マックス爺のエッセイ風日記

マックス爺のエッセイ風日記

2014.03.08
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カテゴリ: 文化論
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 先週の日曜日に映画を観た。昨年アメリカで制作された『大統領の執事の涙』だ。多少ネタばれになるが、この映画の話を書こうと思う。アメリカ合衆国の南部の州で、ある綿花農場に雇われている黒人労働者の息子セシル・ゲインズがこの映画の主人公だ。幼い身で綿花摘みの作業中の彼の目前で、父親が雇い主に射殺される。勿論父親に何の落ち度があった訳ではない。彼の妻が小屋に引き込まれ、レイプされたのを目撃したためだ。少年はそんな理不尽な理由で簡単に殺される黒人の悲哀を、身を以って体感したのだ。


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 成長した彼は、ある時偶然にホワイトハウスの執事長の眼に止まり、ホワイトハウスで執事として勤務することになり、一家は首府ワシントンに移り住む。それ以来、セシルは7代の大統領に仕えることになる。第34代のアイゼンハウアー、第35代ケネディ、第36代ジョンソン、第37代ニクソン、第38代フォード、第39代カーター、そして第40代レーガンの各大統領だ。私はいずれの名前にも馴染みがあり、同じ時代を生きて来たとの実感がある。


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 セシルには2人の息子がいるが、成長した長男は黒人解放運動に身を投じ、次男は兵士としてベトナム戦争に従軍する。出征する次男いわく「兄さんは国と戦っているけど、僕は国のために戦う」と。やがて次男の戦死が両親に伝えられるが、長男は葬儀にも参列せず、家族の亀裂が深まる。この話にはモデルの執事が本当にいたようだ。彼の名はユージン・アレン。実際は8人の大統領に仕えたようだ。


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 しかし世界から多民族を受け入れ、同じ合衆国の国民でありながら、白人の黒人や有色人種に対する差別には根深いものがあったことを、この映画で痛烈に知らされた思いだ。ストーリーの進行と共に歴代大統領の政策が露わになり、対黒人問題に関するスタンスも明らかになる。だが、長男が黒人解放運動に従事していることでセシルが職を追われることがなかったことが、民主国家アメリカの一面を物語っていた。



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 映画にはケネディ大統領の暗殺の場面や、ベトナム戦争の映像、非暴力運動を提唱したキング牧師の暗殺、白人暗殺集団KKK、これに激しく抵抗するピンクパンサーの運動家などが登場する。長男はその後大学院を修了し、国会議員となってさらに黒人の待遇改善運動を推進する。セシル自身も黒人執事の給与を白人と同じ額に上げるよう、大統領に訴えて実現し、長男とも和解する。



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 何と言うことだろう。奴隷解放を願って、アメリカは国内で戦争まで起こした。いわゆる南北戦争だ。戦争が終わって黒人は奴隷から解放されたはずなのに、実際はつい最近まで差別が存在したのだ。映画が終わる頃、南アフリカ共和国のマンデラ大統領の姿が映る。彼は黒人への差別撤廃を訴えて30年間牢獄へ入っていた人。その後出獄して同国の大統領となってアパルトヘイトなどの差別を一掃し、ノーベル平和賞を受賞した。彼はアメリカの何人もの大統領が為し得なかったことを、たった1人で解決したのだ。しかも非暴力運動で。


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 映画は長年の功績を讃えてバラク・オバマからセシルがホワイトハウスに招かれる場面で終わる。アメリカ合衆国で初めて誕生した黒人の大統領だ。アカデミー賞候補としてノミネートされたものの、授賞作品は同じく黒人問題を扱った『それでも夜は明ける』だった由。多くの黒人達がアフリカ大陸から船に乗せられ、先進国に奴隷として売られて行った遠い昔の悲劇の歴史を、厭でも思い出した私だった。


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 我が国の近辺には、国策として未だに少数民族を迫害し続ける国や、他国から人を拉致する無法国家や、自らは歴史を改ざんしながら他国を貶めようとする国家が存在する。そして昨夜からパラリンピックが始まったソチの周辺、クリミア半島でも、きな臭い煙が立ち昇っている。人種問題と民族問題。同じ地球に棲みながら争いが絶えない人間の愚かさは、ひょっとして未来永劫まで続くのかも知れない。





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Last updated  2014.03.08 09:38:36
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