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トライアスロン・ジャパンカップ in 佐渡1989(230.1キロのゴール)
あと5キロの地点を過ぎた辺りで、初めて他のランナーに抜かれてしまった。1キロ5分の自分自身のペースが落ちていたわけではなかったからよけいにショックだった。
彼は、自分がそうして来たのと同じように、自分のピッチと合わせながらそっと後方から近づいてきて、横に並ぶことなく一瞬にして自分の前に躍り出たのだった。
1キロ約4分50秒、気持ちのいいくらいのハイペースで、彼は僕の目前から消え去って行った。悔しかったけれど、なすがままに任せることにした。彼が途中でペースダウンすることがあれば、ゴール直前ででも捕らえることができる。今はこのペースを維持するまでだ。
だが、吹き抜けていく風のごとく、最終的には彼の姿を見ることは二度となかった。
ゴールが近づくにつれて沿道の応援も増え始める。
「もう少しだよ、頑張って!」という声。
確かに頑張っている。生まれて初めてのアイアンマンディスタンス230.1キロをあとほんのわずかで制覇することになる。
ペースは落ちたのかも知れない。右足の爪先に激痛が走る。ちらっと靴の先に視線を向けると赤く染まっている。マメが潰れたのだ。
痛いなんて言ってられない。もうゴールはすぐそこにある。頭の中から「痛い」という言葉は抹消して、僕はラストスパートをかけた。
潮の香りが漂う。ゴール会場のアナウンスが聞こえてくる。
「おかえりなさい!!」
沿道の人々が次々にそう言ってくれる。太陽は西の空に沈み、沿道の人々の顔もはっきりと見えない。
ゴール地点は水銀灯の明かりでやけに眩しかった。自分のナンバーと名前を告げる場内アナウンスが辺り一面に響き渡る。
僕はトラックに入ると残った最後の力をふりしぼり、FINISHの文字が見えるゴール目指してまっしぐらに走った。
場内に拍手と歓声が起こる。自分の順位と名前がアナウンスされる。
11時間46分00秒。今またひとつの旅が終わった。
かくして僕は鉄人となった。鉄人と呼ばれるにふさわしい人間となったのだ。
その気さえあれば誰もが鉄人になれる。地道に努力を続けることが、鉄人への道なのだということをこの時はっきりと悟った。
来年はびわ湖のアイアンマン、そしていずれはハワイの世界選手権へと、僕の鉄人の道は果てしなく続いていく。
総合タイム:11時間46分00秒
スイム 3.9キロ:1時間45分37秒(1時間35分12秒)
バイク 184キロ:6時間26分30秒(6時間17分25秒)
ラン:42.2キロ:3時間33分53秒(3時間31分45秒)
*( )内はトランジション(着替え等を含む)を除くタイム
総合順位:75位/924人
年代別順位:21位(25~29歳)
( 完 )
鉄人であることを証明する完走証
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