サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.03.23
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カテゴリ: 文学
 さて、光源氏が御息所と最後の睦み逢いを行なっていたころ、宮中は桐壺院が重い病に伏せっていて、何やら騒がしくなっているのです。「賢木」の帖は、なかなか世知にたけた桐壺院の崩御によって、にわかに世情が流動的になる。これまで桐壺院のあつい信任を得て、権勢を振るってきた左大臣派が勢力を失い、変わって弘徽殿の大后の子、朱雀帝を擁する右大臣派が世を治める形となって、光源氏も何となく居心地の悪い状況となってくるのです。
 このあたりの世俗の争いは、女の口にすべからざるところとばかり、紫式部は多くを語りませんが、こうした政治的背景は多少示唆するでだけでも、当時の読者はすぐ理解できたでしょう。実際にこういうことが、あったかどうかということではなく、こうした場合、誰が強くなり誰が弱っていくのか、といった当時の 宮廷の力学を知っていなければ、誰もこの貴族社会を生きていくことは出来なかった のです。

 そうした世俗的な動きを背景にしながら、この帖でいちばん光が強くあたっていると思えるのは、私は藤壺の宮だと思います。いわば光源氏の女遍歴の原点ともいうべき、藤壺の宮は実はこれまで多くを語られることがなかったのでした。前にも何度か触れましたが、六条御息所(あるいは朝顔の宮も)と並んで、彼を焦燥と畏れを伴った、際限のない女あさりに駆り立てたであろう人物の一人なのですが、第二の密通で不義の子を宿して以来、本編では語られることがなかったのです。
 その理由もまた前に触れましたが、六条御息所については、これまで散々しゃべってきたように、結構登場の機会が多く、また「賢木」の帖で一つの大きな締めくくりの場を与えられているので、源氏との最初の逢う瀬が描かれていなくても一応納得させられるのです。しかし藤壺の宮については、帝の后というもっともハードルの高い相手であったがゆえ、紫式部もさすがにちょっと、これまでは遠慮があったのかもしれません。それともちろんパトロンである藤原道長の政治的思惑もあったでしょう。
 しかしここへ来て、彼女はやっと藤壺の宮について、描ききることを決心したというか、覚悟を決めたかに思われます。

 桐壺帝崩御後の世情といえば、

― 院の、おはしましつる世こそ、はゞかり給ひつれ、后の御心、いちはやくて、「かたがた、思しつめたる事どもの報いせん」と、おぼすべかめり。事にふれて、はしたなき事のみ出で来れば、… 世の憂さに、たちまふべくも、思されず。左の大殿(おほいどの)も、すさまじき心地し給ひて、ことに、内裏にも参り給はず。 ― 同上

 故桐壺院の御在世の時代は、さすがに遠慮されていたものの、弘徽殿の大后のご気性は、おそろしく短気で、「前々から積もり積もった恨みを、いっきに晴らそう」と、思われるのだろう。(源氏は)何かにつけて、不愉快なことばかり起きてくるので、… 世がつまらなく、人と立ち交じることも、お考えにならない。左大臣も、はなはだ面白くなく、ことさらに内裏に参内することもなさらない。

 右大臣の娘で、故院の最初の奥さんであった弘徽殿の大后、息子を東宮(現朱雀帝)に仕立てて、右大臣派の勢力拡大を狙ったものの、故院の源氏への思わぬ寵愛や、東宮妃ともくろんだ左大臣の娘の葵の上を源氏にとられて、はなはだ不愉快だったうえに、さらに後から入内した藤壺が中宮となって、皇子(実は源氏との子)を生み、次の東宮に御せられる、とあっては、彼女ならずとも相当腹ふくれる思いはあったでしょう。

― つづく ―





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Last updated  2009.03.23 14:04:58
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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