サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.06.16
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カテゴリ: 文学
 前回、「蓬生」「関屋」の帖は、後から挿入されたものだろうという話をしましたが、それは「絵合(えあわせ)」冒頭のくだりが、「澪標」のおわりの部分とそのまま繋がっているから、という話をしました。引きますと、

―  前斎宮の、御まゐりの事、中宮の、御心に入れて、もよほし聞え給ふ。 … ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 前斎宮の、御入内のことは、藤壺の女院も、ことさらにお心なさって、ご催促なさる。 … 

 ということで、時系列的にも内容的にも、そのまま繋がっているのです。

 ところが、だからといって所謂b系物語が、すべて後からの挿入である、とするのも少し無理があるように思えるので、これまででも、「桐壺」と「若紫」のa系物語の間に、あとから「帚木」「空蝉」「夕顔」の帖がワンセットで挟み込まれたであろうことは、内容からも文体的にも相当説得性があるようにも思えるのですが、逆にa系の筋立てからいうと「桐壺」からいきなり「若紫」に跳ぶと、話が容易に繋がらなくなるということがあるのです。というより「桐壺」で光り輝く皇子として生まれ、十二歳で元服した源氏が、「若紫」で五年後に跳んで、いきなり瘧病(わらわやみ、マラリア?)に悩まされているところから始まるというのは、ヘンでしょう。
 ということで、またぞろa系の物語には本来「桐壺」と「若紫」を繋ぐ帖があって、それは「かかやく日の宮」という巻であったろうという話が出てくるのです。で、ついでにその中味は光源氏が、少年から青年になる時期に関係した女たち、つまり藤壺の宮と六条御息所、朝顔の三人とのやりとりが中心だったろう、というので時系列的にも内容的にもかなり説得性があるのですが、これは前にも話したので、結論からいうと、すでに無いもの(あるいは、もともと無いもの)を、いろいろ議論詮索しても仕方がありません。
 で、それでも詮議せざるをえないというのは、それが結局この物語の構想とか成立とかの話に関わってくるからで、これは源氏物語全体を理解するうえで、やはり必要になってくるのです。

 私がこの「澪標」と「絵合」の繋がり具合をみていて、どうしても想像してしまうのは、以下のようなストーリーです。
 今から千年前に一人の傑出した才能が現れた。彼女はある日、それまでの王朝物語の類をはるかに凌駕する、繊細でなおかつダイナミックな物語を書き始めた。で、宮廷でも評判となって道長系の中宮彰子に伺候した。物語の名声が高まるにつれて、読者からのさまざまな反応が返ってきた。なおかつ一番めの読者は紫式部の側で、書写製本をする女房たちであったろうことは、前にも触れました。
 で、ここからが問題なのですが、いったいに彼女から渡された原稿が書写されたときに、あとから書き改めるなどということが、当時出来たのかどうか。今どきならずとも、活版印刷が普及した近代社会では常識である、文章の校正とか書き換えなどということが、それでなくても紙も墨も高価であっただろう当時はたして可能であったろうか、ということなのです。もう一つは著作物に対する所有権のようなことで、もちろん今どきのように著作権に守られた権利意識などというのは、どこにも存在しなかったでしょう。
 彼女が物語を書くことによって得られる対価とは、もちろん印税などではなくて、道長というはなはだ現世的なパトロンの庇護を受けることでした。当然のことですが、彼を取り巻くさまざまの上達部、女御さらには同格の女房に至るまで、彼女は常に味方にしておく必要があったので、彼女が極めて韜晦癖(とうかい、自分の本心や才能・地位などをつつみ隠す性向)の強い、用心深い女性であったことは間違いないでしょう。

― つづく ―





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Last updated  2009.06.16 10:21:14
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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