サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.03.15
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カテゴリ: 文学
 ところが「賢木」の帖の冒頭は、光源氏と六条御息所の最後の逢う瀬から始まっているので、源氏のみならず作者の御息所への思い入れはやはり相当深い。これは源氏が葵の上の死後に、御息所に送った消息文の内容が、ずいぶん気を使った内容とはいえ、結局おおいに彼女の心を傷つけるものであったので、そのまま伊勢へ下向させて、表舞台から退場というのでは、救われないという紫式部の思いもあったでしょう。
 いずれにしても野々宮での二人のラブシーンは、全編を通じても最も美しい場面の一つと思うので、引きますと、

― はるけき野辺を、わけ入り給ふより、いと物あはれなり。秋の花、みな衰へつゝ、浅茅が原も、かれがれなる蟲の音に、松風すごく吹き合はせて、そのこととも、聞きわかれぬ程に、物の音ども、たえだえ聞こえたる、いと艶なり。 ― 同上

はるばると広い嵯峨野に分け入り給うと、はや、ものあわれな風情が一面に漂っている。秋の花はみな萎れて、浅茅が原も枯れ枯れに淋しく、弱々しくすだく虫の音に、松風のすごく吹き添うなかを、何の音とも聞き分けられぬほどたえだえに楽の音色の聞こえてくるのが、得も言えずなまめかしい。 (円地文子訳、新潮文庫)

で、その野々宮の邸はというと、

― 物はかなげなる小柴を大垣にて、あたりあたり、いと、かりそめなめり。黒木の鳥居どもは、さすがに、神々しう見渡されて、わづらはしき気色なるに、… 外には、さま変わりて見ゆ。 ― 同上

 形ばかりの小柴垣を外囲いにして、あちらこちらに板屋の見えるほんとうの仮普請である。黒木の鳥居がいくつかあるのは、さすがに神々しく見渡されて、そぞろに気後れする有様で… 、よそとは変わった風情に見える。 (円地文子訳、新潮文庫)

 斎宮の伊勢下向を直前にして、野々宮は仮普請ではあるが鳥居など施してあって、他とは異なる風情を示している。ここでまたしても、神域を侵すという例の「掟破り」が始まるわけですが、光源氏には何か神域ないし神宮に対して、たんなる英雄の「掟破り」というに止まらず、何か 彼固有の執着 のようなものを感じます。
 これまで、実は取り扱いに困って触れないできたのですが、のちに桐壺院の崩御の折に、賀茂神社の斎院に選ばれ、父の桃園式部卿の死によって里下りした娘、朝顔の宮に対しても、彼はさかんに懸想しているのです。話が煩雑になるのを避けるために書かなかったのですが、上のような理由で、また「男の深読み」を始めなければなりません。

― つづく ―





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Last updated  2009.03.16 09:58:33
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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