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なぜ中間層は没落したのか
ピーター・デミン著 栗林寛幸訳
経済学者 福島 清彦 評
米国社会の荒廃は、日本への警告
アメリカ社会の荒廃を浮き彫りにして売る。深淵の深さと暗さを指摘し、前途への希望はルーズベルト大統領が始めた福祉国家の復興しかないと論じた本である。
人口では全体の 20 %しかない、金融 F 、先端技術 T 、エレクトロニクス E 、の 3 部門がこの 40-50 年間で肥大化し、人口の 80 %に達する低賃金部門に犠牲を強いている。非常な制度改悪を歴代の政権がしてきたので分断が永続している。 FTE の 3 部門がその政治資金力を用いて政治を支配してしまったので、トランプ以降も暗い将来が続くことを予見している。
金融などの 3 業種が増長し、中間層が没落、右派勢力が台頭しているのは先進国共通である。アメリカの場合、それに有色人種に対する差別という宿痾がある。指導者たちが人種偏見をあおって福祉削減を進めてきた。
レーガン大統領はかつて、アメリカには「福祉の女王」がいるという話をした。ある黒人女性が、全く働かず、結婚もせずに、何人もの子供を生み、福祉手当で暮らしていた。彼女の子供たちも働かず、 10 代で出産し、各自が母子家庭手当てを貰っているので、一族は結構いい暮らしをしている、という話である。話の真偽は不明だが、「こんな連中を食わせるために、税金を取られるなんてまっぴらだ」とレーガンは訴えた。
トランプも同じ手法で富裕層への解税と社会保障や教育の予算を削減した。アメリカ社会の分断はさらに進み、高学歴富裕層と低学歴貧困層の対立から 2020 年にはオレゴン州ポートランドで暴動が発生するまでになった。トランプの対応はポートランドに連邦部隊を派遣し、治安回復を目指すことだった。この本はアメリカ社会の闇の深さを知る上で有益だが同時に、日本への警告と見るべきだ。弱肉強食で効率をあげていく市場経済には本来残酷な側面があり、放置していると社会が分断されていく。積極的な社会政策で格差を広げないようにする必要があるのは、日本もアメリカも変わらない。
(慶応義塾大学出版会 2700 円)
◇
ピーター・デミン 1937 年生まれ。米国マサチューセッツ工科大学名誉教授。経済史。
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