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2004年01月30日
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看護士として林の中の町立病院に勤務している和夫。
肺癌の為、そこに入院していた単身赴任宣教師・マイクの病室に、
脳卒中が再発した和夫の父・松吉が部屋を移すことになった・・・ 表題作他3編収録

70になる父は、かつて電気鉄道の運転手だった。
トロッコを改良して作った非力な小さい電車は、この町では花形だった。
宣教師のマイクは、かつてベトナムでファントム戦闘機に乗っていた。
マイクと打ち解けた松吉は、退院した後、「水車を、つくる」と言い出した。

さて。
初めて読む作家ですが、穏やかさと厳しさが同居した味のある作品でした。
病院の内科医長でもあるという南木さんの経験がもたらしているもの。
【死】に対してのスタンス。そして【生】に対する思い。

『冬への順応』
タイ・カンボジア国境で三ヶ月間、難民医療活動に参加した医師のぼく。
帰国後、つとめる病院に入院してきた患者は、かつての恋人だった。
しかしぼくは、倒れた老医の代わりに過疎の村の診療所にいくことになった。

こちらもタイ・カンボジア国境に赴いた自身の想いが強く出ていることでしょう。
タイでの医療活動と、帰国後の村の診療所、そしてかつての恋人との思い出が入り混じる。

『長い影』
帰国した一年後の、カンボジア難民医療団の忘年会。
酔って、大浴場の男湯にやってきた一人の女。
彼女は現地で難民と結婚・妊娠したという噂があった・・・

『ワカサギを釣る』
難民医療団の一員として働いていた種村と、現地で助手を務めていたミン。
“氷が張った湖に穴を開けて釣りをする”という話をしていた。
5年後、ミンは種村のもとにやってきて、二人は湖へと向かった・・・


ワカサギに限らず、“釣り”は他の話でもよくでてくる。間違いなく、南木さんの趣味でもあるだろう。医療と深く関連するのかはわからないけれど、主人公が息をつく重要な役割を担っている。
また、巻末の加賀乙彦氏との対談には「小説の中の季節がほとんど秋から冬にかけて」とある。滅びゆくものへの想い、というのは肺癌患者を数多く見、その死にも触れてきたということと無関係ではないだろう。繰り返しになるが、厳しさのなかに穏やかさを求めることは必要なのではないか。決して何もかもがうまくいくわけではないけれども、それでも進まなければならないのだし。

表題作で第100回芥川賞受賞作。
ちなみに作者は、【なぎけいし】とよみます。

本文とはあまり関係ないが、気になった巻末の加賀氏の発言。
「精神病の人というのは、妄想の世界の中で自己充足して幸福なんですね。それを治すと、安定した世界を壊しちゃうわけですね。すると突然、自分の悲惨な現実が見えてくる。いままで自分が大天才だと思ってやってきたことは、全部病気がなせる業だということに気がつく。精神分裂病なんかは治り際に自殺しちゃう人が多くて、これは私たち精神科医にとっては大問題なんです。」P234

『ダイヤモンドダスト』 南木佳士 文春文庫 (1992年2月第1刷)





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最終更新日  2004年02月03日 00時14分46秒
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