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<きくさん許される> そして、ついにあの夜、作治さんときくさんは「駆け落ちでもされたのでは堪ったものではない・・・」という、地主であるきくさんの父親の苦渋の決断によって結婚を許された。ただし、それには3つの条件つきだった。その1、「娘のために部屋を三つ増築すること」きくさんの嫁入り道具である箪笥などを置く部屋、新婚夫婦の寝間、そして女中頭、まつさんのための小部屋。(増築に掛かる費用はすべて地主さんの負担)その2、女中頭のまつさんを、きくさんが畑仕事などに慣れるまでサポート役として毎日出向かせること。その3、きくさんは、週に一度は屋敷に来て、顔を見せること。いくら、条件付とはいえ、きくさんは躍り上がって喜び、涙ながらに父親に対して何度も感謝し、作治さん共々(作治さんのお父さんも含めて)、頭を下げたということでした。
2009.03.15
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「映画のようなラブストーリー」 < 地主さま登場 > 作治さんの母親に手伝ってもらい着替えを済ませた「きく」さんは、囲炉裏の前に座って身体を温めていた。作治さんの父親が何か言おうとして口を開きかけたその時、突然この家の引き戸を叩く音がした。「せいちゃん(清治《仮名》、作治さんの父親の名前)わしだよ正一(地主、つまり、きくさんの父親の名前)だ。きくが来ておるじゃろ、開けてくれんか」清治さんはすぐさま、引き戸のカンヌキをはずすと地主であり幼馴染でもある正一を迎え入れた。そして深く頭を下げながら言った。「このたびは申し訳ねえことで、だどもお嬢様が雨に濡れておられたので乾いた着物に着替えてもらって、囲炉裏で温まってもらってからお屋敷までお送りするつもりでおりましただども・・・」「そりゃあ反対だ、せいちゃん。詫びを言わねばならんのは、わしの方だて。娘が面倒をかけたのう、このとおりじゃ」そう言うと地主さんは清治さんに頭を下げた。清治さんは感動していた。(正ちゃんは未だにわしのことを幼馴染と思うてくれているのか・・・)他のひとたちは皆一様に驚いていた。この時代、大地主が一農民に頭を下げることなど考えられないことだったのである。清治さんに向かって頭を下げた後、地主さんは囲炉裏の前で身体を強張らせて座っているわが娘を見やって、一つため息をついてから話しかけた。「きく、これまでにただの一度たりともわしの言いつけに背いたことの無いお前のことじゃ、てこでも其処を動く気はないのじゃろうな」「はい・・・ごめんなさいお父様」きくさんは父親に向かって深く頭を下げたが、はっきりそう言い切った。
2009.03.06
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「映画のようなラブストーリー」は実話に基づいています。どうしても、思い出せない部分もあって・・・上記の故、この言い訳は通用させて頂きます。つまり、多少文脈が飛ぶ、ということも・・・そういう訳で「雨」のシーンから・・・ < 雨の中を > きくさんに会えなくなってから、悶々とした日々を過ごす作治さんでした・・・そんなある雨の降る夜のこと・・・作治さんの耳に足音が聞こえてきました。「ばしゃ、ばしゃ!」とその足音は作治さんの家に近づいてきます。「誰かな?こんな夜に・・・雨じゃというのに・・・」作治さんは不審に思いながら、土間に下りてゆき引き戸を閉めたまま、外の様子をうかがうため、耳を澄ませた。足音は急に小さく、しかしながらはっきり聞き取れるようになり、やがて止まった。それは、訪問者が戸口のすぐそばまで来たことを教えている。「誰かな?」「作ちゃん!?・わたし、『きく』よ!」「きくちゃん!?」作治さんは驚いた。けれどきくさんの名前を呼びながら、同時に引き戸のカンヌキをはずしにかかっている。引き戸を開けると、そこには雨の中を駆けてきたため、全身をぐっしょりと濡らした『きくさん』が立っていた。「作ちゃん、・わたし・・」「話はともかく、早く中へ入れ」(ここ、強い口調ではありません、つまり、訛っているわけですね)作治さんは、きくさんを抱えるようにして土間に入れ、引き戸を閉めた。振り返るときくさんが・・・「わたし、やっぱり作ちゃんじゃないと嫌だ!明日のお見合いには絶対行かないから!」全身を小刻みに震わせながら、きくさんは大きな声で、涙を浮かべてそう言い切った。作治さんは勿論嬉しかったが、きくさんとのことは諦めていたことであり、突然の予想外な出来事に戸惑った。何しろまだ18歳である。 それでも言うべきことに気づき、それを口にしようとしたその時・・・誰かの声が割って入った。「まずは、暖かくして濡れたきものを着替えねば、風邪ひくぞ・母さん、手伝ってやれ。作治はちょっと向こうの部屋に居れ」そう言いながら、囲炉裏の火をおこしてくれたのは作治さんの父親だった。まずはそれが今このとき、順当なことである。誰一人、異論はなかった。きくさんは、作治さんの父親に頭を下げ、作治さんは、きくさんに優しい笑顔を見せてから土間から上がり、隣の部屋へ入り障子を閉めた。
2009.03.03
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アルファポリス「恋愛小説大賞」にエントリーしてます。 此処からどうぞ 「映画のようなラブストーリー」 みなさん、突然ですがごく一部のS・F好きなお友達からの要請で、今日からアルファポリスのS・F部門に連載中で休載していた、「大 変 更」 の更新を再開します。「映画のようなラブストーリー」も平行して連載してゆきますので、よろしくお願いします。 「映画のようなラブストーリー」 < 告げられぬ想い > 作治さんからきくさんに送られた返事の手紙、それは何度も書いては丸めて捨てられ、悩み抜いた末に書かれたものだった。 作治さんの家の土間に転がっていて、その後屑籠に捨てられていた小さく丸められていた紙を広げてみたとしたら、そこには彼の本音の一部が書かれているのが解る。 「きくさん、いっそ二人して東京へ行かねえか・・・。あそこは人が一杯暮している大きな街だ。俺は『木を隠すなら、森に隠せ』 という言葉を聞いたことがある。 ならば、『人を隠すなら都に隠せ』そう言えるのではねえか?きくちゃん、どう思う? 」
2009.02.18
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アルファポリス「恋愛小説大賞」にエントリーしてます。 此処からどうぞ 「映画のようなラブストーリー」 きくさんにとって、作治さんからの返事は物足りないものだった。誠意を感じることはできたが、力強さに欠けていた。例えば・・・ 「きくちゃん、心配するなよ。俺がなんとか御両親を説得してみせるから、もう少し待っていてくれ」もっと大胆な手段を選ぶとしたなら・・・「きくちゃん、こうなったら二人で駆け落ちしよう。そして誰も二人のことを知ってる人の居ない土地で暮すんだ」 古の恋愛小説ならば、必ず出てくるようなありふれた台詞ではあるけれど、今のきくさんにとって愛しい男性に一番言って欲しい言葉ではないだろうか・・・
2009.02.12
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アルファポリス「恋愛小説大賞」にエントリーしてます。 此処からどうぞ 「映画のようなラブストーリー」 「きくちゃん、手紙読みました。俺はきくちゃんが他の誰かの嫁さんになるなど、考えたくもねえ・・・俺はきくちゃんの笑った顔、大好きだ・・・俺のなまえを呼ぶその声も大好きだ・・・きくちゃんは俺の一番の宝物だ。だども、俺は きくちゃんに綺麗な着物を買ってやることはできねえ、大きな部屋に寝かせてやることも・・・美味しいご馳走を食べさせてやることもできねえ・・・そんな暮らしがずっと続くだよ・・・きくちゃんは貧乏を知らねえ・・・そんな俺との暮らし、もしも地主さんが許して下さっても、我慢できるかなあ・・・ きくちゃん 作 治 」
2009.02.09
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アルファポリス「恋愛小説大賞」にエントリーしてます。 此処からどうぞ 「映画のようなラブストーリー」 < 眠れない夜に > 「どうしよう・・・作ちゃん、私はどうしたら良いの・・・」きくさんの手紙の最後の一行は、作治さんの脳裏に焼き付いただけでなく、それは きくさんのあの声で聞こえてくるようだった。今にも泣き出しそうな彼女の顔さえ目前に迫るように浮かんできた。農作業で身体は疲れていても、今夜の作治さんはなかなか寝付くことができないでいる。(俺だって・・・どうしたら良いのか、わからねえ・・・)いくら考えてみても名案はうかんでこないまま、時はすぎてゆく・・・長い思案の後、作治さんの口が開いた。「 きくちゃん・・・」作治さんは未明の暗がりの中、布団を抜け出し、音を立てないように小机の作治さん専用の引き出しの中から紙と鉛筆を取り出した。これらは、 きくさんが作治さんのために用意してくれたものだ。作治さんは足音を忍ばせて土間に下り立つと、窓からの月明かりの中で手紙を書き始めた。
2009.02.05
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アルファポリス「恋愛小説大賞」にエントリーしてます。 此処からどうぞ 「映画のようなラブストーリー」 < 悲痛な報せ > まつさんと、「ユキ」の散歩作戦は順調に続いていたが、きくさんの家では、作治さんの願い、それは きくさんとの想いが実を結ぶことなのだけれど。きくさんのご両親、特に母親の意向によって、作治さんたちの夢は消し去られようとしていた。きくさんの嫁ぎ先が、ほぼ決められてしまったのである。それは少し前まで作治さんの中で予想出来ていたことではあったが・・・現在とは違い、明治の頃の結婚とは、ほとんど親同士の話し合いで決められていた。この一大事を報せる、きくさんからの手紙を読んだ時、作治さんの手は、小刻みに震えていた。
2009.01.31
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此処からどうぞ 「映画のようなラブストーリー」 < あれからの二人 > あれから二人は、毎日のように手紙をやりとりしている。素朴な文章の中に、お互いの、相手を想う気持ちを確かめ合いながら。その一方で、マツさんは多忙を極めていた。きくさんの父である大地主の御当主ご一家の、毎日の生活に遺漏のないよう、女中頭として奉公人たちに指示を与え、自らも率先して立ち働く。それだけでも大変な仕事であろう。自分の自由になる時間は限られている。それは、一日2度の食事の時間くらいのもの・・・(昼は時間の空いた時、焼き芋などを食べ、お茶を飲んで済ます)そういったわずかな時間を削って、マツさんは、我が子のように想っている、きくさんの為、「ユキ」をお供に散歩作戦を遂行するのである。
2009.01.22
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アルファポリスの「第2回恋愛小説大賞」にエントリーしました。また応援宜しくお願いします。 此処からどうぞ 「映画のようなラブストーリー」 <作治さんの返事> 「 きくちゃん、マツさんときくちゃんの作戦を書いた手紙読みました。それにしても『ユキ』のこと、よくあれだけ覚えさせたな。感心しました。燻製肉を食べている間に、首輪に下げた袋から手紙を取り出したけれど、一度も吼えたりせずにおとなしくしていたよ。きくちゃんは女学校へ上がってから、漢字をたくさん習ったのだな。俺は学校へ行けなくて読める漢字は少ないけども、きくちゃんのお父さんから、うちの親父様が昔いただいた本を読んで、同じ字を見つけるから心配いらねえ。 ふりがながふってあるからな。かえって勉強になる。だから、きくちゃんが気ぃ使うことなんかいらん。 おれも同じ気持ちだ、もっと近くで きくちゃんの顔が見てぇもんだの。 きくちゃんへ 作治 」
2009.01.15
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みなさん、今晩は。今日はMixiのお友達から受けた質問について、お話します。ちょっと面白い、と感じたので・・・先ず、お友達から寄せられた、「映画のようなラブストーリー」のサブタイトル<予想外の成果>に対する質問。「予想外の成果というのは・・・ 心の中に秘めていた思いを外に出すことが出来たという事でしょうか? 」〇ぼくの返事は・・・ 「そういうことのようです。あと、『手紙のやりとりだけなのに受けた感動の深さが予想以上だった』 きくさんはそう言っておられたようです」 〇付け加えられたぼくの感想・・・「『恋する人が書いた字に、込められたその想い』は携帯やメールとは異種な波形で脳に伝わり、胸の奥深くにある庭で開花する・・・ぼくは今、そんなふうに感じています」 みなさんは、どう感じられたでしょうか?
2009.01.11
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皆さんの声援のおかげで、物語の続きを、パッと思い出しました。ありがとうございます!久しぶりの更新です。読んでくださいね。 「映画のようなラブストーリー」 <予想以上の成果>「ユキの散歩作戦」は、予想以上の成果をもたらした。これまで、きくさんと作治さんは直に会い、お互いの顔を見ながら話をすることは出来ていたけれど。きくさんのうしろには必ずマツさんが居た。目の前に恋しい人がいる、それなのに熱き想いの半分も伝えることができず心の中に押し込めていた。けれど、今度は違う!今までしまい込んでいた想いを言葉にして、白い紙に書き写す。こうして届けられた手紙を読む前に、二人は、あらかじめ決めていた訳でもないのに同じことをした。まぶたを閉じるのだ。恋しい人の面影が鮮やかに写し出される。それからやっと、きくさんお手製の小さな手紙の封を切る。ときめく心を抑えながら・・・「作ちゃん、お返事ありがとう。あなたが書いた字を見ていたら、目の前が ぼうっとなって、少しだけ字が滲んでしまいました、ごめんね。『泣き虫だな』って笑わないでください、本当は会いたくて堪らないのに我慢しているのですから。 今はただ「マツさん」と「ユキ」に感謝しています。それから・・・恥ずかしいけれど思い切って打ち明けます。私、作ちゃんからもらった返事の手紙、襟元から入れて眠りに就きます。そうすると何だか、夢の中で作ちゃんに会える気がするから・・・笑っては嫌ですよ、私はそうすることでとても幸せな気持ちになって眠ることができるのですから。暑い中、お仕事大変でしょう、御身体大切にしてね。お返事・・・毎日でなくてもかまわないから・・・でも、待っています。 作治さんへ きく 」
2009.01.08
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お知らせ、楽天ブログからのみコメント受けつける、に設定し直しました。何度もすみません。 マツさんの訓練は意外なほど早く終わった。「ユキ」が覚えたのは「並ぶ」「とまれ」「待て」「ほえる」「やめ」「よし」これだけだった。これらを散歩するときに使うのである。作治さんの家の裏には小川が流れている。マツさんはそこを散歩のコースの一部にした。作治さんが田んぼで作業しているところへ来ると「ユキ」に「とまれ」と言う。そして「ほえる」 すると作治さんが顔を上げる。彼は腰に下げていた袋から猪の燻製肉を細く裂いたものを出して「ユキ」に与えようとする。「ユキ」はマツさんを振り返るが「よし」の声で作治さんの手から燻製肉を頂戴する。この肉はマツさんの発案できくさんが父親から譲ってもらったもので、昨晩のうちにマツさんがこっそり作治さんの家を訪れて、作戦を記した紙切れを添えた肉入りの包みを渡してあった、というわけだ。「ユキ」が美味そうに燻製肉を食べている隙に、作治さんは「ユキ」の首輪に下がっているやや大きめのお守り袋の紐をゆるめて、中から小さく折りたたまれた「きくさんからの手紙」を取り出す。明日の朝には返事の手紙を「ユキ」のお守り袋の中に入れる。この繰り返しが続くのである。そして、マツさんは作治さんに餌を頂いたお礼を言ってから散歩を続け、やがて屋敷にもどり、きくさんの女学校からのお帰りを迎えて、共にきくさんの部屋に入り、直接報告する。翌日は作治さんの返事を きくさんに手渡しすることになる。二人はこれを『「ユキ」の散歩作戦』と命名したとか・・・
2008.12.25
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愛しい「ユキ」を抱きしめ、ごめんをしてから約3ヶ月の間。きくさんは「ユキ」に対する躾を「おすわり」 それに食事を与える時の「待て」 「よし!」 この3つだけにして、あとは「ユキ」といっしょになって野原を駆けたり、ころがったりして遊んで過ごした。それはきくさんと「ユキ」の心が通じ合うために避けてはならない、大切な時間だった。 作治さんは丁度その頃、田んぼの雑草を取り除いたり、病害虫を駆除したりと、毎日のように米作りのために汗を流していた。とはいえ、汗を拭うときなどは、腰を伸ばして きくさんとユキの仲良く楽しそうに遊びたわむれる姿を眺め・・・時折、きくさんの目を感じ、暑さを忘れて微笑んでいた。 あと一月もすれば、待望の稲刈りが始まる夏の暑さの中、きくさんは「ユキ」にポストマンとしての役目を果たしてもらうべく、訓練を再開した。
2008.12.23
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二人の想いを理解できない「ユキ」は混乱してしまったのだろう。 訓練中、「ユキ」は突然きくさんとマツさんとが立っている、そのちょうど真ん中辺りで歩くのを止め 立ち止まったかと思ったら ちょこんと「おすわり」をし、きくさんの方を向いて首をかしげた。その愛くるしい仕草に二人は、はっ!と我に返った。 「 『 ユキ! 』・・・ごめんね、まだ小さな子犬のおまえに、急な事を・・・ひどかったね・・・許して!」きくさんは思わず「ユキ」に走りより、抱き上げて優しくなでながら詫びた。
2008.12.16
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「しろ」が産んだ子犬の名前は「ユキ」と決まった。雄犬だけど、きくさんもマツさんも気に入っている。早速、手紙を運ぶ訓練が始まった。特訓は、はじめから過熱気味だった。けれど「ユキ」は未だ生後3ヶ月の子犬だ、無理にきまっている。当然、われらが「ユキ」は芸を覚えきれないでいる。きくさんもマツさんも、芸を覚えさせる。つまり、作治さんときくさんとの間で、しばらく途絶えたままの手紙のやりとり (それは、ほとんど交換日記のようなもので・・・現代のブログの日記に親しい人がコメントをするのに似ていた・・・例えば、作治さんの返事・・・「昨日の虹な・・・それ、おれも見た」 とか「流れ星?・・・見てないなぁ・・・綺麗だったか?・・・」 こんな感じかな?)そんな感じの手紙のやりとりを再会したい!その思いがつよすぎた為、二人とも「ユキ」がまだ子犬だといういことを忘れてしまっていた・・・
2008.12.13
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「わたしがこの犬に名前を・・・」きくさんは、マツさんを振り返って聞いた。「さっき、この子犬が私と作ちゃんの役に立ってくれるって言ってたけれど、どんな役目?まだ小さいのに」「良く聞いて下さいました」と言いたげな表情を見せて、マツさんのやや得意気な説明がはじまった。「この子の母親は私の実家で、6年前から飼っているんですが、たいそう賢い犬でして。一度教えたことは決して忘れません。 名前は白といいますが、その白が3月前に3匹の子犬を産んだと聞いていましたので、1匹もらって教えてみようかと思いつきまして・・・」「何を・・・教えるの?」マツさんは、 お嬢様がきっと喜んでくださると思って と前置きをしてから、とっておきの秘策を明らかにした。「伝書鳩のように手紙を運ぶ、・・・伝書犬 です!」きくさんは、両手で口を覆った。目は大きく見開かれて・・・両手の内側に隠れて口も大きく開かれている!『あ!』という形で・・・「じゃあ、マツさんは その為に実家へ帰っていたの?」黙って頷く マツさん・・・「マツさん・・ありがとう・・・ありがとう・・・」きくさんはマツさんの手を取って何度も、そう言った。涙を拭おうともせずに・・・
2008.11.29
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「 キュ~ン 」足元から動物の甘えたような声が聞こえてきた!きくさんは、ごく自然に腰を下ろし鳴き声の主を見つけた。それは1匹の子犬で、マツさんのうしろに隠れるようにしている。 「 あら、カワイイ犬! 」 事実、その子犬はとても愛くるしい子犬だった。穢れを知らないその目、「この人誰だろうう?」といいたそうな首をかしげるたまらない仕草。犬を大好きな きくさんが満面に笑みを浮かべながら手を差し伸べると、子犬も警戒心を解いたのか、マツさんのうしろからピョコピョコと出てきてきくさんに近づくと,彼女の手の甲に未だ乾ききれずに残っていた涙を、カワイイ舌でペロペロとなめた。 きくさんは、その子犬を抱き上げてからマツさんを見て、「 マツさんの犬?名前は? 」「その子犬は、お嬢さんにもらってきました。 ですから、その子の名前はお嬢さんが付けてあげてください」「え、わたしが名前を付けていいの?」まつさんは笑顔で大きく頷いてから 「はい、お嬢さんと作治さんのお役に立てる犬だと思いましてですから是非お嬢さんに名前を付けて頂こうとまだ名前をつけておりません」
2008.11.25
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