2011年12月01日
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カテゴリ: 秋山真之伝記
 バルチック艦隊が対馬海峡から来るのか、津軽海峡から来るのかという問題は、

 日本の存亡にもかかわる大問題でしたから、

 連合艦隊司令部も大本営(軍令部)の意向を重視、尊重したはずです。


 したがって、明治38年5月23日(24日と書いてある本もあります)に、

 連合艦隊司令長官東郷平八郎大将は、軍令部長伊東祐亨(スケユキ)大将宛て、

 『相当の時機まで敵を見ないときは、北海方面に迂回したものと判断し、連合艦隊も津軽方面に移動す』

 と、打電したのです(第1電)。


 これは、とりあえず連合艦隊司令部の方針を示しておけば、軍令部のほうに異論があれば、

 何か言って来るだろうという判断であったでしょう。


 (ちなみに、この電報の発信を、東郷本人が知らなかったという話が、まことしやかに伝わっていて、

 それでは、誰がこんな電報を勝手に打ったのだということになって、

 それは、先任参謀の秋山真之だろうというのは、

 あまりに出来の悪い作り話ではないでしょうか。)


 5月25日、戦艦「三笠」艦上に、第2艦隊司令長官以下各司令官が集めて、

 連合艦隊の方針が示されようとする時になっても、軍令部からの返電は無かったのです。


 そこで、連合艦隊の最終方針を軍令部宛てに、

 『明日正午まで、当方面に敵影を見ざれば、当隊は明夕刻より北海方面に移動す』

 と、打電しました。


 この後、伊東軍令部長より東郷長官宛てに、第1電の返信がやっと届いたのです。

 『艦隊の移動については特に慎重を希望す』


 軍令部は、1日も2日もかけて、いったい何をやっていたのか、

 結局のところ、全ての責任を現場に押し付けたと言われても仕方のない返信でした。

 まあ、本店と支店の関係は、何時の時代もどのような社会でも同じようなものかもしれません。


 ところで、連合艦隊の司令部は、25日中に津軽に向けて出発するつもりであったのに、

 第2艦隊参謀長藤井較一(コウイチ)大佐と第2戦隊司令官島村速雄少将が、

 バルチック艦隊の対馬通過説を強く主張し、出発が26日に延期されたという説があるのですが、

 それは、ちょっと無いのではないかという気がします。


 というのは、連合艦隊司令部は、軍令部の意向を尊重していた筈ですから、

 最終方針を軍令部に示してから実行するまでに、

 1日程度の猶予時間(連合艦隊の方針を軍令部が反対であるなら、その旨を連合艦隊に伝えるために要する時間)

 を予め見込んでいただろうと思うからです。


 電波は直ぐに飛んだとしても、当時は電報を打つ、受けるに時間を要したでしょうし、

 軍令部からの返電には、最低でも伊東軍令部長の決裁と山本権兵衛海軍大臣の合議が必要であったでしょうし、

 返信するのにそれなりの時間を要することは、

 加藤友三郎参謀長も真之も織り込み済みであったことでしょう。


 つまり、東郷の司令部が25日に最終電を打って、

 当日出発を予め計画していたというのは考えにくく、

 やはり、最初から25日に最終電を打ち、

 26日に出発することを計画していた考えるほうが自然だと思うのです。


 水野広徳は、日露戦争後、戦史編纂部にいたので、

 日本海海戦のことを何でもかんでも知っていた筈であり、

 真之の伝記に、この問題について、次のように書いています。


 『世間では往往この万一の場合に処する二段の備えを立てた点を誤解して、

 連合艦隊司令部は敵は津軽に来るものと判断したと決めてしまい、

 これを、かれこれ言う説が無いでもない。


 はなはだしいのは、司令部の計画を止める提案をした人があるなどの話も聞くが、これらは全て誤聞であって、

 戦略研究がその度を超え、詮議し過ぎて、却って訛傳(カデン、誤伝)となったのである。』


 水野は、誤伝の生じた理由を「戦略研究が度を超えて詮議し過ぎたため」と書いていますが、

 さすがに発禁処分になっても困るので正直なところが書けなかったのではないでしょうか。


 全ての功績を東郷に帰そうとする動き、

 露探艦隊と言われた第2艦隊の名誉回復への動き、

 東郷の司令部、特に秋山真之の輝かしい功績に対する妬み、

 などが、ごちゃ混ぜになって、このような誤伝が生まれたのではないかという気がします。 





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最終更新日  2011年12月02日 00時09分06秒
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