.

2010.12.04
XML

SSS

カテゴリ: カテゴリ未分類


おやすみかわいいこ


何かが割れる音と同時に小さな叫び声が上がって、龍之介は推敲していた小説からハッと現実に引き寄せられた。
締め切りがあと三日と迫る中で、集中力が途切れるのは惜しい。だが物語も終盤に差し掛かる今、異星人が伝えようとする言葉が思うように出てこず悩んでいたのである意味丁度良い息抜きになりそうな気がする。
そんな言い訳交じりの理由を頭の中に浮かべながら、相変わらず一人で賑やかな吉子の元へ向かえば見るからに落ち込む背中がそこにあった。

「もぉやだぁ~……」
「何が嫌なんだ?」
「キャ!」
「人の顔見て叫ぶなんて失礼な奴だな~」
「だ、だって急に声をかけてくるから……あ」
「成程、皿割っちゃったのね」
「ごめんなさい。貴方、これ気に入ってたのに……」
「別にいいよ。それより俺が片付けるから、お前この辺触るなよ?」
「いいわよ別に、片付けぐらい自分でやるから」
「お前が危なっかしいから親切心で言ってやってんだろ~?いいからお前はコーヒー入れてくれよ、コーヒー」
「はいはいわかりましたっ!」

子ども扱いされた事が悔しかったのか、多少拗ね気味な吉子の手付きは少々強引だ。
(全くウチのお嬢様は……)
さっさと片付けて構ってやろう。そう思って掃除道具を探しに歩き出そうとした足は、何かがぶつかる音によって動きを止めた。

「おい大丈夫か……スエキチ!?」

ダイニングテーブルにしな垂れる様にうつ伏せる吉子の姿に、慌てて駆け寄った龍之介の手が無意識に肩に触れ、その熱に目を見開かせる。

「熱があるじゃないか!」
「だ、大丈夫……少し、休んでれば」
「馬鹿、こんな時に強がるな」
「でもコーヒー」
「そんなものはどうでもいいだろ!ええっと、薬あったっけかなぁ~!?」

龍之介にしては珍しい位動転しながら、有無を言わさず彼女を抱き上げて部屋へと向かう。
ドアを開け、ベッドに寝かせようと下ろして服を脱がせようとした段階でようやく吉子は我に返った。

「ちょっこんな時に何考えてるのよ!?」
「そりゃこっちの台詞だ!病人に無理強いする程俺は鬼畜じゃね~よ。そのままじゃ寝苦しいだろ」
「じ、自分でやるからいい」
「でも」
「いいったらいいの!もお寝るから出てってよ!」
「なんだよ人が心配してるのに!」
「アタシの事なんか放って置いていいの!それより仕事の方が大事でしょ?伊達に十数年も独身生活してたんだから、ひとりで平気よ」
「……ったく、このアホ吉」
「なんですって!」
「出て行ってやるから、ちゃんと着替えておけよ。薬と飯、用意してくるからさ」
「でも……」
「それとも今すぐにでも着替え手伝ってやろーか?」
「結構です!」

胸元を押さえ、頬を膨らませる姿に抱き締めたい欲は膨らむが此処はグッと堪える。
代わりと言わんばかりに額にキスを落とすが、それは益々吉子の熱を上げさせる一因にしかならなかった。

暫くして龍之介が部屋に戻る頃には、吉子はキチンとベッドの中に納まっていた。
さすがに今夜は薄手のネグリジェという訳にはいかないらしい。ジャージ姿はなんとも色気がないものの、さっさと風邪を治して貰いたい身としては微笑ましく思えるものであった。

「……馬鹿よね、アタシ」
「何が?」
「貴方の邪魔をしちゃいけないと思って隠そうとしてたのに、結局バレちゃうし。こうやって世話を焼いてもらってるし……」
「そうだなぁ」
「ちょっとは否定してよ!」
「ヤダね。俺にそんな隠し事しようとするお前が悪いんだろ~?」
「……だって」
「お前の気持ちは嬉しいけどさ、知らないまま呑気に仕事してる方が俺はよっぽど嫌だよ」
「うん?」
「ばぁ~か。誰かさんの為に頑張ってるのに、その誰かさんが参っちゃってたら元も子もね~だろぉ~?」
「……!」
「それに俺には才能があるからな。一日ぐらい時間潰したって、どうにかなるさ」
「何よぉ……すぐ調子に乗るんだから」
「うるさいよ。ほれ、さっさと飲んで寝て治せ!」
「……ありがと」
「ん」

薬を飲んで横になる吉子の掛け布団を押さえる手の感触が、いつにも増して優しく感じる。
吉子が眠りにつくまで傍にいよう。
そう思っていた龍之介だが、次の日の昼までぐっすりその部屋で一夜を明かしてしまう事は知る由も無かった。


女.神.の.恋(龍之介×吉子)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2011.01.28 00:59:30


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: