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January 18, 2010
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カテゴリ: 教授の読書日記



 ・・・関係ないけど、「熟読ガン見」って、誤変換ながら、なかなか味わいがありますね。強いて言えば、「熟読ガン味」ならもっといいかも。

 それはさておき、ジャズの歴史を語り、音楽の歴史も語り、それぞれの時代や文化を語り、20世紀文化の最大のタームかも知れない「モダニズム」の意味も明らかにするというこの本、しかもその書き方が抱腹絶倒というか、とにかく面白くて、読み終わるのが惜しいほど「ガン味」しております。

 でまた、これを読んでいると、自分のジャズに対する好みもはっきり分かって来るわけ。要するに、私はジャズの中でも特に「モーダル・コーダル」なジャズが好きなんですな。そのことは、当然感覚としては最初から分っているのですが(そりゃ、自分の好みですから)、何でそれが好きなのかという理屈がこの本を読んで目からウロコが落ちるように分った。

 そんな経験って、そんなにないですよ。そう思いません? 例えば、「果物の中では白桃が一番好きだ」とか、「背の高い女にどうしても目が行く」とか、そういうことがあったとして、どうしてそうなのか、他人から説明されて納得できた、なんてことがあろうとは思えないじゃないですか。ところが、少なくともジャズに関して、この本は私にそれを納得させたんですから、スゴイもんだ。

 で、この知的にエキサイティングな本を読んでいると、それまで読んでいたジャズの本って、一体何だったんだろうと思いますね。もう、質が全然違う。例えば、比較しちゃ悪いですけどジャズ評論家の中山康樹さんが書いたジャズ関連書とかね。中山さんというのは非常に癖のある文意の文章を書く人ですが、少なくとも私はこの人からあまり得るものがなかった、というのが本当のところです。例えば集英社新書の『超ジャズ入門』とか、ご自身では初心者向けに優しく、面白く書いたおつもりのようですが、その妙に高いところから見下ろすような書きぶりからして読者サイドとしてはあまり愉快に読める本ではない。また双葉文庫の『ジャズ名盤を聴け!』にしても、「この本の著者はジャズのことを色々知っているらしい」ということは分るけど、それ以外のことが分らないという趣の本でありまして、それだけに、タイトルにも表れている命令口調が空疎に響くという・・・。

 もっとも、そんなことを言いながらも中山さんの本を、かーなり沢山読んでいるワタクシ。これらによってジャズについての知識を得ている部分もあるわけですから、あまり強く批判すると恩を仇で返すことになるかな?

 ま、私としては「自分はこういうジャズが好きだ」というごく私的な視点からジャズを語る寺島靖国氏の書くジャズ本の方がどちらかと言うと好きですが、これとて、読んで分るのは結局「寺島さんの好み」ですからね。それらを読んでジャズについて理解が深まるかと言うと、特にそんなこともない。その意味では、中山本とどっこいどっこいです。

 「著者はジャズのことに詳しいらしい」ことが分る中山本、「著者のジャズの好み」が分る寺島本と比べ、『東京大学のアルバート・アイラー』は、読者である「ワタクシ自身の好み」が分るようになるってんだから、もう本として格が違う。素晴らしいの一語であります。


 ところで、私もまた研究者の端くれとしてたまには本も書くわけで、当然、『アイラー』のような本が書きたいなあ、と思うわけですよ。

 しかし、私の専門である文学と、『アイラー』が扱う音楽とを比べると、「分析方法の普遍性」という点で、文学の方が難しいのではないかと思わざるを得ないですなあ。

 少なくとも音楽では、音を分析して分ることってありますからね。和音とか、コード進行とか、音楽を音に還元して分析することは比較的に容易です。しかし、文学では? 文学を何かに還元して分析することって、出来るのかしら?

 ま、もちろん昔から、それこそアリストテレスの時代から、そういうことをやった方たちというのはたーくさんいるわけですよ。「物語素」みたいなものを想定し、これに沿って物語の型を分けるとか。「ナラトロジー」って奴ですな。しかし・・・ナラトロジーによる分析は、面白いかもしれないけれど、それは分析自体が面白いので、それによってどうしてこの私は、この小説が好きなのか、それを理解させてくれるかっていうと、うーん、どうなんでしょうか。方法自体が、目的化しちゃっているところがありはしませんかね。

 じゃあ、それ以外にどうすれば? 

 わかりまへん。

 そこが悩むところですけど、とにかく、そうやって悩ませてくれるだけ、『東京大学のアルバート・アイラー』という本に喚起力があるってことなんですな。

 ということで、あらためてこの本、少なくともジャズファンなら、そして知的に書かれた一流のエンターテイメントが読みたいと思っている人であれば、何はともあれ一読すべき本であると断言しておきましょう。





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Last updated  January 19, 2010 12:47:10 AM
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