今日は火曜日、彼女との約束の日・・・しかし朝から本当に忙しい一日でした。
朝一番に、クレーンのオペレーターと鳶職の連中が乗り込んできて、クレーンと杭打ち機の組立作業・・・
腕は確かな連中だが、若い監督はバカにしてかかる・・・・私が今日の段取りについて説明しても・・・「ご意見ご無用」っていうような顔をして、話も聞かない。
話が終わってまもなく、「監督さん・・・・あんた高いとこどうだい?」・・・からかい半分で私にもちかけてきました。
クレーンのタワーをよじ登ってみろっていう話です。
私が恐がって断ると思ってやがる・・・・・「よし!やってやるよ」・・・・売られたけんかは買ってやる。
鳶の親方が一升瓶をクレーンのシューの上に立てました。
私が登りきったら、この一升瓶は私にくれるということらしい・・・そのかわり登れなかったら、私を酒の肴にからかい続けるっていう腹だとわかりました。
断るのは簡単でしたが、そうなればこいつらと組んで仕事するとき、いつも下に見られてしまいます。それだけは避けたかったから・・・私は覚悟を決めて登り始めたんです。
斜め45度にセットされたクレーンのタワーをよじ登るのは、真っ直ぐ立てられたものを登るより恐いものです。
なぜなら、斜めのものを登るという事は、地面が見えるから・・・・・
登り始めて途中、彼女の通勤姿が見えました。
彼女は立ち止まり・・・私の登る姿を見ていましたが、すぐに立ち去ってしまいました。
「馬鹿なことをしてる・・・って思われたかな?」
何とか、登りきり・・・・降りてくると鳶達は拍手で迎えてくれました。
「今日は仕事が終わったらこの酒で、顔つなぎの宴会だな!」
鳶の親方がそう言うと、所長はすまなそうな顔をして断ってくれました。
「今日はこの内藤君なあ・・・前の仕事の引継ぎがあって宴会できないんだよ」
鳶達はたちまち不満そうな顔をしましたが、
「そのかわりなあ・・・金曜日には内藤の歓迎会をすることになってるから、そのときはみんなにも出てもらうから。。。」
その言葉をきっかけに、その日の作業が始まりました。
順調に作業も消化し、夕方早い時間には今日の全ての作業が終了しました。
「俺、今日早く上がっていいですか?」
「ああ、今日は鳶の親方も喜んでくれたしな・・・お前のおかげだよ・・・」
機嫌よく所長は帰してくれました。
早めに銭湯に行き、私には珍しくスーツに着替え、時間前に最初会った喫茶店に行きましたが、もちろん彼女が来てるわけもなく、「また週刊誌を2回読むのか」って思いながらコーヒーを飲んでいると、
「今日は早めに上がらせてもらっちゃった」・・・予定の時間より30分も早く彼女は来てくれました。
「カフェ・オ・レ」を注文して腰掛けるとすぐに、
「今朝は、朝早くから危ない作業していたのね?・・・心配してたのよ?」
そう言ってくれましたが、「鳶との賭けで馬鹿なことをした」って言えなくて、話題を変えました。
「今日はこれから晩飯食って、一緒に行ってもらいたいところがあるんだけどなあ」
彼女は一瞬、不審そうな顔をしましたが
「あなたにお任せするわ」・・・・・・そう言ってくれました。
予約したレストランでコース料理を食べ、ホテルのラウンジで軽いカクテルを飲み・・・自分の生い立ちなんかをちょっと話して、いよいよ、「モン・プチ」に向かいました。
その店にたどり着いたとき、彼女がちょっとだけためらう姿が見えましたけど・・・・私かまわず、お店の中に入っていきました。
しかし、そこにはいつもママさんを迎えに来る男が、隅のほうで手酌で飲んでいたんです。
「まずかったかなあ・・・・」
自分の母親の男がそこにいる・・・・・彼女だってその男をきっと知ってるだろう・・・
それはきっと、彼女にとって面白いことじゃないだろう・・・ってことは想像できました。
そのとき、私の背中から・・・・・彼女が声をかけました。
「あら、お父さん来てたの?」
「おお、紀子か・・・お前が今日来るかもしれないって聞いてな・・先にきて飲んでたよ!」
「ええ・・・ええ???」
なにが起こったのかわたしにはさっぱりわかりません・・・・・
頭の中が真っ白になって・・・・・・・
つづく
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