サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.03.20
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カテゴリ: 文学
 サカリの点灯した光源氏の心内を知ってか知らずか、御息所の心中は例によって揺れに揺れまくる。源氏のたび重なる消息文に対して

― 「いでや」とは、おぼしわづらひながら、いと、あまり埋れいたきを、「物越しばかりの対面は」と、人知れず、まち聞こえけり。 ― 同上

 「さあ、どうしたものか」とは、思い惑ってはいるものの、あまりにも引き籠っているだけでは(源氏に失礼だろう)、「御簾を隔てての対面ならば」と、人知れず、お待ちしておられた。

で、現実に光源氏が野々宮を訪れると、

 「いさや。こゝらの人目も見苦しう、かの、おぼさむことも、わかわかしう、いで居んが、今更につゝましき」と、おぼすに、いと物憂けれど、情けなう、もてなさんにも、たけからねば、とかううち嘆き、やすらひて、ゐざり出で給へる御けはひ、いと心憎し。 ― 同上

 「さて、どうしたものか。周囲の女房たちの目にも見苦しいし、娘の斎宮がどう思うことか。若やいで立ち居出るのは、やはり気兼ねが多すぎる」と、思われて、おおいに悩まれるが、さりとて(源氏に対して)つれなく応対するほどの、心強さは持ち合わせていないので、あれこれ悩んだ末、心落ち着かせて、結局いざり出ておいでになるご様子は、たいへん奥ゆかしい。

 紫式部は「いと心憎し」と遠慮して書きますが、彼女の腰の決まらなさは、この文章のゆらゆらした書きかたに、つぶさに現されているので、彼女がもし本気で拒否するつもりなら、返事もしないし、もちろん絶対会いもしない、という断固とした行動が必要なのです(宇治十帖の浮舟は、門口に立つ薫に対して、ついに返事もせず、もちろん会いもしませんでした。「源氏物語」に出てくる男も女も、何となく優柔不断な女性的なイメージが強いのですが、丹念に読むと決してそんなことはなくて、紫式部の描く、特に女性たちは多様性に満ちています)。
 御息所のあいまいな気息が、結局、光源氏を無用にじらせ、サカリに火をつける。いったん注連縄の前に立たせたら、殿中に上がらさざるを得ず、お座りになったら会わないわけにはいかず、会えば声を交わすだけで済まないことは、彼女も分かっているはずですが、もうそのころには御息所の心にも火がついているわけで、このあと世にも切ない逢う瀬のシーンが繰り広げられることになります。

― 月も入りぬるにや、あはれなる空をながめつゝ、うらみ聞え給ふに、こゝら、思ひ集め給へるつらさも、消えぬべし。やうやう、「今は」と、思ひはなれ給へるに、「さればよ」と、なかなか心うごきて、おぼしみだる。 ― 同上

 月も山陰に入ったのか、ものあわれな闇空を眺めながら、源氏がさまざまにかき口説かれるのをお聞きになっていると、これまでの積もり積もったつらい思いも、消えてしまうのだろうか。ようやく「今回は伊勢に行こう」と、決心されたはずなのに、(こうして会ってしまうと)「それでも(源氏の君への思いは断ち切れない)」と、またしても心が揺らいで、思い乱れている。

― つづく ―





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Last updated  2009.03.20 10:38:26
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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