サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.06.11
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カテゴリ: 文学
 冷泉帝にはすでに左大臣系の娘(弘徽殿の女御)が入内しており、さらには兵部卿の宮が娘の入内を策していて、源氏がそれを邪魔しているのはすでに触れました。そこに後ろ楯となって前斎宮を、宮中に送り込むというのは、左右大臣両派の勢力を牽制する意味でも、ごく政治的な思惑が込められているのです。ただし、この時点ではまだ源氏の決心は固まっていないようで、

― 女別当、内侍などいふ人々、あるは、はなれたてまつらぬ王家統流(わかむどほり)などにて、心ばせある人々多かるべし。「この、人知れず、思ふかたのまじらひを、せさせたてまつらんに、人に劣り給ふまじかめり。いかで、さやかに、御かたちを見てしがな」と、おぼすも、うち解くべき御親心にはあらずやありけむ。わが御心も、定め難ければ、「かく思ふ」といふ事も、人にも漏らし給はず。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 (前斎宮の周囲は)仕えている女別当、内侍などという人々、あるいは親戚筋の王家皇孫など、嗜みある女房が多いようである。「このように、私がひそかに、考えている入内を、おさせ申しても、他の宮廷の女御たちに見劣りなさるということはあるまい。やはりどうしても、ハッキリと、お姿を見ておきたいものだ」と、お思いになるのは、はたして本当に気の許せる親心といえるかどうか。ご自身が自分の心を、決めがたいので、「こう思っているのだが」といったことは、当然人には漏らされない。

 というわけで、彼はまだ斎宮のお顔を直接見たことがないのです(実はお姿を拝見した人が、一人いたのですが)。お顔を拝見したとたんに、自分の気持がどう変わるか分からない、というのは、ずいぶん手前勝手な話ですが、光源氏というのは、そのあたりの自身の感情には正直な男で、こうした場合彼にとって世間的な倫理基準など、はるかに下位の優先順位にしかなりません。まるでそれこそが、貴種の矜持であるかのようです。
 これがはたして平安時代の男=オス通有の振るまいかたであったかどうか。後々出てくる堅物の夕霧とか、「宇治十帖」の薫などをみていると、これと真反対の振るまいが(それもなかば戯画化されて)描かれていて、公平に見てこのあたりは当時の実際というよりは、多少紫式部の創作が入っているのかもしれません。
 こうした格式ある家の娘には、しかしさまざまなところから懸想があるので、

― さぶらふ人々につけて、心がけきこえ給ふ人、高きも賤しきも、あまたあり。されど、おとゞの、「御乳母たちだに、心にまかせたる事、ひきいだしつかうまつるな」など、親がり申し給へば、「いと恥づかしき、御有様に」「便なき事、きこし召しつけられじ」と、いひ思ひつゝ、はかなき、事の情けも、更につくらず。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 仕えている女房を介して、懸想なさる人たちが、身分の高いのも低いのも、数多くいる。しかし源氏の大臣が、「(親代わりの)御乳母といえども、心任せに、勝手なことはするな」などと、実の親のように申されるので、「あまりにご立派な、親のようなご様子だこと」「不都合なことは、お耳に入れないように」と、(女房たちは)気を配って、つまらない、懸想の仲介の手紙も、いっこうに書かない。

 何だか、片思いのマドンナの周囲から、いろいろ言い寄ってくる怪しからん男どもを、追っ払おうとする寅さんみたいですね。

― つづく ―





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Last updated  2009.06.11 11:05:02
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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