サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.01.12
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カテゴリ: 文学
 話は変わりますが、実は寂聴さんの「宇治十帖」を通読したあと、「若菜」からあらためて読み返したのですが、あんまりおもしろいので「ホンマかいな」と思える表現やプロットがあるのです。話が現代的過ぎて、到底1000年前の物語と思えない、というわけで原文の読める本を買い求めるハメになりました。さいわいに岩波文庫から山岸徳平さんの廉価なシリーズが出ています。注釈本ではないので、私の読解力では意味不明ですが、少なくとも原文の音やリズムは多少味わうことができます。
 しかし何しろ、もともとが長大な文章であるために、例えば「古事記」や「伊勢物語」のように、読めばただちに言葉が立ちあがる、香ってくるということはまずありません。おいおいこの物語の、いわゆる決定的瞬間の原文の味わいを、ここに載せたいと思っているのですが、まだ自信がありません。

 ところでここからはまったく趣味の話ですが、寂聴さんの訳は「です・ます」調で、ほぼ逐語訳に近いそうですが、「です・ます」だと何となく、ことさらに昔物語的な語感があって、申し訳ないですが、途中で「桐壺」から「藤裏葉」までの前半部分を、「である」調の円地文子さん訳に切り替えました。どっちが好いかなどという話ではなく、まったく趣味の問題で、私はより小説的な引き締まった文体が好きです。
 ただ一つ難を挙げるとすれば、寂聴源氏は巻末にしか系図がなく登場人物が補足しにくい。円地源氏は各帖ごとに簡便な系図が付してあって、読みこなすのにはなはだ便利です。というのも紫式部、300人以上の登場人物を、説明なしで取っかえ引っかえ、いきなり登場させるので、読むがわはそのつど立ち止まらざるを得ない、ということになるからです。
 それにしても系図がたどることができるということ自体が、彼女が長編小説作家としての基本条件をみたしていることを示しているので、おそらく彼女は横に系図を置いて、執筆したり想を練ったりしたのでしょう。サイデンステッカーさんでしたか、源氏物語が最初から今の形として構想されていたのかどうかという話で、たとえば物語のはじめのほうに出てきた「夕顔」の娘の話が、20年もたった「玉鬘」以下の帖から唐突に浮上してくるというのは、最初から構想していたのならば普通常識ではありえない、とかおっしゃってましたが、まったくそのとおりで、彼女は大きな?系図表を眺めながら、次はどの人の話をしょうか、この女は今いくつになっていて、どんなことをし、どんなことを考えているのか、いろいろ想像をめぐらしながら書き進んだのでしょう。

 そもそも小説とか詩とかはもちろん、文学というジャンルさえ明確に意識されていなかった時代、「物語」というのはどういうふうに意識されていたのでしょうか。
 これは私の妄想ですが、モノ語るとは、モノ思うとか、モノ憂くとか、モノの怪と同系統のモノ、つまり我々の周辺に潜む何か得体の知れないもの、自身の身体感覚とは別個に存在するがゆえに、理解しがたい不吉なものというようなとらえ方ではなかったのか、これは例えば古代人が、心と魂を別個にとらえていたのと似たところがあると思うのです。
 古代人にとって「心」とは、我が身の手や足や目と同様、身体器官のひとつ(あるいは個体器官の根源、したがって個体が死ぬと「心」も失われる)であったのに対し、「魂」は個人の身体とは別個に存在し、ときに身体に付着し、ときに身体からふわふわと遊離するもの、要は自分たちの周囲を取り巻く自然や、悠久の過去から現在に続く時間を超えて遍在する何か、モノとしか言いようのないもので、それゆえにモノについて言葉を発し、モノについて文字に書きしるすという行為は、一種畏れ多いものとされてきたのではないか?(これは前に「歴史について」だの「女性なるもの」でしゃべりつづけて、今だに終わっていない話です)

― つづく ―





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Last updated  2009.01.14 10:05:07
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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