January 30, 2011
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カテゴリ: 映画
さいとうたかをの漫画「サバイバル」全10巻は愛読書のひとつだ。長い人生、いつ何が起きるかわからない。だからあらゆる事態を想定し、しかも不測の事態にさえ適応できるようにしておかなければならない。

だからホームレス体験記などにはなるべく目を通すようにしている。最近読んだ中では「ゼロから始める都市型狩猟採集生活」が興味深かった。自己中な人間は無一文で放り出されたとき生きていくことはできないとか、炊き出しに頼ると自立心が失われると考えるホームレスがほとんどといった観察や報告は貴重だ。

アフリカや中近東、中南米といった地域の映画はなるべく観に行くようにしている。観逃したら二度と観られない可能性があるし、日本くんだりまではるばる運ばれて字幕がつけられて公開上映される映画は、すでにセレクトされているのでハズレが少ないからだ。

アルゼンチン映画「ルイーサ」も当たりだった。日本ではなじみのない、しかしアルゼンチンでは国民的女優だというレオノール・マンソ、この映画が遺作となったらしいジャン・ピエールらの演技がすばらしい。こういう役のできる俳優は日本にはいないしハリウッドにもいないかもしれない。

ブエノスアイレスで愛猫と暮らす人嫌いのルイーサ。夫と娘を失った過去をひきずりながらも、仕事を掛け持ちして規則正しい生活を送っている。ある朝猫が死に、同じ日に仕事を2つともクビになる。手元に残ったのは20ペソ(約5ドル)。途方にくれながらも、初めて降りた地下鉄の駅でヒントを得て、猫の火葬費用を稼ぐためにあるビジネスを始めるというお話。

強いて分類するならコメディといえるかもしれないこの映画は、しかし多くのことを考えさせてくれる。最初は頑なだったルイーサも、同じ乞食稼業の片足のない老人と知り合って徐々に心を開いていくのだが、この老人の言うこと、老人との会話が実に哲学的でメモをとりたいくらい深い人生の知恵を感じさせる。

彼は、乞食稼業を闘いだという。見たくないものを見たくない人間に見せて、罪悪感に負けて小金を差し出す、自分に金を恵んでくれる人間を「負け犬」と言ったりするのだからその思索力の強さはただごとではない。

これは最上級の演劇作品でしか接することのできない類の台詞だ。

この映画で最も感動的なのは猫の火葬シーンである。この場面のマンソの演技はすごい。ほんとうに愛するものを失ったとき、人間はこういう風に泣くものだ。しかし、100年を超える映画の歴史上、こういう泣き方で悲しみを表現した俳優はいなかった。このシーンだけで、この映画はアカデミー賞受賞映画100本分の価値があると思う。

暗い、やるせない話なのに、明るい気持ちにさせられる。「オフビートなコメディ」という評を読んだが、なるほど的確だ。

オフビートな人生の方がおもしろく、いろいろな出会いがある。日本で金持ちをやっているより、アルゼンチンで乞食をやった方がおもしろそうだ。





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最終更新日  January 31, 2011 01:19:32 PM
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