サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.06.15
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カテゴリ: 文学
 光源氏と藤壺の女院が、(我が子)冷泉帝安泰のため前斎宮を入内させて、中宮(皇后)の座を左大臣系の弘徽殿の女御などと争っている話の間に、「蓬生」「関屋」という帖が入り込んでいます。初めて読んだ時に、この二つの帖がある結果、次の「絵合(えあわせ)」の話に入ったときに、これが前々回の「澪標」の話のつづきであることを、思い出すのに時間がかかって、しばらく字面が霞んでいたのを思い出します。

 この二つの帖は、例のa系、b系の話のうち、俗に並びの巻とも呼ばれるb系にぞくする中味で、それぞれ以前に登場した末摘花の姫君と、空蝉の後日談ということになっています。それにしてもなぜ、ここでわざわざこの二人の話を出してきたのか。話の筋としては「絵合」の冒頭すぐ前斎宮の入内の話が始まっていることから見ても、「澪標」から「絵合」以下「松風」「薄雲」までが、一連の話をなしていることは明らかです。
 で、普通こうした挿話が途中に入ってくるときは、たいていその後の展開の伏線となるべき要素があるのですが、この二つについては中味がほぼ完結していて、その後の話に絡んでくるということもない。もう一ついえば、話の中味自体たいして面白くもないのです。

 a系、b系の論争にはいろいろ説があって、深入りするつもりはありませんが、この二つの帖にかんしては、相当強力に後からの挿入という説に肩入れしたくなります。ではこの挿入には何か意味があるのか。少なくともその後の話に絡んでいないことはハッキリしているので、それなら今までの話の始末をつけにかかったということが出来るのではないか。ここまで、数多く登場してきた人物のうち、この後の展開に関係しない人たちを整理して、読者の頭を(作者も?)スッキリさせようとしたのではないか、という気がするのです。
 これまた想像ですが、これは紫式部自身の本意ではなくて、例の周辺にはべる女房たちからの要望だったのではないか、と私は疑っています。

 というのも、「蓬生」の話の主人公、末摘花の姫君といえば、ヲコ系の醜女の代表として前に取り上げられ、こうした落剥の姫君を積極的にイジメて哂うという文化が、当時の女房社会にはあっただろう、紫式部といえどもそれに加担することに、そう違和感を抱かなかったであろうことは、以前に指摘したことがあります。これは平安時代の女房社会の風俗を表わしているので、紫式部が何が何でも時代を超越した聖女であったとは考えられないのです(これは何も彼女の人間性をくさしているのではありません。イジメの危険を察知している人間が、逆にイジメに積極的に拘わるというのは、今の社会でもイヤほど見られる現象ですよね)。

 というわけで、ここの話の中味はパス!ということにしたいのですが、それにしてもこの二つの後日談を、この部分に挿入したというのは苦肉の策という感がしないでもありません。簡単にいうと、源氏物語の始めのほうに出てきた人物のうち、前の帖で御息所が亡くなっており、このあと「薄雲」で藤壺の女院が死亡するのです。云ってみれば、その他のどうでもいい登場人物の始末をつけるとしたら、このあたりに入れておかないと、はなはだ緊張したa系物語の進行が、おおいに弛緩するということになるでしょう(藤壺の死のあとに、この話を入れたと想像してごらんなさい)。
 さまざま異論・反論はあるかと思いますが、周囲の熱心な読者から「あの人はどうなった」とか「この人はどうするんですか」とか、口の端に出てきたときに、独立意識の強い今どきの作家ならむしろヘソを曲げて、わざと放っておくというようなことも平気でするのでしょうが、もちろん作家などという立派な認知された職業などなかった時代、読者のうわさというのは我々が想像する以上に大きかったので、彼女はそうした口さがない読者たちに対して、面白い話を提供することに何ら違和感を持たなかったでしょう。

 ただそれにしても、とくに「蓬生」はいささかサービス過剰で、新たな挿話を入れたので思いのほか長くなってしまいました。太宰の大弐の奥さんの話で、かつて姉である末摘花のお母さんにイジメられたのを根に持って、体よく末摘花に仕返ししようとする。結局、この姫君は源氏に助けられてメデタシとなるのですが、前にも触れたように、基本的に紫式部はこの姫君に何らのSympathy(共感)も感じていないので、この帖はさながらイジメの過剰の感を呈してしまいました。
 「関屋」は、源氏物語冒頭あざやかな引き際を見せた空蝉の話で、むしろこちらこそ面白い後日譚を期待したいところですが、これといった内容もなくて、何だか手紙の追伸のような、つけ足しの感じがしないでもありません。

 と言うわけで、次回からはさっそく「絵合」に入ることにします。乞う、ご期待!





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Last updated  2009.06.15 09:51:07
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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