テイスティングの結果については後述するとして、まずは前号の流れを軽くおさらいしてみよう。
■前号のおさらい。
「ワインは、温度、光、振動、臭いなどの影響を受けやすい、デリケートな飲み物であり、日本の環境、特に夏場の高温を考えると、日常の条件で、ワインを健全な状態で長期保存することは難しい。」「しかし、高価でかさばるワインセラーをお持ちの家庭は決して多くはないはず。」「では、ワインセラーのない環境で、手持ちのワインを目立った劣化なく、1~2年程度だけでも保存することはできないのだろうか?」というのが出発点。
「(セラーがない場合)ワインの保存には、北向きの風通しのよい部屋の押し入れなどが最善と言われてきたが、現代の密閉度の高い住環境においては、北向きの部屋に執着する必要があるだろうか?直射日光さえ避ければ、むしろエアコン稼動頻度の高い居間などの方が温度的に有利ではないか」。「冷蔵庫は、『湿度が低くコルクが乾燥する』『振動の影響が出る』『他の食品の臭いがうつる』など、ワインの保存には適さないといわれてきたが、最近の冷蔵庫はよくできていて、『野菜室』は湿度もある程度コントロールされているし、少なくとも短期間の保存であれば、それほど大きな劣化には至らないのではなかろうか」。
したがって、「とりあえずひと夏、ふた夏程度、セラーなしでやりすごす、という目的に対しては、夏場だけ冷蔵庫の、できれば野菜室に保管して、それ以外の季節は居間の暗所に置いておくというのが最善のソリューションではなかろうか。」
この仮説の検証をメインのテーマに据えて、その他日常感じている疑問点、たとえばボトルは本当に寝かせておかねばならないのか、といった事項も含めた実験を開始したのである。「検証」「実験」といっても、研究所で行われるような厳密なものではない。冷蔵庫などの機器も関係者宅にあるものを使用しているし、温度などのデータも詳細には記録していない。なので、あくまで、日常レベルでの「検証」「実験」だということは最初に断っておきたい。
■実験の枠組み
実験の大枠は以下のようなものだ。
世間で認知されている、比較的「熱に強い」代表格としてカベルネブレンドのボルドーワイン、デリケートなワインの代表として、ブルゴーニュのピノ・ノワールをチョイス。(銘柄については後述する。)
それらを、
以上、8通りの場所に、それぞれボトルを配置して、半年後、1年後、2年後のそれぞれの経過をテイスティングによって検証する。
ただし、5と6の「ずっと冷蔵庫に保管」というのは、冷蔵庫スペースの関係上、同時スタートすることができず、半年遅れで設置することにした。なにぶん、編集部員の冷蔵庫を借用させていただく関係で、あまりムリはいえないのだ。
ちなみに今回実験に使わせていただいた編集部員宅の冷蔵庫は、日常使われるような3ドアタイプの冷蔵庫。通常室は温度6度、湿度40%と、どちらも低めだが、野菜室は、温度8度、湿度60%と、やや低温であることにさえ目をつむれば、かなりワインセラーに近い環境だ。ただし、日常的に使用している冷蔵庫なので、よく言われるように、他の食品の臭いが移る可能性はあるかもしれないし、ドアの開閉やコンプレッサーによる振動の影響もあるかもしれない。それらは、「ひと夏の保管」程度では、目立った変化となって現れないかもしれないが、1年先、2年先まで視野に入れてじっくりと見極めたいテーマである。
それはそうと、家庭の冷蔵庫というのは、通常ギシギシに収納されていることが多いので、ワインを入れようとすると、奥さんから白い目で見られることってありませんか?我が家の冷蔵庫を実験用に使用できなかったのも、実はそのような事情があってのこと。本当は、庫内の1ブロックぐらいのスペースを確保できれば言うことないのだけど、家族持ちの家庭では、よほど大きな冷蔵庫を使っていないかぎり、虎の子の数本を緊急避難させるぐらいが関の山かもしれない。
閑話休題。さて、夏場以外の季節はというと、同じ編集部員宅のリビングに置かせていただくわけだが、このリビングは、在宅時はほぼエアコン稼動。ただし、家主は比較的留守勝ちだということで、外出中はエアコンのスイッチを切っている。もっとも、今回の実験に限っては、6月以前はまだ実験を開始していなかったので、居間に置かれていたのは、10月中旬から11月下旬までの約1ヶ月間半に過ぎない。
一方、エアコンのない部屋というのは、ほかでもない編集部(通常のマンション)のひと部屋を利用させていただいたわけだが、直射日光が入らないにもかかわらず、夏場は35~37度を記録することに改めて驚かされた。たしかに去年の東京の夏は酷暑だったが、例年に比べて劇的に暑かったというほどでもなく、ここ数年は似たり寄ったりだったと記憶している。今や、日本の夏の35度は珍しいことではないが、室内までそのような温度になるとは思っていなかった。そして、そこに置かれたワインたちはといえば、検証時までには、そのほとんどがお約束のように「噴いて」しまっていた。
■実験に使う銘柄
次に、実験に用いるワインである。すべての実験をこなすためには3本×8パターン→24本、すなわち2ケースずつのボルドーとブルゴーニュのボトルが必要になるが、諸々の検証を行うからには、以下のような条件を備えていることが望ましい。
・半年後、1年後、2年後、と3回検証を予定していることから、ある程度まとまった本数を確保できる銘柄であること。(ブルゴーニュの場合、これで結構ひっかかってしまう)
・ボトルの個体差がなるべく小さいこと。すなわち、ある程度大量生産されている、定評ある銘柄であること。
・ ボトルのコンディションが限りなく問題のなさそうなもの。すなわち、最新ビンテージの蔵出し、またはそれに準じるもので、定評のあるインポーターによるもの。
・ すでに本誌でテイスティング済みで、穏当な点数のついているもの。
・ 価格帯は、4000円~5000円前後を想定した。これより安い価格帯であれば、早々に飲まれてしまうことが多いだろうし、あまり高価なものだと現実的なシチュエーションからかけ離れてしまう。私の経験に照らし合わせても、夏場の前後にセラーと押し入れと冷蔵庫とを行ったり来たりというような可哀想な環境におかれやすいのがこのクラスだからだ。
・ 品種についてはいろいろ試してみたいところではあるが、実験そのものが煩雑になってしまうことや、現実的な保管スペースの問題などを考慮して、今回はカベルネ・ブレンドのボルドーワインとブルゴーニュのピノ・ノワールの2種類にとどめた。
さて、このような条件をクリアするものとして、みなさんはどのような銘柄を想像されるだろうか。
実は銘柄については私ではなく、編集部で選んでいただいたのだけど、彼らが選んだ銘柄は
・Ch.タルボ99
・ニュイ・サンジュルジュ99(ミシェル・グロ)
の2銘柄。購入店は東急百貨店(吉祥寺店)、インポーターはラック・コーポレーション。
このチョイスは、決して身内びいきでなく、なかなかいいところをついた選択だ、と思う。前述したような要件はすべてクリアされているし、酒質がとくに強いとか弱いとか、極めて個性的だとかいうことはなくて、クラスの中でオーソドックスなもので、銘柄自体のネームバリューからしても納得感があるものだからだ。
長くなったので、もう一度、実験用のワインの配置と検証の実施時期について、別表にまとめてみる。
今回行ったテイスティングは、「半年経過分」のそれぞれのボトルの比較と書いてきたが、厳密に言うと、実験を開始したのが6月中旬、テイスティングを行ったのが11月下旬であるから、期間は5ヶ月半である。
『夏は冷蔵庫で、それ以外はリビング』という条件のボトル(以降「冷蔵庫保管」と呼ぶことにする)については、前述のように、そのうちの4ヶ月間を冷蔵庫で過ごしており、リビングに置いておいた期間が10月中旬以降と、ワインたちにとってはしのぎやすい時期なので、今回の実験ボトルになんらかの変化が見られるとすれば、おそらく冷蔵庫への保管が原因であると思われる。
徳丸編集長と話した事前の予想では、冷蔵庫に入れておいたボトルは、期間が短かったこともあり、野菜室、通常室の区別なくセラー保管のものとほとんど遜色はない状態を保っているだろう。常温においたものだけは、それなりの変化があらわれているだろう。ただし、その変化については、特にカベルネでは、あまりネガティブ方向でない結果として現われるかもしれない、というところだった。
約半年後(今回実施) | 1年後(一部は一年半後) | 2年後 | |
---|---|---|---|
1年中セラーに寝かせて保存。(基準ワイン)
|
○ | ○ | ○ |
1年中セラーに立てて保存。
|
○ | ○ | |
1年中エアコンの効いたリビング。
|
○ | ○ | |
1年中エアコンのない部屋。
|
○ | ○ | ○ |
1年中冷蔵庫の通常室
|
○ | ○ | |
1年中冷蔵庫の野菜室
|
○ | ○ | |
夏(6月中旬~10月中旬)=冷蔵庫の通常室 それ以外はリビング。 |
○ | ○ | ○ |
夏(6月中旬~10月中旬)=冷蔵庫の野菜室 それ以外はリビング。
|
○ | ○ | ○ |
※ 進捗状況次第で、1年半後に実施する項目もあり。
それでは、次にテイスティングの結果を見ていくことにしよう。
■テイスティングのあらまし
当日の参加者は7名。テイスター諸氏には、あらかじめ、今回のテイスティングが「ワインの保存」の連載に関連したテーマだということは知らされているが、ワインの銘柄や、保存条件などの詳細は知らされていない。
テイスティングはまずブルゴーニュから行った。
各人のテーブルにINAOのテイスティンググラスが4脚配られる。1番目のワインを「基本ワイン」に指定して、2番目以降のグラスについて、基本ワインとの違いはあるか、あるとすればどういう点か、その場合どちらが美味しいと思うか、を記入してゆく。もちろん2番目以降のグラスについて、どのグラスがどのような条件で保管されたものかは知らされない。
基本ワインとの違いの基準については、リアルワインガイドの点数に鑑みて、1点、もしくはそれ以上の違いがあるようなら「ある」、1点未満だが、明らかに違いがある場合は「わずかにある」、ほとんど違いを感じないが、「ない」と言いきるほどではない場合は「わずかにあるが気にするレベルではない」とした。
約30分経過したら、抜栓後の変化を確認するために、同じ銘柄について二巡目のテイスティングを行う。
このようにして、ブルゴーニュのテイスティングが終了したら、次にボルドーについて、同様にテイスティングを行う。
以上、基準ワインを含めて、計8種をテイスティングした結果を所定の用紙に記入する。
■ 集計結果
1.ブルゴーニュ ニュイ・サンジュルジュ99(ミシェル・グロ)
違いがある | わずかに 違いがある |
わずかにあるが気に するレベルでない |
ない | |
---|---|---|---|---|
冷蔵庫
|
●● | ●●● | ●● | |
野菜室
|
●● | ●●● | ●● | |
常温保存
|
●●●●●●● |
ブルゴーニュについては、予想以上に明快な結果となった。
・常温保存のボトルは、7名全員が、「違いがある」で一致した。
・違いの内容については、「イオウ臭」「苦味やアフターのエグみ」「まとわりつくようなジャミーな味わい」「バランスの悪さ」「焦がしたようなフレーバーが強く出ている」などのネガティブな回答が大半を占めた。
・基本ワインより常温保存の方がおいしいと答えた人はいなかった。
・ 冷蔵庫保管については、通常室、野菜室とも、「わずかに違いがある」と答えたのが2名、他の5名は、「ない」か「気にするレベルではない」だった。通常室と野菜室で大きな違いを指摘した回答はなかった。
・ 冷蔵庫保存について「わずかにある」という回答の内容は、「味わいに広がりがない」「酸がややたっている」というものだが、いずれも顕著な劣化を指摘したものではなかった。
2.ボルドー Ch.タルボ99
違いがある | わずかに 違いがある |
わずかにあるが気に するレベルでない |
ない | |
---|---|---|---|---|
冷蔵庫
|
●● | ● | ●● | ●● |
野菜室
|
●● | ● | ● | ●●● |
常温保存
|
●●●●● | ●● |
一方のボルドーであるが、こちらはブルゴーニュよりやや回答がバラけた。
・ 常温保存のボトルについては、「違いがある」が5名、「わずかにある」が2名と、全員がセラー保管との違いを指摘した。
・ 具体的な違いとしては、「果実感やフレッシュ感のなさ」「ローストフレーバーが突出」「渋みが突出」などが挙げらていた。
・ 常温保存のボトルのほうが美味しい、と答えた人はいなかった。
・ 冷蔵庫保管については、通常室、野菜室とも、4名が「ない」もしくは「気にするレベルではない」と答えた一方で、2名が「ある」、1名は「わずかにある」と回答した。
・ 「ある」という回答のうち1件(通常室)は、「基本ワインに比べ、開いていて外向的」と、冷蔵庫保管の方を美味しいと回答していた。
・ 他の「ある」「わずかにある」の具体的な内容としては、「果実感の弱さ」「焦げ臭がやや目立つ」「みずみずしさを感じにくい」などが挙げられていたが、いずれの回答においても顕著な劣化は指摘されていなかった。
さて、今回の結果をふりかえって、ほぼ予想通りだったことと、やや意外だったことをいくつかまとめてみよう。
■ほぼ予想通りだったこと
・一般に、「ブルゴーニュは熱などの環境変化に弱い」といわれているが、今回の検証結
果においても、常温保存のボトルは、テイスターが満場一致で、「セラー保存とは違いがある」と指摘した。
・ ボルドーについても、ブルゴーニュほど顕著ではないにせよ、「ある」と「わずかにある」をあわせれば、全員が違いを認めていた。
・ 冷蔵庫保管については、通常室、野菜室とも、概ね問題のないレベルに収まった。とくに、ブルゴーニュに関しては全員が「ない」と「気にするレベルでない」との回答だった。
■ やや意外だったこと
・冷蔵庫保管の環境では、ブルゴーニュでなくボルドーの方に、「違いがある」という回答が多かった。
・ 常温保存のボトルは、往々にして「熱によって熟成感が出て、逆に美味しく感じられることがある」といわれるが、今回の検証で常温保存ボトルの方を、セラー保存のものより美味しいと答えたテイスターはひとりもいなかった。
■暫定的な結論
これらの結果をどう読み取ればよいだろうか?まず「常温保存」については、温度が35~37度と極端だったこともあり、われわれの予想以上の変化が見られた。ブルゴーニュ、ボルドーとも、果実味が抜けてしまっており、バランスを欠いていたが、劣化の程度はブルゴーニュの方が酷かった。このことは7名が全員一致でセラー保管との違いを指摘していたことからも明らかであり、エアコンのない環境下でひと夏越させるというのは、ワインにとっては相当にシビアなシチュエーションであることを改めて思い知らされる結果となった。
それにしても、直射日光の入らない部屋で35度~37度というのは、ある意味ショッキングな数字だが、夏場に旅行や帰省である程度の期間、家を留守にすることはどこの家庭でもありうるケースだし、一人暮しや夫婦共働きの家庭で、外出時にエアコンを切ってゆけば、ワインたちは日常的にこのような環境下にさらされることになるということでもある。また、たとえば我が家のセラーのうちの1台はエアコンのない部屋に置かれている。考えたくない事態だけれども、セラーが故障したまま、運悪く気づかなければ、このような環境に容易になりうるということでもある。
次に「夏場は冷蔵庫、それ以降はリビングでの保管」のボトルであるが、前述のように、「違いはない」「わずかしかない」という回答が大勢を占めた一方で、ボルドーについて、「違いがある」と指摘する傾向が多かったのはやや意外というか不思議な結果だ。
実験結果をすなおに読み解けば、「ボルドーはブルゴーニュよりも冷蔵庫内の環境(低温?振動?)に弱いのでは?」なんていう疑問すら沸いてくる。しかし、この仮説はいささか大胆すぎるように思われる。というのも、回答欄のコメントやテイスティング後のディスカッションによれば、ボルドーについて「違いがある」と書いたテイスターたちも、常温保存のボトルのような大きな違いではなく、ボトル差と言われれば納得してしまうぐらいの違いだという認識だったし、そもそも今回のテイスティングは、基本ワインとそれぞれの条件のボトルとの違いを探るという、ネガティブな回答の出やすい、ともすると「粗探し」になりかねない検証方法だったため、二巡目になってテイスティング方法に慣れたテイスターが、ブルゴーニュの時よりさらにシビアな目で(舌で)判断を下したという可能性も否定できないからだ。
個人的な印象で恐縮だが、たとえば私自身、もしセラー保存の「基本ワイン」を他の3種のグラスとごちゃまぜにしてブラインド・テイスティングで出題されたら、冷蔵庫保管とセラー保管のグラスを正しく指摘できたかは疑わしい。個人的には、冷蔵庫保管ボトルとセラー保管ボトルとの差は、あったとしてもその程度のものだったように感じられた。
もちろん、だからといって、セラーなしでも、冷蔵庫に保管しておけば問題ないと結論づけることできない。程度の差こそあれ、7名中4~5名のテイスターがセラー保管との違いを指摘しているのは無視できない事実だし、私の拙いテイスティングをもってしても、冷蔵庫に保管したボトルは、セラー保管に比べて、テクスチャーのなめらか感や立体感が、微妙にスポイルされたものがあったように思われた。
といっても、あくまでこれはINAOのテイスティンググラスを並べて、しんねりむっつりと比較テイスティングした場合の話である。
日常用途において、セラーのない環境で大事なワインをひと夏越させる、という命題に対しては、夏場冷蔵庫に緊急避難させておくのが(ベストかどうかは別として)有効な手段だというのは疑いないところだし、少なくとも、夏場にエアコンないような部屋に置いておくよりは、冷蔵庫に入れておいたほうがよいというのは確かなようだ。
■次回検証に向けて。
正直に書くと、今回の結果を見て、私自身、少しほっとしている。
というのも、ひと夏経過時点の検証結果で、セラー保管と冷蔵庫保管のボトルの間にあまりに顕著な差が現われるようだと、この先の検証作業のテーマを大幅に軌道修正しなければならないからだ。もちろん冷蔵庫に保管したボトル、特にボルドーについては、「違いがある」という回答が複数あったこと、そして気にならないような軽微なレベルとはいっても、多くのテイスターが冷蔵庫保管とセラー保管の違いを指摘していたことを思えば、今回の実験方法が手放しで「問題ない」と結論づけることはできない。
加えて、冷蔵庫による影響については今後も継続的にウオッチングしてゆかねばならない要素が残されている。
たとえば、「臭いが移る」とか「コルクの乾燥」といった問題。今回テイスティングした冷蔵庫保管のボトルについては、そういった現象は見られなかった(実際、コルクを見比べても明確な違いは見られなかった)。しかし、仮にふた夏、あるいは一年中冷蔵庫で保管した場合も大丈夫だといえるだろうか?
また、「通常室」と「野菜室」との違いの検証も消化不良のままだ。今回の集計結果では両者の違いは見られず、テイスターの方々も特に指摘はしていなかった。しかし、私の印象では、冷蔵庫の「通常室」と「野菜室」では、どうも野菜室の方が良好な気がしたのだ。本当にそうなのか、あるいは、私だけが実験の概要をあらかじめ知っていたことによる思い過ごしなのか、次回以降の検証で見極めたいところだ。
さらに、そもそも本当に冷蔵庫に入れなければならないのか、という根本的な疑問が残されている。今回検証した、常温保存のボトルの痛み様はあまりに過酷な環境におかれていたゆえの変化であって、ひと夏程度であれば、冷蔵庫に入れずともエアコンの効いた部屋の中に一年中置いておけば十分ではないか、というのも至極まっとうな疑問であるし、仮に冷蔵庫に保管した場合と、エアコンの効いた部屋に置いた場合とで顕著な違いが現れないのであれば、わざわざ家庭不和を招いてまで冷蔵庫を使用する必要もない。
ご安心めされ。このような疑問に答えるべく、実験は継続中である。次回(もしくは次々回)はこのようなテーマについて、徹底的に検証してゆこうと思うので、請うご期待、である。
■ 最後に。
話が矛盾するようであるが、今回テストした常温保存のボトルたちは、かようにダメージを受けてバランスを崩していたとはいえ、異臭を放っていたり、醤油のような味わいになっていたりというような、極端なレベルではなかった。そうすると、ショップで購入するワインたちの中でしばしば出くわす、こうした激しく劣化したボトルたちというのは、一体どのような流通経路でどのような扱いを受けてきたものなのだろう、と改めて疑問に思う。
そう、これだけ、ああだ、こうだと検証したり、保存に気をつかっても、そもそも購入した時点でダメージを受けているワインのどんなに多いことかは、本誌のテイスティングでボツになったボトルの多さが実証している。長年保存するような大切なボトルはやはり信頼できるショップから買うというのが大前提だということを。
*****************
今、あらためて読んでみて思うことを少し補足しますと、まず決定的な違いは、当時と今とではワインセラーの入手環境が全く異なっているということです。当時は、フォルスターの冷蔵庫とセラーの中間のようなモデルを除けば、一番安いセラーでも10万〜20万程度は覚悟しなければなりませんでした。収容本数や耐久性はともかく、1万円程度で購入できていしまうペルチェ式のセラーが普及した現在、少なくとも専門誌を買うようなワイン愛好家に対して、野菜室であろうがなかろうが、積極的に「冷蔵庫で」保管することを推奨するという結論にはならないだろうと思います。とはいえ、1~2万円のセラーであっても買う気のない「愛好家やマニアでない一般の人たち」が、例えばいただきものの高価なワインをどう保存しておくか、というシチュエーションにおいては、今でも検証結果はそれなりの意味を持つのかなとも思います。
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私のワイン履歴その2(RWGコラム拾遺集) 2021年07月17日
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