家曜日~うちようび~

家曜日~うちようび~

2017.08.02
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前略。
僕は急いでいた。


一刻も早く!
急いで二階へ駆け上がれ!


ヤバイ!間に合わない!
急げ!急げ!ホラ急げ!


あれっ!?!?!?!?


この日、この時、この瞬間、
突然僕の頭に、
聞こえるはずのない、雲の彼方からの雷鳴、
見えるはずのない、雲の切れ間のからの光芒、
僕。階段の途中。立ち止まり。動けない。

あ。眼前に。妻。登場。
ベランダでひと仕事を終え額に汗。
乾いた洗濯物が大量に入った洗濯カゴを両手に抱え。
「あんた、何しとんのこんなとこで?そんな深刻な顔して。」
妻、これ見よがしに忙しそうに僕に問う。

・・・いやね。
ここでこうして振り返っていたのさ。
そう。これまでの自分の人生を。

「はぁ?」

今日まで自分は何をしてきた・・・。
そして何を成し得なかった・・・。

「ごめん。ちょっと忙しいんですけど・・・。」

そして君が今日まで僕にくれた
溢れんぱかりの愛の日々を・・・。

「うざっ!
こぅらぁ~あんたぁ~!二度と聞かんで答えやぁ!
そこで!何!し!と!る!の!」

・・・いやね。
あれっ!と思ったらよ。
何しにきたんだっけ?
思い出せねーの・・・はは。

「・・・どけぃ!じゃまっ!」

狭い階段の途中、
すれ違いざま身を細める僕の傍らを、
大量の洗濯物と妻が行く。

背後から、
イノシシが野山の斜面を猛進するかのような轟音。
どたどたどたどたどたどたどた。

妻の気配がなくなり、
階段には、階段たる、いつもの静寂。


前略。
階段の途中で振り返ると、
吹き抜けには、マリメッコのファブリックパネル。

これ、たしか「雪いちご」って名前だっけ。

てゆーか、「雪いちご」なんて植物ねーよ。

あれ?あったっけ?・・・。

実際にあるのかないのかはっきりしない木なのだから

見方・感じ方は、見る人の、どーぞ御自由にってことでいーのかな・・・。


あれ?僕、何か急いでなかったっけ?

・・・まあいーさ。慌ててもろくなことはねー。

しょせん、ど忘れする程度の急用ってこった。

それより、いーね、この「雪いちご」。

間接照明がまるで木漏れ日のよう。

若葉のざわめきさえ、聞こえてきそうで・・・。



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最終更新日  2017.12.21 21:43:10
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