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2023年01月24日
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カテゴリ: 生活、家族、仕事
 働き者とされるアリを観察していると、「働かないアリ」がいることが分かったという。
 働かないアリの集団における存在意義についての研究が始まる。
 一匹では運べない大きなエサの出現など突発的に生じる仕事はたくさんある。巣の修理などの緊急事態もあるだろう。
 大きな気候変動など自然環境で発生する様々の事態に対応するために、働かないアリは、種族保存に必要な「余力」なのかもしれない。
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生物学者が驚いた自然界の労働システム
PHPオンライン衆知 2022年12月27日 
 イソップ童話の『アリとキリギリス』の印象からか、一般的に、アリは「働き者」というイメージを持っている人も少なくないでしょう。しかし、それは真っ赤なウソ。
 実際は、全体の3割くらいしか働いておらず、後の7割はボーッとたたずんでいたり、自分の体を掃除していると、北海道大学大学院准教授で進化生物学者の長谷川英祐氏は解説します。
 そこには、「働き者のアリ」だからこそ、働かない理由があるようです。
※本稿は、長谷川英祐氏著『面白くて眠れなくなる進化論』(PHP文庫)より、一部抜粋・編集したものです。
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7割の働きアリが「労働」していない
 アリは働き者であると考えられています。暑い夏の日でも、地上に落ちた昆虫にはたくさんのアリたちが群がり、それを巣に運ぼうとしています。
 このような様子から、イソップの童話では、アリがせっせと食べ物を集めていた夏に、鳴いて暮らしていたキリギリスが、冬になって食べ物が無くなってアリの巣を訪ねると「あなたは夏には鳴いて暮らしていたのでしょ?ならば冬は踊って暮らせばいい」とすげなく追い出されてしまう、という訓話(働かざるもの食うべからず)を残しています。
 かように、アリは働き者であるというイメージがあります。
 しかし、アリの大部分は巣の中で暮らしており、地上に現れるアリはエサを集るためにやってくるのですから、いつも働いているのはある意味で当然のことです。
 それでは、巣の中のアリはどうなのでしょうか。中を観察できるような人工のアリの巣を作って観察すると、意外なことがわかります。
 ある瞬間を見てみると、全体の3割くらいしか働いておらず、後の7割はボーッとたたずんでいたり、自分の体を掃除しています。子どもの世話のような、コロニーの他のメンバーの利益になるような「労働」をしていません。
 まあ、ある瞬間に働いていないだけならば、人間たちの職場でも、ある瞬間にはコーヒーを飲んでいたりする訳ですから、そういうものなのかもしません。
 ところが、一時的な休息ならば、時間が経てば働くはずですが、1カ月、あるいはもっと長期間アリの巣を観察しても、1~2割のアリは、労働とみなせる行動をほとんどしないのです。
 アリのコロニーの生産性を考えれば、全員が働いているほうが、生産力が高いのはいうまでもありません。それでは、自然選択の存在下でなぜ、常に働かないアリがいるような無駄が存在しているのでしょうか。
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働かないのは「体力を温存」するため?
 まず、ずっと働かないアリがどのようにして現れるのかを考えます。
 アリのワーカーの各個体は、仕事が出す刺激が、ある一定の値以上になるとそれに反応して働きだすと考えられています。この時の仕事を始める限界の刺激値を「反応閾値」と呼んでいます。
 さらに、「反応閾値」は特定の仕事について、個体差があることもわかっています。つまり、小さい刺激で働きだすものと、刺激が大きくならないと仕事を始めないものがいるのです。
 このようなシステムになると、ずっと働き続ける個体から、ほとんど働かない個体が自動的に現れるのです。なぜでしょうか。
 反応閾値ではわかりにくいので、人間の中にきれい好きの人とそうでもない人がいることにたとえて、説明しましょう。
 きれい好きの「程度」が様々な人々が集まり、部屋で何かをしていると考えます。時間が経つとだんだん部屋が散らかっていきます。
 このとき、誰が掃除を始めるのでしょう。そうです、きれい好きの人ですね。きれい好きの人は部屋が散らかっているのが我慢できないので、少しでも散らかってくると掃除を始めてしまいます。
 さて、部屋がきれいになりました。そこでまた皆が何かをやっていると、再び部屋が散らかってきます。誰が掃除するでしょうか?そうです。また、きれい好きの人が掃除するのです。
 理由は「散らかっていると我慢できない」からです。結局、きれい好きの人はいつも掃除をしていますが、散らかっていても平気な人は全然掃除をしません。
 この時大事なことは、もしきれい好きの人が疲れて掃除ができなくなってしまって、部屋がさらに散らかると「あまりきれい好きでない人が掃除を始める」ことです。そういう人も、ある程度を超えると部屋が散らかっているのには耐えられないからです。
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 アリでも同じことが起こっていると考えられます。
 働かないアリはサボっている訳ではなく、ある一定の値以上に仕事が出す刺激が大きくなればちゃんと働けるのですが、さっさと働いてしまう個体がいるために、働かずにいるだけです。
 ともあれ、全体を見てみると、いつも働いている個体から、ほとんど働かない個体まで、様々なアリがいることになります。
 さて、このような反応閾値の「個体間変異」があると、働かない個体が必ず現れてしまうことがご理解いただけたと思います。
 実際にアリはそうなっていると考えられる訳ですが、問題なのは、短期的な生産量が大きいほうが適応度的には有利なのにもかかわらず、「アリはなぜ、必ず働かない個体が出現するようなメカニズムを、コロニーの労働制御のシステムとして採用しているのか」ということです。
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アリも働きすぎると「疲労する」
 次はこの問題について考えてみましょう。
 私たちが注目したのは「アリも疲労する」という事実でした。イソップの童話のせいかどうかは知りませんが、いままでアリが疲れるということを考えた人はいなかったのです。
 しかし、全ての動物は筋肉で動いており、生理的に筋肉は必ず疲労します。疲れたら、ある時間休まないと仕事を続けることはできません。それはアリも同様です。
 さてここで、全員が一斉に働いてしまうような、短期的生産性の高いコロニーを考えてみます。このようなコロニーは、時間あたりの仕事処理量は高いでしょうが、その代わり、全ての個体が一斉に疲れて誰も働けなくなるという時間が生じてしまうでしょう。
 もし、コロニーに絶対にこなさなければならない仕事があるとしたら、その瞬間には誰もその役割を担えなくなってしまいます。その仕事ができないことがコロニーに大きなダメージを与えるとしたら、その仕事をこなせる誰かが常に準備されていないと大変なことになります。
 もしかすると、「働かない働きアリ」は、誰も働けなくなる危険きわまりない瞬間のリスクを回避するために用意されているのかも知れません。
 そんな仕事があるのでしょうか。あると考えられます。
 アリやシロアリは卵を1カ所に集めて、常にたくさんの働きアリがそれを舐めています。シロアリでの実験では、卵塊から働きアリを引き離してしまうと、ほんのわずかな時間放置しただけで卵にカビが生えて全滅してしまうことがわかっています。
 さらに、シロアリの働きアリの唾液には抗生物質が含まれており、働きアリたちは唾液を卵に塗り続けてカビを防いでいたのでした。
  アリも同様でしょう。卵が全滅すればコロニーにとって大きなダメージになりますから、卵を舐めるという仕事はコロニーにとって、誰かが必ずこなし続けなければならない仕事なのです。
 普段働かないアリは仕事が出す刺激が大きくなれば働きますから、他の個体が疲労して休まなければならない時に代わりに働くことができます。
 そうやってコロニー内の重要な仕事を途切れさせないようにすること。これが常に働かないアリが準備されなければならない理由だと考えられます。
 そのような状況を想定したシミュレーションでは、疲れがある場合にのみ、反応閾値の変異を持つコロニーは、そうでないコロニーよりも長く存続することが示されています。
  また、シミュレーションでも実際のアリのコロニーのどちらでも、普段働くアリが休んでいる時には普段働かないアリの仕事量が増えるという、仕事の交替が起こることも示されています。
 やはり、 短期的生産量が少ないという反応閾値の変異システムは、長期的存続性を保証するために進化したのだと考えることができそうです。
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 この話は、訪れるかも知れないリスクを回避するための形質が進化するという点において、カブトエビの繁殖戦略の話に似ています。
 しかし、重要な違いは、カブトエビの場合は、変動するのは環境であり、環境が好適でなくなるリスクに対する適応だと考えられるのに対して、働かないアリの場合は、外部環境ではなく、自分たちの集団の内側に生じるリスクに対する適応であるということです。
 どれだけ安定した環境に住んでいようとも、このリスクは生じます。動物が疲れるという生理的な制約から逃れることはできないからです。
 やはり、リスク回避に対する適応という現象は、私たちが思うよりもずっと普通の現象なのかも知れません。
 これまでの適応度の考えではうまく説明できない現象も、このようなリスク回避と長期的存続という観点から、未来の進化生物学では説明されていくことでしょう。
  ―  引用終り  ―
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 バブル崩壊後の日本経済社会は、リスク回避の経営判断がすすんだが、利益増大のために組織の長期的存続の部分を削減し、予想しなかった時代の流れへの適合可能性を失ったようだ。





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最終更新日  2023年01月24日 06時00分10秒
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