ブログが大流行のようである。誰もが簡単に情報発信をすることができる、ブログといういわば簡易版ホームページの登場は、それまでなんとなく敷居の高かったホームページを開設することへのハードルを一気に引き下げた。いまやネットを見渡せば、ワイン関連のブログは星の数ほどあって、まさにブログ全盛という様相を呈している。
ということで、今回は、自分のホームページ運営の歴史?とともに、ワインサイトを運営することについての悲喜こもごもやブログについて書き連ねてみたい。(なお、当コラムでは、自分のサイトを7年続けてきたとそこかしこで書いているが、それがことさらエライことだと思っているわけではありません。そういった部分を煙たく感じる方がいるようなら、先に申し訳ありませんと謝っておきます。)
■ネットとのなれそめ、
もともと私がワインサイトを作りたいと思ったのは、「ワインエキスパート」資格を受験するにあたって、関連情報をネットで検索しはじめたことから始まる。資格を取得したのは99年だから、おおむね98年ごろの話である。当時はまだADSLや光ケーブルもなく、せいぜいISDNが最速、多くの人は、電話回線でピーヒャラヒャラと接続する「ダイアルアップ方式」でインターネットに接続していた。ワイン関連の情報を検索しても、日本語の情報は非常に乏しく、手作り感の濃いいくつかの個人サイトが存在している程度だった。
この時代、私はもっぱらパソコン通信(「NiftyServe」)で酒フォーラム(FSAKE)に出入りしていた。といっても、自ら情報を発信したり発言するようなこともなく、もっぱらROM専(自ら発言せずに記事を読むだけの人)だったが、それでもワインショップだの各銘柄の素性や評判だのに関する生の情報が乏しかったこの時代、「FSAKE」で得られる情報は私にとって非常に新鮮であったし、その過去ログ(過去の発言集ファイル)は、私のPCがクラッシュして中身が消失してしまうまで、ずいぶんと長いこと、全ファイルを保管して、繰り返し読んでいた。
一方、黎明期のワインサイトの中で、当時から光っていたのが、今も現役で活動されているワインサイトの大御所中の大御所、「安ワイン道場」だった。私もあのサイトのように、飲んだワインについての感想をビシバシと歯切れよく記したいという思いと、もうひとつ、「ワインエキスパート」受験時にあまりにソムリエ認定試験に関する情報が乏しかったことから、そうした情報を掲載したサイトを作りたいと切に願うようになった。
■ ホームページを開設した頃の状況こうして正月休みを返上して、自分のHPを作成したのが2000年の1月のこと。(正式オープンは2月)ラッキーだったのは、たまたま当時、仕事でホームページ作りに関わったことがあり、ごくベーシックなHTML(ホームページ記述用の言語)なら扱えたこと、それまで電子手帳に書き溜めてあったワインの感想を転用することができたことだ。過去のデータを転用できたおかげで、開設当初としてはかなりボリュームのあるサイトとなった上、開設後1年ぐらいはほとんど毎日のように更新していたので、そこそこアクセスを獲得することができた。時期を前後して新しく立ち上がったワインサイトがいくつかあり、いつしかそうしたサイトのオーナーの方と横のつながりができて、オフ会などで会ったりするうちに、交友関係の輪が広がっていった。
当時の更新の仕方はといえば、とにかく頻繁に更新することを第一義としていたので、毎日のように違うワインを飲み、律儀にメモをとって、飲んだワインの感想をすぐに掲載するという繰り返しだった。ワイン会で十本以上飲んだときも、翌日には必ずアップするようにしていたので、ワイン会の参加者からは半分感謝されつつ、半分は奇異の目で見られていたと思う。また、時としてHPを更新しなきゃいけないという脅迫観念に駆られて、夜中に突然ワインを開けたりとか、前日飲んでまだ半分以上残っているボトルの中身を惜しげもなく捨てて、新しいボトルを抜栓したりとか、今にして思えば、ワインを楽しむためにHPを更新しているのか、HPを更新するためにワインを飲んでいるのかわからないような時期もあった。
■当時の典型的なワインサイト
この時期のワインサイトの多くは今はすでに活動を止めてしまっているが、大抵、自分が飲んだワインについての感想のコーナーがあって、レストランやショップへの訪問記とか旅行記とかノウハウ集とかといった読み物のコーナーがあって、あとは「掲示板」があるというスタイルが多かったように思う。こうしたホームページへの来訪者が、掲示板上に挨拶や感想を書き込んだところから、サイトのオーナーとの交流が始まる。だんだん書き込みが増えてくると、今度は来訪者同士の交流が始まって、やがて常連のメンバーが出来始め、いつしか彼らを中心にした交流の輪が出来上がる。
この当時の主だったワインサイトにはたいていこうした常連のグループを軸とした緩いつながりのコミュニティができていて、それらのメンバーはワインサイトによってかなりダブっていたり、あるいは全く異なるメンバーだったりして、それがまた面白かった。「Bad Vintage Club」や「CWFC(カリフォルニアワインのファンクラブ)」のような大規模なコミュニティサイトが活動を始めたのも概ねこの頃だったように思う。
もうひとつ、この時期の特徴として挙げられるのは、ワインサイトに集う人たちにかなり偏りがあった(と思われる)ことだ。ワインサイトを持つことに対するハードルが今よりも高かったとか、そもそもネット自体が今ほど生活に密着していなかったとか、そういうことに因るのだろう。当時私がお会いしたワインサイト関係者は、圧倒的に理数系かIT系の方が多かった。すなわち、当時は『ネット上でアクティブに活動している愛好家=世の中の愛好家の縮図』では到底なかった。小学校のころ習った「ベン図」でいえば、ワイン愛好家の層と、インターネットを活用している層とがまだあまり重なりあっていなかった時代だったといえる。(そういえば、ホームページにアクセスしてくる時間も、夜間や週末よりも平日の勤務中と思われる時間の方が圧倒的に多かった。)
■サイト運営者が直面する悩み
しかし、HPを開設してしばらく経つと、ワインサイトのオーナーの多くは二つの大きな問題に直面することになる。
ひとつは、モチベーションをキープしつづけることの困難さ。もうひとつは掲示板などのコミュニティの管理の煩雑さである。
モチベーションをキープすることの難しさには、二つの側面がある。ひとつはワインサイトを続けていても、労苦のわりになんら実利を得られないという不毛感。大体2~3年もすると、サイトオープン時のモチベーションは消え失せ、最初のうちは励みになっていた自サイトへのアクセス数もいつしかどうでもよくなって、サイトを続けることになんのメリットがあるのかというドライな気持ちになる。
もうひとつは、矛盾するようであるが、目的を達してしまうことによる喪失感である。ワインサイトのオーナーに、『ホームページを持ってよかったことは?』と問えば、おそらく10人が10人、『ネットを通じて新たに知り合いが出来、コミュニケーションの輪が広がったこと』と答えるだろう。そう、それはそのとおりなのだが、ある時期を過ぎると、新たに仲間を作りだすことよりも、すでに知り合いになった仲間とのコミュニケーションが主体になってくる。ワイン仲間を増やす、という目的がすでに達せられてしまった以上、興味の対象は、ネット上の活動よりも現実世界のつきあいへとシフトしがちになる。
加えて、人間いつもいつも適度な余暇と余裕があるとは限らない。仕事が殺人的に忙しい時期もあるだろうし、プライベートで人生の節目となるような時期もあるだろう。2年3年と続けるうちに、このようなライフステージの大きなうねりに飲み込まれて、継続を断念せざるをえなかったサイトも数多くあったように思う。
それに追い討ちをかけたのが、「掲示板」の問題である。掲示板というのは、サイトのオーナーにとってはまさに諸刃の刃で、読者や来訪者との交流ができるという大きなメリットがある反面、発言の管理という責任がつきまとう。
うまく回っているうちはいいが、ひとたび議論がヒートアップすると、半ば罵り合いになって収拾がつかなくなったり、サイトオーナー自身を誹謗中傷するような悪意の書き込みが増えたり、あるいはフィッシング系サイトへのリンクとか怪しげなサイトの宣伝とかが連続投稿されたりと、大いに管理者を疲弊させる。
実のところ、第三者から見れば大したことのないような誹謗中傷の書き込みも、当事者であるオーナーにとっては、結構コタえるものである。では、書き込みが少なければいいのかというと、それはそれで、ホームページ全体に閑古鳥が鳴いているかのようで情けない。
私の場合、サイト開設2~3年後を境に、子供が生まれたり、職場が異動になったりと、身の回りが多忙になり、お決まりのようにサイト継続の意欲が大幅に落ちた。日々の更新だけはすっかり習慣化していたおかげで、なんとか続けてきたが、掲示板に関しては、こらえきれなくなって、ある時期を境に、やめてしまった。それと時期を前後して、掲示板を閉鎖したホームページのオーナーの方が何人かいらっしゃったようだが、たぶん彼らも同じような悩みをお持ちだったのだと思う。
そもそもワインサイトを続けていくことの難しさに、対象がワインという『酒』だということがある。ワインを飲んでいるときは当然酔っ払っているわけで、そんな状態で飲んだワインの味わいをメモしたり、あるいは文章にして残せるほどきっちり覚えておくのって結構パワーがいることなのだ。
今でもネット上を彷徨っていると、「最終更新日:1999年○月○日」なんていうような、タイムマシンにでも放り込まれたかのような過去のサイトの残骸に多く出くわすが、それらもきっとこうしたプロセスを経てのことなんだと思うと、そのサイトの主を責めるよりは、ひとことご苦労様と言いたくもなる。
■ブログとSNSの台頭
こうして、新しいサイトがポツポツと出来ては消えるという状況がしばらく続いていたが、それがこの1~2年の間で大きく様変わりした。表題のとおり、ブログの圧倒的な普及である。
ブログとは、冒頭でも書いたが、ひとことでいえば簡易ホームページのこと。あらかじめレイアウトのフォーマット集が用意されているので、ユーザーは簡単に自分のサイトを持つことができて、掲示板に書き込むような感覚で気軽に情報を更新することができる。自分なりにいろいろカスタマイズすることもできるし、そこそこの検索性も備えているので、そサイト構築や管理の煩雑さや、更新のたびにFTPを利用しなければならない面倒くささとも無縁である。もちろん、より本格的なポータルサイトのようなものを作ろうと思えば、ホームページ作成ソフトを用いて一からサイトを構築する方が自由度も高く、応用が利くが、少なくとも飲んだワインの感想を整理したり、ちょっとした日記やコラムをつづるぐらいならブログで十分だし、カテゴリー分けを工夫すれば、データベース的なサイトにもなりえる。実際、私のサイト「S'sWine」でやっていることはすべてブログ上でできてしまう。さらに、ブログの場合、新しい記事が書き込まれれば、読者にもすぐわかるような設定にできる(RSSリーダー)し、携帯電話から閲覧してもきちんとそれ用にレイウアウトされて表示される。こうした点は既存の多くのホームページにもない機能である。
とまあ、このようなわけだから、ブログが隆盛しなわけがない。とくにワインの場合、前述のように、ネット上で活動する層とワイン愛好家のマスの層に大きなズレがあったが、それが、ブログの普及によってかなり重なってきたのではないかと思う。今やワイン関連のブログはそれこそ星の数ほどあるし、その中にはスケールの面でも経験や知識の面でも、私など及びもつかないような方々も多くいる。今思えば、こうした方々は、私がそれまでホームページ上でエラソーなことを書いてるのを読んで、「この程度で何を偉そうに‥」と鼻で笑っていたんだろうなあと想像すると、こちらも赤面したくなる思いである。
もうひとつ、大きなトピックは「mixi」(ミクシィ)に代表されるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の台頭だろう。
SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)をひとことで説明するのは難しいが、人と人のつながりを重視する、会員制の総合コミュニティサービスのようなもの。
例えば日本におけるSNSの代表的なサービスである「mixi」の会員になるには、既会員による紹介が必要だ。会員になれば、ミクシィ上で日記を書くこともできるし、さまざまな「コミュニティ」に参加することができる。あくまで紹介により入会してきた会員だけの閉じた世界であるから、無秩序なインターネットの大海の中にいるのに比べれば、いろいろな意味でリスクが減少する。
たとえば、ワイン仲間を集いたい場合、あるいは、ワイン会を通じて知り合いになった仲間同士が連絡を取り合う場合など、あえて第三者に筒抜けになる一般の掲示板を利用する必然性はないわけで、これらはSNSの中でコミュニティを作って活動することにすればすべて解決してしまう。
そういう意味で、ワインサークルなどの活動とSNSは極めて親和性が高いと思う。
現時点ではあまねく普及しているとはいいずらいし、まだまだ発展途上という感もあるが、いずれワイン関連の多くのコミュニティがmixiを初めとするSNSを活動の拠点に据えることになりそうな気がする。
■若干気になる点も‥
このように、今、ワインにおけるネットのトレンドは、個人の手作りサイトから、ブログやSNSへと大きくシフトしているように思う。
ただ、気になる点もある。
ブログはたしかに便利だが、運営母体がそれぞれ囲い込みに走っているようで、たとえば某大手ショッピングモールが運営するブログは、同じ運営者のブログ同士なら、コメントを書き込めば自動的にリンクが張られる仕組みになっているが、それ以外の来訪者に対しては、URLの記入欄すらない。こういうのは、インターネットの精神に鑑みた場合、如何なものかと思う。また、アフィリエートの仕組みなどもずいぶん露骨だよなあと思ったりもする。まあ、これほどの仕組みを無料で提供しているわけだから、それなりのメリットを目指すのは企業としては至極当然なことではあるけれども‥。
さらに老婆心かもしれないが、ブログは始めるのが簡単な分、継続についてはあまり深く考えずに始める人も多いのではないか。たしかにブログは一般のホームページに比べればずっと更新の作業が楽だけれども、モチベーションの維持という本質的な問題に関しては新しい側面はほとんどない。数年後にネットを検索すると、1年以上も更新されていないワインブログの廃墟ばかりがヒットする、という寒い事態が今から想像できてしまう。
また、個人の日記の延長のような感覚でブログを始める人もいるとは思うが、一般に公開する以上は、例えば著作権や肖像権、商標権などに関して免罪されるものではない。たとえば、テレビのOA画面をキャプチャーした画像などを使用することは明確に違法であるし、気軽に撮ったワイン会の写真をアップしたりすると、場合によってはトラブルのもとになりかねない。そうした部分の最低限のマナーや知識は知っておいたほうがいいだろう。
■最後に正直、私は最近のブログの隆盛を、ある種の嫉妬心を以って眺めている。今まで7年間、苦労してきたHPの更新が、ずっと簡単にできてしまうというのもあるし、ネット上のワインに関する情報が激増して、自分のサイトの相対的な埋没感は免れないということもある。
とはいえ、私は自ら情報発信をしているのと同じくらい、いやそれ以上に熱心な読者でもある。読者の立場でみれば、日々巡回するサイトの数が圧倒的に増えたのは嬉しい限りだし、これほど毎日多くのビビッドなワインの情報に囲まれて生活する日がくるとは、自分がHPを始めた当初には想像できなかった。
ということで、最後にこれからブログを立ち上げようと考えている人にひとつアドバイス。ワインブログといっても、プライバシーを詮索されない程度に、日常のこともさりげなく記しておくとあとあと役に立つ。私のサイトにはそれほど日常のことは書き残していないが、それでもたとえば、5年前になにがあったか、ワインの記録をみれば、ああ、これは実家に子供をつれて泊まったときに飲んだワインだなとか、仕事が一段落して記念に飲んだワインだとか、いろいろな附帯状況が鮮明に思い出されるし、会食時に飲んだワインの銘柄を覚えておけば、それが一体いつのことか、日にちをたどることもできる。たとえば、徳丸編集長と初めて飲んだときのワインはエマニュエル・ルジェのヴォーヌロマネで、それは2001年6月13日だとか。これだけでも、ホームページを続けてきた甲斐があろうというものだ。
【過去記事】川島なお美さんの訃報に接し… 2022年04月13日
私のワイン履歴その2(RWGコラム拾遺集) 2021年07月17日
私のワイン履歴その1(RWGコラム拾遺集) 2021年07月16日
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