やらなければいけないことを全部やろうと思うな。 どうせ全部はできないし、やったとしても次の日には大量のタスクが... すべてを効率的にやろうとしないで本当に重要なことに集中する。・集中力をもって、やりたいことをやり、やりたくないことはやらない 情報過多のこの時代、SNSに時間を使ったり、見たくもない動画をみてしまったり。・将来のことを心配しすぎて無駄な準備に時間を使わない。 未来は未確定でわからない。明日のことは明日心配すればよい。・多くの人とかかわりを持ち有意義な時間を過ごす。 一人で過ごす時間より仲間と過ごす時間の満足度は高い。・今を生きる。今を楽しむ。 これが終わったら、子供が大きくなったら、定年したら...先延ばししないで今を楽しむ。・人生に大きな理想・使命を感じて、小さなことに意味がないと思わないように。 あなたの人生は宇宙レベルで考えたら、あまり大きな意味はない。 気楽に考えて、やれることをやろう。こんなところがポイントだと感じましたが、書き出してみるといかにもビジネス書的ではありますね。しかし、文章の流れがビジネス書らしくなく説得力がありました。著者は、人生をあまり肩ひじ張らずに力を抜いて、その時その時を楽しんで生きていこう、と言っているような感じがして割と好感が持てました。人生これからという20代・30代の人には、ちょっと控えめで受け入れがたいところもあるかもしれませんが、こういった考え方もあると知るだけでも有意義なのではないでしょうか。300ページ程度で短時間でも読めそうな本ですので、時間があったら是非どうぞ。限りある時間の使い方 [ オリバー・バークマン ]
2023.04.22
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タイトルを見てとっても気になる本がありました。「我慢して生きるほど人生は長くない」・・・なにか気になりませんか?とっても良いタイトルですね。多くの人は、日々何かしらの我慢をしながら生活をしていると思います。皆さん、我慢なんかしたくない、我慢しない生活をしてみたい、と思っているのではないでしょうか。そしてこのタイトルを見たら「我慢して生活していたら、楽しむ前に人生終わってしまうよ!」と問いかけられているように感じますね。中身が気になって、この本を読んでみました。いわゆる自己啓発本を読むのは久しぶりです。この本は、心療内科医の鈴木裕介さんが書いた本で、正方形という変形サイズの本で目を引きます。全部で284ページに28のアドバイスがまとめられている比較的読みやすい本です。28のアドバイスは、5つの「Contents」という名の章にわかれて構成されていました。[Contents 1] 我慢せず生きていくための 公平で安心な人間関係の作り方[Contents 2] 会社や社会に 疲れてしまった人への処方箋[Contents 3] 思い込みを捨て、 自分らしい人生を取り戻す[Contents 4] 誰にも振り回されず、 自己肯定感を保つには[Contents 5] 「心地良くない」「楽しくない」 と感じたものは捨てていく生活の中で知らず知らずのうちに我慢してしまっている数々の思考や行動が、精神の安定や健康に悪影響を及ぼしているので、我慢をしないための考え方や行動をアドバイスするという内容になっています。この本のレビューをネットで見ると、辛い思いをして生活していた人や頑張りすぎていたと感じる人などからの高評価が多く、全体的にも高い評価になっていました。しかし、私の感想はこれとはちょっと違いました。全体を通してみて、あまり目新しいことが書かれている感じがしませんでした。どこかで読んだり聞いたりしたことがテーマに沿ってまとめられているだけという感じしかしませんでした。又、28のアドバイス自体も私にはポイントつかみにくく、最終的に何がポイントだったのかよくわからないまま読み終えてしまいました。きっと、今現在の生活に生きづらさを感じている人には響く内容なのでしょう。考えてみたら今の私は、自由にあまり我慢することもなく生活しているので響かなかったのかもしれません。しかし、この「我慢して生きるほど人生は長くない」というタイトルは秀逸です。このタイトルだけで、一冊の本を読んだくらいの価値があると思っています。不本意にも我慢しなくてはいけないような状況になった時には、このタイトルを思い出そうと思います。我慢して生きるほど人生は長くない [ 鈴木裕介 ]
2023.04.18
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先日、米澤穂信さんの「満願」を読みましたが( 米澤穂信さんの「満願」を読みました )、面白かったので、米澤穂信さんの別の本を読んでみることにしました。探してみたら面白そうな本がありました。2021年下半期 第166回直木賞の受賞作「黒牢城」です。「満願」も多くの賞を受賞していますが、「黒牢城」も直木賞以外に多くの賞を受賞していました。 第12回山田風太郎賞 このミステリーがすごい! 2022年版 国内編第1位 週刊文春ミステリーベスト10 国内部門第1位 ミステリが読みたい! 2022年版 国内篇第1位 2022本格ミステリ・ベスト10 国内ランキング第1位 2021年歴史・時代小説ベスト3 第1位事前情報は全く無しで読み始めましたが、序章と第一章~第4章、そして終章の6つの章からなる連作短編集の形式をとった作品でした。序章では、荒木村重と黒田官兵衛の会談が描かれます。織田信長に反旗を翻した村重を説得に来た官兵衛を土牢に監禁してしまう過程がつづられていました。ここで、私はやっと、荒木村重が主人公で官兵衛が関わってくる時代小説らしいと気が付きます。荒木村重と言えば、信長に謀反を起こし一年間ほど城に立て籠もった後、一人城を抜け出し息子の城に移った結果、城に残った家臣・女房衆などが信長により惨殺されたという負の経歴を持っていますし、その後堺で茶人として7年程生き延びていたという、私にとって不可解な人です。謎が多い!どんなお話になっているかと言うと、有岡城に籠城して官兵衛を幽閉し信長軍と戦ったという史実をベースにして、史実とは関係のない場内で起こる奇怪な事件を解決していくというミステリー仕立てになっている作品です。そして、事件解決に一役買うのが地下の牢内の黒田官兵衛です。自分が幽閉しているのに、困ったときに助けを求めるというのは「都合がよすぎませんかっ!」と思いましたが、官兵衛さんは実に優しく謎解きのヒントを与えてくれます。話を聞いただけなのに、現場を見なくてもわかってしまう官兵衛さんがスゴイ。羊たちの沈黙のレクター博士を思い出しました。第一章から第4章まで、それぞれ別の事件が起こりそれを解決していくのですが、その描写以外にも戦国時代の城内の生活や武将の行動や考え方など詳しく描かれているところなど今までの時代小説には無かった作品だと思いました。最後には、荒木村重の謀反の原因や城を抜け出した謎、官兵衛が謎解きに協力した理由も明かされます。史実をバックグラウンドにしてよくできた小説と感じました。でも、個人的にはチョッと納得がいかない部分も有り満足度はあまり高くありませんでした。村重の晩年の行動から、どうしても自分勝手な印象を持ってしまっているのでスッキリしないのかもしれません。他の作家が書いた荒木村重の小説を読んでみようかな。黒牢城 [ 米澤 穂信 ]反逆(上) (講談社文庫) [ 遠藤 周作 ]傀儡に非ず (徳間文庫) [ 上田秀人 ]
2023.04.15
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■ 小説「日没」を読んで昨日の記事で桐野夏生さんの小説「日没」について書かせていただきました。(桐野夏生の「日没」読みました コワッ!)読者の告発により、文化文芸倫理向上委員会に監禁されてしまうと言うコワイコワイお話でした。告発という名の密告、倫理向上委員会などという権力組織、療養と言う名の監禁、厚生という名の矯正が、「ヘイトスピーチ法」のような一見まともな法律の背後を考える事なく見過ごすと、とんでもない状況に繋がっていく危険性を含んでいるので、日頃からもっと考えて行動してほしい、という主張が込められていると感じました。この恐ろしさは充分感じられましたが、物語は強制的にある施設に監禁されてしまうという現代日本ではあまり起こりそうもないシチュエーションのため、どこかよその国の話のような現実味のない感覚をもってしまいました。■ たまたま見た Youtube動画昨晩Youtubeを見ていて、たまたま巡り合った動画に「さいとうなおき」さんというイラスト関連のチャンネルを運営している方の 「登録者130万人から0人へ。何があったのかお話しします。」 と言う動画を拝見させていただきました。50分ほどの長い動画でしたが、彼のアカウントが「Ban」されたということで、その経緯に興味があったため見てしまいました。ちなみに「Ban」と言うのはスポーツやゲームでは出場停止などの禁止措置のことを言い、ネットではアカウント停止やコンテンツ削除のことを言うようですね。その動画によると、彼はBanの怖さは十分に感じていたので、今までどの動画を作成する時もYoutubeの禁止事項に触れないよう細心の注意を払って作成していたので、Banされる心当たりが全くないと言っていました。それなのに全く連絡もなくある夜(真夜中)アカウントが停止され、動画もチャンネル自体も消えてしまい呆然としてしまったそうです。問い合わせてみても、何が問題なのか、問題の合った動画はどれなのか全く教えてもらえなかったそうです。これは、Youtubeでよくある対応のようですがあまりに理不尽、「日没」のような不条理さを他人事ながら強く感じてしまいました。「日没」は国家権力、「Youtube」は一私企業の違いはありますが、巨大権力になりうることに違いはありません。Youtuberにとって「Ban」は死活問題になる可能性もあり、重大な問題です。「さいとうなおき」さんも、イラストの描画過程で裸の少女を描いていると勘違いされないように、肌色は先に塗らないようにとか、そのほかにもいろいろ気を使っていたようです。確かに他のYoutuberも「死」という言葉は伏字にしたり、男性でも裸の時は乳首にテープを張ったりGoogle様の逆鱗に触れないように自主規制をしているさまは、チョッと気味悪さも感じてしまいます。既に統制の時代に入っているのかもしれません。結局「さいとうなおき」さんの想像では、原因はイラストの素材にするための写真を動画視聴者から募集した時に、アップロード先を彼のグーグルドライブにしていたのですが、そこに応募者がご自分の娘さんなどの写真を投稿し、その写真が児童ポルノと誤判定されてしまったのではないかということでした。以前にグーグルフォトに自分の家族の写真を自動アップロードしている人が、娘の水着写真がもとでグーグルドライブが「Ban」された例があるそうです。まさに、桐野さんが危惧していた過剰検閲・監視社会のようですね。ゾッとします。世界中で多くの情報を集め圧倒的な力を持つ「GAFAM」が、本気で情報の悪用や情報を利用した統制を陰で進めたら本当に怖い話です。■ 日常の監視社会現在の日本では、いたるところに監視カメラは設置されていますし、ネットでのショッピングやSNSなど個人情報は洩れっぱなしです。常に細心の注意が必要ですね。さらに、コロナ禍でのテレワークの普及により監視ソフトも発展しています。テレワーク用として支給されたパソコンに、監視ソフトが入っていることを知らない方もいるかもしれませんが、セキュリティソフトの名のもとにこっそりインストールされているかもしれません。このような監視ソフトが入っていると、何時何分から何時何分まで何というソフトでどのようなインプットをしたかが、詳細に記録されてしまいます。仕事の合間に、ショッピングサイトをのぞいてみようとか、お友達にメールしようとか、全部ばれていますよ!「こんな内容のソフトが入っていますよ。」と予め教えてくれない会社だったら、秘密で監視されているようでイヤですね。もう既に日本は監視社会ですね。意識を高くして自分を守らなくてはいけません。「日没」よりコワイ状況にならないように!
2023.04.10
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米澤穂信さんの短編小説集「満願」を読みました。いゃー!おもしろかった。ちょっと気味の悪いお話が並んだ傑作短編集です。山本周五郎賞、2014年度の「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」の3つのランキングで1位になった史上初のミステリーランキング3冠に輝いた作品だそうです。やはり3冠受賞作品だけのことはあります、何が起こるか不安にゾクゾクしながらも、流れるような文章と奇抜なストーリーに引き込まれてしまいます。裏に流れる気味悪さもクセになりそうな味付けになっています。先が全く読めない展開と驚きの結末が満足度を上げてくれます。6つの全く異なるシチュエーションの作品が収録されています。文庫本で読んだのですが、1話50~100ページなので1日1話づつ楽しみながら読み進められました。それぞれのお話をネタバレしない程度に書いてみます。1.夜警 交番の警察官のお話。 警察官に向かないと日頃から思っていた部下が殉職した。 しかしそれはただの殉職ではなかった。 殉職の裏に隠された謎を解いていく。 交番の日常と人間関係の描写がいいです。 張り巡らされた伏線と伏線回収にうならされます。2.死人宿 2年前に失踪した妻が山奥の温泉で中居をしていることを知った。 妻とよりを戻すため、私は宿に向かった。 その宿は、下の河原に火山ガスがたまりやすい窪地があり、自殺者が訪れることもある宿だった。 妻は脱衣所に置き忘れられた遺書を見つけ、3人の宿泊客のうち誰のものか探すことを私に依頼する。 限られた登場人物の中での推理劇。3.柘榴 美人の母さおりと美しさを受け継ぐ夕子と月子の二人の娘の物語。 さおりと夕子のモノローグで構成された、ダメ男と結婚した家族のお話。 最後に語られる結末が恐ろしい。4.万灯 バングラデシュで天然ガス資源の開発を進めるモーレツ商社員が関わってしまった事件。 その結果抜けられない状況を打破しようとしたことが裏目に出て...。 これも最後まで全く予想できない結末で、印象に残った作品でした。5.関守 都市伝説の雑誌記事を依頼されたライターが、先輩に教えたもらったネタを取材に。 伊豆にある峠での事故の取材だが、近くのドライブイン店主のおばあさんに話を聞く。 おばあさんは詳しく話を聞かせてくれたのだが...。 作品の中で一番おどろおどろしい感じのする作品で私は好きでした。6.満願 弁護士の私は、お世話になった学生時代の下宿先の奥さんが起こした殺人事件を担当する。 第一審では懲役8年の実刑だったため、第二審の準備をしていたのだが彼女は取り下げる。 今日は刑期を終えて出所する日、私は彼女は何故控訴を取り下げたのかを考える。どの作品も、謎解きや伏線回収よりも人間描写の方に重きが置かれているようで、短編なのに読後のズッシリとした読み応えが感じられ、最後まで満足感を持って読み終えました。満願 (新潮文庫) [ 米澤 穂信 ]
2023.04.04
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「世界の美しさを思い知れ」というタイトルを目にした時、何か気になるインパクトのあるタイトルだなと思い、どんな内容かも知らないまま読み始めてしまいました。額賀澪さんのちょっと暗めの青春小説といったところでしょうか。物語は、人気俳優である双子の弟が遺書もないまま自殺し、なぜ自殺したのかわからない主人公の蓮見貴斗が、原因は何だったのか、なぜ気づいてやれなかったのかと悩みながら、弟の尚斗が行く予定だった北海道の礼文島や過去に行ったマルタ島・台中・ロンドン・ニューヨーク・ラバスを訪ね、そこの美しい景色を観ながら弟の人生を探ろうとするというお話になっています。弟の自殺の原因を見つけようとするといってもミステリ作品ではありません。大切な人を突然失った喪失感、言いようのない悲しみにどう向き合っていこうかという物語です。弟の足跡を追って行った先々での美しい景色やその場所での人との出会いを通じて自分と弟との関係を改めて考えることになります。ネタバレになってしまいますので結末はお話しませんが、世界の景色・建物・食べ物が目に浮かぶような表現も多く、私が行ったことのある礼文は昔の写真を引っ張り出して見てみたり、行ったことのない海外の地はネットで画像を見て小説の中の気分を味わいながら読み進めました。各章の初めには、人気俳優の死にざわめくSNSや週刊誌の記事が差し込まれていて、無責任な誹謗中傷や好奇心がいかに現実と乖離しているかが表現されているようです。悩みながら暗く淡々と物語は進んでいきますが、最後は意外と爽やかな結末でした。最後の2ページがそれまでの印象をガラッと変えてしまう内容になっていました。タイトルから私が想像した内容とは全くちがうものでしたが、それなりに楽しく読み進めることができました。ただ、初版本を読んだのですが、最初の1ページにある日付が内容を誤解させるような決定的にまずい誤植みたいです。もしこれで悩んでいる人がいたら気にしないようにネ!世界の美しさを思い知れ [ 額賀 澪 ]
2023.03.28
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今村翔吾さんの小説「じんかん」を読みました。直木賞の候補にもなった、509ページの大作です。題名の「じんかん」とは、人間と書いてじんかんと読む、あのじんかんです。「世の中」や「世間」という意味で「人間万事塞翁が馬」などに使われている言葉です。この小説は、戦国時代の大悪人としてしられる、松永壇上少輔久秀(まつながだんじょうしょうゆうひさひで)の一代記です。松永壇上と言えば、将軍殺害・主君殺害・東大寺大仏殿焼き討ちの3つの大きな悪事をし、信長を2度も裏切った上、最後に自分の城である信貴山城で爆死したという壮絶なキャラの大名で、戦国ドラマにもよく出てくるのでご存じの方も多いと思います。しかし、ドラマなどでは主役ではなく脇役なので、彼の生い立ちや経歴など断片的にしか分からずにいました。又、ドラマの配役ではクセのある役者が演じることが多く、いったい本当はどんな人なんだろうと興味を持っていました。そして、この小説「じんかん」が松永久秀を主人公にした話だと聞いて、読んでみることにしました。物語は、松永に2度目の謀反をおこされた信長が、小姓の又九郎に一晩かけて、松永の生い立ちや人となりを話して聞かせるという形で進んでいきます。信長の語る松永久秀は、今まで私たちの抱いていたイメージを全て覆す、さわやかでまじめ、主君思いの熱血漢でした。孤児で野党に身を落とした兄弟が、三好元長と出会い能力を認められ出世していく大河ドラマ風小説です。ドラマチックで最後まで飽きさせない面白い歴史小説でした。この小説はフィクションなのでしょうが、史実の裏側をうまく繋いで矛盾なく話が進んでいくところがテクニックを感じさせました。おかげで、あまり描かれることのない、松永久秀の生涯や足利将軍・細川氏・三好氏との関係などもすっきりとよく理解することができました。ページのボリュームは大きいのですが、とても読みやすくてあっという間に読み終わってしまいました。歴史小説好きにはお勧めです。じんかん [ 今村 翔吾 ]
2023.03.21
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道尾秀介さんの小説は評判は高いのですが、読む機会があまりなく今までに3~4冊しか読んでいませんでしたが、「いけない」がネットの評判で面白そうだったので今回読んでみることにしました。いけない (文春文庫) [ 道尾 秀介 ]本の構成は4つの章で構成され、同じ町で起こった殺人事件の短編集の様になっていますが、全てが関連しているという形になっています。各章すべて「・・・してはいけない」で統一された題が付いています。第1章「弓投げの崖を見てはいけない」 自殺の名所付近のトンネルで起きた交通事故が、殺人の連鎖を招く。第2章「その話を聞かせてはいけない」 友達のいない少年が目撃した殺人現場は本物か? 偽物か?第3章「絵の謎に気づいてはいけない」 宗教団体の幹部女性が死体で発見された。先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。終 章『街の平和を信じてはいけない』それぞれの章はどちらかというと不気味なタッチで描かれた殺人事件の話です。「向日葵の咲かない夏」を思い出させるようなイヤミス(?)系小説のように感じました。ただ、仕掛けがスゴイ!どの章も、そして全体を通じても本当の真相が明かされないという画期的な小説になっていました。各章の最後の1ページには絵や写真が載っているのですが、じっくり見ると真相につながるヒントが隠されています。すべてを小説で表現するのではなく、読者に考えさせるような仕組みになっています。なんの事前知識もないままに読み始めたので、意味が分からなかったり勘違いしたりして、何度か前に戻って読み直したりしました。ミステリー初心者には少々ハードルが高いかもしれませんが、自分が主人公になったつもりで謎解きするミステリークイズ型小説といえるかもしれません。本当の真相は読者に任されているので、ネットでもいろいろな解釈が出ているようです。そんな小説があってもいいかな、と思います。この続編の「いけないⅡ」も出ていますが、物語は関連していないのでどちらを先に読んでもいいそうです。時間があったら「いけないⅡ」も読んでみたいと思います。いけない2 [ 道尾 秀介 ]
2023.03.13
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Yuutubeの「ほんタメ」で、あかりんが 「徹夜で読みたい小説3選」 で紹介していた3冊の中の1冊です。YouTubeの読書関連チャンネルはよく見るのですが、この「ほんタメ」は大好きで私の本選びの参考にさせていただいています。ここで紹介された「熱源」は、川越宗一(かわごえそういち)さんが書かれた、426ページもある長編小説です。2020年には、第162回直木賞を受賞した作品で、なかなか読み応えのある小説です。熱源 (文春文庫) [ 川越 宗一 ]あかりんのように徹夜で一気読みはできませんでしたが、4日ほどかけてじっくりと味わいながら読み終えました。物語は、明治初期から第2次世界大戦終了までのおよそ65年間の主に樺太を舞台にした壮大な物語でした。いろいろな人々の人生が描かれていますが、主にアイヌのヤヨマネクフとリトアニア生まれのブロニスワフ・ピウスツキの物語といっていいと思います。生まれた場所も民族や思想の違う人たちがどのように出会ってどのように考えどのように生活していくかが淡々と描かれていきます。当時のロシア、ポーランド(リトアニア)、日本、樺太(サハリン)の微妙な関係を背景に、なんのためにどのように生きるかを考えさせられる重めの小説です。読み始めると、アイヌやロシアの人たちの馴染みのない名前も災いしてスラスラと読み進めるわけにはいきませんでした。そして物語がどこに向かって進んでいくのかなかなか把握できなくて冗長さも感じましたが、文章を読んでいくのが決して苦痛というのではなく1行1行を楽しみながら読むことができた不思議な感覚の小説でした。読み終わって、この壮大なドラマの意味が初めて分かったような満足感でいっぱいになりました。「史実に基づいたフィクション」とのことですが、読み終わってからこの登場人物をネットで検索してみてビックリ!登場したほとんどの人物は実在してネットに写真も公開されていました。ヤヨマネクフやブロニスワフ・ピウスツキはもちろん、ヤヨマネクフの友人のシシラトカやブロニスワフの妻チュフサンマその他の人々の写真を見てイメージを膨らませることができました。また、登場人物の関連も興味深く、金田一京助、二葉亭四迷、南極観測の白瀬中尉、大隈重信、ポーランド共和国の初代元首ユゼフ・ピウスツキ等々有名人が主人公に関わってきます。調べてみると、実際にもほぼ同じようなかかわりがあったようで、事実の面白さを感じずにはいられませんでした。万人にお勧めできる小説ではないかもしれませんが、じっくりと考えながら深い小説を読んでみたいと言う方は、ぜひ手に取ってみてください。
2023.03.07
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■ 私と読書最近、少々活字中毒気味で、活字に触れる時間が無いと何か物足りなく感じてしまいます。朝食後のひと時、新聞を時間をかけてじっくりと読んでいます。昼食後の午後のひと時には、本を読む時間を作ってのんびりと読書を楽しんでいます。こんな生活ができるのも、リタイア生活のおかげです。でも、読書が好きすぎて、ついつい時間を忘れて気が付くともう夕方ということも良くあります。最近は、なるべく1日100~200ページ位で切りのいいところまでで終わるように心がけています。時間はタップリあるんだから、焦ることはないですよネ。■ 佐藤究の本佐藤究さんの本は今まで読んだことがありませんでしたが、最近友人の勧めで読んでみることしました。読んだのは ・Ank: a mirroring ape ・テスカトリポカ ・爆発物処理班の遭遇したスピンの3冊です。ちょうど発表年順に読んだことになります。「Ank: a mirroring ape」は大藪春彦賞と吉川英治文学新人賞を取っているし、「テスカトリポカ」は直木賞と山本周五郎賞を取っているではないですか。「爆発物処理班の遭遇したスピン」も日本推理作家協会賞短編部門の候補になっていました。そのほか佐藤究さんは数々の受賞歴があり実力のある作家であることをうかがわせます。この3作を読んでみて感じたことは、「新たな天才に出会ってしまった!」です。どの作品も、圧倒的な専門的情報量と最後まで飽きさせない筆力、そして物語として楽しめるエンターテインメント性です。何よりも彼の天才性を感じさせたのが、作品の題材の斬新さでした。どんな発想でテーマを決めるのかとても興味を持ちました。小説好きのための小説という感じです。■ Ank: a mirroring ape京都で起こった暴動があちこちへと伝染していく。しかし細菌やウイルス、汚染物質等のせいではない。いったい何が原因か?そのころ研究施設から脱走したチンパンジーとの関連は?Ank : a mirroring ape (講談社文庫) [ 佐藤 究 ] 圧倒的な科学情報をもとにグイグイと物語が進んでいきます。物語は場所と時間がバラバラに構成されています。慣れるまでは少々気になりますが、読み進めるうちにスピードに乗って話に没入してしまいます。読み終わってみると、荒唐無稽なお話とも感じられますが、こんな話を飽きさせずに楽しませてくれた佐藤さんに感謝です。■ テスカトリポカ大長編の犯罪小説。南米と東南アジアそして日本を舞台にした人生の物語。テスカトリポカ [ 佐藤 究 ]主人公はメキシコ人のバルミノ、日本人の末永、メキシコと日本のハーフのコシモ、そしてその周辺で生きる人々。一種の群像劇ともいえると思います。残虐な描写も多く、苦手な人もいるかもしれませんが、ストーリーはスピード感たっぷりのエンターテインメントです。「テスカトリポカ」とは古代メキシコのアステカの神の名前。この神がどのように主人公たちに関わっているのか?読み終えると、1年間の大河ドラマを見終わったかのような充実感がありました。■ 爆発物処理班の遭遇したスピン以下の八篇の短編で構成された短編集です。 ・爆発物処理班の遭遇したスピン ・ジェリーウォーカー ・シヴィル・ライツ ・猿人マグラ ・スマイルヘッズ ・ボイルド・オクトパス ・九三式 ・くぎどの作品も、発想力がスゴイ!短編なのに読み応えズッシリ!爆発物処理班の遭遇したスピン [ 佐藤 究 ]「爆発物処理班の遭遇したスピン」は、ハードSF的作品で科学的情報量もぎっしり。「ジェリーウォーカー」クリーチャーCGクリエイターのおぞましい真実。SFホラー。「シヴィル・ライツ」新宿やくざの暮らしと試練を描いた作品。「猿人マグラ」子供のころの思い出話風。夢野久作へのオマージュ?「スマイルヘッズ」は連続殺人鬼の芸術作品のコレクターの話。一流のホラー作品。「ボイルド・オクトパス」 退職刑事を取材するライターの受難。「九三式」終戦後の野犬駆除に関わる恐ろしい話。「くぎ」川崎で更生しようとしている少年にるりかかる事件。どの作品をとっても第一級の作品ですが。個人的には、最後の「くぎ」がベストでした。先が読めない恐怖と、最後のどんでん返し。感動しました!私はご紹介した3冊の中で「爆発物処理班の遭遇したスピン」が一番のお気に入りです。この「爆発物処理班の遭遇したスピン」は、佐藤究さんの小説を読んだことが無い人の入門としてピッタリだと思います。佐藤究さんのエッセンスが詰まっているような気がします。よろしかったら、一度本を手に取ってみてください。
2023.02.27
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