サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.03.18
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カテゴリ: 文学
 光源氏の怒りというか、イライラの原因は直接的には三つほどあって、
1. 六条御息所の伊勢下向が、明日あさってにも迫っている
2. 嵯峨野の野々宮まで、わざわざ出向いているのに、直接対面しないという御息所のつれなさ
3. 「物の怪」等に現われた御息所の気息を、じかに逢って少しでも和らげる、ということが今だにできずに、そのままである
といったところでしょうか。こうした源氏の心中にあっては、黒木の鳥居や注連縄は、おおきな夾雑物と映るので、私は「古事記」上巻の須佐之男命(スサノオノミコト)が、高天原で繰り広げる乱暴狼藉を思い出してしまいます。

 伊邪那岐命(イザナキノミコト)が、死んだ奥さんの伊邪那弥命(イザナミノミコト)に追いかけられて、黄泉国から逃げ帰って、禊ぎを行なったところが、左の目から天照大御神(アマテラスオオミカミ)、右の目から月読命(ツクヨミノミコト)、鼻から「建速須佐之男命」(タケハヤスサノオノミコト)が生まれ、天照大御神は高天原を、月読命は夜の食国(おすくに)を、須佐之男命は海原を分担して治めるように宣したが、須佐之男命だけが、それに肯んぜず、 母の伊邪那弥命の住まう「根の国」に行きたい といって、泣きわめく。
 その泣きわめくさまは、青山を枯らし河海まで泣き枯らしてしまうほどで、たちまち世界はサバエなす災いに見舞われる。怒った父の伊邪那岐命に追放された須佐之男命は、姉の天照大御神へ挨拶にと高天原に上がるが、そこでもまた天照大御神の営田(みつくだ)の畦(あぜ)を壊し、溝を埋め、大嘗(おおにえ)の神殿に大便をまき散らすなど、大暴れが収まらず、ついには

― 天照大神、忌服屋(いみはたや、神聖な機を織る家)に坐(ま)して、神御衣(かむみそ、神に献る御衣)織らしめたまひし時、(須佐之男命は)其の服屋の頂(むね)を穿(うが)ち、天の斑馬(あめのふちごま)を逆剥(さかは)ぎに剥ぎて墮(おと)し入るる時に、天の服織女(はたおりめ)見驚きて、梭(ひ、機織り器のシャトル)に陰上(ほと、女陰)を衝きて死にき。 ― (古典文学大系、岩波書店、()筆者)

という段になって、とうとう天照大神が天岩戸に籠り、世界が闇に閉ざされるという仕儀になります。
 この須佐之男命の怒りというのは、古今さまざまな解釈があるようですが、その根っこの動機がどうも「母の国に帰りたい」、という男=オスに通有の 子宮帰求願望 から来ているのではないか、というのが私の観測です。彼は葦原の中つ国で国造りの基礎を行い、子孫の大国主命に後を託した後、結局ちゃんと母の棲む「根の国」の主に収まっているのは、それを暗示しますね。

 もちろん光源氏は荒ぶる神話時代の英雄ではなく、同時代の平安期の大宮人ですから、須佐之男命のような直截な乱暴狼藉には及ばないのですが(今の社会から見れば、ずいぶん乱暴かつ自己チューな男ですが)、紫式部が「日本紀」に通じていたことを考え合わせると、彼女が光源氏=オスに同じ心理的側面を見い出していたと、言えなくはないようです。
 男=オス(光源氏という命名は、限りなく 光り輝く男子 という普通名詞に近いのです)通有の心理とは、前にも触れましたが、 女性なるものが本来的に具有する自然性への畏れと憧れ 、といったものでしょうか。かつて古代農耕社会において支配的であった母性原理(地母神崇拝)は、奈良の律令制を経て、形のうえでは父系社会に取って代わられたものの、実体的な子育てや相続が母方の里で行なわれていたように、まだまだ平安の社会では生きていたのです。
 この制度的、あるいは倫理的には仏教によって、表向き罪深いものとされた母性原理が、内実的には作動している社会にあって、この相克は結構鋭く現われたと思われるので、鳥居と注連縄は源氏にとって、表向き隠された原理が図らずも顔を出した象徴と映ったのではないか?

― つづく ―





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Last updated  2009.03.18 10:52:01
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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