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カテゴリ: 風の詩
和歌山県浦神の話、
本州最南端串本の近くの浦神の荒磯の話。

先ずは、山は色々あるから始まるが、
色々ある山の話しではない。



前置きは昨日行った浦神の山歩きの話のため。
親切なご婦人の不思議さを説明するためのものだ。



 例年よりかなり早い梅雨も明け、本格的な夏の行楽シーズンが始る。16日から始る3連休前の昨日、知人の進めに従って、海岸線の洞窟探しに出かけた。厳密には洞窟探しではなく、自然にくりぬかれた巨岩を見て、通り抜け、確かめる為に出かけた。場所は和歌山県浦神。近大のマグロ養殖基地として有名な浦神である。
 知人からの詳細な道程記述のメールはプリントしてもって来たつもりが忘れていた。うろ覚えの文言を頼りに道路が尽きる墓地の駐車場まで行ったが、心細くなり、一旦集会場の方に下り、地元の人に確かめる事にした。知人からは、「浦神の洞窟」とだけ教えられていたからで、また、逆の方からの道順の教えられていたから、「浦神の洞窟」が、幾つもありそうな気がしたからである。


 午前10時前であったが、燦燦と降りしきる陽射しの中に人はいるとは思えないなどと話しながら下った集会場の奥の広場に、農業ファッションで作業するご婦人を発見した。そして幸いにも作業に一区切りついた婦人は集会場の方に向かってきた。

「浦神の洞窟への道はどこでしょうか」と尋ねると、
「洞窟ですか」と、ご婦人は首を傾げて、
「洞門とか、通り抜けの岩」などと説明した後で、
墓地の方からの幾つもの道を説明した。


刳りぬかれたような岩のことであった。
自然の力でくりぬかれた巨は門のようであり、
トンネルのようである。

刳りぬかれた巨岩を女体として、胎内への道とか、胎内くぐりとかの、母体信仰的な風習、先祖帰りとか、原点復帰とか、生まれ変わりとかを願う風習とかは、各地にあるようだが、そんな、信仰的であり風習が詰まったような奇岩巨岩が多く立ち並ぶ荒磯への山道である。ご婦人の話を訊き再度墓地の駐車場に車を止めた。山歩きの準備をしていると、先ほどのご婦人がやってきた。

「説明はしたものの、心配ですので途中までご案内します」と仰る。
そんな言葉が信じられないが、婦人は先頭を切って歩き出した。山歩きに案内人がついた。海岸線の探索に山を歩く山歩きだ。婦人はほとんど毎日のように散歩代わりに、ご主人と二人で歩いていると言う。心配していた、間違いそうな山道の分岐点では、その先々の海岸風景まで説明する名ガイドである。山で案内人は何度も経験した。熊野古道では語り部の方が、峠越えを共にしてくれたこともあったが、上り口の近くの民家のご婦人が心配して、案内してくれるのは、滅多にない経験だ。ご婦人は、毎日のように登っているだけあって、なる程、街の中、スーパーの中を歩くような軽快さで山道を歩き、こちらのペースを心配して速度を下げる。

 途中の広場、串本の惨状のホテルが眺望できる場所までの予定が、結局は、荒磯の海岸の直ぐ上、波の音が聴こえる場所まで案内してくれた。滅多にない経験に感動しつつ、幾つもの奇岩に目を細め、くりぬかれた巨岩のトンネルを潜り抜け、開ける荒磯野海岸の絶景に感動した。

 そんな、山歩きならぬ磯探求であった。婦人は浦神からは、裏になる荒磯に海藻採集に行く時でも、他の人たちは船で行っても、一人で山道を歩くという。海藻採集に山道を行くのだ。漁場に行くのに山越えである。帰りも海藻は船に乗せ、一人で山道を帰るという。ご婦人にとって、山は最も安心できる空間のようだ。

 帰りには、教えられた家に声をかけると、ご丁寧にも、ご主人が航空写真を用意していた。胸板の厚い格闘家を髣髴さえるご主人は、山道を大股で登るだろうと思わせる迫力があった。格闘家彷彿させるご主人の航空写真を見せての丁寧な説明で、歩いた山道、荒磯野巨岩の位置まで確認することが出来た。ご夫婦は脱サラで、カキの養殖業を営んでいるという。

 それ程の親切に会うことは初めての経験だ。山や海では、会う人は皆、親切であり、どんなことにも協力的だが、心配してくれて、山道を長時間案内してくれる親切は初めてだ。過って、何かの本で、富士山登山中に動けなくなり、通りがかった人が荷物を運んでくれたという話を読んだことがある。通りがかった人の正体は強力だったと後で知った人の感謝気持ちが書かれていたが、そんな感謝の気持ちである。






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最終更新日  2011.07.16 13:15:08
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