サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.01.27
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カテゴリ: 文学
 さて生まれて始めて「源氏物語」を、現代語訳ででも通読したということで、多少興奮気味にながながとしゃべってきましたが、ここまで書いてきて、私のしゃべっていることなど、すでに多くの人たちが何度も指摘してきたことじゃないかという気がしてきました。屋上屋をかさねる話は退屈でもあるし、私の本意とすることがらではないのですが、かといって、1000年にわたる「源氏物語」論を渉猟して新しいことを見つけ出すのは、専門の研究者でもあるまいし、もとより不可能なことです。ここはひとつ自分の前知識をできるだけ更地にして本編を読んでみたい、そのとき私に残った新鮮な印象だけは、忘れないうちにできるだけ書いておきたい、という甘味な誘惑にかられて、書いて行くしかしょうがないかなとも思っています。
 というわけで、話の重複や繰り返しは覚悟のうえで、「源氏物語」の大構造のようなものに入っていくわけですが、唯一この大長編を読み進めるにあたって、全体の道筋をたどるうえで参考にしたのが、先般亡くなった西郷信綱さんの本です。

 西郷信綱さんの研究については、別の「歴史について」の話や「女性なるもの」などもそうなのですが、私のさまざまな考えかたの立脚点を成す人で、とくに「古事記」を中心とする古代文学あるいは神話の話は、学生時代からずいぶん読み耽っていたものでした。その話はまた別の機会ということになりますが、「源氏物語」については
「日本古代文学史」 岩波現代文庫, 1951
「詩の発生 文学における原始・古代の意味」 未來社, 1960、
「古代人と夢」 平凡社ライブラリー, 1972、
の「源氏」と「紫式部」に関連する稿を、今回あらためて読み返してみて、おおいに手を打つところがあったのです。以下の話はもちろん私の妄想ですが、唯一のネタはこのへんだと思っていただいて結構です。

 ということで、まず「藤壺」のことなのですが、彼女の位置づけがはたして世評いわゆる、光源氏の母親思慕(マザコン)として理解されてよいのかどうか。むろんその気配が、一つのきっかけとして働いたことは否めないにしても、それが主人公の女性遍歴全体を支配する動因とするのは、ちょっと乱暴な気がする。というより母親思慕だけの主人公であってみれば、彼は稀代のヒーロー足るにふさわしいキャラクターを持ち得なかったのではないか。
 先にも少し触れましたが、古来、英雄の条件とは「世間一般の禁止を、軽々と飛び越える」という、破壊行動の軽快さにあるので、この場合「藤壺」は他人の后だから禁止されているのではなくて、まさしく帝の第一夫人だからハードルが高いのです。この場合、母親似であることはきっかけではあっても、光源氏を英雄たらしめているのは、この 世間第一の禁止を破る という行為によって保証されているのです。
 先に「古事記」のスサノオノミコトの掟破りの話を引きましたが、神話の世界では掟(禁止)はまるで破られるために存在するかのようで、イザナギノミコトは焼け死んだイザナミノミコトの「な見給いそ(見てはいけません!)」の禁止を破って、彼女の死体を見た(暴いた)ために、冥界から命からがら逃げ帰る。死者の国の穢れをすすいだときに、左眼から天照大神、右眼から月読命が生まれる、というふうに国生みにつながっていく。あるいはまた、有名な山幸彦(ホオリノミコト)と、海神の娘、豊玉毘売神(トヨタマヒメ)の話、「産屋を覗くな」という禁止を犯して山幸彦が覗いたところが、姫が八尋和邇(ヤヒロワニ)の姿となって子を産もうとしている見て、びっくりして逃げてしまう。見られた姫は恥に思って、産んだ子(ウガヤフキアエズ)を置いて海に帰ってしまう。このウガヤフキアエズ尊(ミコト)の子供がカムヤマトイワレヒコ(神武天皇)、すなわち初代天皇とされるのです。
 このあたり、掟破りが、英雄の誕生=国の創造という 共通の構造 を、持っていることが見て取れるので、神話というのは一つのテーマを同義反復式に、繰り返し語るという特色を持っています。

 では、英雄神話的な時代ははるか昔に去り、古代官僚王政による律令制が瓦解して、有力貴族による摂関政治が跋扈した、平安中期の貴族世界において、紫式部は光源氏のどこに新たな英雄像を見出したのか。

― つづく ―





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Last updated  2009.01.27 13:49:39
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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