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さざ波や風の薫の相拍子 ( さざなみや かぜのかおりの あいびょうし ) と詠い 、
湖面を渡るそよ風が涼しくなる折 、 座敷より見渡せる紅く染まった比叡の峰の雲が 、 今日一日の暑さの名残を惜しむかのように光っている夕暮 、
湖や暑さを惜しむ雲の峰
( みずうみや
あつさをおしむ
くものみね
)

と 、 言の葉でまるで一幅の絵を見る如く季節と時と場所を雄大に切り取り 、 詠い込んだ 。 その話はたちまち 游刀 の師匠格にあたる大津の能太夫 本間主馬の知るところとなり 、 当家にも是非と請われた芭蕉は あらためて翌月の蓮香る六月に本間主馬宅に立ち寄り 歌仙が巻かれる事となった 。
先ずは 本間主馬宅の能舞台で弟子が狂言 「 附子 」 を演じ 、 列席の芭蕉の笑いを誘った後、 本間主馬が前シテで里女 游刀が後シテで狐の精を舞う 「 殺生石 」 を演じ、やんやの喝采を浴びた 。
暑い折でもあり 、 荒い息のまま額に汗の舞台衣装で 、 挨拶に芭蕉近く参じた 本間主馬の口に咥える面に改めて興味を示した芭蕉は 「 景色は如何に見るや ?」「 面の鼻よりに御座る 」 と聞き 、 早速
蓮の香を目にかよはすや面の鼻 ( はすのかを めにかよわすや めんのはな ) と詠み 、 更に
ひらひらと挙ぐる扇や雲の峰
( ひらひらと あぐるおおぎや くものみね
)
と
、
その舞の見事さを称えた挨拶吟を詠み、主人を喜ばせた
。
衣装を着替え 、 酌に参じた本間主馬より 「 殺生石 」 に合わせ 、 能舞台の壁に貼ってあった骸骨が能を演じている画に賛を求められると 気軽に応じた芭蕉は 、 あらためて繁々とその骸骨の絵に感じ入り 、 本間主馬が宅に 、 骸骨どもの笛・鼓をかまへて能するところを描きて 、 舞台の壁に掛けたり 。 まことに生前のたはぶれ 、 などかこの遊びに異ならんや 。 かの髑髏を枕とし て、 つひに夢うつつを分かたざるも 、 ただこの生前を示さるるものなり 。
稲妻や顔のところが薄の穂 ( いなづまや かおのところが すすきのほ )
と 芭蕉の晩年の鬱屈した死生観のまま 書き込んだ 。 松尾芭蕉と大津 終局(その三十七) November 14, 2020
松尾芭蕉と大津 辞世 (その三十六) November 13, 2020
松尾芭蕉と大津 その三十五 京都,伊賀,… November 12, 2020