サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.11.01
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 さてここから、その夕顔の娘の話が始まります。

― かの、西の京にとまりしわか君をだに、ゆくへも知らず、ひとへに物を思ひつゝみ、又、「今更にかひなき事ゆゑ、わが名もらすな」と、くちかため給ひしを、はゞかり聞えて、たづねもおとづれ聞えざりしほどに、その御乳母のをとこ、少弐になりて、いきければ、くだりにけり。かのわか君の四つになる年ぞ、筑紫へは行きける。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 例の、西の京に残していた(夕顔の)姫君さえ、行方知れずになってしまい、ひたすらあの(夕顔の急死の)事は心に押し包んで、また(源氏の君も)、「いまさら(彼女の死を知らせても)甲斐のないことだから、私の名は洩らすなよ」と、口止めなさったので、ご遠慮して、訪ねて(ことの仔細を)申上げることもできないでいるうちに、その(姫君の)乳母の夫が、太宰少弐になって、赴任したので、(乳母一家は、いっしょに)下ってしまった。かの姫君が四歳になった年に、筑紫へ向かったのである。

 ちょっと話がややこしいのですが、この娘は、今の内大臣(頭の中将)が、夕顔のもとに通い詰めていたときに出来た子で、その経緯は「帚木」の帖のはじめ「雨夜の品定め」で、彼自身が語っていたことでした。彼女との関係を正妻である右大臣方の四の君が知るところとなり、おそらくその母大后であろう人から、夕顔に対して脅しが入る。もともと気が小さい夕顔は、縮みあがって右近や娘といっしょに西の京の乳母の家に隠れる。ところが乳母方が方違えということで、夕顔と右近は娘を残して市中に身を隠していたところが、そこでたまたま源氏に見初められた、ということのようです。
 ところが源氏との逢う瀬の最中に、夕顔が頓死したために、スキャンダルの露見を恐れて、光源氏は口止めついでに、右近をそのまま自邸の女房にしてしまい、乳母方には二人とも消息不明なまま、右近は自分の所在さえ知らせることが出来ずに、彼らは夕顔の姫君を連れて筑紫へ行ってしまった、という関係になります。

 ここから紫式部は、玉鬘の筑紫での生い立ちを語るのですが、ここでもまた彼女は回想譚の面白味を新たに知ったとみえて、けっこう長話になっています。少なくとも「須磨」「明石」の流遇譚よりよほど上手く描けている、という気がするのですが。
 ここの記述が面白いというのは、その道行きや任地の肥前の様子が具体的で、本来の意味で紀行文のような味があるからです。で、その理由というのが、ここに出てくるエピソードが、おそらく実際の話や見聞を基にしたものであろう、というところから来ているのではないか。
 これは何も紫式部が実際に肥前に行ったことがある、ということを意味するものではありません(おそらく九分九厘ないでしょう。ところが紫式部九州生誕説なるものが、邪馬台国九州説のごとく、世に出ているのを、最近Netで見てビックリしてしまいました)。ただ彼女は肥前や肥後の国の様子を、宮廷内の女房仲間や男共から聞く機会はあっただろうし、何よりも彼女自身が、娘時代に父について越前に行ったことがありましたね。

 挿話としての中味に、案外本音というか、実体験のようなものがストレートに描かれるというのは、それが本編には影響しないという点で、けっこうありそうな気がします。これは例えば、彼女が偉い身分の人を描くときより、従者や女房を描くときのほうが、筆つきが伸びた感じで生き生きしているのと、共通する心理が働いているような気がするのですが。

― つづく ―





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Last updated  2009.11.01 09:48:18
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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