サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.01.13
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 本というものが、今どきのように本屋さんですぐ手に入る、ということのなかった時代、ということはこの1000年のうちほとんどの期間ということですが、この物語もおそらく全巻をまとめて最初から読む、というようなことは、ほぼ不可能だったのではないか、と思うのです。
 その場合、多くの人は「源氏物語」の評判を聞いて、とりあえず手に入る巻から読む、ということもけっこうあったのではないか。で、そうしたとき読むとは、たぶん漫然と読んでいくのではなくて、書写などをしながら読むことも多かったのではないか、と思うのです。一度他所に渡ってしまえば、まず二度と読むことができないだろう、ということであれば、書写して手もとに残しておきたい、というのは人の心でしょう。このあとの「蛍」の帖で、玉鬘が物語を熱心に書写しているのを、光源氏がからかう有名な場面がありますが、彼ら彼女らの多くは、気に入った物語を自ら書写しつつ読んでいたのではないか。

 この時代、貴族たちは無聊(ぶりょう、退屈なこと)にまかせて、さまざまな遊びを工夫したようですが、そのなかでも「物語」というのは、ずいぶん持てはやされたようで、失われたものも含めて、ずいぶん数多くの「物語」類が書かれた珍しい時代だったようです。
 そのほとんどは作者不詳で、題名だけかろうじて残っているものも多いらしい。その意味するところは「物語」が当時の社会評価としては、今どきの週刊誌並みに極めて低かった、ということを表わしているので、「源氏物語」のように作者がハッキリと特定されているのは、むしろ珍しい事例だったでしょう。それはそのまま紫式部という人が、当時から特異的な人として人々のうわさに上がっていただろうことも想像させます。

 さて先にも触れたように、書写しつつ読むという場合「源氏物語」のような大作になると、全巻を一度に手に入れる、ということは不可能で、さしあたって手もとにある巻を写す、ということになりますが、途中から読み始めた(書写し出した)人たちには、ある意味間口を広げておかないと、この物語に簡単には入っていけない、ということも当然考えられるでしょう。初めからずうっと読んできて「葵」や「賢木」などの帖にあらわれた、人々の織りなす心理の凄まじさを知っている読者はともかく、そうではない人(当然そのなかには中宮彰子や菅原孝標の娘のような、年端のいかない女の子も混じっていたのです)がこの物語に入っていくには、なかなか敷居の高い要素がこの物語にはあるのです。
 その点、この「玉鬘十帖」というのは、その意外な結末を除いて、ずいぶん読者サービスをおこなっているような印象があり、初読の困難さというのはあまり感じない。はじめの方を読んでいなくても、すでに巷間で伝説化されていたであろう光源氏の前知識さえあれば、誰でもすぐに入っていける内容なのです。しかし逆に言うと、それまでのこの物語を知っている人たちにとっては、多少戸惑う場面でもあったかもしれません。
 この「初音」「胡蝶」「蛍」の三帖というのは、ある程度物語の進行が滞っても、とりあえず王朝物語のムードに引き込む役を負っているので、どうしても弛緩した印象がぬぐえませんね。

 しかしあまりくさすことばかりしていては、このブログの本来の目的である、「源氏物語」を今どきの世で、いかに楽しく読むか、という主旨から離れるばかりなので、これくらいにしておきましょう。

 玉鬘の恋のさや当てに、名乗りを上げたのは、光源氏の異母弟の兵部卿の宮、内大臣家の長男の中将の君、紫の上の異母姉を妻にしている堅物の右大将の三人ということになります。
 兵部卿の宮とは、かつて「絵合」の帖でその風流ぶりから、絵の競い合いの判者にも選ばれた師(そち)の宮のことですが、光源氏とはその風流な趣味の部分で気が合って、今でも親しく付き合っている数少ない親王です。内大臣家の中将とは、のちの柏木のことで、この三人のなかでは際立って若い。ただし彼は玉鬘が異母兄妹であることを知りません。右大将はのちに髭黒の大将とよばれる人ですが、このなかではいちばん風流味に欠ける。しかし政務の実際にはおおいに長けていて、いずれは大臣を嘱目されている、という設定です。
 この三人、詳しく語られるにつれて、それぞれに分けありで、ひらたく言えば帯に長く襷に短い面々であることが分かってくるのですが、物語はなぜかそちらではなく、源氏と玉鬘のほうに移ってしまうのです。

― つづく ―





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Last updated  2010.01.13 11:18:19
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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