2026
2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
全5件 (5件中 1-5件目)
1
雨が降っているし、もう深夜だ。駅から家までの道が馬鹿に静かで、誰一人として歩いていない。家まであと数分というところで、道を曲がるとなだらかな下り坂がある。道の真中に傘が広げて置いてある。傘が闇の中にころんと。その道にある電灯のおかげで、その傘が緑色で、黒のチェックがはいっているということがわかる。その色が、雨だというのに、乾いて見える。深夜の雨に、路上の傘が調和する。傘の脇をすり抜けるとき、私は少しどきどきした。この傘は、物体のような生命かもしれない。生命になるかもしれない、もしくは、生命になるほんの少し手前の有機物かもしれない。傘の脇をすり抜けるとき、ちらっと傘の裏側に私の視線が伸びる。それに応ずるように、私を見つめ返すものが傘に宿っている。この傘の下に子供は絶対に隠れていない。子犬は絶対に雨宿りしていない。でも、無垢で素直で、子供のような、子犬のようなものがいる。冷たい雨が静かに降りつづける。そのなだらかな坂が終わると、私は振り返って、今通ってきた道にまだ傘があることを確認した。私は左に曲がらなければ家にたどりつかない。そこを曲がって、新たな道。自分が歩いている道の真ん中あたりを見極めると、そこに私も自分の黒い傘を置いた。私は、たくさん傘がほしくなった。赤とか青とか、黄色とか、白色の傘もほしい。道という道に、ぽつんぽつんと傘を置いていきたい。深夜の雨がしとしとと降る中で。#221
Oct 30, 2011
コメント(0)
人生の終わりのようだ。 駅の近くの線路沿いに自転車屋を構えているという地の利があっても、一日数人の客がくればいいところだ。それも、自転車を買ってくれるわけではなく、パンクの修理やタイヤの空気入れというようなもので、実入りは少ない。線路沿いの道に違法駐輪されている沢山の自転車は、スーパーや量販店で売られているものばかりだ。彼らの価格に勝てない。 大量に違法駐輪している自転車のタイヤがすべて突然パンクしてくれないか。鍵が突然壊れて開かなくなってくれないか。そうすれば、これだけの近さだ、彼らの大半はわたしの店にくる。パンクの修理用材料を、自転車の鍵を大量に購入しておいた方がよいかもしれない。 もしくは、パンクさせなくてもタイヤの空気注入口の根元のねじがゆるむだけでよい。駐輪している間に空気が漏れて、わたしの店にきて「空気を入れさせてくれ。」と言って来るだろう。「自転車を当店で購入してくれたお客さんには無料でいいのですが。」と返答してやろう。空気を入れて、ねじをしめるだけなら簡単で、一回150円ぐらいでいいかもしれない。 違法駐輪とわかっていて、駐輪した自転車をきちんと並べて違法駐輪できるスペースを作っている一団の年寄りたちは、駅前のスーパーに雇われているようだが、なぜ、もくもくと来る日も来る日も意味のないことを、終わりのないことをやり続けているのだろう。 あの年寄りたちなら、自転車に触っていてもだれもあやしまない。緑色の帽子をかぶった彼らが、自転車のタイヤの空気を抜いてくれないだろうか、白い軍手をはめた手で。 こうしてやることもなく、テレビを見て、一日売れない自転車屋の店番をする日常を、あの年寄りたちは変えることができるのに、それどころか、彼ら自身の退屈な毎日を変えることをできるのに。なぜ彼らは気づかないのだろう。 今日も一日が何事もなく、いつものようにほとんど客もなく、終わるだろう。あの年寄りはなぜ行動しないのだ。好奇心を、冒険心を彼らは持ち合わせていないのか。狂気に突き動かされて、自転車を壊そうという老人はいないのか。このままでは、人生が収縮していくことに、彼らは気づかないか。破壊せよ、自転車を。#219
Oct 23, 2011
コメント(0)
夏という季節が悪かったのかもしれない。透明人間がわたしにべたべたとまとわりつくからわたしは「今すぐやめないと、ひどい目にあわせるぞ。」と威嚇したわけだ。それでも相変わらず彼はべとべとと張り付いてくるからわたしは暑苦しくて我慢できなくなった。透明人間との激しい格闘は続き、二人はもみ合って自宅のそばの橋の上から河の中に落ちて行った。透明人間は浮き上がるとくらげのようにぷかぷか浮いていたのだが、やがて川下に流れて行った。空気の重い、深夜のような昼間。わたしは確かに戦ったのである。「あの人が、突然、気が狂ったかのように体を揺すりながら橋から飛び降りました。」得意そうに警察官に説明する一人の見物者。遠くに救急車のサイレン。#218
Oct 16, 2011
コメント(0)
頭脳空間の中にぽつんと不安が生まれて次の不安が、またぽつんとその次のがまた、どう見ても、消えて行く不安よりも生まれる不安の方が多い。かと言って、私が不安で潰れてしまうかと言うとそうでもなくて、不安が生まれると、私の頭脳空間のある一室に押し込まれて行くようなのである。不安の上に不安、不安の横に不安。不安ばかりでその一室が満たされてくると不安同士が押し合って結果として、圧縮されて不安は塊になってしまう。すると、私はくしゃみがしたくなって、くしゅんとひとつすると不安の塊が私の体から飛び出して行く。ある日、その不安の塊を眺めて見るとロダンの考える人に似ているではないか。不安は成長すると、芸術になるのかもしれない。そういうわけで、私の不安はいつ芸術になるのだろうと楽しみに待っている。#217
Oct 10, 2011
コメント(0)
子供は働き続ける冷蔵庫をかわいそうに思った。購入されて、スイッチを入れられたら最後、冷蔵庫は壊れるまで働き続けなければいけない。子供は冷蔵庫を休ませてあげようと思って、スイッチを切った。そんな心優しい子供もどこで魔がさしたのか、何人もの人をあやめた犯罪者になり下がったのである。彼はいよいよ逃げ場を失い、業務用の巨大な冷蔵庫の中に隠れている。誰もこんなところに長時間潜んでいるとは思わない。どうしたことだろう。冷蔵食品がたくさん積み重ねられ、とても寒いはずなのに、彼には寒いどころか、とても心地よくなってきたのである。そして、子供の頃、冷蔵庫のスイッチを切ったことを思い出したのである。何ヶ月も経って、彼が発見されたとき凍えて息絶えた彼の顔には微笑があったと言う。#216
Oct 2, 2011
コメント(0)
全5件 (5件中 1-5件目)
1
![]()

![]()