羊の墓場

羊の墓場

2007.06.01
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夜の風景を憶えている.
まだ小学生だった頃のことだ.
あの人は罰として私を少しの間、家から追い出したけれど
私には夜の住宅街の方が優しかった.
誰も居ない道、ときどき車が通って、一定の間隔で街灯が照らしていて、
全く知り合いには見えない人たちが一緒になってランニングをしている.
そこには私を哀しませる何ものも居なかった.

今でも夜の街が好きだ.
昼間は人でごった返している場所を自転車で走り抜ける.
傷つけられるのは大嫌いだ.傷つけるのも、傷つけられることには及ばないまでも嫌いだ.
夜の街に居ると泣きそうになる.
安心してなのか寂しくてなのか嬉しくてか悲しくてか分からない.
死んでもいいくらい幸せだとか、今死んだら幸せだろうなとか、唐突に
私の意志とは関係なく、頭が勝手に考えたりする.たぶんそういう時には
冷たい肉になり腐って焼かれて埋められるだけの「死」というものが
もっと自由なものに見えているのだろう.
たとえば檻や柵から解放されることのように.

人が嫌いだ.愛しようと努力すればするほど足は遠ざかろうとする.
助けてくれる人を求めようとしたけれど、無理だった.
彼は私の命を助けてはくれたけれど、私を助けてはくれなかった.
彼に努力や能力が不足していたからではなく、ただ私が信じきれなかったのだ.
いつだって安心できない.そこに人がいるだけで緊張する.疲れる.
私が今、愛していると思っている、思い込もうとしている人たちのこと
彼らは本当に大事だけれど、もし彼らをあの夜の町へ連れて行けたとして
私は心から彼らを招き入れることを喜べるかと考えると
不快感が私の視界と喉を占領していく.
全て曝け出して警戒しないことが愛情ならば、私は誰一人愛していない.

人に産まれなければ良かった.そうしたら私は心から人を愛しただろう.
あの街灯の一つになりたかった.あの街灯の一つとして造られたら
あの日、あの夜、あの街灯の一つになれていたら、潮風や雨に晒されて雪を被って
いつか廃棄されるあの街灯として無くなることができたら


夜の風景.私を照らした車のヘッドライト、懐中電灯、炎、
私はいつも照らし出されて、怯えている.
夜の町、鍵をかけた部屋、何度も何度も振り返る.
人が来ていないか確かめながら、灯の下から外れる.





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Last updated  2007.07.04 02:09:37
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