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2015.08.08
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カテゴリ: 小説
文学好きだけど精神科医になった著者の自伝的小説。
講談社文庫の『頭医者事始』『頭医者青春記』『頭医者留学記』を一冊にまとめたのが中公文庫の『頭医者』で、700ページ弱ある。
『頭医者事始』は1953年にT大医学部を卒業して、なんとなく犯罪学や精神医学に興味を持ってインターン時代に文学の話で意気投合した益田助教授の弟子になり、精神病院や拘置所で臨床の経験を積んでる間に病院が火事になってやめさせられたり他の医者と対立したりする話。
『頭医者青春記』は拘置所の死刑囚の精神鑑定をしたり、患者のマックが逃亡したりする話。
『頭医者留学記』は1957年に船に乗ってインド洋を通ってフランスに行って留学して、教授と喧嘩したり他の留学生と交流したりする話。

主人公の古義(おれ)の一人称。インターンになってからの出来事が時系列順に語られる形式。当時の麻酔なしの電気ショック療法の様子とか、死刑囚の平沢貞通、竹内景助、正田昭の様子とか、精神病治療や拘置所の様子を知る資料として興味深い。しかし小説の完成度としては小説家が作品として仕上げた小説というよりは文章がうまい精神科医の自伝的小説という程度で、身の回りの出来事を書く部分が長い割りに同僚や患者との人間関係を掘り下げるわけでもなく、出来事を書くだけでそれに対する感情や心理が書かれていない。同僚の中折が精神を病んで入院するくだりも詳細を書かずに言葉を濁しているし、読者が知りたいと思うようなところであちこち突っ込み不足。ひとつの出来事を掘り下げるほうが小説としては面白いのに、自伝的小説として様々な出来事が散発的に書かれているせいで、死刑囚の対話とかのエピソードに興味を持っても中途半端に話が終わってしまって不満が残る。精神科医ならではの何らかの思想なり人間観なり、他の作家との思想の差異が表現できていればもっと面白かったかもしれない。描写のペースが一定なのは文章力があるということだけれど良し悪しがあり、短編ならそのほうが読みやすいけれど、長編としては同じペースで延々と話が続くと飽きるので、喜怒哀楽の変化をつけるなり描写のリズムを変えるなりしてメリハリがほしいところ。著者に興味があるような特殊な読者でないと途中で退屈する。

ちなみにニュージーランドの国民的作家ジャネット・フレイムは教職についた後にうつ気味になってたら統合失調症と誤診されて精神病院に入れられてロボトミー手術寸前に文学賞をとって精神病院を脱出できたという体験をしていて、自伝的小説「An Angel at My Table」は映画にもなっている。ノーベル文学賞候補と噂されていたらしいものの、日本ではあまり知られていないようで、私も読んだことはないので映画を見てみたらそこそこ面白かった。医者側の小説と患者側の小説を比較してみるのも面白いかもしれない。


★★★☆☆







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最終更新日  2015.08.08 06:51:20
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