元・天津駐在員が送る中国ビジネス・エッセイ

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カテゴリ: 日本社会
■6.「企業は社員の共同体」■

合併により企業規模を拡大し、また行き過ぎた多角経営を改めるなど、日本企業はバブル崩壊後に着実な変革を進めてきたわけだが、こと人に関わる部分については、頑固に終身雇用制を維持してきた。アベグレン氏は言う。

・・・日本の経営システムを特徴づけているのは、人間にかかわる部分であり、日本企業の文化はこの部分に基づいている・・・ 日本企業は何よりも社会組織である。企業を構成する人間が経営システムの中心に位置している。会社ではたらく社員が利害関係者の中心である。会社という共同体を構成しているのは、社員なのだ。[1,p27]

もっとも、企業を従業員の共同体と考えるのは、日本だけではない。経営学者のピーター・ドラッカーは、こう指摘する。

アメリカとイギリスを除けば、先進国の中で会社が株主のためにあると考えている国はない。これはまったく異質の考え方である。ほとんどの国は、会社は社会の調和のために、雇用のためにある。日本では社会の現実をみれば、雇用が最優先されている。ドイツでもそうだ。[1,p217]

当のアメリカにおいても、ビジネス・ウィーク誌の調査によれば、大企業500社のうち、177社が同族経営となっている。そしてこれら同族企業は、他の企業に比べて、収益性も成長性もはるかに高い。同誌はその理由をこう分析している。

団結心が強い一族のリーダーが指揮をとっているので、意思決定は容易だし早く、ふつうの企業なら逃すような機会をうまく活かすことができる。家族主義の企業文化になっていることが多いので、従業員の回転が少なく、経営を引き継ぐ人材を育成できる。一族のCEO(最高経営責任者)は外部から招聘されたCEOとは違って、一族が将来にわたって会社に関与していくことを知っているので、事業への投資を積極的に行う可能性が高い。[1,p224]

■7.終身雇用制は強い武器■

日本企業が先端技術商品や高付加価値製品で勝負する上でも、終身雇用制は強い武器となる。

高度な製品開発を行うためには、様々な分野の専門技術者が集まって、緊密なチームワークを行う必要がある。こうした専門技術者を育成するためにも、終身雇用制においては、社員が長年、自社のために働いてくれる事を前提に、教育・育成にじっくりと金と時間をかけることができる。またお互いに長年、一緒に仕事をやっているので、チームワークも容易である。

製造現場においても、作業員は高度な設備を使いこなすために、常に技能を磨き、作業ミスやムダをなくすための改善活動を展開する。一人当たりの平均改善提案件数が年間数十件という企業は珍しくない。

小売業においても、商品知識を蓄えたり、仕入れ方法や展示方法を工夫するなど、熟練と創意工夫が求められる。こうした店員を育てるためにも、終身雇用制は有効である。平成18(2006)年にアパレル大手のワールドが販売子会社のパートやアルバイト約5千人を正社員化するなど、ここ数年、多くの産業分野で正社員化の動きが広がっていたが、これも派遣・パート・アルバイトなどで低賃金化を図るよりも、正社員化して意欲を高め、生産性や業務品質を高めた方が良いという判断からである。

終身雇用制は、我が国のような高度な産業社会によくマッチした制度である。100社中の88社もが「終身雇用制を維持する」と回答しているのは、この点を多くの企業が認識しているからであろう。

■8.終身雇用制は厳しい道■

一方、ここ数ヶ月の急激な大不況で、派遣切りが大きな社会問題になっている。マスコミのセンセーショナルな取り上げ方には問題があるが、終身雇用制になじんだ日本人の感覚からして、ドライな派遣切りには抵抗を感じるのも事実であろう。

高付加価値商品でグローバルな競争に打ち勝っていこうとする企業なら、派遣社員利用による人件費削減などという安易な逃げ道に走らず、正社員の終身雇用により、人材育成と技術開発に取り組む事が正攻法だろう。単純な作業は自動化するか、低賃金国に移せばよい。

一方、従業員の方も、終身雇用制においては、何年も外国に単身赴任したり、気に入った仕事につけなかったり、という厳しさがあることを自覚しければならない。派遣社員のようにいつでも好きなときに辞めて「自分探しの旅」に出る、などという気ままさは許されない。企業という共同体の中で生きるには、全体のために自分を犠牲にしなければならない場合もあるのである。

終身雇用制とは、企業にとっても、社員にとっても、ある意味では逃げ道のない厳しい仕組みである。そして退路を断って、人材育成と技術開発という正攻法で変革の道を歩み、立派な業績を残してきたのが、多くの日本企業であった。

■9.「日本人はいつも将来を悲観的に、現状を否定的にみており」■

こうした分析をもとに、氏は言う。

(日本の)過去50年の実績と、今後の100年の見通しは、海外で称賛を受け、国内で誇りにするに値するものである。[1,p45]

それなのに、この点を自覚していないのが、最も問題だと氏は指摘する。

21世紀に日本が直面している問題のもっとも深刻な点は、この自信のなさ、とくに若者の無気力だといえる。日本人はいつも将来を悲観的に、現状を否定的にみており、事実を客観的に分析すれば根拠がないことがはっきりしていても、こうした見方が根強いのがたしかな現実である。[1,p16]

悲観的・否定的なニュースばかり流す一部の偏向マスコミに流されることなく、我々は「過去50年の実績」に誇りと自信を持ち、「今後の100年」に向けて、我々の強みをさらに磨いていかなければならない。

               (文責:伊勢雅臣)







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Last updated  2009.02.28 08:16:57
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