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December 4, 2010
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カテゴリ: 教授の読書日記



 で、この本、副題に「映画・文学・アングラ」とあるように、戦後の日本において「ジャズ」にまつわる言説がどのようになされたかを、映画や文学に描かれたジャズ表象やジャズ喫茶の存在などの中に求めたもので、特に日本映画や日本文学の中でジャズがどのように扱われていたかを改めて検証した点で、斬新な研究書なのではないかと(ジャズ批評を専門に勉強しているわけではないので、管見によれば、という意味ですが)。

 しかも、それが外国人によってなされたというところがスゴイ。もっとも、外国人だから出来た、ということも可能かもしれません。日本人には当たり前過ぎることが、外国人の目から見ると異常に見える、ということは多々ありますからね。モラスキーさんは、外国人であるがゆえに、日本のジャズ表象は面白いな~と思ったのでありましょう。

 で、モラスキーさんが述べていること全てについて解説するわけにはいきませんが、要するにね、戦後の日本人(の一部、それも文化人の一部)がジャズを愛した、という現象の背景には、日本人側の一方的な思い入れがあった、ということを指摘されているのではないかと。

 例えば「(フリー)ジャズには『自由』がある」的な思い込みとか。

 ジャズはもともと、白人の、あるいはヨーロッパの音楽であるクラシック音楽のアンチテーゼみたいなところがあるわけですが、しかしそれでもジャズにはジャズのルールがある。しかし、そのルールをも破壊しようとして生まれてきたフリージャズとなると、これはもうあらゆる束縛を打ち破り、自由を希求することの象徴になるのは、ある意味当然です。

 で、しかもそれに加えて、ジャズはアメリカの中で虐げられてきた黒人たちの生み出したもの、という側面がある。

 そこで、そういうもろもろの背景をもった(フリー)ジャズは、1960年代から1970年代初頭の日本の文化人から見て、ものすごく魅力的なものに映ったわけですね。安保だ、学生運動だ、なんだかんだ、という閉塞的な社会状況の中で、既存の価値を吹っ飛ばしてくれるようなものを求めていた彼らに、フリージャズは、「これこそ我々が求めていた音楽だ!」的なインスピレーションを与えてしまったらしいんですな。

 そこで、当時の多くの文化人たちがジャズを称揚し、また当時はそうした文化人たちの発言が若者に強い影響を与えた時代でもありましたから、若者もまたジャズにかぶれ、ある意味、ジャズが日本の若者にとって通過儀礼的な位置を占めるということにもなった。

 で、この状況の中から文学・映画・アングラ文化の中にジャズについての言説が生まれていき、ジャズ喫茶がそうした文化・言説の勉強の場となっていったと。

 ま、そんな調子で、日本では、おそらくアメリカのジャズメンたちも想像もしなかったであろうほど激しい思い入れをもってジャズが受容されていくわけですが、さて、これがジャズにとって幸福なことだったのか、どうなのか。

 というのも、強い思い入れに基づくジャズへの熱愛は、その思い入れが終わった時、途端にすっかり冷めてしまうからです。別な言葉で言えば、今日、ジャズという音楽が単なるBGMに成り下がった背景には、日本人がジャズそのものを愛したというよりは、ジャズに色々なものを勝手に託してしまったことに起因するのではないかと。

 ま、最後の部分はモラスキーさんが直接言っていることではなく、私が勝手に彼がいわんとしていることを演繹して言っているのですが。

 で、全体的な読後感ですが、まず、とりあえず私がジャズ史の講義のために仕入れようと思っていたことはちゃんと仕入れられましたので、その意味ではとても役に立つ本でした。また私があまりよく知らないジャンル、例えば若松孝二監督のピンク映画といった方面の知識も得ることが出来て、勉強になりました。

 だ・け・ど。

 まあ、期待していたほどには面白くなかった、というところはありますね。ふんふん、そうか、と思って読んでいるうちに終わってしまったという感じ。ある程度予想できる路線で論じて行って、そのまま予想できる結論を言うものだから、納得はできるけど驚きがない、というところがある。また、これを外国人に向かって言うのは酷かもしれないけれど、イマイチ、日本語の文章にユーモアが感じられない。

 その点、やはり菊池成孔・大谷能生ペアの『東京大学のアルバート・アイラー』の面白さには遠く及ばないです。私だったら、こっちにサントリー学芸賞をあげるな。

 というわけで、残念ながら絶賛というところまで行きませんが、でも、ま、『戦後日本のジャズ文化』も悪い本じゃありませんので、一応、この方面に興味のある方にはおすすめ、と言っておきましょうか。


これこれ!
 ↓
戦後日本のジャズ文化

戦後日本のジャズ文化

価格:2,520円(税込、送料別)






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Last updated  December 5, 2010 12:52:59 AM
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