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日本が学ぶべきことは何か
尾松 亮
海洋汚染の削減課す条約
福島原発事故後、事故炉で発生する汚染水の流出防止や処理水の海洋放出を巡る対策に対し、国内外から疑問の声が上がっている。政府・東京電力は、海洋放出の影響は軽微とする評価を繰り返し訴えているが、関係者から理解が得られていないのが現状だ。
国際的なルールを定め、汚染状況報告や汚染削減に取り組んできたOSPAR条約(北東大西洋の海洋環境の保護を目的としたオスロとパリ委員会での条約)の経験から私たちが学ぶべき教訓は多い。
一つ目は、明確な健康影響が証明できなくても汚染削減策を推進する「予防原則」を基本として、影響を受ける関係国間で共通ルールをつくることだ。
「予防原則に従えば、因果関係の決定的証明がない場合でさえ、懸念を持つだけの合理的な根拠があれば、予防措置を講じることが可能である。完全な科学的証明ができないことは、海洋環境保護の思索を遅らせる理由になってはならない」
これが同条約の基本原則だ。
セラフィールド再処理工場からの汚染を批判された英国企業は当初、健康影響は軽微であると主張したが、汚染原因をつくった企業が「影響は軽微」と主張しても、国際的な信頼を得ることはできない。「影響が証明できない」からこそ、汚染ゼロを目指し対策を講じ続けることの必要性をOSPAR条約の経験は示している。
二つ目の、汚染状況評価や汚染削減対策について市民社会に開かれた議論をしてきたことだ。
OSPAR条約の締約国会議や小委員会ではグリーンピースやKIMOインターナショナルなど、環境問題に取り組む国際NGOが参加し、市民社会や民間の専門家からの懸念や要望するルール作りに反映させてきた。
一方、日本での海洋放出決定に至る議論では、市民の参画機会が極めて設定されている。海洋放出計画を評価するIAEA(国際原子力機関)のミッションには周辺国の専門家も参加しているのが、これだけで世界の市民社会に開かれた議論をしているとは言えない。
予防原則に立ち、市民に開かれた議論を行ってきたからこそOSPAR締約国は海洋汚染を巡る外交対立や貿易戦争に陥らずにすんだといえる。
学ぶべきは海洋汚染を比五起こしている事実を認めることだ。「処理水」と呼称を変え、基準を満たせば汚染が生じないわけではない。また、汚染水放出の影響を訴える人々を「加害者」扱いすることがあれば、国際的にますます孤立することになるだろう。
(廃炉制度研究会代表)
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