ヤン・プランパー (
森田直子訳 )
『感情史の始まり』
~みすず書房、 2020
年~
Jan Plamper, Geschichte und Gehühl. Grundlagen der Emotionsgeschichte
, München, 2012
)
ドイツ近現代史を専門とするヤン・プランパーによる、感情史に関する大著(本論 432
144
頁)です。
プランパーは 1970
年生まれ、現在ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジの歴史学教授とのこと(本書の著者略歴より)。
本書の構成は次のとおりです。
―――
序論 歴史と感情
第1章 感情史の歴史
第2章 社会構築主義―人類学
第3章 普遍主義―生命科学
第4章 感情史の展望
結論
謝辞
訳者あとがき
用語解説
原注
主要文献目録
索引
―――
序論は、本書の目的・構成を述べたのち、古代から近代までの主要な著述家による感情に対する眼差しを概観し、感情は誰が有するか・どこにあるかといった理論的問題、感情史に関する史料について論じます。
第1章は、アナール学派の創始者の1人リュシアン・フェーヴル (1875-1956)
を画期とし、彼の議論及び前後の時代の感情史の実践について論じます。本章では、こんにちの感情史ブームの契機を 2001
年9月 11
日、マンハッタン島でのテロ事件と位置付ける議論が興味深いです。さらに、感情史の先陣を切った中世史の分野では、バーバラ・ローゼンワインの「感情の共同体」論が詳しく紹介されます。
第2章・第3章は、歴史学自体からは離れ、第2章は人類学、第3章は心理学・脳神経科学などの生命科学に着目します。本書は歴史学の書物と思って手に取りましたが、本論約 430
頁のうち、この第2・3章が約 250
頁と、大半を占め、そこが本書の特徴と思われます。
ここでのメモは省略しますが、いずれもそれぞれの分野の主要な著作に着目し、豊富な引用を交えながら、詳細に紹介されます。
本書の意義は、社会構築主義(感情は社会や文化によるという考え方)と、普遍主義(感情は普遍的なものである)という立場のどちらにも与せず、それらを統合して建設的な方法論を示そうとしている点にあると思われます。また、相当な分量を生命科学の説明に割きながら、歴史家が生命科学を応用する際の注意点を提起します。すなわち、生命科学ではある実験の成果が概説書などに反映されるには一定の時間がかかり、次々と検証も進められているため、生命科学を応用する場合には、中途半端な概説に依拠するだけでなく、ある程度の時間を割いて生命科学の最新の動向を把握しておくべき、というのです。
第4章は再び歴史学の営みに焦点を当て、近年の感情史に関する主要な業績の紹介と、感情史の可能性について論じます。
以上、ごく簡単なメモとなってしまいましたが、たいへん勉強になる1冊でした。
(2024.09.23 読了 )
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