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誠実な二人の約束だった。病巣が確実に彼女の抵抗と医者の反撃を制圧していった。もはや、終結の方向は見えていた。彼は誠実に約束を守り、彼女に正直に病状を説明した。彼女はいつもそれを冷静に聞いていた。人生の本当の最後になって、彼女は子供に戻った。「わたしはこわい。」と泣いた。彼女を救うためには、「じきに良くなる、大丈夫だよ。」と彼は言わなければいけなかった。しかし、事実に誠実な彼の一瞬の躊躇が、彼女を支えてきた緊張を切った。彼女はやがて静かになった。(1995.12.29)Tessera project Note:彼女、川村智子(1942-1995)関西地方の大学の文学部を卒業し、出版社に勤務しながら、作家を志した。彼女は、中学生頃から人生の大部分の期間に渡り日記をつけてきたが、入院してからの6ヶ月間の闘病期間に日記を書いた形跡はない。
Dec 31, 2004
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宇宙人が何人も家に出入りしていて、音ひとつたてることもなく、平和に暮らしている。(1974.12.29)
Dec 30, 2004
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根拠がないのに、強い確信を持てるときがある。ひさびさに出会ったキャシーが、サーシャはまだきっと元気でいると言った時だ。サーシャがこのオフィスをやめる前、二人はとても仲が悪かった。キャシーが透明になるわけはなかったが、その時のキャシーの声は透明に近く、オフィスの中だというのに、カルフォルニアの青い空にすっと抜けていった。だから、私は確信した、サーシャは既にいないと。フランケンシュタインのような縫い目がある背中を、やさしいアメリカ人の夫にさすられながら、サーシャは痛い痛いと喚いていたが、それでもその間際には、一瞬の内に痛みから開放されたのにちがいない。(1994.12.18)
Dec 29, 2004
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かまきりが花びらの上をゆっくりと歩いている時にかまきりの鎌が花びらに突き刺さってしまった。その鎌がどうしても抜けない。かまきりは花びらをそれ以上傷つけるのが可哀想で動かなくなった。花は、かまきりがきっと病気で体を休めているのだろうと風が吹いてきても揺れないようにふんばった。悲しいかな、やさしいかまきりは何も食べなかったので息絶えてしまったし、やさしい花はかまきりの重さで、やがて茎のところから折れてしまった。(1975.12.30)Tessera Project Note:やさしさの重さ。
Dec 28, 2004
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自転車が朝からずっと放置されている。それも公園の入り口をふさぐようにだ。さすがに、それに気を留めた人がいたのだろう。深夜見てみると、自転車は入り口の脇に移動されている。しかし、どうして公園の冷たい芝生の上に倒れている男の人は放置されたままなのだろう。朝、私が通ったときから、彼はそこに倒れていたというのに。(1987.12.11)Tessera Project Note:狂気のような日常、もしくは、凶器のような日常。
Dec 27, 2004
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養鶏場から、男が疲れて帰ってくると、日中、食べ続けさせられた餌をどろどろと吐き出しながら、「今日も、まだ、首がつながっている。」と妻に語りかける。一体、いつになったら、静かな肉の塊になるのだろう。二人が横たわる闇の中で、老いた彼女は、きらりと眼を輝かせて、つぶやく。(1979.12.25)
Dec 26, 2004
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砂漠を泳ぐ魚もちろん、乾ききってさらさらした砂の中に魚がいるわけがない。何メートルも掘ると、少し湿った砂が出てくる地域ならば、その魚がいる可能性がある。砂の中でじっとしていることが多いが、ゆっくりと砂の中を移動することもある。見たことがないって?それはそうだ。砂の中だから見えないし、やはり、魚には住みにくい環境だから、この魚の住んでいる地域は世界でも非常に限られているし、その個体数も少ない。砂漠を泳ぐ魚は、1990年代の初頭にアフリカの砂漠で、現地の国立砂漠研究センターで初めてその存在が確認された。砂の中を移動するために胸びれを使用するので、胸びれの付け根の筋肉が異様に発達している。呼吸方法としては、えら呼吸と砂の中での呼吸を可能にしている原始的な肺呼吸の両方を行うことが知られている。食料は砂の中の昆虫を主に食しているようであるが、この魚の詳細な行動形態は今後の研究を待つしかない。(脅威の自然 1973)(1983.12.19)
Dec 25, 2004
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蝶の胴体の触れたくない柔らかさと甲虫の内臓の鈍い乾燥感と日常の調味料でようやく夢ができている。(1994.12.19)
Dec 21, 2004
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美しく輝いて、輝いて、僕はとてもまぶしくなって、動けなくなって、彼女を見失った。(1979.12.20)
Dec 20, 2004
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おそらく世の中全体からすればどうでも良いような小学生のある野球大会で、54対4という大差がついて、負けたチームがある。 悔しさがこみ上げてきて涙を流せば絵になるのだが、負けたチームの子供達は今日の試合の結果より晩御飯の方が気になるし、そのチームの監督は明日の会社の仕事にすっかり気がとられている。 でも、勝ったチームの監督が相手チームに対して礼儀正しく頭を下げ、それに対して、不意をつかれたようにあわてて頭を下げたとき、大差で負けた監督は恐ろしいほどの屈辱を感じたのだ。(1988.12.16)
Dec 19, 2004
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夜間の英語のクラスで、英会話の練習として先生が一人の女性に尋ねた。彼女はベトナム出身だった。「あなたの誕生日はいつですか?」「私の夫の誕生日は7月10日です。」と彼女が答えたとき、彼女以外のクラスの生徒は皆が、彼女は英語の質問を正確に理解していないと思った。今にして思えば、彼女は自分の本当の名前だって知らなかったのに違いない。誕生日を尋ねることは、あなたは本当は誰ですかと聞くのと同じぐらいに残酷だった。彼女は、自分の名前を作り、夫を作り、子供を作り、そうすることによって、自分の存在を社会に示したつもりだった。しかし、この彼女を支えるためにはやはり真実が必要だった。彼女の期待と夢が、彼女の過去と現在を描いたけれども、彼女の未来を築くことはできなかった。彼女は1995年のある日、自由の国、米国で、確かにそれまで生きてきたことを証明し、公式記録に残った。(1995.12.26)Tessera Project Note:30年以上に渡ったベトナム戦争のために、自分の本当の名前や誕生日を知らないベトナムの人々が数多くいます。ベトナムの女性(?~1995)1995年12月22日の早朝、一人の女性がひき逃げされ、カリフォルニア州立大学病院に緊急搬送されたが、出血多量でまもなく死亡した。身元の確認は、彼女の通学していた夜間学校の身分証明書によってなされた。身寄りの人は誰もいなかったと言う。
Dec 18, 2004
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何故、海の水は塩からくなってしまったのだろう。沢山の塩を製造する工場が海のそばにあったのだろうか。それとも、沢山の人々が、涙を流したのだろうか。(1976.12.13)
Dec 17, 2004
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蟻は蟻であることに満足しているのだろうか。あの長い列は、奴隷の列なのだろうか。それとも、遠足の子供達なのだろうか。(1988.11.27)
Dec 16, 2004
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特殊危険物取扱者・昨年制定された民間資格であり、この資格を得るためには、2年間に一度の資格試験に合格する必要がある。・受験資格は、工学部もしくは理学部の修士号を持ち、国家公務員としての経験が5年以上必要である。・合格率は一次筆記試験が30%、2次筆記試験が2%程度であるが、筆記試験の他に面接試験と視力、聴力テストがある。・これに合格すると、日本国内で、例えば、核兵器、大陸間弾道弾、戦略爆撃機等の特殊危険物のレンタル、リース業を営むことができる。・現在、この資格の需要はあまりないが、将来性は高い。(1989.12.11)Tessera Project Note:注意 消防法に基づく甲種危険物取扱者と混同しないこと。
Dec 14, 2004
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”先端”に対する恐怖である。先に行く程、細くとがってくる。針の先のような研ぎ澄まされたその感覚に、私は耐えられない。今、私は時間の最先端にいる。凶器のように未来に切り込んでいくその感覚に、私は耐えられない。(1986.12.14)
Dec 13, 2004
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劇場だというのに、私が眼をつむってしまうと見ていないと思って彼らは演じるのをやめてしまう。陰、日向のある舞台。(1983.12.14)
Dec 12, 2004
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不注意で墜落してしまったお釈迦様を助けるために、極楽の蓮の池にいる蜘蛛という蜘蛛が、何十匹、何百匹と、地獄の血の池めがけて糸を垂らしていく。血の池でばたばたともがいていたお釈迦様だが、その血まみれの手に何本も蜘蛛の糸がからみつけば、のんびり育てられたお釈迦様でもさすがに気づく。よっこいしょ、よっこいしょと蜘蛛の糸を上り始めるのだが、日頃、力仕事などしたことのないお釈迦様は少し上るだけで疲れてしまう。2,30メートルも上るともう疲れ果て、必死の思いでぶら下がっていたが、それもむなしくぼっちゃーんと再び血の池に落ちていく。周囲の罪人がこれに気づかぬはずはない。蜘蛛の糸を見つけるとこれ幸いに上っていく。中にはお釈迦様を踏み台にして上っていく者までいる。何人もが同じ糸にぶら下っていると、かつてのカンダタのように「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は己のものだぞ。お前たちは一体誰に尋いて、のぼって来た。下りろ。下りろ。」と叫んで、ぷつんと糸を切られるものも沢山いる。しかし、芥川龍之介の小説を読んでいてそのトリックを見破るものも当然いる。それどころか、罪人同士で助け合いながら、友情や信頼感をはぐくみながら、確実によじ上っていく罪人達もいる。肝心なお釈迦様はと言えば、未だ血の池でもがいている。(1979.12.26)
Dec 11, 2004
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殺人事件が起きないというのに名探偵がいる。大金がすりとられるわけでも高価な宝石が盗まれるわけでもないのに名探偵がいる。そういうわけでひまで退屈な名探偵は次の完全犯罪を考えている。(1988.12.23)
Dec 10, 2004
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現実の中で感情がぴくんと起伏したときを切りとって紙に貼り付ければよいのだが、切りとられてできた傷口がどうにも痛くて。(1986.11.30)
Dec 9, 2004
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神様は何でも知っている。神様は何でもお見通しだ。神様は何でもできる。とにかく、神様はすごくえらい。そういうわけで、神様がまちがえることは、たまにしかない。(1972.11.29)
Dec 8, 2004
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このまま死ねるかと渾身の力をこめて我が身に呪いをかけた。しかし、この時点で敵に刃向かうすべもなく、憎き敵の面前で命を失ってしまう。100年後。私は自分のかけた呪いの力で蘇える、とても可愛い猫として。そして、何もかも忘れて、存在の理由すらも忘れて、のんびりと過ごすのだ。(1973.12.17)
Dec 7, 2004
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スナイパーは戦場を離れたけれども生き生きとしていた。都市には、獲物がいるから。お腹を出して寝ている人々がいるから。スナイパーは嬉々として、 市街の最初の標的を狙った。しかし、不幸なことに、重力を考慮した放物線がそのスナイパーを襲った。一撃だった。都市の悲劇は、スナイパーが沢山いたことだ。本当に沢山!(1986.12.02)Tessera Project Note:スナイパーとは人間を獲物とする狩人。もしくは、ゴルゴ13のように、努力して狙撃が上手になり、それを職業としている人のこと。
Dec 6, 2004
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このどくんどくんとするもの。不安を超えるもの。プランクトンは泳ぎ続けているし、植物にためらいはなく、春に花が咲く。このうずくもの。(1974.3.10 「不安の病理」石巻晴彦)Tessera Project Note:石巻晴彦(1954- )学生時代に小説家を志すが、挫折。現在は化学会社のエンジニア。2児の父親。詩集「不安の病理」はその一部が大学の学内誌で紹介された。
Dec 5, 2004
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若くはないのだ。妻が家庭に張り巡らせた、無数の透明の糸を切らないようにすることだ。(1898.12.03)
Dec 4, 2004
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女達が、夢のように、消失して一部の男達は(彼らは極めて例外的であったが)これでもう、恋について語らなくてよいと喜んだ。(1983.11.26)
Dec 1, 2004
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