マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2012.02.17
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カテゴリ: 健康
 空白の時間と天使 

11時45分、ストレッチャーが病室を出た。1階のエレベーターホールへ降りた時、「Aさん頑張って~!!」と言う声がした。看護師のHさんに確かめると、声の主はやはりW主任とのこと。私はHさんからWさんが長く手術室に勤めて現在主任であることや、2人のお子さんがいることも聞いていた。あの横柄なW主任が、手術室に向かう私にエールを送ったのだ。私も寝た切りのまま右手を振った。

12時15分、検査室で注射を打たれる。局所麻酔と聞いていたので手術中も意識はあるのだと思っていた。ところがそれ以降の記憶が全く無い。きっと予め病室で飲んだ薬との相乗作用なのだろう。精神安定剤と聞いていたが、ひょっとしてあれは手術前の異常な興奮を抑えるためと、前夜眠っていないことを考慮しての、強い睡眠薬だったのかも知れない。

私が受ける手術は2時間ほどかかると聞いていた。だとすると12時半ごろには手術に入り、午後の2時半頃には終了したはず。気がついた時、私は4人部屋に寝ていた。ようやく「いびき男」から解放されたわけだ。だが薬の影響か、まだ暫くの間意識はもうろうとしていた。留守中に荷物が移動していたが、財布のことが気がかりだった。引き出しに入れたのは良いが、鍵も一緒だったからだ。

妻が病室にいたのは分かった。彼女が来院した際執刀医には会えず、翌日の8時にもう一度来るよう言われたようだ。私は妻の手を握り、彼女は家に帰って行った。ホームヘルパーとしての仕事を持つ妻は、なかなか自由な時間を作るのが困難。だから入院の準備も私が1人で行い、手術室へも1人で向かった。もし手術中に事故が生じても、最悪の場合妻が立ち会えないことを覚悟していた。

私の口と鼻は、簡便な酸素マスクで覆われていた。準夜勤務の看護師Hさんの話では、手術中に呼吸が浅くなったための措置とか。感染を防ぐための抗生物質点滴液が腕に刺されている。術後10時間ほどは寝がえりも打てない絶対安静だそうだ。このため尿道には排尿のための管。これはまるでロボットではないか。

1時間毎の体温測定と血圧測定の都度目が覚める。胸の長時間心電図装置は術後の鼓動の変化を逐一記録中。この日初めての食事を摂ったのは多分18時30分以降のはず。手術の4時間後と決まっているからだ。もちろん寝たままの食事。小さなお握り2個を自分の手で食べる。横になったままなのに、良く喉を通るものだ。

スープは彼女が1口ずつ飲ませてくれた。メインのおかずは珍しく肉みたいで、それもカツのような味と感触だった。「悪いですね」と言うと、「看護師ですから」と彼女。食後は歯を掃除して再び眠った。ナースコールしたのは3日目の深夜0時15分頃。長時間我慢していたのだが、どうしても耐え切れず姿勢を変えたくなったのだ。

Hさんが何か堅いものを背中に差し込んだ。朝になってみたら、それは寝がえりを助ける角度のついたボードだった。疲労の絶頂にあったHさんを深夜病室に呼んだが、どこか不機嫌そうな雰囲気を感じた。それでも身動きの出来ない私にとって、彼女は天使そのもの。あんな風にスプーンで食べさせてもらったのは、記憶のない赤ん坊時代以来ではないか。ありがとうねHさん。<続く>





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Last updated  2012.02.17 15:37:08
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