サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.06.04
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カテゴリ: 文学
 かつての政敵に仇をもって返すのではなく、表向きことさらに礼儀を尽くす。ことを為すに何かにつけて「籠めたるところおはせぬ本性」であった右大臣一族に比べて、はるかに一枚上手で「大人の」振るまいでもって彼らに接するというのが、本人たち以上に世間に対して、自分に対する畏怖の念を与えるということを、彼は充分に心得ていたのでした。
 一方では、紫の上の実父である兵部卿の宮に対しては、本編では政治向きの話ということで詳しくは語られませんが、源氏の官位剥奪や当時の東宮(現冷泉帝)廃位の陰謀などに、直接加担してはいないとは言え、毀誉褒貶のあいまいな動きをしたということで、きわめて厳しい態度で当たっている。義理の親戚筋であることで、むしろことさら仮借ない態度を取るというのは、むしろそうでない政敵に対して恐怖を与えるのに効果的なのです。さしあたって、新帝の后として兵部卿の宮は、娘の中の君の入内を目論むのですが、源氏は歯牙にもかけません。

 対するに、左大臣一族の頭の中将(今は権中納言)の娘は入内させる、という仕儀になります。しかし彼の真意はさらにその向こうにありました。このあたりの政略家としての源氏の肖像には、あきらかに藤原道長のような政治的策謀に辣腕を振るった人物の振るまいが投影されているので、紫式部は身近に宮廷内の男たちの振るまいを観察していたでしょう。

 さてこのあと、源氏は住吉詣でを行なうのですが、大願成就のお礼とはいえ、大勢の殿上人、上達部を引き連れての参詣というのは、自身の威勢を世に示す好い機会でした。たまたま同じ時に来合わせた明石の方が、その威勢に気圧されて参詣をずらしてしまうというのは、その後の明石の方と源氏の関係を予告するものでした。すれ違いに終わった今回の邂逅を後で知った源氏は、明石の方に再び早く都へ上ることを勧める。これはもちろん娘君の養育のことがあるのでした。彼の目的は唯一の実の娘である明石の姫君を、どうやっていずれ東宮妃にするかということだったのです。

 場面は展開して、伊勢から戻った六条御息所とその息女斎宮の話になります。

―  まことや、かの斎宮も、かはり給ひにしかば、御息所、のぼり給ひて後は、(源氏が)かはらぬさまに、なに事も訪らひ聞え給ふ事は、ありがたきまで、情けをつくし給へど、「昔だにつれなかりし、御心ばへの、なかなかならん名残は見じ」と、思ひ放ち給へれば、渡り給ひなどすることは、殊になし。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 そう言えば ― 、あの伊勢斎宮も、(帝の譲位で)お変わりになったので、御息所は、いっしょに都にお戻りになったのであるが、(源氏の君が)昔と変わらない様子で、何かにつけてお見舞いなされ、世にないほどの、気遣いをなさるとはいえ、「昔でさえあれほどつれなかった、源氏の君のお心ばえを、今再びその名残りなど見ることはすまい」と、心に決めておいでになったので、源氏の君のほうからお訪ねになるということは、とくになかった。

 なつかしくも凄まじかった六条御息所、最後の登場ですね。

― つづく ―





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Last updated  2009.06.04 12:01:43
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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