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Ryu-chan6708

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2006.05.31
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カテゴリ: 読書感想



  養老氏は、敗戦で 「教科書に墨を塗った」 という大人の 「裏切り」「ねじれ」 に接した体験が、その発想の原点にある。だから、養老氏は裏切られない死体解剖をあえて選び、ホンダ、ソニー、松下の戦後の精力的な活躍も 、「技術は裏切らない」 ことが基礎にあるとしている。しかし、氏はその動機は今うすれつつあるという。
文芸評論家加藤典洋氏 は、戦後生まれであるから、「教科書に墨を塗った」体験はないが 、「敗戦後論」(ちくま文庫) では、敗戦後の「裏切り」「ねじれ」を文芸評論の観点から真正面に論じている。例えば、 作家大岡昇平は「国が禁止した捕虜になったという恥ずべき汚点がある。」として芸術院会員を辞退する。 作家太宰治 の対応にもふれている。この世代の敗戦による「裏切り」「ねじれ」の悩みは大きく、それが文芸活動に反映している。

  今年1月に養老孟司氏の 「超バカの壁」 が発刊されたが、それよりも、年末、読んだ同氏のちくま新書 「無思想の発見」 ほうが面白い。「超バカの壁」はご本人が書いた箇所と新潮社の人が談話をもとに書いた部分とあるが、「無思想の発見」は、全部、ご本人が書いたもの。 日本は無思想という自覚した「思想」をもつことの強調がある。一神教の批判である。
  「超バカの壁」の8章目に「金の問題」があり、 ヤンキースは買えるが、自分が4番バッターになることはなかなか買えないとしてカネで買えないものの例をあげている。 極端に分業すると偏った人が出来る。宗教が常にそれを訂正してきたという。しかし、 宗教の勢いが弱くなったことと、こういう人が出てくることとは無縁でないという。 「何々がすべて」という考え方は大方怪しいと思ったほうがよいとして、発刊1週間後の堀江氏の逮捕を予告したような内容だ。

「敗戦後論」 は典型的な哲学的な表現で、技術系で現場育ちの私には苦手な文章である。よくこのような難解な文章が書けると感心する。救われるのは、文芸評論のため小説が引用されることである。同氏の 「日本の無思想」(平凡社新書) が、図書館にあったので読んだが、この本の「あとがき」で著者は「私の本は難しいと言われるので、この本は、そのまま、普通の人が読めるように書いた。」とある。なるほど、少し平易であるが、やはり、複雑な言い回しに悩まされた。しかし、幅広い知的刺激が得られた。「超バカの壁」の中でも 日本人の「本音」 について、「日本の無思想」が引用されている。

 「ねじれ」は大きな外圧で価値観の変更を強制されたときに発生する。「日本の無思想」によると日本は明治維新で同じ「ねじれ」を経験している。強力な欧米勢力の 「黒船」 の前に屈せざるをえなかったからである。自分たちの思想から自生的に生まれた政府ではない。確か、岸田秀氏は 「黒船で日本は強姦された心理を持った。」 と言っていた。

 当時、福沢諭吉の 「やせ我慢の説」 がある。それは勝海舟が旧幕臣であったのに、それを倒した明治政府に仕えた「裏切り」批判である。 諭吉は勝に辞職を要求する。 福沢も旧幕臣である。勝海舟はそんな内部の「やせ我慢」より、大きな外圧の危機に瀕した日本全体を考えたら変節は仕方がないと考えたのであろうか。だから、日本には近代思想は育たなかったということか。

 「日本の無思想」では 、「踏み絵」 はキリシタン経験者のアイデアであろうという。一般の日本人は、世間の動きを見て、心はキリストを信じていても行動は「絵を踏む」。行動や言うことはころころ変わる。無思想だ。だから「踏み絵」では本心は分からないと思っている。しかし、真の宗教信者は、発言も行動も一致だ。だから、それを知っているのは、キリシタン経験者であり、そこから「踏み絵」のアイデアが出たというのである。それが欧米的な「宗教」、「思想」の特徴であろうか。

その一神教がテロ問題で行き詰っている。 多神教が見直される頃に、日本はグローバル化で一神教の文化に向おうとしている。これが岸田氏の危機感であろう。それは、 一神教的な考えをもとにした資本主義の勝利は幻想として武士道精神の復興を叫び「国家の品格」を問う動きと共通している。





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Last updated  2006.05.31 05:26:11
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