日記はこれから書かれるところです。

日記はこれから書かれるところです。

2006.02.21
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こういう題で挙げると、あんまり読んでもらえないのかもしれないけれど、前回の記事を読んでくれた数人の知人からは「面白かった」と言ってもらった。
皆、俺がアンベドカルを知らなかったということについては触れないでくれていたけど(笑)


さて、前回、抑圧=被抑圧の「安易な二元論」でインド問題を語ることに対する伊勢崎氏の苛立ちまでを紹介した。

言うまでもないことだが、そうした「安易な」理解は、以前の俺が持っていた「一方的なインド観」と大差が無い。これも、同様に「抑圧政治の思う壺」ということになろう。

伊勢崎氏の一番の苛立ちは、山際氏のような「外部の同調者」に向けられている。

インド内でも、そうした問題をどのように解決すれば良いのかわからず混乱があるのではないか(だからこそ、スケープゴートとしてガンディに怒りが向けられるのではないか)と語ったうえで、伊勢崎氏はこう続ける。

混乱しているものたちに、「部外者」がやたらに同調し、一緒になって「空虚」なものに怒りをぶつける、こんな部外者ならインドに近付いてもらわないほうが良いのです。

正当な「 他人事主義 」批判である。毎度毎度俺は書いているが、責任を持たない仕方で「関わる」このやり方は、最も醜い(公正を期して言えば、俺は山際氏の著作を立ち読み程度でしか読んだことがなく、しかもほとんど忘れているので、ここでの言いは、「一般論として」ということを断っておく)。

さて、では「インド論批判の巻」の圧巻。


■特別優遇制の<失敗>

まず、挙げられている例からみてみたい。

去年、グジャラート州アーメダバードを中心にして巻き起こった大きな虐殺事件を生んだカースト戦争は、州政府が大学入試や役所雇用に於けるこの不可触民の特別優遇制の枠を(選挙前で、不可触民票を引き付ける為に)大幅に広げようとしたことに対する上位カーストからの猛烈な反発が発端となりました。これは、上位カーストの「妬み」であると思われていますが、彼らにも言い分があって、アンベドカル博士などの努力によって差別撤廃の為に発足されたこの制度が、本来の機能を果たしていないことにあったのです。

この制度でポストを得た不可触民出身者は、上位カースト達がやっているのと同じことを繰り返しているだけだという。コネ社会が強化され、特定同族内でポストが独占され、能力が無くてもコネで採用される。結果として、この制度は、不可触民全般の利益にはならない、というわけだ。

僕の今のスラムの活動では、住民の側に付いて、政府関係役所との交渉が多いのですが、この役所通いは全く頭痛のタネで、同じ不可触民である貧しいスラム住人から、仕事と引き替えに賄賂を取ろうとするのは、全く能無しの、休むことと賄賂を取ることしか考えていない、この不可触民出身の役人です。
彼らは、一体抑圧者なのでしょうか、被抑圧者なのでしょうか。


ダリット(被抑圧者層)がダリットを抑圧する。伊勢崎氏の「外部同調者」への苛立ちはこうした認識に根ざしている。
そして、俺はここに普遍的な問題構造を見る。


■「損」をしないように

俺が普遍的問題だと思うのは、「弱者に住みにくい社会は強者にも住みにくい」というかたちでも言い表せる問題だ。これは構造的問題になっている。

同じ不可触民なのだから、一致団結したらどうなのかと、いつもいらだちをもって思うのですが、異なる州、言語、宗教、カーストの様々なコミュニティを包含するスラムは、マジョリティがマイノリティを搾取する類いの内部争いの最多発地帯なのです。
〔中略〕
一体、敵は誰なのでしょうか。
こんな悪者探しは、問題の本質を混乱させるばかりです。インドには、既に隅々まで縦横無尽に不正の共生関係が出来上がってしまっていると思うのです。
そして、上位、下位、不可触民、全カーストを通じて、それに加えて州の違い(例えば、ブラーミンでも州をまたぐ横のつながりは全くない)言葉の違い、宗教の違いを通じて、無数の小さな閉じたコミュニティが存在し、それらに更に政治色が加わり、排他的に対立している情況に問題の根本はあるのではないでしょうか。


こうした構造が、どんなに良い政策をつくっても、それを機能しないものにしている。そして、その構造は、問題を再生産する構造でもあるように思う。

今の情況を心良しと思うインド人は一人もいないのです。しかし、その具体的な解決策に関しては、皆、絶望状態で、不安であり、だからこそ、「損」をしないように自らの小さなコミュニティに固執するのです。問題の全責任は、誰にも無いと同時に、全国民にあるのです。

南アなどと違って、単純に「白」が「黒」を差別するわけではない構造では、「抑圧者」という言葉に意味はなく、抑圧=被抑圧の二元論が有効性を持たないわけだ。伊勢崎氏の苛立ちがわかる。

「損」をしないように行動するのは、当然のことのはずだ。それが問題を拗らせるにしても、弱者にはどうしようもない。


■分断の拡大再生産

少し脱線するが。

排他的な閉じたコミュニティに固執してしまう問題は、たとえば「道徳教育」なんかで直るものではない。今日食べていけない人間が、どのように生き方の倫理を語れるというのか。

だいたいにおいて「(道徳)教育」や「努力した者が報われる社会」なんてことを言う奴等は、その人生(特に初期に)において、そうした苦労をしたことが無いのだろう(ちなみに、俺は家の電気が止まるとか水道が止まるとかガスが止まるとか頻繁だった笑)。

努力したって報われないということを殊更強調したいんじゃない。その前提を問題にしてるだけだ。絶対の格差がある。環境にも格差があれば、知的リソースを得るチャネルにも格差がある。百科全書が揃ってる家と、親が文盲の家には、その環境において明らかな格差があることくらい、気付いてほしいものだ。

そもそも人間の性向でさえ、自分自身では決められないはずだ。自身の性格を最も決定付ける時期に、自分に対してどれほどのことができただろうか。

少なくとも、俺個人に関していえば、こうして多少なりとも学問への関心を持っているのは、単純に、そして完璧に「偶然」に過ぎない。僥倖とも言うべき<出会い>がなければ、こうはなっていなかった。


気を取り直して。引用しよう。

僕は、インドのこの分断情況をイデオロギーの乱立ととらえています。つまり、宗教、言語、カースト、サブカースト、出身地、そして共産主義など舶来のものまで、何でも「差」を捕らえて独自のイデオロギーを形成し、武装する。

以前「 ナショナリズム戯考 」で考えた態度と近い。そして、いつも書いているとおり、大切なのは、我々はそうした思考態度に囚われてしまうのはなぜかだ。この点も伊勢崎氏の洞察は優れている。

いつでも、侵略、武装、内乱の歴史の絶えなかった不安定な社会情況では、また、何かのイデオロギーの傘の下に居て、防御の態勢を取ることが、生存の為の必須条件となってしまうのです。

こうした社会では、もどかしく感じつつも、そのもどかしさから抜けられないわけだ。これこそ、集団的意思を志向する「政治」の解決するべきことのはずである。

それが、自己保身の政治家たちの国では、もう、どうしようもなかろう。

インドのことを語ってるのか、どこかの極東の国のことを語ってるのかわからなくなってきたが。


■なにができるか

自分がいつ抑圧側に属してしまうかわからず、「政治」の場が問題の解決よりも、次の自分の当選と出世という「悪の凡庸さ」を抱えてしまっている状況で、俺はなにができるのだろうか。

このことを考え続けなければいけないのかもしれない。

最後の部分を引用しよう。

こんな情況を考察するに付け、インドを分断するあらゆるイデオロギーから自立し、自分達が自分達の手で、相異を越えて共同で築き上げたものの上に自信を付けながら連帯を築くために、住民運動ということを主眼において、僕は今、ここダラビたおいうスラムで活動しています。
部外者として、どこまで出来るかわかりませんが、少なくとも、ここインドで何もしないで、ガンディー主義者にしろ、インドの一部の人間を批判するようなマネはしたくない、これはいつも肝に銘じていることです。


やれることは、絶えざる自己反省のもと、考え続けることであるかもしれない。


■完全なる蛇足――この国の今後?

この国における「福祉国家」から「セキュリティ国家」への移行は、負のスパイラル的問題構造へと向かうものだというのは、述べてきたところ。

「安心して暮らせる社会」という語に、「中上流階層が」という主語をつけて語られる状況では、少しも解決に近付かない。「分断」を促進するような「自警団」や「警察国家」よりも、「弱者が安心して暮らせる社会」を求める方が、正しい路ではなかろうか。

「ライブドア」は「教育」のせいだなどと頭の悪い妄言を吐く前に、しっかりと「政治」のやるべきことをやってほしい。圧倒的多数与党の意味がないじゃないか。

こうした観点に立てば、「教育」は弱者にではなく強者にこそ向けられなければならないことがわかるはずだ(その意味で俺は教育信奉者だ)。「教育」の問題を言うなら、あなたの再教育からお願いします、エリートの安倍さん。





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Last updated  2006.02.21 22:41:08
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