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2015.08.20
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カテゴリ: 小説
1985-86年に書かれた6編の短篇集。

「パン屋再襲撃」は法律事務所で働く僕がデザインスクールで事務をする妻に相棒とパン屋を襲撃した話をしたら、妻がそれは呪いだといってパン屋を再襲撃することになるものの、パン屋がなかったのでマクドナルドを襲撃する話。この小説で重要なのはパン屋を襲撃することではなく、妻の変な倫理が始終一貫していることで、そういう女性像を描いたという点でこの小説は成功している。しかし語り手の僕がべらべらと犯罪を語っているのは不自然で、ナラトロジー上の工夫がないのはよくない。

「象の消失」町の象舎から象が消える事件がおきて、僕は象問題に個人的に興味があったので事件を考察したり、知り合った女に象が小型化したんじゃないかと話したりする話。語り手の僕が誰なのか、なぜ象に興味があるのかという情報が読者に明らかにされないまま、読者を置いてけぼりにして話が展開するのでつまらない。語り手自体が読者に信用されていないのに、そこでさらに象の小型化説を出されてもリアリティがないのでマジックリアリズムにもならない。

「ファミリー・アフェア」はヤリチンでアメリカかぶれの僕と同居する妹が婚約者の渡辺昇をつれてくるものの、酒を飲まないし冗談が通じない奴なので僕はあまり気に入らない話。兄と妹の親密さの距離感はよく書けていてサリンジャーの模倣としてはよくできているので、フラニーとゾーイが好きな読者は好きかも知れない。じゃあ最初からサリンジャー読めばいいんじゃーという話になるんじゃー。

「双子と沈んだ大陸」は渡辺昇と翻訳事務所を共同経営している僕が双子と別れた後、双子を写真雑誌で見つけたり、隣の部屋の歯科助手の笠原メイと話したり、風俗嬢に双子の夢を話したりして、双子のいない世界を受け入れようとする話。ここに出てくる双子はたぶん他の小説に出てきた双子だろうけど、双子が誰なのかこの小説だけでわかるように書かれておらず、小説内に登場しない人物についての感傷を展開されてもつまらない。

「ローマ帝国の崩壊・一八八一年のインディアン蜂起・ヒットラーのポーランド侵入・そして強風世界」は僕が目隠しセックスしただのなんだのと日記を書く話。大声で「もしもし」と言ってフォントを大きくしたりするのは小説のテクニックとしては邪道。一種の実験小説なのだろうけど、実験してみたという以外に見所はない。

「ねじまき鳥と火曜日の女たち」は法律事務所を辞めて無職になった僕のところに知らない女からエロいいたずら電話がかかってきたり、妻の兄に似ている猫のワタナベ・ノボルを探すものの見つからなくて妻になじられる話。「パン屋再襲撃」と同じ夫婦が登場人物だけれど、この小説で描かれているのは妻でなく僕であり、語り手が自分について語る物語になっているがゆえにうそ臭くなってつまらなくなっている。

全体の感想としては、僕が一人称で物語る動機が不明で、ナラトロジーの処理ができていない。誰を描いてもキャラクターが似ているあだち充の漫画のような印象。短編をひとつだけ読んでもアラはそれほど目立たないものの、短編を続けて読むと登場人物の書き分けが出来ていなくて下手糞に見える。主人公の僕が作者を投影した人物なら書き分けができていなくてもいいのだけれど、どの短編の主人公も違う生い立ちの人物のはずなのに性格が似ているというのはよくない。
渡辺昇という人物を使いまわしているけれど、この登場人物たちが同じ世界にいるということを強調する記号のような扱いで、なんちゃらサーガ的な空間の広がりが出るわけでもない。こういう小細工を面白がる読者もいるだろうけれど、短編として小説を完結させることを放棄してテクスト外の情報に助けを求める作家の甘えに見えて私は気に入らない。
社会からちょっとはずれた「僕」が主人公でありながら、カフカのように具体的な恐怖として主人公を脅かす社会を描くわけでもなく、冗談交じりに気取って自分語りするというやりかたで、主人公である「僕」が直接社会に向き合わないので物語に緊張感がなく、それゆえにだるくて読み応えがない。

★★★☆☆






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最終更新日  2015.08.20 17:46:00
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