サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.03.28
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カテゴリ: 文学
 故院の喪中であるにもかかわらず、藤壺の宮が里の三条の実家に移ったのを見計らったように、光源氏は女房たちの手引きも介さずに、いきなり彼女の部屋に忍び込む。

 この間、彼は人目の多い宮中でも、例の内侍の君(朧月夜)との逢う瀬を重ねているわけで、いくら根が好き者の光源氏とはいえ、いささか常軌を失した感があります。これはあきらかに、右大臣派の専断する世に対する、あてつけめいた心理が働いているのです。
 当然のことながら、承香殿の兄君に、逢引きの部屋から出るところを、目撃されたりもするのですが、このころの源氏には、何となくDesperate(捨てばちな、自暴自棄の)な気分も混じっているようで、いつもほど用心する気配というものが感じられません。当時の逢引きには、必ず手引きする女房たちがいて、絶対秘密という情事はありえないのですが、それと政敵に見られるということは、おのずと意味が違います。
 しかし面白いのは、こうして敵方の御殿に忍び込んで、結構人にも見られているのに、いっこうに右大臣や大后の耳に入らないということで、このあたり右大臣の家中でも、その臣下はうるさいボスを煙たがって、いちいち報告しないという、典型的な「町内会の論理」の組織であることが強調されます(それが完全に露見するには、右大臣本人が目撃しなければなりませんでした)。

 話は別ですが、爾来、男=オスの生理というのは、なかなか御し難いところがあって、これは私のかつての上司の話ですが(もう時効でしょう)、辣腕の営業部長だったのですが、「英雄、色を好む」の典型のような人で、仕事の調子の良いときは、色香のほうも大いに盛んで、さまざまな噂が本社のしかるべき筋?から聞えてくる。
 ところが驚いたとことに、調子がはかばかしくない時とか、締め切り間近かの営業会議の当日とか、要するに大いにストレスにかかった朝など、これはご本人が云っていたことなので間違いないのですが、かならず奥さんとコトを済ませてくるというのです。お相手する奥さんも平日の朝まだきから、たまったもんじゃなかったと思うのですが、まあ二人で~ビデオも観るという、仲の好いご夫婦でしたから、あまり揉めることもなかったのでしょう(それを聞かされる部下たちの気持ちを察して下さい)。
 男=オスというのが、いったいいかなる時に異様に性欲を亢進させるものなのか、もちろんそんな統計など、まともにあるわけがありませんが、少なくとも大いにオスとしての存在感があるときと、逆にその存在感が危機に曝されたときには、恋人とか愛人とかの有り無しに関係なく、性欲だけが異様に増進する、ということはあるようです(早い話、上の営業部長の場合、相手は十数年来の奥さんという、はなはだ手軽な相手でコトは済んでいるのです。失礼!)。

 源氏の君も、ひょっとすると生まれて初めてのストレスを、大いに感じていたときなので、普段と異なり性欲だけが異様に亢進している状態(普段は恋人・愛人といった相手がいることによって、懸想しているのであって、性欲だけがかってに亢進しているわけではない)であったかと思われ、朧月夜との連日の逢引きも、たんに右大臣派へのあてつけで済ませるわけにはいかない側面があったでしょう。
 そんな状態の源氏が、

― いかなる折にかありけむ、あさましうて、ちかづき参り給へり。心ふかく、たばかり給ひけむ事を、知る人なかりければ、夢のやうにぞありける。 ― 同上

 どうした折を窺われたものであったろうか、思いもかけず御帳台の内に忍び入っておしまいになった。よくよく心を配って企まれたことで、お手引きした女房さえなかったので、中宮は夢のうちのことのように思召された。(円地文子訳、新潮文庫)

― つづく ―





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Last updated  2009.04.01 13:56:30
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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