サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.06.26
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カテゴリ: 文学
 さてこの話を、源氏がしゃべっている相手は、弟の師(そち)の宮で、この間、例の権中納言がどんな顔をしてこれを聞いていたのかは、描かれません。しかし続くくだりに、

―  廿日あまりの月、さし出でて、こなたは、また、さやかならねど、大方の空、をかしき程なるに、書の司の御琴召しいでて、和琴、権中納言、賜はり給ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 二十日過ぎの月が、さし出でて、こちらは、まだ、光はさやかではないけれども、大方の空は、美しく映え渡ったころに、(帝は)書司(ふみのつかさ)のお琴を取り寄せなさって、和琴を奏するよう、権中納言に、仰せになる。

 というところで、どうやら源氏と冷泉帝の世が見えてきたことが、示唆されます。

― はかなきことにつけても、かう、もてなし聞こえ給へば、権中納言は、猶、「おぼえ、おさるべきにや」と、心やましう思さるべかめり。うへの御心ざしは、もとより、おぼししみにければ、猶、こまやかに思し召したるさまを、人知れず、見たてまつり知り給ひてぞ、頼もしく、「さりとも」と、おぼされける。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 (絵合のような)かりそめのことにも、このように(源氏の大臣が、前斎宮に)、おおいに肩入れなさるので、権中納言は、なおのこと、「(弘徽殿の女御に対する、帝の)寵愛が、気圧されてしまうのではないか」と、面白からず思っておられることであろう。しかし帝の(弘徽殿)に対するお心向きは、以前から、非常に馴染んでいらっしゃって、今もなお、細やかにいとおしんでいらっしゃるのを、人知れず、ご覧になって分かっておられるので、頼もしくも、「そうかといって」と、また期待もなさっているのであった。

 というわけで、権中納言は弘徽殿の中宮の座を、完全にあきらめているわけではないのですが、ハッキリしていることは、それまで竹馬の友として親友でもあった光源氏と権中納言(頭の中将)は、一応たもとを分かつことになったということです。互いに一族郎党を引き連れている立場柄、私的感情とは別に組織の論理が入り込んでくるのは、致し方がないことなのかもしれません。

 「絵合」の帖は、だいたいこんなところで終わるのですが、それは同時に藤壺の女院の最後の晴れがましい舞台でもありました。光源氏との目的を一にした女院の振るまいは一貫していて、何度も言いますが、私は今回彼女を見直しましたね。前後しますが「絵合」のあと、源氏は、

 ― その頃のことには、この絵の定めをし給ふ。
 「かの浦々の巻は、中宮にさぶらはせ給へ」
 と、きこえさせ給ひければ、これが初め、残りの巻々、ゆかしがらせ給へど、「いま、つぎつぎに」と、きこえさせ給ふ。うへにも、御心ゆかせ給ひて思し召したるを、うれしく見たてまつり給ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 そのころ人々の話すことは、この絵合のことばかりである。
「あの(須磨の)浦々の巻は、藤壺の女院にお納め下さい」
と、(源氏の大臣が)おっしゃるので、(女院は)この初めの巻、残りの巻々も、ご覧になりたいとお思いになるが、「いずれ、おいおいに(お目にかけましょう)」と、申上げられる。帝も、お心たいへん満足に思し召したのを、(源氏の大臣は)うれしくお見上げしたのであった。

― 源氏1000年 絵合 おわり ―





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Last updated  2009.06.26 10:14:39
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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