ピカルディの三度。~T.H.の音楽日誌/映画日誌(米国発)

Dec 30, 2023
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カテゴリ: 映画、テレビ
「蹴りたい背中」(評価 ★★★★★ 満点五つ星)

 イングランド元代表のサッカー選手デイビッド・ベッカムさんの半生に関するドキュメンタリーをネットフリクスで鑑賞。全四話。
 ご本人をはじめ当時や現在を知る関係者にひたすら語ってもらう方式。お宝映像も次々と紹介される。

 ぼくとしてはやはり1990年代から2000年代前半、マンチェスター・ユナイテッド時代の部分がやはり興味深く観られた。あの頃の監督や同僚陣が見事に取材されてて頼もしい。アレックス・ファーガソン、ポール・スコウルズ、ロイ・キーンほか。エリック・カントナ様までもがご登場。
 あと、全編にわたり盟友ガリー・ネビルさんが実に的確に当時の実情や彼の素性を解説してくださる。
 そして最大の見どころは98年の世界杯での一発退場事件。ベッカム選手は相手選手を故意に蹴り上げて赤札をくらい、結果的にイングランドは敗退してしまったというザ・黒歴史。
 なんと当該選手ディエゴ・シメオネさんご本人も当時のことを語ってくれる。

 私生活についても赤裸々に語られる。
 馬鹿ップルと揶揄されながらも、スパイスガールズの推しメン、ビクトリアさんとの恋を貫き通しご結婚。パパラッチの執拗な追っかけに耐え、監督からのお叱りお仕置き嫌がらせにも苦しむ。
 なお興味深いことに、本番組の取材陣はベッカム邸に直接伺って撮影してるのに、デイビッドさんと妻ビクトリアさんは(一緒にではなく)個別に応えており、それぞれの言い分も聞ける。

 誰の目にも明らかなのは、ベッカムご夫妻はともに実は聡明で実直。良くも悪くも自信家だけれども、過去の過ちを踏み台に成長していく類の人間で、強靭な精神力をお持ち。そして物事を瞬時に判断し行動に移す。
 そんな彼らを同僚の選手たちも口を揃えて称え敬い、擁護するのにも驚く。当時のパパラッチまでもが今回の番組制作に好意的に応じている(たんまりと稼がせてもらっただろうし)。

 見た目にも派手な人だし、彼(ら)の生きざまを否定したり妬んだり羨むことは簡単だが、この番組でおそらく多くの人が感じるのは以下。

・選手の配偶者や子どもに関する報道はどこまで許容されるべきか。特に配偶者もまた有名人である場合はどこで公私の線引きをすべきか
・(試合で結果をきちんと出している)選手に関し、奇抜な髪形や華美な服装や浪費癖などについて周囲は受け入れるべきか、あるいはいちいち非難、批判すべきか
・同様に、選手の家庭の諸事情に関し、例えば妻の出産、子どもの病気などを理由に練習や試合を休むことに監督はどこまで口を出せるか。その選手が国の代表、主将を務めるほどの実力派である場合はどうか
・人は実力があり財力があっても謙虚のままでいられるものなのか、謙虚でいるべきか
・選手生命はおそらく30代半ばまでという現実を認識し、引退後の収入や人生設計を見越したうえで現役時代に副業を力を入れ始めるのは正しいか


 てか、ベッカムさんが凄いのは、報道機関を無視するときはガン無視し、しかし必要なときは上手く活用して自分を売り込むところ。
 実際、本番組の取材の受け方にもそれは如実に表れていて、彼は提供する情報を(おそらく無意識に)微調整したうえで理路整然と回答していく。
 やや謙虚という印象を与えつつ、そして饒舌とは感じさせない加減も上手い。観てて普通に好感が持てた。あのやんちゃ坊主がこんな好中年に成長するとは意外な気もしたけど、番組ではベッカムさんのご両親もいろいろと語ってくれてて、しつけに厳しいご家庭だったらしいことが伺える。

 よく取材され編集されたドキュメンタリー番組だと思った。五つ星を差し上げたい。
 日本でも数年後とかに、実力派運動人(例:大坂なおみさん、羽生結弦さん、大谷翔平さん)を忖度なしにじっくり取材した番組ができたらいいと思う。結果を出している人の話はやはり興味深い。もちろんご本人の話術次第だけれども、やはり取材/編集する側の実力もとても大切。





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最終更新日  Jan 1, 2024 12:41:59 AM
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