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October 5, 2020
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カテゴリ: 書評

見えない戦争 田仲均著

早稲田大学名誉教授 山本 武彦 評

国際社会に潜む危機の因子

内容こそ異なれ、いつの時代にも危機はわれわれの気づかないところに存在する。それを危機として感知できるだけの感性を育てるのは容易な業ではない。その危機は我々の住むアジアはもとより世界のいたるところに潜在し、特に銃火の応酬に繋がる。ポスト冷戦後世界を生きる我々にとって、著者の言う「見えない戦争」がすでに足下でも迫っていることを本書を通して思い知る。島国に暮らす悲しさか。なかなか皮膚感覚でこれを捉えきれない。長い外交経験を積んだ著者は、現代の国際社会に潜む危機の因子を抉り出したうえで、紛争に繋がるかもしれないさまざまな要因に警鐘を鳴らす。

著者は、ポピュリズムが蔓延する日本で深まりゆく危機の原因を劣化する政治体制や日本外交の変質などに求め、ついでアメリカ世進むトランプ現象の負の側面に光を当て、政権にプロフェッショナルな人材が定着しない現状に不安を投げかける。さらに、アジア・太平洋地域に目を移し、習近平体制下の中国が抱える内部矛盾や朝鮮半島の南北に横たわる危機の相貌を日本との関係に及ぼす影響と関連付けて描き出すとりわけ直近に起った徴用工問題と対韓輸出管理問題以来ささくれ立った日韓関係の対処策や、拉致問題に前進が見られない日朝関係について、いかにスマートな問題解決を進めるのが難しいかを本書を通して知る。これにとどまらず著者の言う「見えない戦争」の材料がいかに多いことか。

差し迫った脅威として認識せざるを得ない米中対立は、製材・技術関係の対立が高進する米中摩擦は、はたして覇権国アメリカに対する中国の挑戦を孕むのか。覇権交代論を強く意識しながら米中対立をとらえると、アメリカと同盟を結ぶ日本は中国との間でどのような立ち位置を占めたらよいのか。朝鮮半島の非核問題を核不拡散と核軍縮というグローバルな課題と結びつけてどのような策を日本は講ずるべきなのか。本書を読むと、悩ましい大きな難問に次々と突きあたらざるをえない。

(中公新書ラクレ  820 円)

たなか・ひとし ㈱日本総研国際戦略研究所理事長。 1969 年外務省に入省、外務審議官(政務担当)等を務め、 2005 年退官。

【書評】公明新聞 2020.2.3






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Last updated  October 5, 2020 05:37:11 AM
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